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本編
67.未来への一歩(完)
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憧れは夢になって、夢は目標になって、目標は現実にできる。
強い想いは大きく可能性を広げて何かを動かすのだと、私は学んだ。
だから挑戦する勇気を私は持ち続けようと思う。
心折れても、たとえ出来ないことだらけでも、その心だけはちゃんと大事にし続けられるよう。
それが、大事な人達を通して見つかった私の道。
「次は奏です」
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします!」
「今回発表される新曲はちぃさんが本格参加してから初めての曲ということですが、今までと何か変わったことはありますか?」
「その、すごく、大変でした……」
「大変? なんだ、ちぃ何が大変だったんだ?」
「すごいんですよ、スモさん。ちーってば、PV撮影で緊張しすぎてNG連発なんです。柱にぶつかったり道端の溝に落っこちたり」
「……どんな撮影だ。しかもチトセ、お前に聞いてないだろ」
「だってちー緊張しちゃって可哀想だったので」
「……このシスコンが」
テレビにも出るようになって2カ月が経った。
いまだにトークは慣れなくて緊張してしまって、ミスも多い。
けれど、千歳くんや周りの人達のフォローを受けながら何とか私は一歩ずつ進んでいる。
引っ込み思案すぎて表に出られなかった天然娘。
なぜだかそんなキャラ付けがされていると知ったのは最近のこと。
引っ込み思案はともかく天然というのは何か違うと思うと一度抗議してみたけれど、温かい笑みで皆に揃って首を横に振られたのは記憶に新しい。
そしてずっとテレビに出ていた千歳くんのイメージもかなりガラッと変わったらしい。
それまで爽やかな好青年というイメージだったのが、爽やかな好青年だけど極度のシスコンという何やら不思議な単語が後ろに付いた。
千歳くん本人は「これで気兼ねなくちーを守れるね」なんて笑っていたけれど、周囲はそれを聞いてドン引きしたとかしなかったとか。
相変わらずゆっくりペースでしか進めない私。
環境が激変しても、なかなかそれに付いていくのは至難の技だ。
それでも、世間の人やファンの人達はそんな私のことを受け入れてくれた。
例えば観客のいる番組ライブなんかで、私に向かって手を振ってくれる人もいる。
「ちぃー!」と、声を上げて応援してくれる人だっている。
勿論私が出てきたことで「今まで知ってる奏と違う」と言って離れてしまった人もいるけれど、それでも今はこうして声をあげて支えてくれる人達を大事にしようと思う。
前を向いて、支えてくれる人達に少しでも何かを返せるように。
いつか離れてしまった人達をも引き戻せるくらいの力をつけるためにも。
----------------------------------------------
「千依、昨日見たよ。柱ぶつけたとか溝落ちたとかマジなわけ?」
「あ、あはは……傷が残ったらどうするってマネージャーさん2人に怒られたかなあ」
「……本当、よく芸能人やってるね千依。ある意味すごい」
真夏ちゃんと萌ちゃんに会うのも何だかんだで久しぶりだった。
学校が自由登校になって、2人共受験シーズンに突入したから全く機会がなかったのだ。
ちなみに萌ちゃんは希望通りの大学に合格し、真夏ちゃんも第一希望とはいかなかったけれど第二希望の大学に見事合格を決めた。
2人共今の場所からは少し離れるものの電車で比較的すぐ行ける位置の大学に進学予定で、私は密かに喜んだりもしている。
「おい、お前らなに卒業式までコソコソ話してんだよ。こっち来いって」
不意にかかった声に3人揃ってビクッと肩を揺らした。
振り返ればそこにいたのは、宮下くん。
「……なんだ央か」
「何だって何だよ萌」
宮下くんと萌ちゃんは相変わらず落ち着いたお付き合いを続けているらしい。
2人が恋人っぽいことをしているところはあまり見たことがない。
