VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

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第5章

第5章14幕 茶番<farce>

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 「なるほど。大体分かりました」
 「理解力が高くていいわぁ。じゃぁ資料を見ながら話すわねぇ」
 細かい事情の説明が終わり、外来生物についての話が始まったので、私は頬をペチッと叩き聞く姿勢を取ります。
 「まず外来生物が何かは、わかるわよねぇ?」
 「本来この国に生息していなかった生物という認識で間違いはないでしょうか?」
 「大丈夫よぉ。じゃぁどうしてその外来生物がこちらに流入してきたと思うぅ?」
 「わかりません」
 「お二人はどおぉ?」
 私とエルマの方にも目をやりフェアリルが聞いてきます。
 「あたしはさっぱりわからない?」
 「この国の環境が良かったから? または誰かが放したから?」
 「あらぁ? 結構いい線いってるわねぇ。正解は、一位研究所と六位研究所が外来種を持ち込んでぇ。結果が出なかったから外に捨てたのぉ」
 フェアリルがぽんと手を合わせながら答えを教えてくれました。
 「でもそれなら外来生物を放した一位研究所と六位研究所が解散したりとかの処分はなかったのですか?」
 プフィーがそう聞くとフェアリルが首を振りながら答えます。
 「それはないわぁ。だって十三位研究所の指示だものぉ」
 つまり十三位研究所がやはりこの国家の中枢を担っているということですね。
 「そのしわ寄せがぁ、この十二位研究所と四位研究所にきてるのよぉ」
 そこまで話、再びお茶でのどを潤したフェアリルが続けて話します。
 「じゃぁ、外来生物の話にもどるわねぇ。主に食用の生物と武器とか防具とかの素材になる生物がおおいわぁ。その生物達にとってここは理想郷よぉ」
 「生態系が崩壊してると聞きましたが?」
 「そうよぉ。より良い方に崩壊してるわぁ」
 良い方に崩壊?
 「えぇっとねぇ。在来生物って正直言うとぉ、あまり利用価値がないのぉ。食用にしろ、素材用にしろ、ねぇ」
 あっ。なるほど。食用の外来生物と素材用の外来生物が流入してきたことによって在来生物がほぼ絶滅状態になってしまったが、外来生物のほうが価値があり、国としてはうれしいということですか。
 「だから生態系が崩壊しちゃってもおとがめはなしなのよぉ。でもあちらは話が別よぉ」
 「あちら?」
 「〔群生生命体 グリガーリ・S・ネス〕よぉ。あれは国が指定した保護生物だものぉ。証拠さえ上がれば八位研究所は失墜するわぁ」
 「少し話が戻るのですが、いいですか?」
 私はここで疑問に思っていたことがあったのでフェアリルにぶつけます。
 「どうぞぉ」
 「八位研究所が四位研究所を解散に追いやってなんのメリットがあるのですか?」
 「簡単よぉ。解明できない人の身体について研究してる八位研究所にはお金がないのよぉ。だから即時参入できる保護生物の分野を作りたいのよぉ」
 なるほど。研究に必要な費用を稼ぐために、一番手早く始められる四位研究所の研究を丸ごと盗みたかったと。
 「でもさっきは四位研究所の人がいないと研究は進まないっていってましたよね?」
 「そうよぉ。そんなことは些細なことよぉ。だって解散した後に引き抜けばいいんだものぉ」
 たしかに。その通りですね。

 それからしばらく外来生物について聞き、仕事に戻らなければいけないというフェアリルさんに「また、きてねぇ」と言われたので一度十二位研究所を出ることになりました。
 「正直今日の話はあたしには難しかった」
 エルマが頬を人差し指でつつきながら言います。
 「私も」
 私も同じくわかっていなかったので、プフィー頼みになります。
 「私はなんとなくだけど呑み込めたよ。それで一ついい? いまのでクエストが進んだ」
 『外来生物の知識を手に入れる』という部分から『実際に調査する』まで進んだそうです。
 「とりあえず今日はもう暗くなっちゃったし、明日調査行こう?」
 プフィーがそう言ったので私はマップを開き、宿屋を探します。

 宿屋は結構多いようで、すぐ近くにもありました。
 そこに滞在することに決め、チェックインします。
 「じゃぁまた明日ね」
 プフィーが真っ先に部屋に入って行きました。
 私もエルマも疲労がたまっていたので今日はすぐに落ちることにし、解散しました。

 一晩睡眠をきちんと取り、珍しく早朝に目を覚ました私は、食事やお風呂などを済ませ、まったりとした時間を過ごしています。
 動画配信サイトや掲示板などを眺めつつ、お菓子をポリポリと食べていると、あっという間に時間が過ぎ、午前10時程になっていました。
 それに気付いた私は飲み物を飲んでから<Imperial Of Egg>の世界へと降り立ちました。

