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勇者

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カタンッコト・・・・
シャワァ―――――・・・・・・

「いぅっつぅ~・・・・・」

(さすがにシャワー掛けると傷にヒリヒリする)

取り敢えずシャワーを浴びて考えを纏めなきゃ。
頭と顔がまだ腫れているよ・・・・

「ほんと酷い目にあったな・・・・」

(でも酔ったままのダンス中は夢のようだったんだよな)

モヤァ~

「いっ、いかん、いかん、500万だぞ、500万!どうすりゃいいんだ」

キュキュッ

バタン・・・・・

バスルームから出て部屋の椅子に座ってエアコンの風に当たる
パンツにバスタオル1枚肩に掛けている

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しばらくボォーッと風に当たっていた

チカッ・・・チカッチカチカ・・・プツン

「えっ?いきなり停電かよ」

シュゥゥゥ・・・・ボヤァ~

突然、真っ暗になった部屋の角に薄っすらと人影が浮かび上がった

ゾワワッ!!

(おわっ、おいおいおい、ここって事故物件だったのか?)

だが雰囲気が違う、普通なら腰抜して逃げ出すとこなんだけど

金髪に青い目、鎧を装備した若い男が真っすぐ俺を見ている

(・・・・コスプレした幽霊っていないよな~)

ラノベかアニメの見過ぎかな?俺、最近はあんまり見る時間も無かったのに
よく見ると足元には赤い魔法陣が浮かび上がっている

(まさか本物の異世界召喚って?・・いやいや逆だろw)

だけどコスプレにしては凄くリアルで
作り物とは思えない姿に思わず息を飲んだ

「あ・・・あはは、いったいどこの勇者様ですか?」

するとその人物がゆっくり口を開いた

「こんにちは、ここはメゾン常葉の205号室であっているかな?」
「は・・はい」

流暢な日本語で勇者様?は喋り出した

「と言ってもこれは一方的に送っている記録映像でね、会話は出来ないゴメンね」

おい・おい(思わず右手裏返してツッコミ入れてしまったぞw)

「私はランスロット・ベル・・いや、前世は神楽坂 秀人だったな」

「今この映像を見ている君は絶望のどん底にいる事と思う。
当時の私と同じ精神状態を関知したら、この部屋に魔法陣が展開される術式だ
きっと、君も九条杏珠に莫大な借金でも背負わされたんじゃないだろうか?」

「えっ?そ、そうそう!」

思わず身を乗り出してしまった

「私も大学卒業後、縄門電気に入社して九条グループのパーティーに参加させられてね」
「そしてハニートラップに引っかかって700万円の借金を背負わされた」

「でも25歳だった私には後が無くて。
与えられた半年間、仕事の他にバイトや幾つかの副業詰め込んで頑張ったのだけど
全然届かなくて・・・最後は精神やられて、ここで首を吊ってしまった」

(やっぱりここ事故物件だったよー)泣

「だがね、私の魂は神様に拾われて異世界に転生する事が出来たんだ
あれから20年、私はこっちで勇者になって先日遂に魔王を倒し平和を手に入れた」

「お、おめでとうございます、先輩!」

パチパチパチ・・・・

「それでね、もう何も思い残す事は無いんだ、日本に帰りたいとも思ってない、
死んじゃったしね。こっちでは愛する女性も出来た。」

「ただ、前世で自殺に追い込まれた記憶だけが消えなくてね」
「悔しくって、唯一の心残りだ」

「既にあれから20年が経ってしまった、時間を遡って私が居た時間に
この映像を飛ばすのが精一杯ってとこだ」

「でも一つ特殊なアイテムが送れると分かってね
魔王城で見つけたのだけど、世界を渡る程の魔力を持っている」

シュウゥゥー。

その言葉と一緒に俺の目の前に単行本サイズの本が浮かび上がって物質化した

ストンッ☆
ドサッ

手を添えると俺の手の上に落ちて来た。
割と重さがある、漫画コミックス位かな?