デートするという言葉を聞いたこともない。
けれど、相変わらず2人には安定感があって見ているとほっとする。
……それに正直な話、私もあれからタツとほとんど会っていないからあまり人のことは言えない。
お互い仕事で忙しいし、デビューしてそんなに日の経ってないこの時期に熱愛発覚なんてしたら印象がよくないと言うことで、会うことにもかなり制限がかかっていた。
それでもお互いやっと手にした音楽の仕事に必死だから、不満はあまりなかったりする。
「お前らが揃って仕事馬鹿同士で救われた」なんて呆れながら言っていたのはどちらのマネージャーさんだったか。私としては寂しくなってもメールや電話があるし、テレビをつければタツの顔が見れるからそれで満足なのだ。
「で、今日の打ち上げなんだけど。暴露大会するから。今まで隠してきたこと1つ見つけてこいよ」
「暴露大会? 何で唐突にそんなこと決まったわけ」
「何でって、ノリ?」
「……聞いた私が馬鹿だったわ」
ニッと笑う宮下くんの胸元には赤い花が飾られている。
それは宮下くんだけじゃなくて私や真夏ちゃんや萌ちゃんの胸元にも。
今日は卒業式。
3年間通った高校生活の最後の日。
私が公に出るようになって2カ月、何とか学校の人達にバレることなく過ごした私は、今日この日をちゃんと学校で迎えている。
友達作りに失敗して1人だった1年生。
タツに出会い、真夏ちゃんや萌ちゃんと友達になって交友がグッと広がった2年生。
将来を定めて芸能界に改めて飛びこんだ3年生。
タツの言葉ではないけれど、激動の高校生活だった。
こんな形で最後の日を迎えられることがとても嬉しい。
ガヤガヤとした教室、シンと静まり返った体育館、その中で名前を呼ばれて立ち上がる私。
ああ、今日で高校生活も終わりなのかと思うと何だか胸がじわじわと温かい。
「卒業おめでとう、3年間よく頑張ったな。仕事、体に気を付けて頑張れよ」
最後に皆が集まった教室で1人ずつに配られる卒業証書。
ずっと私を見守り続けてくれた矢崎先生がそんな餞別の言葉をくれる。
思わず感極まってしまって泣いてしまう私。
「ありがとうございます……!」
鼻声で返す私に矢崎先生は苦笑し、後ろで見ていたクラスメイトと父兄の人達は笑っていた。
入学する時にはこんな温かい気持ちでこの瞬間を迎えられると思っていなかったから、尚更涙がでてきた。
「卒業おめでとう、ちー」
「千歳くん、ありがとう!」
卒業式が終わって、その後の打ち上げも終わって、そのまま事務所に直行した私。
出迎えてくれたのは大事な兄でパートナーの千歳くんだ。
「で、どうだった、皆の反応は?」
にやりと聞いてくる千歳くんに私もにやりと笑い返す。
「絶叫、でした」
「ははは、だろうね! 見たかったなあ、その光景」
千歳くんのその愉快そうな言葉で私はついさっきまでの打ち上げを思い出した。
カラオケで開催された打ち上げは、クラスの仲良さもあってほとんど全員が参加したと思う。
その打ち上げ会で行われたのが暴露大会。
私は最後くらいちゃんと素直に言おうとその時に決めて、自分の正体を明かしたのだ。
初めは「またまたあ」なんてネタだと思われていたみたいだけれど、ちょうどカラオケに収録されていた持ち歌を歌って眼鏡を外した途端に周りの顔色が変わった。
予想以上の絶叫で、耳が未だにキンキンする。
けれど、最後には「お前まじで頑張れよ! 自慢話ができる!」とか「すごいすごい、サインちょうだい!」なんて言いながら応援してくれた。
本当に私はクラスメイトに恵まれたと思う。
「それじゃあ頑張ったちーにプレゼント2つ」
「え?」
「俺としては自分からのプレゼントは後に回したい派だから、先にこっちかな」
ふふっと思い出し笑いをしていた私に千歳くんも笑いながら指さした。
その先は事務所の休憩室の方。
首を傾げながら、私はドアを開けてみる。
「え、え、うわああ!?」
途端に中から何かに引っ張られて声をあげる私。
千歳くんは思いっきり楽しそうに笑ってヒラヒラと手を振った。
「えっと、な、な、なに」
「ふは、良い反応」
「っ!?」
混乱している間に、そのまま体に何かが覆いかぶさる。
