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31話
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私はなにを浮かれていたのだろう……。
前回の視察は、レリック殿下とほぼ二人きりで、デートという感覚だった。
だが、今回はそうではない。
「これはこれはご無沙汰しておりますな」
「お久しぶりですバーバラ様」
大商人バーバラ様も今回の視察に同行するようだ。
さらに、カフェチェルビーで主にランチを作ってくれているジャーキさんも一緒である。
すでに別の馬車に乗っているが、国王陛下や付き人までもいるため、本格的な視察のようだ。
出発前に、バーバラ様と少しだけ世間話をしている。
「フィレーネさんのカフェチェルビーは大繁盛しているようで」
「バーバラ様が口コミで宣伝してくださったおかげですよ」
「いえいえ。私が宣伝せずとも、おのずと人気店になっていたことには変わりないでしょう」
カフェチェルビーへ最初に来店してくれたのが、大商人バーバラ様である。
あとで分かったことだが、彼がいくつかの店に紹介をしてくれたおかげで、一気に知名度が上がった。
レリック殿下に好立地な店舗を提供してくれ、バーバラ様が口コミをしてくれた。
人気になってきたところで、他国との交流会の場として使いたいと国王陛下が提案してくれた。
カフェチェルビーは周りの協力のおかげで大繁盛になったのだ。
「今後のフィレーネさんの活躍に、私も久しぶりに胸が高まっていますよ」
「そんな、大袈裟ですよ……」
遅れてレリック殿下が別の馬車に乗って現れた。
「すまない。少々書類を集めるのに時間がかかってしまった」
レリック殿下が手にしている紙は、この国で契約などに必要な重要なことに使う高級紙である。
大事そうにしているため、おそらく今日の視察で使うものなのだろう。
どこへ向かうのかはわからないが、気を引き締めることにした。
「さぁフィレーネ殿よ、乗ってくれたまえ」
「はい? これはレリック殿下専用の馬車では……?」
「そうだよ。だからこれに乗ってもらいたい」
いやいやいやいや、それは理屈としておかしい。
レリック殿下はニコニコしながら私を誘導しようとしているではないか。
「もちろん、前後の馬車には護衛をつけているから安心したまえ」
「むしろ私がそんな待遇を受けるなんて」
「これでも足りないくらいだと思っている」
ここ最近、私に対してだけレリック殿下の口調があまあまになってきている。
レリック殿下のことは完全に意識してしまっているが、釣り合うわけもなく気持ちを押し殺すのに必死だ。
こういう行為は、好きな人に対してだけにとどめていただきたい……。
と、思ったら、もしかして私のことを好きなのではないかという非現実的なことを妄想してしまった。
「かぁぁぁぁああああっ……」
「どうしたんだい?」
「いえ、なんでもありませんっ!」
馬車に乗せてもらうと、レリック殿下は迷わずに私の真横に座るのだった。
「え……と、この馬車は広いですよね?」
「私がフィレーネ殿の護衛役さ」
「普通逆でしょう……。とは言っても、私ではレリック殿下を助けるような力などありませんが……」
「いや、十分に助けられている」
レリック殿下の言っている意味が理解できなかった。
私としては隣に座ってくれていたほうがドキドキするし、居心地も良い。
ただ、レリック殿下が私のことを好きだという誤解がさらに生まれてしまうから、勘違いだけはしないように心がけておこう。
「ところで、王都を出てからカーテンを閉めているのはなぜですか?」
外が見れない。
むしろ、私に外を見ないようにしてほしいといった雰囲気だ。
「向かう先を秘密にしているためだ。すまない」
「はい?」
「フィレーネ殿は優しすぎるからな……。あまり考える時間を与えずに決断してもらいたいという父上からの命令なのだよ」
「言っている意味がわかりませんが……」
「時期にわかるさ。ただ、少々辛い思いをさせてしまうかもしれない」
「覚悟しておきます」
今まで散々辛い思いを高原の三姉妹カフェで経験してきた。
あれ以上辛い思いを想像するほうが難しい。
ますます気を引き締めなければと思っているのに、隣に座っているレリック殿下がそうさせてくれなかった。
