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第一章

確信と想定外【バルス視点】

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「ご主人様、王宮から使いの者が来ておりますが……」

 レイスがいなくなったことで平穏が訪れていたリングベルド家に、突然その報せは届いた。

「何事だ? わざわざ王家の使いの者が我が家にまで来るとは。しかもこんな朝早くから……」

 悪態をつくバルスだが、王宮からの使者ともあれば無下にはできない。
 バルスは急ぎ支度を整えて迎え入れる。

「遠路はるばるご苦労であった。して、いかがなされたかな」
「はい……この度、ディラスト王国の次期国王が決定いたしました」

 ついにオルダニネス国王は引退か、とバルスは感慨深げに使者を迎え入れた。
 国王オルダニネスの政治はバルスにとってみれば相性の良いものだった。伝統を重んじ、魔眼持ちを押さえ込んだ政策をバルスは支持していた。
 その国王が選んだ後継者なら、さぞ優秀なことだろうと、先日ちょうど、ルーラとミルトともしていたところだった。

 ︎◆

「やっぱりダイン第一王子かしら?」
「ううむ……ダイン第一王子には国王陛下も手を焼いていた。ガブネス第二王子は古き伝統を特に大事になされているお方だ。いまの国王陛下ならばまず、第二王子を選ばれるであろうよ」
「普通なら第一王子が選ばれるし、そうなったら僕達の暮らしは更に豊かになるんじゃないの……? あの王子は税金増やすって宣言してるし」
「だがだからこそ、国王陛下は選ばれぬだろうよ」

 オルダニネス国王には、四人の王子と一人の王女がいる。
 だが実質的な候補は今名前の挙がった二人に絞られると、その中でも現国王の政策をそのまま受け継ぐ第二王子が有力であると、バルスは考えていた。
 王女殿下はすでに中央に近い公爵家との婚約が噂されている。
 そして名前の上がらなかった二人は……。

「第三王子は幽閉されてるって話だよね」
「ふむ……あのお方は力はあるのだがな……まあ戦争にでもなれば活躍なされるだろう」
「あと一人は?」
「馬鹿なことを言うな。あれこそ幽閉しておくべき王子だ」

 忌々しい魔眼など、伝統あるこのディラスト王国にはふさわしくないと、魔眼の取り締まりについてにも力を入れていた国王だ。それがの第四王子を選ぶわけがない。

「じゃあどっちがなっても今と変わらないか今より良くなるわね」
「それはそうだろう。ご子息は優秀なお方だからな」
「でももしも、第四王子がなったら? 僕ならそんなの、継承権争いに関わる前に殺しちゃうと思うけど、まだ生きてるってことは可能性があるんじゃないの?」

 ミルトの発言にバルスとルーラは一瞬戦慄する。だが一方で、実にな息子を持ったと感動もしていた。
 だがミルトの予想はありえないとルーラが断言する。

「それはないわ。それにあの王子が選ばれてしまえば、魔眼持ちへの扱いが大きく見直されてしまうわよ。そうなれば今まで黙認されていたことも……」

 そう。
 レイスを魔眼持ちという理由だけで追放した彼らにとって、そのようなことはあってはならないのだ。

「心配するな。第四王子が選ばれることなどあるまい。あの忌々しい人間を追い出したことが罪に問われることなどありはしないのだ」

 バルスもまた、ミルトの言葉を笑い飛ばす。
 次期国王は税収を上げる公言をしているダイン第一王子か、現国王陛下と考えの近いガブネス第二王子のどちらか。
 そう笑いあったばかりだ。

 ♦︎

 使者との面会は三人で行った。
 三人は、興味津々に使いの者の報告を聞く。
 第一王子か、第二王子か……。
 だが、使者の言葉は三人の期待を大きく裏切るものだった。

「次期国王陛下は、ヨハネス=フォン=ディラスト第四王子に決定致しました」
「「「は!?!?」」」
「オルダニネス国王陛下就任期間は予定通り、豊穣祭までとなり、以降ヨハネス第四王子が国王陛下となります」

 三人は言葉が出ない。
 バルスは内心憤慨する。「何故だ!? 魔眼の取り締まりを強化し、差別ですら黙認していたあのオルダニネス国王が何故魔眼持ちのヨハネスを選ぶ!?」と。

 使者は次の報告もあるということですぐにいなくなったが……。

「おい、わ……私はユメでもみているのか……?」
「あ……あなた……も……もし魔眼持ちだったガキを我が家から追放したことが、ば……バレたら……」
「当然、牢獄行きだろう……あれが我が家でなにをされたかを報告でもされてみろ! この家は滅ぶぞ!」

 驚きと焦りでバルスは声もまともに出ない。

「キーーーーーーー!!!!!! なんで!?!? なんでなの!? あんな気持ち悪い目をしたガキなどクズ同然! 思い出すだけで吐き気がしてたのに、今度は私達が牢獄行きなんて冗談じゃないわよっ!!! 私達が正しいに決まっている!!」

 ヒステリックに叫ぶルーラを見て、ふとミルトが口を開く。

「だったらさぁ、余計な事を言う前に、……連れ返して、いや、家にいても邪魔だし、殺しちゃえば良いじゃん」
「「おぉーーー」」

「流石は我が息子だ!」
「あら、ミルトちゃんの天才頭脳は私の血を引いているからよ!」
「いや、私の教育があったからこそだ」

 息子に対する溺愛自慢は暫く続く。

「父さん、母さん、それより急いで連れ戻したほうが……」
「焦るなミルト。レイスは書庫生活。体力もろくに無い状態でそんなに遠くには行けないはず」
「あいつの魔眼を使ったら王都にだって……」
「何言っているのよミルトちゃん! あんなゴミが王都まで辿り着けるわけないわよ。もし目指してたら途中で野たれ死んでるわ」

 ミルトは内心ため息をついた。
 いくら魔眼を忌み嫌うからといって、あの力は軽視して良いものではないのだ。
 感情が先立って冷静な判断ができない両親を冷たく眺めながら、これからのことに頭を巡らせていた。
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