VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

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第5章

第5章50幕 酸素<oxygen>

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 「駄目です! ダメダメ! それは反則ですよ! 私は好きですけど! ≪アクティベート・セカンド・ポイジェネイド≫」
 私が粘液を凍らせた直後、声が響きます。
 そして凍った粘液は、消滅し、新たな粘液が流れ出してきます。
 「ペナルティーです! 仕方ありませんよね! こういうの大好きです! では残り時間も短縮させてもらいましょう!」
 表面だけを凍らせるのではなく、地面側からじわじわと凍らせたのですが、それでも気付かれてしまいました。
 「ちょっと!」
 「ごめん」
 マンチカンが私の右手をペシリと叩きます。
 「んー。この毒はまずいねー。ほらー」
 ステイシーがそう言いながら足を見せてきます。
 ブーツが溶け、裸足になっています。
 「靴がとけちゃったー」
 そう言いながら足の指をピコピコ動かしているので、ダメージ等はなさそうですね。
 「それはまずい」
 空蝉が私の背中に飛びつきます。
 「どうしたの?」
 「靴溶けたら私戦えない」
 「どういうこと?」
 私が聞き返すとその答えはマンチカンから帰ってきました。
 「空蝉の攻撃スキルはDEX値を参照してるよ。まぁ攻撃と言ってもアレなんだけど。靴の補正が無くなったら必要なDEXを満たさなくなるみたい」
 空蝉はマンチカンの言葉にぶんぶん首を縦に振ります。
 「そう言うことなら仕方ないね。ちょっと疲れるけどおんぶするよ」
 「おねがい」
 「これ防具とか武器とかもとけるんでしょうか。物は試しですね」
 ベルガが粘液にダイブしました。
 「「「は?」」」
 私とマンチカンと空蝉はベルガの突拍子もない行動に目を奪われます。
 「あぁ! 溶けます! 溶けます!」
 そう言って粘液からザバッと出てきたベルガは全裸でした。
 「すばらしいですね! こういうスキル大好きです! 女性も男性も皆生まれたままの姿にぃ!」
 あの、こういう時だけ声寄越すのやめてくれませんか。

 全裸になったベルガにマンチカンの拳が炸裂し、予備の防具を着用させたところで、再び声が響きます。
 「そうですね! このままだと見ててつまらないです! ですからモンスター出しましょう! そうしましょう! ≪召喚〔ポイズン・ドルチャド・スライム〕≫!」
 目の前の毒が一時的に減っていき、正面に人型のスライムが現れます。
 「強いですよ! スライム! いいですね! 私大好きなんです! 倒せたらヒントをあげましょう!」
 彼の声が響いた瞬間、私の背後から、スキルの発動兆候を感じます。
 「≪乱焔みだれほむら≫」
 空蝉が予備の靴を履き、スキルを発動したようでした。
 ポンポンポンと軽快な音を立て空中に出現した青い焔が〔ポイズン・ドルチャド・スライム〕に直撃します。
 するとジュッという音とともに、人型が崩れ、消滅します。
 「軽い」
 「そんなはずはないですね」
 真面目なベルガの声にギョっとし、ベルガの方を見ると、かなり本気の目をしていました。
 ずっとそのままでいてくれ……。
 私の思考が別の方向へ泳いでいこうとしましたが、視界の端で再び〔ポイズン・ドルチャド・スライム〕が人型を造るのが見え、目の前のモンスターのことへと思考が戻ってきます。
 スライム系のモンスターは形態が自在に変更可能なので、いくら攻撃しても倒しきれない可能性があります。
 まずは何を体としているか、ですね。
 といっても体にしているのは地面を満たしている毒なのですが。
 この総量がわからないと、倒すに倒しきれません。
 「チェリー。≪フリーズ≫ってまだ使えるー?」
 「【ブリザードブーツ】が解けちゃったから無理かな」
 ステイシーの言いたいことも分かります。
 凍らせて砕くのがスライムのような物理完全無効化モンスターには一番効きます。
 次点で火で蒸発させていくという手もあるのですが、それは空蝉が失敗しましたし、この手の属性持ちスライムだと≪濃縮≫が起き、さらに強力な個体になる場合もあります。
 「≪濃縮≫が起きないように囲って消滅するまで焼く?」
 「それなら行けるかもー。僕が水属性で取り囲むねー。≪ハイドロ・スフィア≫」
 「なら私が火で。≪ブレイズ・サステイン≫」
 ステイシーが〔ポイズン・ドルチャド・スライム〕を水属性魔法で作った球体に閉じ込め、私が継続燃焼系のスキルで焼いていきます。

