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今度こそ、さようなら
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さぁ、今日は確実に戦場になるだろう。
予行練習で試したお父様があれだけの怒声をしてきたのだ。
本番ではもっとひどい束縛をするのだから、きっとレインハルト様とはいえ大噴火のごとく怒るに違いない。
いつもどおり、公爵邸の庭園で待つ。
「よおおおおおぉぉぉおおおし!!」
気合は十分。
前々回のように言いたくても言い出せない状況にはならないだろう。
しばらく待ってもなかなかレインハルト様はやってこない。
予定よりも時間がかなり過ぎている。
こういう場合は私が公爵邸に潜入しても良いことになっているため、そちらへ向かうことにした。
本邸の入り口にたどり着いたが、いつもの警備がいない。
いくら平和な国だからって、公爵邸ならドアの前に一人くらいいたっていいのに。
幸い、私は婚約者の身だから、公爵邸は本邸含めて出入りも自由になっている。
ドアを開けてお邪魔した。
レインハルト様はたしか仕事をやっているはずだから、迷わず仕事部屋へと向かった。
「レインハルトさ……」
仕事部屋にはいなかった。
この時点で私は違和感に気がついた。
「どうして誰もいないんだろう……」
使用人やメイド、執事、誰も見かけなかった。
みんなで揃って旅行に出かけるような家庭でもないし……。
「とりあえず、レインハルト様の部屋へ行くか」
向かうと、レインハルト様の部屋の外には大勢の人がごったがえしていた。
公爵邸にいる全ての人間がここに集まっているようだ。
これはただ事ではないことくらいすぐにわかった。
「一体、なにがあったのです!?」
私は部屋の外にいる一人のメイドに尋ねた。
「あ……ミリアナ様。実は、セガレ様が……レインハルト様が……」
「え!?」
なにも言わなくとも理解できる。
レインハルト様の身になにかが起こったことくらいは……。
私は人の合間を強引にくぐり抜けて、部屋の中へ侵入に成功した。
すると、ベッドの上でレインハルト様が……。
「レインハルト様!」
「ミリアナ嬢か。レインハルトがすまんな」
公爵様が私に対して申し訳なさそうに謝罪してきた。
いや、今それどころじゃないでしょう。
「いったいどうしたのですか!?」
「それがな……」
そのとき……。
「うぅん……」
「「「「「「「「「「レインハルト様」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「おぼっちゃま!!」」」」」」」」」
まるで大合唱のようにそこら中からレインハルト様を呼ぶ声が響き渡った。
「そうか……いつの間にか俺は……」
こういうとき、私は肝が座っていると思うことがある。
どうせこのあと公爵邸からも悪女とののしめられて追放されるのだし、周りなど気にしなくて良い。
それくらい、今回は気合が入っているのだから。
私は覚悟を決めた。
さようなら、レインハルト様……。
「レインハルト様!! 仕事ばっかやってないで本来は私にこれでもかというくらい構うべきなんです!! その……、レインハルト様は仕事大好き人間なのは知っています。でも、仕事ばっかじゃなくて休暇もしろっ!!」
おぉ……。
私って凄いかもしれない。
言い出したらなんだかその気になっちゃって、最後の方はバリバリのタメ口だった。
周りも、私の怒声を聞いてしーーんと静まり返っている。
レインハルト様もその場で固まっているようでなにも言い返してこない。
悪女として完璧のはなまる百点満点といったところだろうか。
更に、私は小説に出てきそうなセリフも付け加えた。
「もう知らないんだからっ!!」
そう言って、おもいっきり走って公爵邸から逃げた。
怒られるのは避けたい。
どうせ婚約破棄されるんだから、無駄に怒られるよりは被害を最小限に止めておきたかった。
馬車まで全速力ダッシュで走り、待っていた護衛や御者にすぐに命令した。
