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1 旦那の要望
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「ジューリア。我が家にもっと使用人が必要だと思うんだが」
「ファーラーとレーシーの二人がしっかりとやってくださっていますよ」
お互いに二十代ではあるものの、我が家は一般家庭でありながら、それなりに裕福な生活を送らさせてもらっている。
家も大きいので使用人を二人、住み込みで雇っていて充分回ってるのだ。
なぜ追加しなければならないのだろうか。
「ジューリアの稼ぎだったらあと数人雇ってもやっていけると思うんだが」
「いえ、そういう問題ではありませんよ。それにダルムこそいい加減に働いてください。ずっと家でぐーたら生活じゃないですか」
ダルムは結婚する前までは私と同じギルド職員として働いていた。
ギルドといっても、この国では主に王族貴族様や商人からの依頼をギルドメンバーにやってもらうための仲介業者みたいなものだが。
そこで出会い、彼とは意気投合して交際も始まった。
その頃のダルムはとてもいい人だと思っていたのだ。
結婚してからも一緒に仕事をやっていけるかと思ったのだが、彼は急にやめてしまった。今は何もしていない。
噂で聞いたことはあるが、結婚した途端に性格が変わる典型例みたいである。
「俺はこの家を買うために今までの金を全部突っ込んだんだぞ。俺の役目は終わったんだから、あとはジューリアが稼いで俺を養ってくれ」
偉そうに言ってくるが、ダルムの当時の稼ぎだけでは、この家を買えるほどの資金はなかったはずだ。
どこからこんな大金を集めたのか疑問ではあるが、おそらく彼の両親だろう。
あえてこのことに触れる必要もないが。
「はぁ……ともかく、使用人の件はなかったことにしていいのですね? 言っておきますが、これ以上使用人や執事を雇う気はありませんよ。ファーラーとレーシーのコンビだからこそうまく回っているのです。そこに誰かが入ってきたらバランスも崩れかねません」
住み込みと言っても、しっかり休みはあるし、仕事全てを押しつけているわけではない。
私は家事も料理も好きなのだ。本業が休みの日は、私がやることだってある。
「そもそもジューリアが働きすぎなんだよ!」
「え……!?」
「ギルド界のリーダーとはいえ少しは休めよ。そう言っているんだ。だから住込で働ける人材が必要なんだよ」
なんということだ……。
最近は私のことを金としか見ていなかったようなダルムだったから、またもや彼の身勝手な発言かと思っていた。
これは疑った自分を恥じる。
「ごめんなさい。そこまで考えてくれているとは知らず。ですが、やはり使用人や執事の追加は出来ませんよ。私としても無理にやっているのではなく、家事は仕事の息抜きにもなっているのですから」
「そうなのか。だとしたら困ったな……うーむ……」
「え? どういうことです?」
そんなに私が家事をするのが嫌なのだろうか。
まさか私の作る料理って下手!?
首を傾げた。
「いや、実は候補がいたんだよな。ジューリアの体を気遣ってるとでも言っておけば素直に受け入れるかとおも……あ!」
「なんですって!?」
「いやいや違う違う!! 落ち着け! 言葉の選択ミスだよ! はっはっは……。ジューリアの体を心配しているのは本当だ。これは絶対にほんと!」
ダルムは口を滑らせたうっかり発言がやたらと多いのだ。
今回は本音だろう。
せっかく久しぶりにドキドキしていたのに、怒りによる興奮のドキドキに変わってしまった。
「結論から言うと使用人を追加する。ジューリアがなんと言おうともこの家は所詮俺の持ち家だ。文句は言わせない」
はぁ……、がっかりだ。
もしもこのようなことが後何十回か続いてしまうようなら、別居だって考えたくなるかもしれない。
「誰か雇うと決めていたならそういえばいいじゃないですか。なぜわざわざ相談してきたのですか?」
「いや、そりゃ相談するだろう。だって、労働の支払いはジューリアがするんだからさ」
「はい!?」
もしも私を気遣ってくれ、ダルムの貯金を切り崩してでも雇うと言ってくれたならば、『私が払いますよ』と素直に言えたかもしれない。
だが、まさか支払いまで私だと相談もないまま決まっていたとは……流石に納得ができない。
「何度も言いますが私にはこれ以上使用人や執事は必要ありませんし、ファーラーやレーシーがいてくれるので十分だと思いますけど」
「いやいや、その気持ちはわかったんだが、これは人助けだと思ってくれればいい。主に俺の」
「は!? つまり誰を迎え入れるのです!?」