赤い表紙に眷属ノートって文字が金色で書いてある

眷属って言うと命令聞いてくれる使い魔とかモンスターでも出て来るのかな?
手に持ってすぐ、中を確認しようとしたけど開かない
まるで糊付けでもしてあるように、ガチガチだ。

ポンポンッ

「何だ、これ?」

無造作に左手で訝しげに叩いた。

「それは眷属ノートと言ってね、ぶっちゃけて言えば呪われたアイテムだよ
言語は手に取った者の知能に自動変換されているはずだ」

「背表紙に名前を書けばそのノートは君のものになるよ」
「ん?」

ひっくり返して裏を見ると
確かに所有者欄が下の隅にあった。

「これは大事な事だから真剣に聞いて欲しい
名前を書いた時点で君は魔界と契約したことになり
死後は魔界の住人となるという事だ」

「未来永劫二度と人間の輪廻に戻る事は出来なくなる
これは魔界側の呪われたアイテムだからね・・・・」

ゴクリ・・・

(・・・マジですか?)
(これ名前書いたら人間辞めるってこと?)

思わずノートを持った手が震えて落としそうになった。
魔界って言うと俺の中では地獄の次くらいの・・
いや地獄よりヤバいとこってイメージですけど・・・・

「ちょっと・・・考えるよな・・・」

「悪いけど私には君が誰でどんな人物か分からない
だから君が魔界に落ちようがどうなろうがどうでもいい立場だ
分かっているのは私と同じく悔しい思いをしているだろうって事ぐらいだ」

「私は九条杏珠に一泡吹かせたい
記憶に残る悔しさを解消させたいだけだ」

「もし私が直接世界を渡れれば、どれ程楽かと思っているよ」

「君がもし彼女に一泡吹かせたいのなら
この眷属ノートにはそれを叶える異能の力がある事を保証するよ
それをどう活用するかは君次第だ」

「勿論、使うかどうか全ての決定権は君自身にある
そしてどう復讐するかも君に委ねるよ」

「じゃあさらばだ、私の後輩君。成功を祈っているよ、ありがとう」

スゥゥゥー。

そう言うと片手を挙げてバイバイするように
ゆっくり勇者の姿が薄くなって消えていった。
魔法陣も消えた

チカッッ

明かりが点いた。

「あぁっ!あああああああー」
「なっ!何だよ、それ!!」

ボスンッ!!

椅子から立ち上がってベッドにゴロンと倒れ込んだ

「ちっくしょぉおおおおおおー!!」
「俺が異世界転生したかったよぉーーーーーー!!」
「あと1年早かったらー?」

いや・・・待て・・・そうか
あの人の欠員で俺は本社に移籍できたんだ・・・

(でも・・俺だったら自殺なんかしないよな。)

ふぅ~でも考えるなぁ~
・・・・・魔界か
ホントにあるんだな、そんな話・・神様もホントにいるって事か?

眷属ノート・・・か?
使わない手はないけど・・いや使うしかないんだけど
でも・・・でも・・・・・Zzzz

そうやって考えているうちに、俺はいつの間にか眠ってしまった・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「舞風君って、いつも一人ですよね?」
「え?あ?う、うん、ご、ごめんなさい」
「え、何であやまるの?」

「・・・あはは」

きょとんと可愛らしい笑顔を見せているこの女性はうちの高校の
テニス部のエースだった琴宮 美樹香さん
俺の初恋の女性だ、勿論、片想い、高嶺の花って奴だ
今は高校3年生大学受験でクラブ活動から引退している

この日は偶々同じ時間に俺と彼女だけがバス停に残ったんだ
話しかけられて真っ赤になって心臓がバクバクしていたんだよな。

(あぁそうかこれは夢だ・・・俺、あの頃の夢を見ているんだ)

俺は高1の時はほんとにチビで虐められてばかりだった
中学の頃から虐められるのが嫌で
隣の市の進学校に無理して入ったのに意味はなかった
何処にだって人を虐める奴はいるんだよな

身長153㎝アニメと漫画にラノベが好きで
オンラインのゲームやコミュニティには日本と世界中に仲間がいた
だけど学校じゃ・・リアルじゃ虐められていたんだ。

先生や警察に言ってもテンプレ通りの対応しかしてくれなくて
逆にチクッタ結果、余計に虐めが酷くなった

高1の後半、暴走族に入った連中から呼び出し喰らって
カツアゲされてお金も取られるようになって
俺はネット上の友人達に助けを求めたんだ。

オンラインの友達はみんな年上でいろんな人生経験ある人ばっかりだった。
いろんな実践式の復讐方法教えてもらったんだ
そしてトイレである事件を起こした・・・・
でも結果は予想以上に大変な事になった