耳に心地いい低音が響いて、私は思わず固まった。
「た、タツ……?」
「当たり。卒業おめでとう、千依。あー、会いたかった」
楽し気に笑って頭を撫でてきたのは、最近恋人になったばかりの人。
ベッドに腰掛けながら私をすっぽり包んでいる。
……って、あれ。
いつの間に私はタツの膝の上に。
気付いた自分の体勢にボンッと顔が熱くなる。
それなのにタツはそんな私に構わず頬にキスなんてしてくるから私の心臓は一気に破裂寸前までうるさくなった。
「なーに緊張してんだか。いい加減俺と恋人ってことに慣れなって、千依」
「な、だ、だって……む、むり、です」
「あれ、敬語いらないって言わなかったっけ?」
「う、うう……なんか、タツ意地悪」
「そりゃね、“別に会えなくてもテレビで見れるし”なんて言われたら拗ねるよね。俺は一緒にいないと寂しいのにさ」
「な、な……、ち、千歳く、内緒って言ったのに!」
「千歳の奴それはそれは楽しそうに俺に言って来たよ、本当俺が千歳に嫉妬してんの分かっててからかってくるんだからタチ悪いよなあいつ」
「し、嫉妬……?」
「してんの。仲良いし信頼されてるしいつも一緒だし」
「そ、それなら、私だって」
「ん?」
「私だって、シュンさんが羨ましい、もん。でもタツの元気で楽しそうな姿テレビで見たら幸せになれるからプラスマイナスゼロなのに」
「……うん、ごめん。自分でまいた種なんだけど、負けました」
「え……?」
タツとの関係もあれから少しずつ進んでいる。
憧れの人は今や私の恋人で、温かくて優しいだけじゃなくて少し意地悪でやんちゃなタツを知った。
大きく変わるものと少しずつ変わっていくもの。
それでも絆はちゃんと繋がっていく。
家族や仲間、友達や好きな人。
様々な形で少しずつ、広がっていく。
音楽以外なにも持たなかったぽんこつな私の人生。
相変わらず私はぽんこつではあるけれど、それでもそんな私にだって出来ることはたくさんある。
そんな私のことを好きだと言ってくれる人達だってたくさんいる。
そう教えてくれた大事な人達との絆を大事にして、私はこれからも進んでいこうと思う。
まだまだ、これから。
そう決意を新たに私は、未来への一歩を踏み出した。
強い想いは大きく可能性を広げて何かを動かすのだと、私は学んだ。
だから挑戦する勇気を私は持ち続けようと思う。
心折れても、たとえ出来ないことだらけでも、その心だけはちゃんと大事にし続けられるよう。
それが、大事な人達を通して見つかった私の道。
「次は奏です」
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします!」
「今回発表される新曲はちぃさんが本格参加してから初めての曲ということですが、今までと何か変わったことはありますか?」
「その、すごく、大変でした……」
「大変? なんだ、ちぃ何が大変だったんだ?」
「すごいんですよ、スモさん。ちーってば、PV撮影で緊張しすぎてNG連発なんです。柱にぶつかったり道端の溝に落っこちたり」
「……どんな撮影だ。しかもチトセ、お前に聞いてないだろ」
「だってちー緊張しちゃって可哀想だったので」
「……このシスコンが」
テレビにも出るようになって2カ月が経った。
いまだにトークは慣れなくて緊張してしまって、ミスも多い。
けれど、千歳くんや周りの人達のフォローを受けながら何とか私は一歩ずつ進んでいる。
引っ込み思案すぎて表に出られなかった天然娘。
なぜだかそんなキャラ付けがされていると知ったのは最近のこと。
引っ込み思案はともかく天然というのは何か違うと思うと一度抗議してみたけれど、温かい笑みで皆に揃って首を横に振られたのは記憶に新しい。
そしてずっとテレビに出ていた千歳くんのイメージもかなりガラッと変わったらしい。
それまで爽やかな好青年というイメージだったのが、爽やかな好青年だけど極度のシスコンという何やら不思議な単語が後ろに付いた。
千歳くん本人は「これで気兼ねなくちーを守れるね」なんて笑っていたけれど、周囲はそれを聞いてドン引きしたとかしなかったとか。
相変わらずゆっくりペースでしか進めない私。