 まだ二人ともいないみたい。
 ログインした私はパーティー欄を確認し、エルマとプフィーがまだログインしていないことを知ります。ちなみにマオとステイシーはログインしていました。
 宿屋を出た私はぶらぶらとお店を回り、時間を潰しています。
 するとポヨンとパーティー参加者がログインした通知が届き、エルマがログインしてきたことを知りました。
 個人チャットで待ち合わせをし、合流します。
 「チェリーどしたん。今日早いね」
 「昨日20時に寝ちゃって早く目が覚めちゃったんだよ」
 「なるほど。良い物買えた?」
 「いや。特に面白い物とかなかった。あっ! でもエルマが気に入りそうなものならあったよ。ついて来て」
 先ほど露店で見たアクセサリーをエルマに見せようと連れて行きます。

 合流した場所から10分もかからず先ほどの露店までたどり着きます。
 「んで。チェリーはお姉さんに何を見せたいのかな?」
 「これこれ」
 風呂敷の上に置かれた一つのアクセサリーを指さします。
 「【オラクルリング】? パーティーで大活躍……」
 「そう」
 「いいね。こういうの好きだよ。おっちゃんこれチョーだい!」
 エルマが即決で購入したので早速試してもらおうと思います。
 「やってみて」
 「あいよ。≪神の言葉≫っ!」
 エルマがスキルを発動するとエルマの足元からぼわんと煙が吹き出し、エルマの身体が50cmほど浮き上がります。
 「おおう。浮いてる」
 エルマの声ではない、恐ろしく威厳のありそうな低い声が響きます。
 通行人も足を止め、エルマの方を見ています。
 「何これ。めっちゃ注目されるじゃん」
 エルマはいつものような姿ではなく、白い衣を纏い、白い長髪と異常に長い髭を拵えた老人へと変化していました。
 なるほど。パーティーグッズってそう言うことですか。
 パーティーは騒ぐ方のパーティーだったんですね。
 「聞いてないんだけど。これ面白い」
 そう言ったエルマがスゥと息を吸い何かをしゃべり始めます。
 『親愛なる我が隣人に告げる』
 おお! それっぽい。
 『我は……我は……フニャーグルベである』
 ネーミングセンス……。
 『ここに神のお告げを告げようではないか』
 続々と集まってくるやじ馬たちにどんなパンチをかますのか見ものですね。
 『まずは信用してもらおうではないか。そこにいる娘』
 えっ?
 『茶髪にメイド服のプリチーな娘じゃ』
 あっ。やべぇ。これ巻き込まれるやつや。
 「は、はい。なんでしょうか」
 『お主を我が力によって瞬間移動させてみようではないか』
 なるほど。大道芸。得意ですよ。任せてください!
 そう思考し、こっそりと武器を入れ替え、いつでも転移できる状態にしておきます。
 『光よ。我が導きに従い、事をなせ』
 「≪テレポート≫」
 エルマが言葉を告げた後小声で≪テレポート≫を発動し、正面にあった建物の屋上へと転移します。
 すると観衆がドッと湧きました。
 大成功ですね。
 『我が力は衰えておらぬな。では告げようこの世界には悪が……』
 謎の演説を始めたエルマの足元におひねり用のバケツを転移させます。
 すると先ほどの転移ショーが面白かったのか、結構な人数がおひねりをくれました。
 「チェリーなにしてるの?」
 「あわっ! びっくりした! プフィー。あれめっちゃ面白くない」
 「確かに面白いけど、収拾つかなくなってない?」
 確かに先ほどからエルマは『えーっ』とか『あーっ』とかしか言ってませんね。
 よしならば……。
 「≪変装≫」
 むかし使った≪変装≫付きのアクセサリーを装備し、発動します。
 「プフィー。私の後ろに光をだして」
 「分かった。≪フラッシュ・ライト≫」
 女神っぽい恰好に≪変装≫した私は先ほどの屋上から重力魔法を発動し、浮き上がります。
 『これ。フニャ……フニャーグルッペ? およしなさいな。民が困っていますよ』
 女神っぽい感じでエルマに助け舟を出します。
 『これはこれは女神チェッチェ様』
 なんだよ。それ。
 『天界に戻りなさい』
 『かしこまりました。我が隣人よ。すまない。我は帰らねばならぬ』
 『先に行っていますよ』
 振り向き、プフィーにだけ見えるように右手で丸を作ります。
 それだけで言いたいことが伝わったのか光をより強くし、一瞬私の姿を隠しました。
 その瞬間、私は≪変装≫を解除し、屋上に逃げ込みます。
 『ほーっほっほー』
 そう言いながらバケツを抱えるエルマが≪テレポート≫で屋上に戻ってきます。
 そしてすぐに≪神の言葉≫を解除してこちらを向いてきます。
 「「…………」」
 耐えられなくなり、お互いに笑い出しているとプフィーがやれやれといった様子で首を振っていました。
                                      to be continued...
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