VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

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第5章

第5章53幕 拘束<restriction>

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 『≪ドラグナード・ハイフレイム・ブレス≫』
 いつの間にチャージを行っていたのか、今度はブレスを放ってきます。
 「にげてぇえ!」
 エルマの声で、一瞬フリーズしていた私や、空蝉が正気に戻り、範囲外へと全力で退避します。
 マオはAGIが足りずに逃げ切れず、その場で防御スキルの発動をしました。
 逃げる際、ステイシーとサツキを拾い上げ、まだフリーズしていたベルガを足で蹴り飛ばし範囲外へと逃がします。
 「無理かぁ……」
 私達が範囲の外へ出ると、間に合わないと悟った鶏骨ちゅぱ太郎がそうつぶやいたのが聞こえました。
 「≪シフト≫なら……!」
 「無理だよ。パーティー組んでない」
 私が≪シフト≫を発動しようとしますが、エルマの一言でパーティーを組んでいないことに気付いてしまいました。
 「気にしないでいいよ。ストックがある」
 「ストック?」
 空蝉が言ったストックという言葉の意味が分かりませんでした。
 「見てればわかる」
 そうして到達するまであとわずかとなった≪ブレス≫の方を空蝉が指さします。

 そして地面に膨大な熱量を持つ、【龍神 ドラグジェル】の≪ブレス≫が到達しました。
 範囲外にいる私達の肌すらも焼く、常識では考えられない熱に、呼吸をする喉が焼けていく感覚がします。
 そしてブレスが途切れたそこには、無傷で立っているマオと同じく無傷で立っている鶏骨ちゅぱ太郎がいました。
 地面は融解し、地下の避難所まで届くのではないかというほど陥没していますが、二人は無事だったようです。
 「マオが無事なのは分かってたけど、鶏骨ちゅぱ太郎さんはどうして?」
 「ストックっす。【魂狩たまがり】と【魂食たまぐい】の【称号】の効果らしい」
 空蝉の説明を聞いていると、マオがパタリと倒れますが、すぐに鶏骨ちゅぱ太郎が抱え上げ、こちらに走ってきます。
 「空蝉。もうストックが無くなったから、俺を後衛にしてほしい」
 「ストックって何なんですか?」
 「えーっと、魂を≪ストック≫できるんだよ。文字通り」
 「便利ですね」
 「便利じゃないさ。ストックを作るにはNPCを殺さないといけないからな」
 だから俺の性向度は低いんだ、と付け加えながら悲しそうに笑いました。

 「パーティーを二つに分けて組みなおしだ。幸い【龍神 ドラグジェル】は発動硬直で固まっている。一つ目は、ワタシとチェリー、エルマで攻撃部隊。二つ目は残りで支援部隊だ」
 空を飛んでいる【龍神 ドラグジェル】の高さまで到達するのは魔法かそれに匹敵する射程を持つ魔銃しかありませんから妥当ですね。近接系を近くまで転移させる方法もありますが、恐らく物理攻撃は通らないでしょう。
 「それでいい」
 空蝉やステイシー達も同意し、パーティーを組みなおします。
 このパーティーで私の役目は……。
 最大火力攻撃、ですね。
 詠唱魔法、それも代償が大きい物を選択しないといけないかもしれません。

 「細かい作戦はない。ワタシたちが攻撃をぶち込む隙を作ってくれ」
 「了解」
 「りょーかい」
 「わかった」
 「マオは、ガードね」
 「待ってください」
 決まりかけていたところに声がかかります。
 「僕完全に放置プレイでもう色々とやばいのですが」
 あっ。ベルガ蹴り飛ばした時、皆と違う方向に飛ばしちゃった。
 「それにHPがあと600しかありません」
 「あー! もうわかったよ! 回復するよ!」
 「いえ。それはいりません。この事態、火力を優先すべき、でしょう」
 「火力が出せるのか? そして届くのか?」
 サツキの質問にベルガは今までで一番真面目な顔で答えました。
 「イエスです」