環境が激変しても、なかなかそれに付いていくのは至難の技だ。
それでも、世間の人やファンの人達はそんな私のことを受け入れてくれた。
例えば観客のいる番組ライブなんかで、私に向かって手を振ってくれる人もいる。
「ちぃー!」と、声を上げて応援してくれる人だっている。
勿論私が出てきたことで「今まで知ってる奏と違う」と言って離れてしまった人もいるけれど、それでも今はこうして声をあげて支えてくれる人達を大事にしようと思う。
前を向いて、支えてくれる人達に少しでも何かを返せるように。
いつか離れてしまった人達をも引き戻せるくらいの力をつけるためにも。
----------------------------------------------
「千依、昨日見たよ。柱ぶつけたとか溝落ちたとかマジなわけ?」
「あ、あはは……傷が残ったらどうするってマネージャーさん2人に怒られたかなあ」
「……本当、よく芸能人やってるね千依。ある意味すごい」
真夏ちゃんと萌ちゃんに会うのも何だかんだで久しぶりだった。
学校が自由登校になって、2人共受験シーズンに突入したから全く機会がなかったのだ。
ちなみに萌ちゃんは希望通りの大学に合格し、真夏ちゃんも第一希望とはいかなかったけれど第二希望の大学に見事合格を決めた。
2人共今の場所からは少し離れるものの電車で比較的すぐ行ける位置の大学に進学予定で、私は密かに喜んだりもしている。
「おい、お前らなに卒業式までコソコソ話してんだよ。こっち来いって」
不意にかかった声に3人揃ってビクッと肩を揺らした。
振り返ればそこにいたのは、宮下くん。
「……なんだ央か」
「何だって何だよ萌」
宮下くんと萌ちゃんは相変わらず落ち着いたお付き合いを続けているらしい。
2人が恋人っぽいことをしているところはあまり見たことがない。
デートするという言葉を聞いたこともない。
けれど、相変わらず2人には安定感があって見ているとほっとする。
……それに正直な話、私もあれからタツとほとんど会っていないからあまり人のことは言えない。
お互い仕事で忙しいし、デビューしてそんなに日の経ってないこの時期に熱愛発覚なんてしたら印象がよくないと言うことで、会うことにもかなり制限がかかっていた。
それでもお互いやっと手にした音楽の仕事に必死だから、不満はあまりなかったりする。
「お前らが揃って仕事馬鹿同士で救われた」なんて呆れながら言っていたのはどちらのマネージャーさんだったか。私としては寂しくなってもメールや電話があるし、テレビをつければタツの顔が見れるからそれで満足なのだ。
「で、今日の打ち上げなんだけど。暴露大会するから。今まで隠してきたこと1つ見つけてこいよ」
「暴露大会? 何で唐突にそんなこと決まったわけ」
「何でって、ノリ?」
「……聞いた私が馬鹿だったわ」
ニッと笑う宮下くんの胸元には赤い花が飾られている。
それは宮下くんだけじゃなくて私や真夏ちゃんや萌ちゃんの胸元にも。
今日は卒業式。
3年間通った高校生活の最後の日。
私が公に出るようになって2カ月、何とか学校の人達にバレることなく過ごした私は、今日この日をちゃんと学校で迎えている。
友達作りに失敗して1人だった1年生。
タツに出会い、真夏ちゃんや萌ちゃんと友達になって交友がグッと広がった2年生。
将来を定めて芸能界に改めて飛びこんだ3年生。
タツの言葉ではないけれど、激動の高校生活だった。
こんな形で最後の日を迎えられることがとても嬉しい。
ガヤガヤとした教室、シンと静まり返った体育館、その中で名前を呼ばれて立ち上がる私。
ああ、今日で高校生活も終わりなのかと思うと何だか胸がじわじわと温かい。
「卒業おめでとう、3年間よく頑張ったな。仕事、体に気を付けて頑張れよ」
最後に皆が集まった教室で1人ずつに配られる卒業証書。
ずっと私を見守り続けてくれた矢崎先生がそんな餞別の言葉をくれる。
思わず感極まってしまって泣いてしまう私。
「ありがとうございます……!」
鼻声で返す私に矢崎先生は苦笑し、後ろで見ていたクラスメイトと父兄の人達は笑っていた。
入学する時にはこんな温かい気持ちでこの瞬間を迎えられると思っていなかったから、尚更涙がでてきた。