 しばらく経つと、この空間の温度も上がり、息苦しくなってきます。
 「はぁはぁ。暑い」
 空蝉と密着している私の服は絞れば結構な水が確保できるんじゃないかというくらい湿っています。
 「チェリー。まずいかも。酸素が少ないとおもう」
 マンチカンの言葉を聞いて、私はハッとします。
 このゲームの中でも火が燃えるには酸素が必要です。そして長時間の燃焼により、もう酸素が枯渇気味になってきているようです。
 「一回止めよー」
 「そうだね」
 私とステイシーがお互いのスキルを中断し、MPポーションを口にします。
 「結構まずいですよ。≪低酸素≫がつきました」
 ベルガの報告を聞いて、この空間を作ったあのローブの狙いが分かりました。
 この<Imperial Of Egg>において、酸欠は最も容易に敵を倒すことができますから。

 「おやおや! 結構苦しそうですね! そういう顔大好きです! いい感じに酸素を使ってくれましたね!」
 相当息苦しくなり、私は床に手をついてしまっています。
 それは他の4人も同じで、ベルガに至っては粘液に浸かっています。
 私の場合、アバターを装備しているので、見た目の変化はありませんが、右足、左足、腿、右手、左手、腰の6カ所の防具が溶けてしまいました。
 幸い、武器は溶けないようなので、希望はあります。
 しかし、酸素が少なく、意識がはっきりとしないこの状況で正常な判断が下せません。
 「チェリー。マスクはー?」
 「一応、二人分ある」
 「貸してくれるー?」
 「いいよ」
 私はインベントリから海に潜る時や、毒ガスモンスター等と戦う際に装備するガスマスクのようなものをステイシーに渡します。
 「ありがとー。少し落ち着いたら、魔法使うねー」
 「大丈夫?」
 「大丈夫じゃないよー。この後戦えなくなっちゃうからー」
 そこまで聞いて私はステイシーのやろうとすることがなんとか理解できました。

 私はもう一つのマスクをマンチカン、空蝉、私の順で使い、少し思考力を回復します。
 「海底に潜る時用の酸素持っておけばよかった」
 空蝉の言う通りですね。海底に潜るときなどは、マスク類の酸素を回復させるため、酸素を詰め込んだ袋や、小型倉庫を持っている人が多いのですが、さすがにそこまで用意の良い人物はここにはいませんでした。
 「これからたぶんステイシーが大技に出るとおもう」
 「それで?」
 「巻き込まれないように私の後ろにいて」
 「僕もそうさせてもらいます」
 全裸のベルガも粘液を泳いでこちらに来ます。
 「ステイシー。任せた」
 「任されたー。そのあとは……頼むね」
 そしてガスマスクを私にポイと放り、返してきます。
 「さて、久々に見せちゃおう」
 そう言うステイシーの獰猛な顔を見るのは確かに久しぶりです。

 「≪【雷神の祝福】≫」
 ステイシーの髪が、電気を帯び、逆立っていきます。そしてパチチ、パチチと音をたてながら青い雷が全身を覆っていきます。
 前回見た時に比べてかなり様変わりしていますね。反復使用でレベルでも上がったんでしょうか。それが何かしらの【称号】で威力が増したのかもしれませんね。
 「ふー。≪【雷神の怒り】≫」
 二つ目のスキルを宣言したときには、ステイシーはただの青白いパチパチしてる物体になっていました。
 「いくよ」
 ゴウンという音を耳にした後、目の前からステイシーはいなくなっていました。

 さぁ。反撃を開始しましょう。
                                      to be continued...
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