虐められている人間が助けを求めても知らん顔する先生や警察は
いざ復讐しようとすると一斉に止めに入ろうとするんだよね
笑ったよ・・・・・

ニュースには成らなかったけど一歩間違えれば人が死んでいた
俺は停学2週間喰らって進学も諦めざるを得なかった
その後サイコパスってあだ名がついてからは
俺に近づこうとする奴はいなくなったんだ

高2から身長が伸び始め3年にもなると身長が170㎝を超えるまでなった
誰にも相手にされず無口の俺、でも友達はオンラインにいっぱいいたから寂しくなかった
その頃はもう同級生はガキにしか見えなかったからね。

そんな俺が帰りに通るテニスコートで一際目をひく女性に
目を奪われたのは自然な流れだった。

他の女子とは全然違うんだ、動きから姿から何て言うか様になっていると言うか
髪が長くて綺麗でスタイルが良くて・・・胸とか清純そうで・・足も、ゲフンゲフン
なんつうか彼女は女性で他のは、女子なんだ。

初恋は実らないって言うけどあまりにも高嶺の花に恋しちゃったんだよな
何時の頃からか彼女の練習風景を横目で見ながら帰るのが日課になっていた
勿論、話した事なんて無かったよ

その日、声を掛けられたのが初めてだったんだ

「舞風君って大学受験はしないんですか?」
「あっ、俺はその・・いろいろあって就職かな?」
「ええ~なんか勿体ないですね?」
「成績は良い方ですよね?学年50位以内によく名前ありましたよね」

ドキッ

「えっ見ていてくれたんですか?」
「あはは、いつも私の練習見ながら帰っていた舞風君がそれ言うの?」
「えぇえええー」

気づかれていたぁー(恥

「あぁぁぁああ、あ、あのご、ごめんあさい」
「あはは、だから何であやまるかなぁ~」
「気になる人に見られて嬉しくない女はいないよぉ~」

ドキッ!!

「え?ええ、どっ、どうも」

「硬派だよねぇ~舞風君って・・・」

クスッ

それから何となく親しくなって、でも直ぐに受験シーズンになって
俺も縄門電気の子会社に就職決まってバタバタしているうちに卒業
彼女とは話し始めてから2ヶ月ほどだったかな?
帰りのバス停で他愛無い話しばかりだったけどさ。

路線が違うから20分程度しか一緒に話す事って無かったけど
俺がオンラインの仲間達との話をすると楽しそうに聞いてくれたんだ

不思議と俺は琴宮さんに対しては不埒な感情は一切わかなかった
今でも不思議だけど彼女を思っても全然、勃起ないんだ
あんなスタイル良くてこんなに好きなのに・・今でも不思議な感じだ。

もし俺に青春時代ってのが、あったのならあの頃だよな・・・・
彼女は大学に入って今頃どうしてるのかな・・・

そう・・あの頃か・・俺に取っての・・・あの

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

パチッ

「あっ・・・」

いつの間にか寝ていた!

パンツ1枚でベッドの上で転がったままだった

「は、は、ハックショーン・・・やべ」

寝巻きを着て腰かけた。もう深夜の3時だ

手元には眷属ノートが置いたままだった

(夢じゃなかったんだな)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「わーっはっはっは、俺は人間を捨てるぞぉ~勇者よ!」

思わず変なポーズ取りたくなったわw
机からマジックを取って背表紙に名前を書いた

キュッキュキュ・・

***** 所有者 [ 舞風 広志 ] *****

そうさ、どうせ俺はサイコパスって言われていたんだ
まぁそんな黒歴史もっていたら魔界でも魔王にでも行ってやろうじゃないか!!

そして眷属ノートを手に取ると

パラり、と簡単に中が開いた。
あれほどびくともしなかったのに・・・
だけどそれで契約が確定されたのだと実感することになった。
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