VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

文字の大きさ
上 下
167 / 259
第5章

第5章13幕 齟齬<inconsistency>

しおりを挟む
 「すいませんごちそうになってしまって」
 「いえ、大丈夫ですよ。話が聞けて良かったです」
 お店をでてペコペコ頭を下げるナリウをそう言って見送ります。
 「とりあえずさっき受けたクエストを終わらせに行こう」
 「そうだね」
 「うん」
 先ほど受けたクエスト、『外来生物による沼の生態系崩壊についての調査』を始めるために必要なものをそろえに行きます。

 「まずは外来生物の知識を貰ってこないといけないね」
 クエストの内容を確認していたプフィーがそう言って周りをきょろきょろします。
 「どこでもらうの?」
 エルマがプフィーに聞くと、プフィーはナリウから聞いた話を再び述べます。
 「13ある組織の中で生物の研究をしてるのが四位、八位、十二位だって言ってたよね。だから八位か十二位かに聞きに行けばいいんじゃないかと思って探してる」
 それできょろきょろしてたんですね。
 「あそこに六位研究所っていうのがあるけど?」
 エルマが指をさしながら言います。
 そちらを見て何かに気付いたプフィーがマップを開きます。
 「そう言うことか! 中心に一つ、他は時計の数字の位置にあるんだ!」
 プフィーがマップを見せてきて、説明してきます。
 確かに時計の中心に十三位研究所が合って、その周囲に一から十二位の研究所があるように見えてきます。
 「それならまず一番近い八位研究所に行ってみようか」
 「そだね」
 「うん」
 そう取り纏め、マップを頼りに八位研究所に向かって歩き出しました。

 数分ほど歩くと八位研究所が見え、目の前に門番らしき人物が立っているのがわかります。
 「じゃぁ交渉はプフィーお願いね」
 「わかった」
 プフィーがテクテクと歩き、門番のところへ向かいます。
 それに気付いた門番はすぐに、槍を構え、プフィーに誰何します。
 「何者だ。それ以上この敷地に入るとこちらも武力で応じることになる。止まれ」
 「怪しい者じゃないヨ。少し聞きたいことガあるンだけド」
 「言え」
 「この研究所は何を研究してるノ?」
 「八位研究所は生物研究……主に、人体等を研究している」
 「そうなンダ。じゃぁ外来生物とかどこが研究してるかわかル?」
 「外来生物だと? そうだな。環境研究の二位は多少やっているかもしれんな。あとは十二位が外来在来問わずに研究してると思うぞ」
 「そカそカ。ありがとネ」
 そう言ってプフィーは門番に少しばかりのお礼とお金を握らせていました。
 なるほど。情報屋ってこうやって情報集めてるんですね。

 「話は聞いてたよね?」
 戻ってきたプフィーがそう言います。
 「うん。十二位研究所に行くのがいいかな?」
 「それしかないでしょ」
 すでにエルマは十二位研究所に行くつもりで、マップを眺めていました。
 「あー。一回中心に戻ってから行かないとダメなんだ。通行止めっぽい」
 見ていたマップをこちらにも見えるようにし、教えてくれます。
 「じゃぁ一度中心通って行こう」
 「うん」
 
 その前にエルマが一度向こうに戻ると言ったので、私も便乗してログアウトし用を済ませ戻ってきました。
 「ごめん、プフィー。おまたせ」
 「気にしなくていいよ。いま情報を纏めてたんだけど……あっ。エルマ戻って来てから話すよ」
 「わかった」
 それから数分してエルマが戻ってきました。
 「おまたせ」
 「おかえり」
 「おかえり。ちょっと情報纏めてたんだけど気になることがあって。聞いてもいい?」
 「うん」
 私がそう言うとプフィーはすぐに語り始めます。
 組織間で情報共有がなされているのか、『レイグ』に協力している組織があるのではないか、とプフィーは言っていました。
 「後者は分からないけど、前者はそうなんじゃない?」
 エルマがそう言って自分の爪を眺め始めました。
 「どうしてそう思うの?」
 プフィーがエルマに聞き返すと、エルマがニッコリ笑いながら「カン!」と言っていました。

