上 下
13 / 40

13話 フィアラは聞いてみた

しおりを挟む
 侯爵家で使用人を始めてから、世界が変わったような気がする。
 今まで家事などをやることが当たり前で、終わるまで絶対にやらなければならないと思っていた。
 だが、侯爵家ではそうではなかった。

 掃除して部屋を綺麗にしたり、ごはんを用意したりすると『ありがとう』と感謝されるのだ。

 使用人の仕事ってこんなに楽しいものだったんだ。
 そう思うようになった。

 さて、私に物事を考える余裕が生まれたため、今までなんとなくやってきたことや出来事でも気になることを意識するようになったのだ。
 今日は侯爵様に聞いてみようと思う。

「ずいぶんと馴染んできたようだな。引き続きよろしく頼む」
「ありがとうございます。ところでずっと前から、ひとつだけお聞きしたいことがありまして……」
「ほう、なんでも言ってくれたまえ」

 最初は聞いたら怒られてしまうと思っていたから聞かずにいた。
 だが、侯爵家ではそのような事態にはならないと自信を持って思える。
 私はついに聞くことができたのだ。

「私を使用人として雇ってくださる判断になったのはなぜですか? 失礼ながら、今まで侯爵様やダイン様、それに元執事のジェガルトさんとも初対面だったかと思うのですが……」
「ふむ。その件については色々と複雑でな。実のところ私もジェガルト氏に頼まれてキミを任命することにしたのだよ」
「へ? 侯爵様が私を引き抜いてくださったわけではないのですね」
「そういうことだ。ジェガルト氏本人もこの件に関してはあまり詳しく喋ろうとしないのでね」
「それで良く使用人として雇ってくださいましたね……」
「あぁ。ジェガルト氏の発言は常に信用できる者だからね。あくまで私は彼の発言に乗ったまでだよ。まさかこんなに有能な使用人が来てくれるとは思わなかったけどな」
「いえいえ……。まだできていないことも多いですから」

 お褒めに預かり光栄でございますとは言えなかった。
 まだまだ侯爵邸全ての部屋を綺麗に掃除できているわけではない。
 順番に綺麗にしてはいるが、とにかく部屋が多すぎる。

「良い機会だから、私からもキミに言いたいことがあるのだがね」
「はい。なんでもします」
「いやいや、そういうことではなくてだね……。キミの仕事っぷりは良くわかった。執事長として任命し、新たに使用人を何人か雇いたいと考えている」
「執事長ですか……」
「今後はキミが使用人の管理と指導をしてもらうことになる。むろん、掃除のやり方や料理に関しても、全面的にキミに任せたい」

 誰かに教えることなんてしたことがなかった。
 果たして私は、そんなことができるのだろうか……。
 これはジェガルトさんに要相談してアドバイスを貰ったほうが良さそうだ。

 ついでに、私をこの侯爵家に引き抜いてくださった理由も、一応聞いてみようと思う。
 もし言い淀むようなことがあれば、追求はしないつもりだ。

「どうかね?」
「一度ジェガルトさんに執事長としてのお仕事がどんなことをやってきたのか聞いてみてもよろしいですか?」
「むろんだ。彼は万能執事長だったからな。王家からも羨ましがられるほどだったよ。彼に聞けば間違いはない」
「お時間いただきありがとうございます」

 さっそく、このままジェガルトさんの部屋へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。 二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。 案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。 そんなある日、ついに事件が起こる。 オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。 どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。 一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。

そんなに欲しいのでしたらお譲りします

風見ゆうみ
恋愛
私、ミリエル・レナス侯爵令嬢には昔から大好きだった人がいた。 好きな人の名は公爵家の次男のテイン・ヨウビル。 三歳年上の彼に意を決して告白して、思いが報われた。そう思っていたのに、次の日、わたしの好きな人は、姉の婚約者になった。 「……テイン様はどういう気持ちで、私の告白を受け入れてくれたんですか?」 「一日だけでも、レジーから君に夢を見させてあげくれって頼まれたんだ。君が幸せな気持ちになってくれていたなら嬉しい」 「ねえミリー、許してくれるでしょう? だって、私達の仲じゃない?」 「お姉様は、私のものがほしいだけ。だから、彼を一度、私のものにしたんですね?」 ショックを受けていた私の元に縁談が舞い込んでくる。 条件が良くない男性のため、次こそはお姉様に奪われることはない。そう思っていた私だったけれど、お姉様が私が幸せになることを許すはずがなかった。 ※史実とは関係なく、設定もゆるゆるでご都合主義です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良いものとなっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

処理中です...