「すぐに馬を出して! 家に帰るっ!」
「は……はい、ただちに」
これでもう、私はこの公爵邸の仕切りをまたぐことはないのだろう。
レインハルト様にあんな暴言を言って別れになってしまうなんて……。
いくら最愛の人が幸せになる方向へ誘導したからって、やっぱり悔しいし悲しい。
それでも、今後は私自身も乗り越えてレインハルト様のことは忘れないと……。
馬車の中で、耐えきれずに涙をこぼしてしまった。
♢
翌日、いつもどおりの時間に起きて身支度を整えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「おい、ミリアナ!」
「はひっ! あ、お父様……」
うわぁ……。
早速地獄のスタートか。
あれだけ騒いだんだし、噂がお父様の耳に入っていてもおかしくはないもんな。
「いったいどういうことなんだ!?」
「あ、あの。これには訳が……」
「どうしてレインハルトおぼっちゃまが朝早くから我が家に訪ねてきたかと聞いている!」
「はひ?」
レインハルト様も気合が入っているなぁ。
わざわざフランフール家に来てまで婚約破棄を宣言しに来るなんて……。
よっぽど逆鱗に触れてしまっているとみた。
「おまえ、またなにかとんでもないことを……?」
「はい……やらかしちゃいました」
今日、私はもしかしたら死んじゃうのではないか……。
せめて、レインハルト様の笑顔をもう一度見てから死にたかったな。
「伯爵殿よ、ここはミリアナと二人で喋ることを許していただけないだろうか?」
「まぁ、おぼっちゃまがそう望むのならば……」
「すまない。入るぞ」
「ひょえぇぇぇっ! レインハルト様!?」
女の子の部屋に、イケメンの婚約者が入ってきた。
しかも、レインハルト様の希望で二人きりの密室状態だ。
これは想像よりもかなりマズいんじゃないだろうか。
婚約破棄どころか、ボコボコにされてしまうなんてことも……。
「ミリアナよ……」
「はい……覚悟はできていますので」
「ありがとう!!」
「は!?」
恐る恐る顔を上げてレインハルト様の顔を見ると、これでもかというくらいの満面の笑みを浮かべた男がそこにいた。
予行練習で試したお父様があれだけの怒声をしてきたのだ。
本番ではもっとひどい束縛をするのだから、きっとレインハルト様とはいえ大噴火のごとく怒るに違いない。
いつもどおり、公爵邸の庭園で待つ。
「よおおおおおぉぉぉおおおし!!」
気合は十分。
前々回のように言いたくても言い出せない状況にはならないだろう。
しばらく待ってもなかなかレインハルト様はやってこない。
予定よりも時間がかなり過ぎている。
こういう場合は私が公爵邸に潜入しても良いことになっているため、そちらへ向かうことにした。
本邸の入り口にたどり着いたが、いつもの警備がいない。
いくら平和な国だからって、公爵邸ならドアの前に一人くらいいたっていいのに。
幸い、私は婚約者の身だから、公爵邸は本邸含めて出入りも自由になっている。
ドアを開けてお邪魔した。
レインハルト様はたしか仕事をやっているはずだから、迷わず仕事部屋へと向かった。
「レインハルトさ……」
仕事部屋にはいなかった。
この時点で私は違和感に気がついた。
「どうして誰もいないんだろう……」
使用人やメイド、執事、誰も見かけなかった。
みんなで揃って旅行に出かけるような家庭でもないし……。
「とりあえず、レインハルト様の部屋へ行くか」
向かうと、レインハルト様の部屋の外には大勢の人がごったがえしていた。
公爵邸にいる全ての人間がここに集まっているようだ。
これはただ事ではないことくらいすぐにわかった。
「一体、なにがあったのです!?」
私は部屋の外にいる一人のメイドに尋ねた。
「あ……ミリアナ様。実は、セガレ様が……レインハルト様が……」
「え!?」
なにも言わなくとも理解できる。
レインハルト様の身になにかが起こったことくらいは……。
私は人の合間を強引にくぐり抜けて、部屋の中へ侵入に成功した。
すると、ベッドの上でレインハルト様が……。
「レインハルト様!」
「ミリアナ嬢か。レインハルトがすまんな」
