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13話 フィアラは聞いてみた
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侯爵家で使用人を始めてから、世界が変わったような気がする。
今まで家事などをやることが当たり前で、終わるまで絶対にやらなければならないと思っていた。
だが、侯爵家ではそうではなかった。
掃除して部屋を綺麗にしたり、ごはんを用意したりすると『ありがとう』と感謝されるのだ。
使用人の仕事ってこんなに楽しいものだったんだ。
そう思うようになった。
さて、私に物事を考える余裕が生まれたため、今までなんとなくやってきたことや出来事でも気になることを意識するようになったのだ。
今日は侯爵様に聞いてみようと思う。
「ずいぶんと馴染んできたようだな。引き続きよろしく頼む」
「ありがとうございます。ところでずっと前から、ひとつだけお聞きしたいことがありまして……」
「ほう、なんでも言ってくれたまえ」
最初は聞いたら怒られてしまうと思っていたから聞かずにいた。
だが、侯爵家ではそのような事態にはならないと自信を持って思える。
私はついに聞くことができたのだ。
「私を使用人として雇ってくださる判断になったのはなぜですか? 失礼ながら、今まで侯爵様やダイン様、それに元執事のジェガルトさんとも初対面だったかと思うのですが……」
「ふむ。その件については色々と複雑でな。実のところ私もジェガルト氏に頼まれてキミを任命することにしたのだよ」
「へ? 侯爵様が私を引き抜いてくださったわけではないのですね」
「そういうことだ。ジェガルト氏本人もこの件に関してはあまり詳しく喋ろうとしないのでね」
「それで良く使用人として雇ってくださいましたね……」
「あぁ。ジェガルト氏の発言は常に信用できる者だからね。あくまで私は彼の発言に乗ったまでだよ。まさかこんなに有能な使用人が来てくれるとは思わなかったけどな」
「いえいえ……。まだできていないことも多いですから」
お褒めに預かり光栄でございますとは言えなかった。
まだまだ侯爵邸全ての部屋を綺麗に掃除できているわけではない。
順番に綺麗にしてはいるが、とにかく部屋が多すぎる。
「良い機会だから、私からもキミに言いたいことがあるのだがね」
「はい。なんでもします」
「いやいや、そういうことではなくてだね……。キミの仕事っぷりは良くわかった。執事長として任命し、新たに使用人を何人か雇いたいと考えている」
「執事長ですか……」
「今後はキミが使用人の管理と指導をしてもらうことになる。むろん、掃除のやり方や料理に関しても、全面的にキミに任せたい」
誰かに教えることなんてしたことがなかった。
果たして私は、そんなことができるのだろうか……。
これはジェガルトさんに要相談してアドバイスを貰ったほうが良さそうだ。
ついでに、私をこの侯爵家に引き抜いてくださった理由も、一応聞いてみようと思う。
もし言い淀むようなことがあれば、追求はしないつもりだ。
「どうかね?」
「一度ジェガルトさんに執事長としてのお仕事がどんなことをやってきたのか聞いてみてもよろしいですか?」
「むろんだ。彼は万能執事長だったからな。王家からも羨ましがられるほどだったよ。彼に聞けば間違いはない」
「お時間いただきありがとうございます」
さっそく、このままジェガルトさんの部屋へと向かった。
今まで家事などをやることが当たり前で、終わるまで絶対にやらなければならないと思っていた。
だが、侯爵家ではそうではなかった。
掃除して部屋を綺麗にしたり、ごはんを用意したりすると『ありがとう』と感謝されるのだ。
使用人の仕事ってこんなに楽しいものだったんだ。
そう思うようになった。
さて、私に物事を考える余裕が生まれたため、今までなんとなくやってきたことや出来事でも気になることを意識するようになったのだ。
今日は侯爵様に聞いてみようと思う。
「ずいぶんと馴染んできたようだな。引き続きよろしく頼む」
「ありがとうございます。ところでずっと前から、ひとつだけお聞きしたいことがありまして……」
「ほう、なんでも言ってくれたまえ」
最初は聞いたら怒られてしまうと思っていたから聞かずにいた。
だが、侯爵家ではそのような事態にはならないと自信を持って思える。
私はついに聞くことができたのだ。
「私を使用人として雇ってくださる判断になったのはなぜですか? 失礼ながら、今まで侯爵様やダイン様、それに元執事のジェガルトさんとも初対面だったかと思うのですが……」
「ふむ。その件については色々と複雑でな。実のところ私もジェガルト氏に頼まれてキミを任命することにしたのだよ」
「へ? 侯爵様が私を引き抜いてくださったわけではないのですね」
「そういうことだ。ジェガルト氏本人もこの件に関してはあまり詳しく喋ろうとしないのでね」
「それで良く使用人として雇ってくださいましたね……」
「あぁ。ジェガルト氏の発言は常に信用できる者だからね。あくまで私は彼の発言に乗ったまでだよ。まさかこんなに有能な使用人が来てくれるとは思わなかったけどな」
「いえいえ……。まだできていないことも多いですから」
お褒めに預かり光栄でございますとは言えなかった。
まだまだ侯爵邸全ての部屋を綺麗に掃除できているわけではない。
順番に綺麗にしてはいるが、とにかく部屋が多すぎる。
「良い機会だから、私からもキミに言いたいことがあるのだがね」
「はい。なんでもします」
「いやいや、そういうことではなくてだね……。キミの仕事っぷりは良くわかった。執事長として任命し、新たに使用人を何人か雇いたいと考えている」
「執事長ですか……」
「今後はキミが使用人の管理と指導をしてもらうことになる。むろん、掃除のやり方や料理に関しても、全面的にキミに任せたい」
誰かに教えることなんてしたことがなかった。
果たして私は、そんなことができるのだろうか……。
これはジェガルトさんに要相談してアドバイスを貰ったほうが良さそうだ。
ついでに、私をこの侯爵家に引き抜いてくださった理由も、一応聞いてみようと思う。
もし言い淀むようなことがあれば、追求はしないつもりだ。
「どうかね?」
「一度ジェガルトさんに執事長としてのお仕事がどんなことをやってきたのか聞いてみてもよろしいですか?」
「むろんだ。彼は万能執事長だったからな。王家からも羨ましがられるほどだったよ。彼に聞けば間違いはない」
「お時間いただきありがとうございます」
さっそく、このままジェガルトさんの部屋へと向かった。
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