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第一章

近衛兵と剣聖

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 俺は、勲章を授かり、ヨハネスの近衛兵になった。
 これから忙しくなって仕事として大変な事もあるかもしれない。それなりに身構えて覚悟していたのだが、現状は……。

「全然変わらないよね!」

 王宮の休憩室でフィリムと談話している。
 今もフィリムの家に居させてもらっているし、行動もフィリムとセットな扱いだから今までとほぼ同じだった。

「そう? 私無しでも堂々と王宮の出入りも出来るようになったでしょ? 変わったと思うけど」
「俺も近衛兵になれたし、どこか家探すかな」

 今もフィリムの家を借りて居候状だし、いつまでもお世話になるわけにもいかないだろう。

「え!? なんで!! 良いのよ出ていかなくて。セバスも他の使用人もレイスの事気に入ってるし。むしろ落ち着くまではもう少しいなさい!!」

 そこ怒るところか? 俺はフィリムに世話になりっぱなしだし、そろそろ恩返しをしたいと思ってるんだけどなぁ。

「レイスが家を出ていかなければ、言われてみれば変わらないわね」

 王宮に自由に出入りできる事といずれ行ってみようと思っているんだが、貴族の店に入ったり出来るようになった事くらいか。
 いや、掘り下げれば出てくるもんだ。

「貴族の人達、俺を害虫が侵入したような目で見てくるんだよね」

 俺に対する視線と嫌な目つきが酷くなった気がしていた。

「今までだって書庫でそういう仕打ちだったんでしょ? 変わらないわよ。私だって公爵令嬢でありながら、今までも影ではゴミを見るような目で見られてるし怨まれているし」

 俺の存在は受勲式を行ったことで、王宮内の人間は俺の存在も魔眼を使える事も全員が知っている。
 おまけにダイン第一王子が放った怒声で屈辱を受けた恨みが全部俺のところに来ている状態みたいだ。

 目が合ってもすぐに目を逸らすし、遠くから嫌味を言われたりもする。
 フィリムはこういう仕打ちを今までずっと耐えていたらしい。

 王宮ですら魔眼に対する扱いはこんなもんだ。

「綺麗な世界、難しい目標よね」
「そんな事はない。今だけだよ! ヨハネスは父親を、オルトリレス国王陛下の考え方を変えた。出来るって事を証明してくれたんだから、俺たちだって出来る! 必ず!」

 オルトリレス国王陛下は、父バルスが尊敬していた。古き風習や伝統を大事にする国王だったと聞く。しかし、今はその考え方がヨハネスの国務を手伝い、魔眼を使って貢献した影響で、魔眼に対する偏見は少し変わったと言っていた。

「まずはこの国で……」
「そうね! レイス、勲章もらってから一段と頼りになるわね」
「え? 何かした?」
「今私が悩んでいた事も、レイスの言葉で楽になったわよ」

 あまり実感もないが、フィリム達だけが俺の心の拠り所でもあるので、お互い様なんじゃないかと思う。

 ♢

 国務に戻ろうと思ったら、急にヨハネスに呼び出され、俺達は急いでヨハネスの応接室に移動した。

「レイス、フィリム、待ってた。話があるのだ」
「どうしたのよ急に呼び出しなんかして。事件でもあったの?」
「いや違う。今まで考えていた事で、密かに動いていたのだが、ようやく上手くいきそうなんだ。だから聞いて欲しい」

 真剣な表情なので、俺とフィリムは一旦椅子に座って、しっかりと話を聞く事にした。

「俺はこの国の国王となる。フィリムは知っていると思うが、レイスには国王になった俺の目標を俺から話していなかったから、まずはそこから聞いてほしい」

 一呼吸してヨハネスは話し始める。

「俺は、魔眼への偏見がなく、魔法と同じように、みんなが親しむべき力だと考えている。故に魔眼を憎むべきという風習をなくしたい。平和にするにはそこからだと思っている。だが、これを良しとしない貴族が多すぎる」

 俺も近衛兵になってから以前よりも強く思うようになった。貴族の方々はほぼ全員がそんな感じだと言っても間違いではないほどに。

「俺の周りも敵だらけだ。正直言って、いくら国王の権力と言っても全員を黙らせるには独裁国家にでもしない限りは不可能だろう。だが、味方として信頼できそうな相手を見つけたのだ。引き入れたいと思っている」

 俺たちはこの話を聞いて、良い話だと思うのと、少し困惑した。

「俺達は頼んでも断ったのに」
「それとこれとは別だ。自分の身を自分以上に守れると信頼できる者が良い。俺はレイスの力に会った時から興味はあった。だが、実際に俺の配下にしていいかどうかはその時は力も知らないから判断できなかった。それは仕方ない。だが、今回の相手は最初から力に関しては問題ない事も知っている」

 ヨハネスは自信満々にその人の事を信頼しているように見えた。

「アンタが言うほどだからよっぽど凄い人なのね! 誰なのよ?」
「うむ。剣聖、冒険者として活躍する女性剣士【クレア=フォン=ヴェルヴェッド】をスカウトしたいのだ」

 その名前は書庫生活だった俺でも聞いた事がある名前だった。
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