上 下
218 / 259
第6章

第6章2幕 地図<map>

しおりを挟む
 しばらく他愛のない話をし、ゲームでオフ会などに参加したことがあるか、という話になりました。
 「私はないよ」
 「あたしも。あるのは専用端末買いに行くときにチェリーにあったくらいかな?」
 「僕はあるよー」
 「「あるんだ!」」
 エルマと絶妙なハーモニーを奏で、ステイシーに聞き返します。
 「結構そういうの楽しく思えるタイプでねー」
 「ステイシーは出会い厨って情報屋に売っていい?」
 「いいよー。って違うからー」
 ステイシーの乗りツッコミがきれいに決まると、無言の時間が流れ始めます。
 その沈黙を破るように、エルマがステイシーに問いかけます。
 「リアルで会うのって怖くない?」
 「んー。昔のゲームとは違って最近はそんなに危なくないかなー」
 ステイシーは思い出すように天井を眺めながら答えます。
 「行く。みたいなこと言っちゃったけど、リアルで懇親会となると顔とかばれちゃうし、誰が来るかも分からないじゃん? 正直なところ乗り気じゃないかも」
 ステイシーの話を聞いても、私の不安はなくならず、正直な気持ちを話しました。
 「でもたぶんキャラクターとリアルが一致しないようにはしてくれるんじゃない?」
 「だといいけど」
 「してくれると思うよー。ゲーム内のことをリアルに持ち込んで傷害事件になったことだってあるしー」
 「あー。あったね。あたしその時学生でさ、それについてめっちゃレポート書いた記憶ある」
 「だから大丈夫だと思うよー。実は今日ログインする前に、ここの運営のこと調べたんだー」
 私とエルマが視線で続きを促します。
 「他のゲームでも公式オフ会みたいなのやってるみたいなんだけどー、そこはキャラクターネームとかわからない様にしてたみたいだよー」
 そこまで聞くと、私の不安も多少ですが、解消され、行ってもいいという方に心が揺れます。
 「さて、ワタシも話に混ぜてもらっていいかな?」
 私が少しほっとすると背後からサツキから声がかかりました。
 「おはよ、サツキ」
 「あぁ。おはよう。皆が話しているのは、懇親会のことでいいのかい?」
 「そうだねー」
 「参加はどうするんだい?」
 「僕は参加するー」
 「あたしも一応」
 「私はまだ揺れてるけど、皆行くならちゃんと行く」
 サツキの質問に答えると、ふっ、と笑いながらサツキが話し始めます。
 「実はね、こういうイベントは初めてだから少しワクワクしている自分がいるんだ。無論、リスクも承知しているが、参加してみたいってワタシは思っているよ」
 そう言ってサツキが自身の髪の毛をバッとかきあげます。
 「懇親会でもその行動やるの……?」
 エルマの呟きにサツキは返事をしませんでした。

 その後マオも合流し、私以外の4人は参加を決めているようでした。
 そうなると私一人行かないのは寂しいので私も参加を決めます。
 「まずは待ち合わせ場所決めないとね。あたし、実家に一回戻って永谷に大きい車出してもらうから、そこでチェリーを拾って……」
 「聞いてはいたが、本当に近所なのだな」
 「近所っていうかお向かいさんだよ」
 サツキの言葉に私が返します。
 「みんなどの辺にすんでるの?」
 「ちょっと待ってくれ。ここで話すよりTACのほうが良くないか? あそこなら現実の地図も出せる」
 「たしかにー」
 「じゃぁTACに行こ」
 すぐにエルマがログアウトしたので私達も続いてログアウトしていきます。

