どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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呑まれた五線譜

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「改めて、ハジメマシテ、ダリオ・クラークです。よろしくね」

「えっと…よろしくお願いします。」


ダリオ・クラークさん。自称政宗さんの親友だとか。

俺はダリオさんの泊まっている高級ホテルで手厚くもてなされていた。

「あの、拉致するとか物騒な言葉さっき聞こえたんですけど」

「わーぉ。君、英語得意?聞かれてたなんてな。……心配しないで。いつものことなんだ。ゲームだよ、ゲーム」

「ゲーム?」

ダリオさんはにっこりと笑うと俺の前に紅茶を置いた。

「そー、ゲーム。あ、飲んで飲んで。大丈夫、変なのなんて入れてないからね」

紅茶のことだろうか。言われてしまうと余計何か入ってそうにも思えたが紅茶を淹れてる間これといって何か入れてたわけでもないので一口飲んでみた。

「おいしい」

「本場?の味!」

「ダリオさんはイギリスの方ですか?」

「まぁね。」

「……、あのゲームについて」

俺の言葉にダリオさんは、読めない笑みを浮かべた。俺の向かいのソファに座った彼は実に優雅なことだ。

「僕、仕事でよく日本来るんだけど、ただ来るだけじゃ面白くない。だから!マサムネの大切な人をいつも拉致してマサムネに遊んでもらうんだ。まぁいつも迎えに来るのは部下の人だけど」

ダリオさんは「つまんないよねー」と言って笑った。

いつも、ということは、昔も1人は大切な人がいたんだと思わされた。

紅茶に写った自分が、案外ショックな顔をしていて驚いた、俺はいつからこんなに我儘になったんだろう。

「……ヒースーミーくーん?大丈夫?いまどっか飛んでたよね」

「あ、すみません」

「いやぁ、キミ本当に面白いね。本当に波津真也の甥?」

ダリオさんの言葉という音に、俺は持っていた紅茶のカップを地面に落とした。
バリンと大きな音を上げて割れたカップを見ることもできずダリオさんを見つめた。

「……やっぱりキミ、変なんだよね。
さすが波津真也の甥、波津真也って聞いただけでそんな慌てるなんて。」

「何、あんた」

「わーお思った以上に警戒心スゴイ」

「なんであんた、波津真也のこと知ってるんだ。なんで俺のことも」

「 I am ordinary for me 」

…僕にとっては当たり前。か…。

ダリオさんは、紅茶のカップを置いて足を組んだ。

ゆっくりと目が細められる。

「波津 真也に関してはこの際どうだっていい。僕が知りたいのは叔父なんかじゃなくて…君の母親と父親。」

「両親は俺を捨てて蒸発した。関係ない」

「そうは言ってられないんだよ、ヒスミくん。君の両親は共に僕たちと同じ世界に生きてた。」

「……俺、帰ります」

くだらない。そう一言で片付けて立ち上がる。出口に向かって歩き出そうとすれば腕を掴まれ強い力で引っ張られた。

「んーいいねこの眺め」

「退け!」

俺をソファに押し倒す状態でダリオさんは小さく笑った。

「無邪気、純粋、純白、真っ白。とてもじゃないけど両親を疑うね。君は本当に知らないの?両親のこと…」

「うるさい!俺を捨てた奴らのことなんて知りたくない!離せよ」

「君とは正反対の人だよ、あの人の息子をマサムネが囲ってるなんて純粋に驚いた。真っ黒で欲望の塊の俺と同じ、綺麗なものは欲しくなるやつ、俺たちは…」


「ここは、イギリスじゃねぇんだよ。もう少し保守的に考えろ、ダリオ。」


俺が驚きに目を見張っていると真上にあったダリオさんが小さくそれでも不気味に微笑んだ。

「あーれ?マサムネ、まさか君本人がお迎え?なんの気まぐれだ?」

「自分の身をまず考えろ、愉快犯。」

「……んー?君が"それ"まで出してくるなんて…」

ダリオさんの言う、"それ"が"拳銃"だとすぐわかった。政宗さんに拳銃を突きつけられるダリオさんの笑みは人間のそれじゃない。

「今までで初めてだよマサムネ。ワクワクって奴?」

「メンヘラ野郎が」

チッと舌打ちをこぼした政宗さんは立ち上がるダリオさんをよそに拳銃を北谷さんに放り投げた。

「そとの奴ら全員沈めたぞ。」

「いいよぉ~」

「…間抜けな返事しやがって、クソ頭に風穴あけんぞ」

「相変わらずで嬉しいよマサムネ」

二人の間柄はよくわからない……でも、なんだか放っとかれてる感じがとてつもなく嫌だ。

整理すると、俺はダリオさんのゲームという名の"暇つぶし"に付き合わされた挙句、…政宗さんの貴重(?)な過去を知ったわけだ。

俺は大人な対応をしようと大人しくしていたが、たかが暇つぶしに付き合わされて、学園祭の準備も途中でやめたのだ。

「冰澄さん、お怪我はどこにも…」

「帰ります。」

「え」

珍しい北谷さんの間の抜けた顔は、いつもなら笑ってみると思うけれども今はなんだか心の底から憤慨している。

「ヒスミ、怒っちゃった?」

些細なことでは怒らない。ゆったりと過ごす方が好きだからだ。

怒るのは年に2回、多くて3回なのだ。

「失笑ですよね。俺はつまり暇つぶしに時間無駄にしたってことですよね。しかも親のこと引っ張ってこられていちいち悩む種作られただけですよね」

「…ひ、冰澄さ」

「俺帰りますね。学校の方に。まだ5時なんでみんな頑張ってると思うんですよね。」

俺は、咳払いをしてから、扉の方に移動しドアノブに手をかけた。

「Good-bye. Mr. Goddamn kid!I hope that you become an adult early!

(さようなら、クソガキが。あなたが早く大人になることを願ってます)」

それだけ言い放ち
ダンっと壁が揺れるほど力任せに扉を閉めた。
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