「ギルドで一緒に働いていた俺の幼馴染のフェンフェンだよ」
「……」
あまりの身勝手な発言を聞いて、体が固まった。
「ファーラーとレーシーの二人がしっかりとやってくださっていますよ」
お互いに二十代ではあるものの、我が家は一般家庭でありながら、それなりに裕福な生活を送らさせてもらっている。
家も大きいので使用人を二人、住み込みで雇っていて充分回ってるのだ。
なぜ追加しなければならないのだろうか。
「ジューリアの稼ぎだったらあと数人雇ってもやっていけると思うんだが」
「いえ、そういう問題ではありませんよ。それにダルムこそいい加減に働いてください。ずっと家でぐーたら生活じゃないですか」
ダルムは結婚する前までは私と同じギルド職員として働いていた。
ギルドといっても、この国では主に王族貴族様や商人からの依頼をギルドメンバーにやってもらうための仲介業者みたいなものだが。
そこで出会い、彼とは意気投合して交際も始まった。
その頃のダルムはとてもいい人だと思っていたのだ。
結婚してからも一緒に仕事をやっていけるかと思ったのだが、彼は急にやめてしまった。今は何もしていない。
噂で聞いたことはあるが、結婚した途端に性格が変わる典型例みたいである。
「俺はこの家を買うために今までの金を全部突っ込んだんだぞ。俺の役目は終わったんだから、あとはジューリアが稼いで俺を養ってくれ」
偉そうに言ってくるが、ダルムの当時の稼ぎだけでは、この家を買えるほどの資金はなかったはずだ。
どこからこんな大金を集めたのか疑問ではあるが、おそらく彼の両親だろう。
あえてこのことに触れる必要もないが。
「はぁ……ともかく、使用人の件はなかったことにしていいのですね? 言っておきますが、これ以上使用人や執事を雇う気はありませんよ。ファーラーとレーシーのコンビだからこそうまく回っているのです。そこに誰かが入ってきたらバランスも崩れかねません」
住み込みと言っても、しっかり休みはあるし、仕事全てを押しつけているわけではない。
私は家事も料理も好きなのだ。本業が休みの日は、私がやることだってある。
「そもそもジューリアが働きすぎなんだよ!」
「え……!?」
「ギルド界のリーダーとはいえ少しは休めよ。そう言っているんだ。だから住込で働ける人材が必要なんだよ」
なんということだ……。
最近は私のことを金としか見ていなかったようなダルムだったから、またもや彼の身勝手な発言かと思っていた。
これは疑った自分を恥じる。
「ごめんなさい。そこまで考えてくれているとは知らず。ですが、やはり使用人や執事の追加は出来ませんよ。私としても無理にやっているのではなく、家事は仕事の息抜きにもなっているのですから」
「そうなのか。だとしたら困ったな……うーむ……」
「え? どういうことです?」
そんなに私が家事をするのが嫌なのだろうか。
まさか私の作る料理って下手!?
首を傾げた。
「いや、実は候補がいたんだよな。ジューリアの体を気遣ってるとでも言っておけば素直に受け入れるかとおも……あ!」
「なんですって!?」
「いやいや違う違う!! 落ち着け! 言葉の選択ミスだよ! はっはっは……。ジューリアの体を心配しているのは本当だ。これは絶対にほんと!」
ダルムは口を滑らせたうっかり発言がやたらと多いのだ。
今回は本音だろう。
せっかく久しぶりにドキドキしていたのに、怒りによる興奮のドキドキに変わってしまった。
「結論から言うと使用人を追加する。ジューリアがなんと言おうともこの家は所詮俺の持ち家だ。文句は言わせない」
はぁ……、がっかりだ。
もしもこのようなことが後何十回か続いてしまうようなら、別居だって考えたくなるかもしれない。
「誰か雇うと決めていたならそういえばいいじゃないですか。なぜわざわざ相談してきたのですか?」
「いや、そりゃ相談するだろう。だって、労働の支払いはジューリアがするんだからさ」
「はい!?」
もしも私を気遣ってくれ、ダルムの貯金を切り崩してでも雇うと言ってくれたならば、『私が払いますよ』と素直に言えたかもしれない。
だが、まさか支払いまで私だと相談もないまま決まっていたとは……流石に納得ができない。
「何度も言いますが私にはこれ以上使用人や執事は必要ありませんし、ファーラーやレーシーがいてくれるので十分だと思いますけど」
「いやいや、その気持ちはわかったんだが、これは人助けだと思ってくれればいい。主に俺の」
「は!? つまり誰を迎え入れるのです!?」
「ギルドで一緒に働いていた俺の幼馴染のフェンフェンだよ」
「……」
あまりの身勝手な発言を聞いて、体が固まった。
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