 現実で意識を覚醒させた私は一度トイレをすませ、今度はTACにログインします。

 <窓辺の紫陽花>のホームにある自室へと久々に降り立ちます。
 部屋を出て、リビングに向かうと、声が掛かります。
 「チェリー一番乗り!」
 エルマがすでに地図を机の上に広げ、待っていました。
 「おまたせ。結構ノリノリだね」
 「あたぼーよ。実はサプライズ考えてる」
 「なに?」
 「まだ誰も来てないし、言っちゃおうかなー? どうしよっかなー?」
 言いたくてたまらないといった表情のエルマに、聞かせてよ、と言おうとすると目の前にステイシーがログインしてきました。
 「うわー。びっくりしたー」
 <Imperial Of Egg>よりも多少男の子らしい顔になっているステイシーが驚いているのかいないのかよくわからない声を上げます。
 「みんなはー?」
 「まだマオとサツキ来てないよ」
 「そうだった。忘れてた。この顔しっかり覚えておいてね。別のアバターに変えてくる」
 そう言ってステイシーは一度ログアウトしていきました。
 「ねぇチェリー?」
 「ん?」
 「あたしさ、ステイシーって馬鹿じゃないって思ってる」
 「うん? そ、そうだね」
 「今ここでアバター変えたとこで、懇親会の待ち合わせで顔合わせたらばれるよね」
 「ぶっ……あっはっはは!」
 笑いを堪えられませんでした。

 「おまたせ。おや? まだステイシーとマオが来ていないようだね」
 サツキがコツコツと音をたてこちらに歩いてきます。
 「ステイシーはアバター変えに行った」
 「ん? どうしてだい?」
 「マオにばれるから」
 「ふっ。遅かれ早かればれるというのに」
 サツキもクスクスと笑っています。
 マオだけが知らない、マオとステイシーの秘密はいつばれるのでしょうか。

 「おまたせ」
 椅子に座った状態でマオが現れました。
 「結構目の前でやられると心臓にわるいね。あとはステイシーだけだ」
 「僕もただいまー」
 椅子の横にステイシーが現れ、全員集まりました。
 「んじゃ早速決めよう!」

 「あたしの実家がこのへん、チェリーも同じ。みんな家は?」
 「私はこの辺だ」
 「マオはここよ」
 「僕はここー」
 三人が地図に指をさし、マーカーを付けていきます。
 「それ会場が、ここだから……順番に拾っていけそうだね。サツキ、ステイシー、マオの順で」
 「マオ、お迎え、いらない、くらい近い」
 マオが指をさしていたところは、会場となる[Multi Game Corporation]本社とそれほど離れていませんでした。
 「それでも一応いくよ。これあたしの携帯端末の番号。登録しておいて」
 そう言ってエルマが名刺みたいなものをシュッと投げました。
 私はすでに登録済みなので貰ってはいませんが、たしかこの名刺は受け取ると、同期してある携帯端末に勝手に登録してくれる便利な物だった気がします。
 「すまないね。ワタシだけ遠くて」
 「気にしなくていいよ。運転するのはうちの永谷だし」
 「そ、そうか」
 「じゃぁこのルートで行くからね。あたしとチェリーが合流したら連絡するね」
 「了解だ」
 「りょうかいー」
 「りょう、かい」
 ところで、この懇親会の次の日開いてる?」
 「あぁ開いている」
 「僕もー」
 「マオも」
 「わた……」
 「じゃぁ開けておいて!」
 「…………」
 「どしたん? チェリー?」
 「私聞かれてない」
 「だって空いてるって知ってるもん」
 「もしかしたら予定あるかもしれないでしょ!」
 「ないね!」

 少しエルマとギスギスしてきたので将棋で決着をつけることになりました。
 「この勝負見たくないんだが」
 「どうしてー?」
 「見てればわかるさ」

 結構な時間私とエルマは将棋を指していましたが決着がつかず、ステイシー、マオ、サツキの顔をちらりと見たら凄く渋い顔をしていました。
 「ひどいわ」
 「言わないであげよー?」
 「だから言ったんだ」

 結局私に加担したサツキとエルマに加担したステイシーで決着を付け、TACから<Imperial Of Egg>へと戻ってきます。
 「少しふわふわした気分だが、さて、何する?」
 「面白い話があるよー」
 ステイシーは何かあるようでニヤリと笑いました。
                                      to be continued...
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼくから僕へ

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
SF
冒険者ギルドに所属するアキトは、順風満帆な日々を送っていた。 ある日、「森の奥の小屋に閉じこもってしまった少年を、外に出るように説得してほしい」という依頼を受ける。 ドア越しに少年と対話するアキトだったが、少年の言い分に段々イラ立っていく。 しかし、その少年の正体は、実は――。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

いや、一応苦労してますけども。

GURA
ファンタジー
「ここどこ?」 仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。 気がつくと見知らぬ草原にポツリ。 レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。 オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!? しかも男キャラって...。 何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか? なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。 お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。 ※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。 ※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...