汚れた水

谷町ミネ

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12話

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しおりは、自分の心の中で一つの決断を下した。その日、加賀美との対面が頭をよぎり、彼の冷徹な言葉が再び心に刺さった。
「あいつに老けていると言われたから…」
その一言が、しおりを突き動かした。
加賀美がしおりに対して言ったこと。仕事の話から外れ、彼女の容姿について語ったその一言が、しおりの心に深く残った。何気なく、軽い冗談のように放たれた言葉だったが、彼女にとってはそれが大きな打撃となった。加賀美はただの事実を指摘したつもりだったのかもしれないが、しおりにはその言葉が突き刺さった。
「もう、こんな自分でいたくない…」
しおりは鏡の前に立ち、自分を見つめる。鏡に映るのは、たしかに少し疲れた顔。日々の重圧に、心の中で募る焦りや怒りが積もり、無理に笑顔を作ってもその表情はどこかぎこちない。
「彼には、こんな風に見られたくなかった…」
そう思ったしおりは、自分を変えようと決意した。その瞬間、何かが弾けるように、心に芽生えた強い衝動。それは、見た目を変えることで彼に対する復讐を果たすような、少し歪んだ感情だった。
彼の言葉に反応して、しおりは意図的に高級化粧品を買うことを決めた。それは、彼に「老けている」と言われた自分を、外見からでも変えたいという強い思いからだった。
高級化粧品の購入
翌日、しおりは街の高級デパートに足を運んだ。普段はあまり買い物をしないような、高級ブランドの化粧品が並ぶフロア。人々が忙しそうに行き交う中、しおりは少し緊張しながらも、カウンターに向かった。
「こちらの商品は、エイジングケアに最適です。」
店員が勧める商品に、しおりはうなずいた。いくつかの化粧品を試し、肌の感触を確かめる。普段ならこんな高価なものを手に取ることはなかったが、今日は何もかもが異なった。
「これで、もっときれいになれる…」
しおりはそう思いながら、化粧品をカゴに入れた。そして、支払いを済ませて店を出ると、手にした袋が少し重たく感じられた。
その夜、しおりはその化粧品を使って、肌の手入れを始めた。鏡の前で自分を見つめながら、ひとつひとつの手順を丁寧に行う。その間も、加賀美の顔が頭をよぎり、彼の言葉が耳に響いていた。
「老けている、か…」
しおりはその言葉が頭から離れなかった。
変わり始める自分
何日か経った後、しおりは化粧品を使うたびに、自分が少しずつ変わっていくような気がした。肌の調子が良くなり、以前よりも少し明るい印象になったように感じた。彼女は鏡を覗き込むたびに、自分がどんどん美しくなっているような錯覚にとらわれた。
加賀美に見返すために、自分を磨くことで少しずつ自信を取り戻していった。今度彼に会うときには、きっと何もかもが違って見えるだろう。彼の「老けている」と言った一言に対して、しおりは反撃する準備を整えたつもりだった。
しかし、次に加賀美と会った時、彼女の心には不安がよぎった。鏡で見る自分は確かに以前よりも若返り、輝いていた。でも、それが本当に彼に対して何かを示すものになるのか、しおりはわからなかった。外見を変えたからといって、加賀美が自分にどう反応するのかはわからない。それに、彼のような男にとって、見た目がどうであれ、自分がどんなに変わっても、結局は「弱い者」だと思われていることに、しおりは気づき始めていた。
本当の意味での変化
しおりは鏡の前で立ち止まり、静かに思った。自分が求めているのは、ただ見た目を変えることではない。確かに、加賀美に対する復讐心から始まったことだったが、今それが本当に自分のためになっているのかはわからない。
化粧品や外見の改善では、加賀美やこの社会の問題を解決できるわけではない。しおりは今、ほんとうに必要なのは「内面の変化」だと気づき始めていた。もし自分が彼に立ち向かうのであれば、外見だけでなく、自分の力をつける必要がある。
彼に見せつけるべきものは、美しい肌や若々しさではなく、しっかりとした自己主張と自分の意志だ。しおりは、もう一度自分の原点に立ち返る必要があると感じた。これからは見た目を超えて、自分の力と知恵で、加賀美に立ち向かう覚悟を決めた。
「外見は一時的なもの。でも、内面の力こそが、私の本当の強さになる。」
しおりは深く息を吸い、もう一度前を向いた。
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