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11話 フィアラは丁寧に作業をしていたら感謝された
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今日は侯爵様とダイン様、それから元執事長のジェガルトさんの部屋を掃除してから、野菜の種まきも行った。
ダイン様がとても楽しそうに手伝ってくれていたのが嬉しかった。
「まさか、こんな小さなものが大きな野菜になるとはな。今まで貴族マナーや国の法律といったことしか学んでこなかったから知らなかった」
「このあと水まきをしないと育ちませんけどね」
「そうか。今までは野菜をなに気なく食べてきたが、作る過程でなかなかの労力と苦労があるのだな。食べる際に作ったものたちへ感謝するべきかもしれんな」
「そう言っていただけると、作りがいがあります」
「フィアラよ、ありがとう」
突然ダイン様がそう言いながら私の手をギュッと握ってきた。
驚いてしまったが、今回は変な声は出さずになんとか理性を保った。
「急にどうされたのですか?」
「こういった経験ができたのもフィアラが来てくれたおかげだと思ったらつい……。はしたない行為だったな、すまない」
「いえいえ、そんなことは思っていません。お礼を言っていただけたので、どうしてかと思ってしまいまして。お礼を言わなければならないのはむしろ私ですから。手伝っていただきありがとうございました」
「ふ……ふむ」
私が微笑んで感謝の気持ちを伝えたら、ダイン様の顔が赤らめたような気がした。
その後ダイン様は顔を隠しながら、駆け足で屋敷の中へ行ってしまった。
さて、次はニワトリの餌やりをして新しい小屋に道具を運ばなきゃ。
♢
野菜を植えてから一週間後、収穫できるまで育った。
ニワトリもタマゴを産むようになったし順調順調~。
さっそく新鮮な食材を使って料理をした。
「「美味すぎる!!」」
「良かったです!」
侯爵様とダイン様が口を揃えてそう褒めてくれた。
よほど気に入ってくれたのか、無言のまま熱々の料理をぺろりと平らげたのだった。
「いやぁ、本当にキミは素晴らしいよ。掃除も丁寧で料理の腕も万能。しかも我々が望んでいた以上の働きをしてくれる」
「いつもお褒めの言葉をありがとうございます」
今の私は楽しみながら使用人の仕事をしている。
今まで子爵家で家事や料理をしていたときは終わりの見えない辛い毎日だった。
だが、今はどういうわけか夢中になっている。
部屋を綺麗にする喜び、ごはんを誰かが食べてくれるから作る喜び、終わったあとにお礼を言ってくれる嬉しさ。
どれも今まで経験したことがなく、家事ってこんなに楽しいものなんだと新たな発見であった。
「最近、身体が軽くなったような気がするのだよ。なにか食べ物に特殊ななにかを入れたりしているのかね?」
「いえ、そのようなことはしていませんが……」
「父上もでしたか。実は俺も調子が良くて絶好調なんですよね」
もちろん料理に妙な薬草などは入れていない。
美味しくなーれと考えながらただ作っているだけだ。
二人は美味しく食べてくれているから、気分的な問題で元気になってくれたんだと思う。
子爵家では元気になったなどということは一度も聞いたことなんてなかったし。
「美味いメシ、そして良い環境で寝れるようになったから元気が倍増したのかもしれぬな」
「たしかに。フィアラの掃除が丁寧だから、部屋の空気が綺麗になったというのは理由のひとつにあるでしょう。今までは少々埃っぽい部屋でしたからね。咳き込んだりすることもよくありましたが、今は快適に睡眠が取れています」
侯爵様たちの部屋はある程度の掃除はされていたものの、棚の裏側や隙間、壁の凸部分にホコリがたまっていた。
ちっちゃな虫の死骸もいたから全て排除した。
元執事長のジェガルトさんから聞いたのだが、一般的に使用人の掃除は目に見える範囲を掃除するらしく、手の触れないような場所はスルーするらしい。
だが、私は隅々まで綺麗にすることが定着してしまっているので今までどおりに掃除した。
その影響で……。
「申し訳ありません。予定では五部屋の清掃となっていましたが、四部屋しか完了できず……」
もちろん、全ての部屋の掃除が終わるまでは日が暮れようともやるつもりでいた。
だが、ジェガルトさんと侯爵様に止められてしまった。
仕事を全て完了できなかったのに、こんなに褒められてしまうのは申しわけがなさすぎるのだ。
「求めているもの以上のことをキミはしてくれたのだ。おかげで私の仕事にも良い影響が出ている。なんの問題もあるまい。だが、くれぐれも無理はしないように」
こんなに楽しく家事ができるなら、いくらでもやれる気がした。
ただし、侯爵様のお言葉に甘えて、今までのように睡眠時間を削って作業にのめり込むことだけはやめておこうと思う。
子爵邸から離れて使用人をやるようになって思ったことがある。