 しばらく歩き、十三位研究所を通り越し、十二位研究所へと向かいます。
 「ねぇ。十三位研究所って研究所というよりかはお役所っぽくない?」
 エルマがそう言うとプフィーが少し考えるそぶりをしながら答えます。
 「もしかしたら十三位研究所が国家の中枢なのかもしれないよ。だって一番偉い人が十三位研究所の所長だもん」
 「なるほど」
 なるほど。納得です。

 そのような話をしているとすぐに十二位研究所まで到着します。
 先ほど同様プフィーが門番に話しかけに行きます。
 「すいませン。外来生物についテ、聞きたいことがあるンですけど」
 「外来生物ですか。分かりました。担当のものをお呼びします。少々お待ちください」
 そう言った門番は何かを操作し、門を開け中に入っていきました。
 数分も経たずに白衣を着た女性を連れて戻ってきました。
 「では私は警備に戻ります。あとはお任せいたします」
 「はぁい。ご苦労さまぁ」
 女性らしい声と、少し鼻にかかるような声が、妙に色っぽいですね。
 「私がぁここで外来生物部門の主任でぇす。ファアリルでぇす」
 こちらに近づいて自己紹介をしてきたファリルからふわっと香水のような甘い香りが漂ってきます。
 すんすんと音を立てないように嗅いでいると、それに気付いたのかフェアリルがニッコリ笑いながら私に話しかけてきます。
 「いい匂いでしょぉ。これねぇ、外来生物を寄せる匂いなのよぉ」
 へぇ。広い意味では私たちも外来生物に入ると思うのでこの妙なそわそわ感はそのせいなんでしょうか。
 「話は中でぇ」
 そう言って門を超え、研究所へと入っていくフェアリルについて行きます。

 「応接室はここぉ。入ってまっててねぇ」
 扉を開け、応接室に案内したフェアリルはすぐにどこかへ行ってしまいました。
 「なんていうかさ。あの人、エロい」
 エルマがフェアリルの歩いて行った方向を見ながら応接室に入り、言いました。
 「わかる」
 「わかる。あんな人になりたい」
 「でも研究者だから男寄ってこなさそう」
 「いや。だからこそでしょ」
 エルマとプフィーの謎談義が始まり、私が暇つぶし程度に聞いていると、応接室の扉が開きました。
 「おまたせぇ。外来生物のこと、聞きたいのよねぇ?」
 たくさんのファイルを抱えたフェアリルが入って来て、机の上にファイルをどさっと置きました。

 「というわけでして、外来生物についてお聞かせいただければと」
 プフィーがこちらの事情を話すと、黙って聞いていたフェアリルが口を開きました。
 「そういうことなのねぇ。『レイグ』のやり方は汚いですねぇ」
 お茶を啜りながらフェアリルが言います。
 「四位研究所の解散が決まったってことは『レイグ』が四位研究所に収まるってことですよね?」
 私がフェアリルの方を見ながらそう尋ねると、彼女は首をゆっくり横に振りながら答えました。
 「ちがうわぁ。『レイグ』は『レイグ』のままよぉ」
 「どういうことですか?」
 プフィーが身体を乗り出し、フェアリルに尋ねます。
 「そのままよぉ。いくら四位研究所が空位になったところでぇ、研究はできないものぉ?」
 「というと?」
 「四位研究所の人がいなければあの研究は進まないものぉ。だから『レイグ』の企みはご破算なのぉ」
 「じゃぁなんで四位研究所を『レイグ』が壊そうとしたんですか?」
 私がそう聞くと、一度お茶を手に取り、のどを潤したフェアリルが答えます。
 「壊そうとしたのは『レイグ』じゃないのよぉ。八位研究所よぉ。みんな知ってるわぁ。知らないのは四位研究所と『レイグ』だけねぇ」
 頭が混乱してきました。どういうことなんでしょうか。

 その後も会話が続いたのですが、私の頭が理解を拒絶ました。
 一段落したらプフィーに聞かないといけませんね。
                                      to be continued...
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...