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第一章

追放と約束

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「ようやくお前をこの家から追い出せると思うとせいせいするな……この時をどれほど待ちわびたことか……」

 これが実の父の発言……。
 いや、やむを得ない事情もある。古いしきたりに従う父にとって、俺の左目に宿るこの【魔眼】の存在は、それほどまでに許せなかったのだろう。

「父さん、こんなクズ放っておいて早く僕に民の扱いを教えて欲しいよ」
「おお、おお、そうだったな。このような者にいつまでも構うのはミルトにとって大きな損失だ。さあ、勉強部屋に行こう」

 俺の代わりに次男のミルトをそれはそれは溺愛していた。
 ミルトもまた、兄である俺の扱いに疑問は持たない。そうやって育てられたのだから仕方ないという事情と、そもそもの性格の問題とが相まってな気もする。

 というのも……。

「あら、ようやくこのゴミも出荷かしら。これでようやくあの忌々しい女の血脈が断てる……はぁ、しきたりとはいえ十五になるまで育てなくてはならないなんて……持つべきものの義務とはいえ……こんなものすぐに処分すればよかったのに」
「義母上」
「おだまり! お前の母はあのゴミ一匹。私とはなんの関係もない!」

 ミルトの母、ルーラは俺を、いやそれ以上に俺の母を毛嫌いしてきた。
 ルーラは歴史ある名家の長女。一方俺の母は、父が旅先で捕まえた町娘だったのだ。
 そんな女に先に男子が生まれたのだ。ルーラにとっての屈辱は耐え難いものだったと聞く。
 結果、その憎しみが母を殺すにまで至り、俺はその影響で生まれつきの魔眼がより強力になってしまい、俺への憎しみもより強大になった。

 俺は良い……。
 だが、母をゴミとは……。

「俺の力を知らないわけではありませんよね?」
「ぐっ……その気味の悪い眼を私に見せた途端、衛兵の槍がお前を貫くわよ!」

 それでも構わないのではないか。
 そう、一瞬だけ頭をよぎった。

 ──貴方のその綺麗な眼で、綺麗な世界を作ってね

 俺が覚えている母様の最期の言葉だった。

「……」
「ふん……とっとと消えなさい、クズの親を持った自分を恨むことね」

 俺の実家との別れは、血の繋がらない母の罵倒で見送られることになった。

 ♢

「親を恨め……か。いや、感謝しかないよ」

 実家を着の身着のままで追い出されて歩きながら、これからのことを考える。
 実家ではほとんどの時間を書庫に閉じ込められていた。
 おかげでいろんな知識が入るし、数日遅れながら王都の様子がわかる新聞も投げ入れられていたのだ。

「王都だ……王国は変わる」

 過去の事故で忌み嫌われた魔眼。
 生まれたばかりの赤子が石化の魔眼をもっていたせいで周囲にいた家族や助産師が亡くなった事件。
 まだ力をコントロールできない少女の魔眼が暴走したせいで、周囲の人間が軒並みぺちゃんこに潰れた事件。
 その他、この国には魔眼の事故が数多く存在していた。
 それ故、その力は恐れられ、そしてついには、忌み嫌われるに至った。

「だが……」

 魔眼は無限の可能性を秘めた力だ。
 王国のためにこの力を使えば、この国はもっと豊かになる。

 俺の魔眼は空間に干渉する能力。攻撃手段としては空間を切り取って真空を作り出すことも出来るし、マジックボックスのような無限に収納が可能なスキルにもなる。

 便利なスキルだ。もちろん暴走すれば周囲一体のあらゆるものが虚空に消える危険な能力ではあるが、コントロールすれば……。

「王都なら……」

 新聞から得られた断片的な情報。そこに希望を見出していた。
 古いしきたりを信じ切る父は、あの報道を信用しなかった。
 だが間違いなく……。

「次期国王は、魔眼持ちだ」

 王国の歴史が変わる。
 いや、俺もその中に……。

 実家への恨みがないとは言い切れない。
 だがそれ以上に、母様との約束を果たしたい。

 ──貴方のその綺麗な眼で、綺麗な世界を作ってね

「母様……」

 母様との誓いを胸に、王都を目指した。
 魔眼持ちの次期国王、ヨハネス第四王子の元へ。
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