あの家、私以外の人を雇うようなことを言っていたけれど、トラブルになってないか少しだけ心配になってしまった。
主に雇われた使用人さんのことが……。
ダイン様がとても楽しそうに手伝ってくれていたのが嬉しかった。
「まさか、こんな小さなものが大きな野菜になるとはな。今まで貴族マナーや国の法律といったことしか学んでこなかったから知らなかった」
「このあと水まきをしないと育ちませんけどね」
「そうか。今までは野菜をなに気なく食べてきたが、作る過程でなかなかの労力と苦労があるのだな。食べる際に作ったものたちへ感謝するべきかもしれんな」
「そう言っていただけると、作りがいがあります」
「フィアラよ、ありがとう」
突然ダイン様がそう言いながら私の手をギュッと握ってきた。
驚いてしまったが、今回は変な声は出さずになんとか理性を保った。
「急にどうされたのですか?」
「こういった経験ができたのもフィアラが来てくれたおかげだと思ったらつい……。はしたない行為だったな、すまない」
「いえいえ、そんなことは思っていません。お礼を言っていただけたので、どうしてかと思ってしまいまして。お礼を言わなければならないのはむしろ私ですから。手伝っていただきありがとうございました」
「ふ……ふむ」
私が微笑んで感謝の気持ちを伝えたら、ダイン様の顔が赤らめたような気がした。
その後ダイン様は顔を隠しながら、駆け足で屋敷の中へ行ってしまった。
さて、次はニワトリの餌やりをして新しい小屋に道具を運ばなきゃ。
♢
野菜を植えてから一週間後、収穫できるまで育った。
ニワトリもタマゴを産むようになったし順調順調~。
さっそく新鮮な食材を使って料理をした。
「「美味すぎる!!」」
「良かったです!」
侯爵様とダイン様が口を揃えてそう褒めてくれた。
よほど気に入ってくれたのか、無言のまま熱々の料理をぺろりと平らげたのだった。
「いやぁ、本当にキミは素晴らしいよ。掃除も丁寧で料理の腕も万能。しかも我々が望んでいた以上の働きをしてくれる」
「いつもお褒めの言葉をありがとうございます」
今の私は楽しみながら使用人の仕事をしている。
今まで子爵家で家事や料理をしていたときは終わりの見えない辛い毎日だった。
だが、今はどういうわけか夢中になっている。
部屋を綺麗にする喜び、ごはんを誰かが食べてくれるから作る喜び、終わったあとにお礼を言ってくれる嬉しさ。
どれも今まで経験したことがなく、家事ってこんなに楽しいものなんだと新たな発見であった。
「最近、身体が軽くなったような気がするのだよ。なにか食べ物に特殊ななにかを入れたりしているのかね?」
「いえ、そのようなことはしていませんが……」
「父上もでしたか。実は俺も調子が良くて絶好調なんですよね」
もちろん料理に妙な薬草などは入れていない。
美味しくなーれと考えながらただ作っているだけだ。
二人は美味しく食べてくれているから、気分的な問題で元気になってくれたんだと思う。
子爵家では元気になったなどということは一度も聞いたことなんてなかったし。
「美味いメシ、そして良い環境で寝れるようになったから元気が倍増したのかもしれぬな」
「たしかに。フィアラの掃除が丁寧だから、部屋の空気が綺麗になったというのは理由のひとつにあるでしょう。今までは少々埃っぽい部屋でしたからね。咳き込んだりすることもよくありましたが、今は快適に睡眠が取れています」
侯爵様たちの部屋はある程度の掃除はされていたものの、棚の裏側や隙間、壁の凸部分にホコリがたまっていた。
ちっちゃな虫の死骸もいたから全て排除した。
元執事長のジェガルトさんから聞いたのだが、一般的に使用人の掃除は目に見える範囲を掃除するらしく、手の触れないような場所はスルーするらしい。
だが、私は隅々まで綺麗にすることが定着してしまっているので今までどおりに掃除した。
その影響で……。
「申し訳ありません。予定では五部屋の清掃となっていましたが、四部屋しか完了できず……」
もちろん、全ての部屋の掃除が終わるまでは日が暮れようともやるつもりでいた。
だが、ジェガルトさんと侯爵様に止められてしまった。
仕事を全て完了できなかったのに、こんなに褒められてしまうのは申しわけがなさすぎるのだ。
「求めているもの以上のことをキミはしてくれたのだ。おかげで私の仕事にも良い影響が出ている。なんの問題もあるまい。だが、くれぐれも無理はしないように」
こんなに楽しく家事ができるなら、いくらでもやれる気がした。
ただし、侯爵様のお言葉に甘えて、今までのように睡眠時間を削って作業にのめり込むことだけはやめておこうと思う。
子爵邸から離れて使用人をやるようになって思ったことがある。
あの家、私以外の人を雇うようなことを言っていたけれど、トラブルになってないか少しだけ心配になってしまった。
主に雇われた使用人さんのことが……。
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