公爵様が私に対して申し訳なさそうに謝罪してきた。
いや、今それどころじゃないでしょう。
「いったいどうしたのですか!?」
「それがな……」
そのとき……。
「うぅん……」
「「「「「「「「「「レインハルト様」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「おぼっちゃま!!」」」」」」」」」
まるで大合唱のようにそこら中からレインハルト様を呼ぶ声が響き渡った。
「そうか……いつの間にか俺は……」
こういうとき、私は肝が座っていると思うことがある。
どうせこのあと公爵邸からも悪女とののしめられて追放されるのだし、周りなど気にしなくて良い。
それくらい、今回は気合が入っているのだから。
私は覚悟を決めた。
さようなら、レインハルト様……。
「レインハルト様!! 仕事ばっかやってないで本来は私にこれでもかというくらい構うべきなんです!! その……、レインハルト様は仕事大好き人間なのは知っています。でも、仕事ばっかじゃなくて休暇もしろっ!!」
おぉ……。
私って凄いかもしれない。
言い出したらなんだかその気になっちゃって、最後の方はバリバリのタメ口だった。
周りも、私の怒声を聞いてしーーんと静まり返っている。
レインハルト様もその場で固まっているようでなにも言い返してこない。
悪女として完璧のはなまる百点満点といったところだろうか。
更に、私は小説に出てきそうなセリフも付け加えた。
「もう知らないんだからっ!!」
そう言って、おもいっきり走って公爵邸から逃げた。
怒られるのは避けたい。
どうせ婚約破棄されるんだから、無駄に怒られるよりは被害を最小限に止めておきたかった。
馬車まで全速力ダッシュで走り、待っていた護衛や御者にすぐに命令した。
「すぐに馬を出して! 家に帰るっ!」
「は……はい、ただちに」
これでもう、私はこの公爵邸の仕切りをまたぐことはないのだろう。
レインハルト様にあんな暴言を言って別れになってしまうなんて……。
いくら最愛の人が幸せになる方向へ誘導したからって、やっぱり悔しいし悲しい。
それでも、今後は私自身も乗り越えてレインハルト様のことは忘れないと……。
馬車の中で、耐えきれずに涙をこぼしてしまった。
♢
翌日、いつもどおりの時間に起きて身支度を整えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「おい、ミリアナ!」
「はひっ! あ、お父様……」
うわぁ……。
早速地獄のスタートか。
あれだけ騒いだんだし、噂がお父様の耳に入っていてもおかしくはないもんな。
「いったいどういうことなんだ!?」
「あ、あの。これには訳が……」
「どうしてレインハルトおぼっちゃまが朝早くから我が家に訪ねてきたかと聞いている!」
「はひ?」
レインハルト様も気合が入っているなぁ。
わざわざフランフール家に来てまで婚約破棄を宣言しに来るなんて……。
よっぽど逆鱗に触れてしまっているとみた。
「おまえ、またなにかとんでもないことを……?」
「はい……やらかしちゃいました」
今日、私はもしかしたら死んじゃうのではないか……。
せめて、レインハルト様の笑顔をもう一度見てから死にたかったな。
「伯爵殿よ、ここはミリアナと二人で喋ることを許していただけないだろうか?」
「まぁ、おぼっちゃまがそう望むのならば……」
「すまない。入るぞ」
「ひょえぇぇぇっ! レインハルト様!?」
女の子の部屋に、イケメンの婚約者が入ってきた。
しかも、レインハルト様の希望で二人きりの密室状態だ。
これは想像よりもかなりマズいんじゃないだろうか。
婚約破棄どころか、ボコボコにされてしまうなんてことも……。
「ミリアナよ……」
「はい……覚悟はできていますので」
「ありがとう!!」
「は!?」
恐る恐る顔を上げてレインハルト様の顔を見ると、これでもかというくらいの満面の笑みを浮かべた男がそこにいた。
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