 今まで使っていた縄ではない、ワイヤーを取り出したベルガが言います。
 「僕は確実にあいつを倒せる術を持っています」
 「本当か?」
 「はい。ですが、その威力を引き出すのには恐らく……HPを1にするしかありません」
 「そう言うことだ?」
 「【臥薪嘗胆】です」
 臥薪嘗胆、もともとは四時熟度ですね。
 確か意味は……。
 「目的を達成するために、機械を待ち、苦労を耐え忍ぶ、か」
 それです、それ!
 勿論知っていましたよ!
 本当ですよ?
 おほん。四字熟語を関する【称号】は特定の状況化において異常な力を発揮する物が多いです。【神】系【称号】と似ています。しかし、決定的な違いが一つ。それは、代償に何某かを失うこと。
 マオの【傾国美人】では視界を失います。
 ベルガが消費するのはHP……未来、なのでしょう。
 HPを1にと言っていたベルガの言葉から、そこまで推測ができました。
 「つまりHPを減らせば減らすほど強くなる、ということか?」
 「そう言うことです。なのでこちらを」
 そう言ってベルガが手袋を投げてきます。
 「【致命回避 クラロリ・サック】です。これは不殺、相手のHPを1残すことができる武具です。こちらを、そうですね、チェリーさんに装備してもらって僕を殴ってもらいます」
 「えっ? なんで私が?」
 「僕はマゾに殴られるのが好きな究極のマゾです。マゾっぽいチェリーさんになら殴られてもいい」
 恍惚とした表情で言われても困りますよ。
 それに私は自分的にサディストだと思っていますし。
 「お願いします!」
 そうして地面に落ちた【致命回避 クラロリ・サック】を広い、頭上に掲げ、土下座をするベルガを見ていると、なんか無性にイライラしてきたので、装備し殴ることにしました。
 「ふっ!」
 渾身の、過去最も威力を出したであろう私の拳が、ベルガの右脇腹に直撃します。
 「ぐっふぁあ! リバー……ブロー……」
 そう言い、地面にうずくまるベルガに【致命回避 クラロリ・サック】を返します。
 「満足か? 変態」
 「ありがとうございますう! この命に代えても、あのクソトカゲ殺します!」
 ベルガかそう言うと上空から『トカゲと一緒か』と【龍神 ドラグジェル】の声が聞こえます。
 会話聞こえていたんですね。

 『我をここまで馬鹿にするとは……致し方ない。本気を出すか』
 本気?
 待ってください。あれだけのブレスぶっ放しておいて本気じゃなかった?
 『うおおおおお!』
 ある種まだ人型を保っていた【龍神 ドラグジェル】の身体にひびが入り、そして人の皮が剥がれ落ちた【龍神 ドラグジェル】がこちらを見下ろし、言います。
 『我ハ【焔龍真神えんりゅう しんじん ドラグジェル・バールドライド】。コノ姿ニナルノハ、モウ千年ブリダロウカ』
 龍の姿になると言葉下手になるのね、と感想を抱きましたが、本気ではなかったといった【龍神 ドラグジェル】の言葉は正しかった様ですね。
 『管理者オブザーバータルコノ我ヲ、顕現サセタコト、後悔スルガイイ、凡人』
 管理者オブザーバー
 『クッフッフ、ヌアッ?』
 突然、【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】が声をあげたので、注視すると、【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】の身体に鎖が幾重にも巻きついていました。
 「話が長いことで助かります」
 ベルガが左手に紐を握り、その先端部が【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】に巻き点き、鎖になっている様でした。
 『コノ程度、拘束にナラヌ』
 「いいえ。【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】。貴方はこの拘束を解くことができない」
 『ヌカセッ!』
 そう言ってもがく【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】は確かに鎖を外すことができませんでした。

 『フーフー。ドウイウコトダ。何故ハズレン』
 「それは貴方がサドだからです」
 『ハッ?』
 はっ?
 「マゾにしか解けない特殊な物です」
 『ハッ? マゾ? サド?』
 意味わからない。
 「さぁ。ここから本当の調教が始まりますよ」
 すごい生き生きとしてるね。ベルガさん。

 『解ケヌのナラ、ソノママデヨイ。凡人ヲ屠ルノニ、支障ハナイ。≪ドラグレア・ブレイズ・カノン≫』
 頭だけをこちらに向けた【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】がまたも≪神話級火属性魔法≫を放ちます。
 「≪忍術・大魔鏡面≫」
 私達の前に、白銀の鏡が出現します。
 空蝉のスキルの様ですね。
 「長くは持たない」
 空蝉が出した鏡が≪ドラグレア・ブレイズ・カノン≫を上空へと反射します。
 『コレヲ防ガレルノハ二度目ダナ』
 「前にも使ったことがあるのかい?」
 『コノ地ニ来ル前の話ダ。冥土ヘノ土産話グライニハナルカ、聞カセテヤロウ』
 そう言って【焔龍真神 ドラグジェル・バールドライド】は勝手に語り始めました。
                                      to be continued.
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