「卒業おめでとう、ちー」
「千歳くん、ありがとう!」
卒業式が終わって、その後の打ち上げも終わって、そのまま事務所に直行した私。
出迎えてくれたのは大事な兄でパートナーの千歳くんだ。
「で、どうだった、皆の反応は?」
にやりと聞いてくる千歳くんに私もにやりと笑い返す。
「絶叫、でした」
「ははは、だろうね! 見たかったなあ、その光景」
千歳くんのその愉快そうな言葉で私はついさっきまでの打ち上げを思い出した。
カラオケで開催された打ち上げは、クラスの仲良さもあってほとんど全員が参加したと思う。
その打ち上げ会で行われたのが暴露大会。
私は最後くらいちゃんと素直に言おうとその時に決めて、自分の正体を明かしたのだ。
初めは「またまたあ」なんてネタだと思われていたみたいだけれど、ちょうどカラオケに収録されていた持ち歌を歌って眼鏡を外した途端に周りの顔色が変わった。
予想以上の絶叫で、耳が未だにキンキンする。
けれど、最後には「お前まじで頑張れよ! 自慢話ができる!」とか「すごいすごい、サインちょうだい!」なんて言いながら応援してくれた。
本当に私はクラスメイトに恵まれたと思う。
「それじゃあ頑張ったちーにプレゼント2つ」
「え?」
「俺としては自分からのプレゼントは後に回したい派だから、先にこっちかな」
ふふっと思い出し笑いをしていた私に千歳くんも笑いながら指さした。
その先は事務所の休憩室の方。
首を傾げながら、私はドアを開けてみる。
「え、え、うわああ!?」
途端に中から何かに引っ張られて声をあげる私。
千歳くんは思いっきり楽しそうに笑ってヒラヒラと手を振った。
「えっと、な、な、なに」
「ふは、良い反応」
「っ!?」
混乱している間に、そのまま体に何かが覆いかぶさる。
耳に心地いい低音が響いて、私は思わず固まった。
「た、タツ……?」
「当たり。卒業おめでとう、千依。あー、会いたかった」
楽し気に笑って頭を撫でてきたのは、最近恋人になったばかりの人。
ベッドに腰掛けながら私をすっぽり包んでいる。
……って、あれ。
いつの間に私はタツの膝の上に。
気付いた自分の体勢にボンッと顔が熱くなる。
それなのにタツはそんな私に構わず頬にキスなんてしてくるから私の心臓は一気に破裂寸前までうるさくなった。
「なーに緊張してんだか。いい加減俺と恋人ってことに慣れなって、千依」
「な、だ、だって……む、むり、です」
「あれ、敬語いらないって言わなかったっけ?」
「う、うう……なんか、タツ意地悪」
「そりゃね、“別に会えなくてもテレビで見れるし”なんて言われたら拗ねるよね。俺は一緒にいないと寂しいのにさ」
「な、な……、ち、千歳く、内緒って言ったのに!」
「千歳の奴それはそれは楽しそうに俺に言って来たよ、本当俺が千歳に嫉妬してんの分かっててからかってくるんだからタチ悪いよなあいつ」
「し、嫉妬……?」
「してんの。仲良いし信頼されてるしいつも一緒だし」
「そ、それなら、私だって」
「ん?」
「私だって、シュンさんが羨ましい、もん。でもタツの元気で楽しそうな姿テレビで見たら幸せになれるからプラスマイナスゼロなのに」
「……うん、ごめん。自分でまいた種なんだけど、負けました」
「え……?」
タツとの関係もあれから少しずつ進んでいる。
憧れの人は今や私の恋人で、温かくて優しいだけじゃなくて少し意地悪でやんちゃなタツを知った。
大きく変わるものと少しずつ変わっていくもの。
それでも絆はちゃんと繋がっていく。
家族や仲間、友達や好きな人。
様々な形で少しずつ、広がっていく。
音楽以外なにも持たなかったぽんこつな私の人生。
相変わらず私はぽんこつではあるけれど、それでもそんな私にだって出来ることはたくさんある。
そんな私のことを好きだと言ってくれる人達だってたくさんいる。
そう教えてくれた大事な人達との絆を大事にして、私はこれからも進んでいこうと思う。
まだまだ、これから。
そう決意を新たに私は、未来への一歩を踏み出した。
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