ほぼ密着状態で隣に座られていると、別の意味で緊張してしまう……。
前回の視察は、レリック殿下とほぼ二人きりで、デートという感覚だった。
だが、今回はそうではない。
「これはこれはご無沙汰しておりますな」
「お久しぶりですバーバラ様」
大商人バーバラ様も今回の視察に同行するようだ。
さらに、カフェチェルビーで主にランチを作ってくれているジャーキさんも一緒である。
すでに別の馬車に乗っているが、国王陛下や付き人までもいるため、本格的な視察のようだ。
出発前に、バーバラ様と少しだけ世間話をしている。
「フィレーネさんのカフェチェルビーは大繁盛しているようで」
「バーバラ様が口コミで宣伝してくださったおかげですよ」
「いえいえ。私が宣伝せずとも、おのずと人気店になっていたことには変わりないでしょう」
カフェチェルビーへ最初に来店してくれたのが、大商人バーバラ様である。
あとで分かったことだが、彼がいくつかの店に紹介をしてくれたおかげで、一気に知名度が上がった。
レリック殿下に好立地な店舗を提供してくれ、バーバラ様が口コミをしてくれた。
人気になってきたところで、他国との交流会の場として使いたいと国王陛下が提案してくれた。
カフェチェルビーは周りの協力のおかげで大繁盛になったのだ。
「今後のフィレーネさんの活躍に、私も久しぶりに胸が高まっていますよ」
「そんな、大袈裟ですよ……」
遅れてレリック殿下が別の馬車に乗って現れた。
「すまない。少々書類を集めるのに時間がかかってしまった」
レリック殿下が手にしている紙は、この国で契約などに必要な重要なことに使う高級紙である。
大事そうにしているため、おそらく今日の視察で使うものなのだろう。
どこへ向かうのかはわからないが、気を引き締めることにした。
「さぁフィレーネ殿よ、乗ってくれたまえ」
「はい? これはレリック殿下専用の馬車では……?」
「そうだよ。だからこれに乗ってもらいたい」
いやいやいやいや、それは理屈としておかしい。
レリック殿下はニコニコしながら私を誘導しようとしているではないか。
「もちろん、前後の馬車には護衛をつけているから安心したまえ」
「むしろ私がそんな待遇を受けるなんて」
「これでも足りないくらいだと思っている」
ここ最近、私に対してだけレリック殿下の口調があまあまになってきている。
レリック殿下のことは完全に意識してしまっているが、釣り合うわけもなく気持ちを押し殺すのに必死だ。
こういう行為は、好きな人に対してだけにとどめていただきたい……。
と、思ったら、もしかして私のことを好きなのではないかという非現実的なことを妄想してしまった。
「かぁぁぁぁああああっ……」
「どうしたんだい?」
「いえ、なんでもありませんっ!」
馬車に乗せてもらうと、レリック殿下は迷わずに私の真横に座るのだった。
「え……と、この馬車は広いですよね?」
「私がフィレーネ殿の護衛役さ」
「普通逆でしょう……。とは言っても、私ではレリック殿下を助けるような力などありませんが……」
「いや、十分に助けられている」
レリック殿下の言っている意味が理解できなかった。
私としては隣に座ってくれていたほうがドキドキするし、居心地も良い。
ただ、レリック殿下が私のことを好きだという誤解がさらに生まれてしまうから、勘違いだけはしないように心がけておこう。
「ところで、王都を出てからカーテンを閉めているのはなぜですか?」
外が見れない。
むしろ、私に外を見ないようにしてほしいといった雰囲気だ。
「向かう先を秘密にしているためだ。すまない」
「はい?」
「フィレーネ殿は優しすぎるからな……。あまり考える時間を与えずに決断してもらいたいという父上からの命令なのだよ」
「言っている意味がわかりませんが……」
「時期にわかるさ。ただ、少々辛い思いをさせてしまうかもしれない」
「覚悟しておきます」
今まで散々辛い思いを高原の三姉妹カフェで経験してきた。
あれ以上辛い思いを想像するほうが難しい。
ますます気を引き締めなければと思っているのに、隣に座っているレリック殿下がそうさせてくれなかった。
ほぼ密着状態で隣に座られていると、別の意味で緊張してしまう……。
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