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第5章

第5章7幕 作戦崩壊<mission failed>

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 「正義感が強いのはいいことです。しかし、相手は選びましょう。あなたでは私に勝てません」
 走り出した私の横に並び、リンプはそう言います。
 「っ!」
 右手に握った【短雷刀 ペインボルト】を一度振ると、リンプは姿勢を低くして躱しました。
 「私の首筋を狙っているようですが、それは無駄ですね」
 少し地面を蹴る力をあげたのか、リンプは私の正面に立ち、両手を広げます。
 「さぁ終わりにしましょう」
 広げていた両手を勢いよく閉じ、手を叩きました。
 一度、パンと軽い音がなりましたが、その音が徐々に増幅され、私の聴覚までも奪っていきます。
 目は開けたままでしたが、耳にダメージを負い、視界がぐるぐる回ります。
 デスペナルティーになる直前リンプが何か言っていたようでしたが、聞き取れず、抵抗もできずに私は首をねじ切られました。

 デスペナルティーから蘇生したのは『闇精林』の入口でした。
 ここでも戦闘がされているようで、ジュンヤやてれさな、纏花の姿が見えます。
 こちらに気付いたてれさなが声をかけてきます。
 「チェリーも死んだ?」
 「はい。STRの極フリって強いんですね」
 「筋力がそのままAGIになるのは反則。どう戦う?」
 「遠距離から魔法で殲滅するのが一番有効かなって思います」
 「私もそう思う。でも全力で魔法使って倒したところで、すぐ復帰されたらイタチごっこ」
 「いや。それは大丈夫っす。重罪人っす」
 「ハリリン?」
 突然ハリリンの声が横から聞こえたのでちらりと見ると、靄が晴れるようにハリリンの姿が現れました。
 「うっす。向こうで瞬殺されてから戻って、リンプに瞬殺されて、増援呼びに行ってきたっす」
 そう言ったハリリンが右手の親指を立て後ろを指します。
 「ところでチェリー。STR一極ビルドの弱点ってなんだか知ってるっすか?」
 「分からない」
 「魔法抵抗力が皆無ってことっす」
 「それが分かったところでどうもできないよ」
 「そんなことないっす。作戦を伝えたいんすけどステイシーはいないっすか?」
 「どこかにはいると思うけど、ここにはいない」
 「呼んでほしいっす。あと誰か水魔法に強い人はいないっすか?」
 「それなら私のフレにいる」
 「呼んでくださいっす」
 「了解」

 ハリリンに言われた通り、私はステイシーにチャットを送ります。
 『わかったー。すぐ戻るー』
 『お願いね』
 「ハリリンステイシーは本都市にいるみたいですぐ戻ってくるって、他のみんなも来るらしい」
 「助かるっす。あっ。サツキがいるなら少し作戦変更っす」
 「こっちももうすぐ来る」
 「りょーかいっす」

 そして数十分でみんなが揃い、ハリリンの作戦を聞きます。
 「水の中では呼吸ができないっす。そして水の中ではSTRが制限されるっす」
 ダイビングをしたときに経験したあれですね。STRを10分の1にできればさほど苦労する相手ではなさそうです。
 「なんで水の中に閉じ込めたいんすけど、方法が二つあるっす」
 「二つとは?」
 サツキが疑問に思ったらしくそう聞きます。
 「一つ目っす。魔法で水牢を作る方法っす。二つ目は、水中、それも海底に転移させてしまう事っす」
 「転移か。ここにはうってつけの人材がいるようだが?」
 サツキがそう言って、レディンを見ます。
 てれさなが呼んだ水魔法に強い人はレディンだったみたいです。
 「なるほどですね。そう言うことですか。お安い御用です!」
 「じゃぁ水中に転移させるってことでいいっすね。誰か氷魔法を上級……絶級で使える人いるっすか?」
 「生憎だがいないようだね」
 ぐるりと見回し、誰も手が上がらないところを見るとここにいる誰しもが絶級氷属性魔法を修めていないようです。
 「まぁいいっす。水中戦闘装備持ってる人はいるっすか?」
 「私が持ってる」
 ダイビングした経験があるので一式あります。
 「チェリーと俺だけっすか。なら二人で潜って殺すっす」
 「まって。水中に潜ったらこっちもステータスが」
 「心配いらないっす。≪高圧≫対策ならサツキがいるじゃないっすか」
 「どういうことだい?」
 白羽の矢が立ったサツキは何のことだかわからない様で、聞き返していました。
 「≪エアー・ブレッド≫っす」
 「なるほど、そう言うことか。ならエルマを連れてきて正解だったね」
 私には何のことだか分かりませんが、サツキが分かったなら大丈夫でしょう。
 「エルマも行けるっすか?」
 「≪エアー・ブレッド≫は使えないよ?」
 「精霊魔法で鎧を作れば一緒っす」
 「なるほど」
 なるほど。
 「確認するっす。レディンが転移。サツキ、エルマが水中戦闘サポート。俺とチェリーが実働。てれさなは回復。愛猫姫は俺たちが転移する前に殺されないようにガードっす」
 「抽象的だけれどわかったからいいか。じゃぁ筋肉バカに一泡吹かせようか」
 「誰に一泡吹かせるんです?」
 突如、背後から声が聞こえ、サツキに掴みかかろうとした瞬間、ジュンヤとともに『ELS』と戦っていたはずの纏花がその腕を押さえました。
 「どうしました? 僕の方が力があるように見えますが?」
 「やりますね。でも私の方が一枚上手と言えます」
 そう言ったリンプが纏花の膝を蹴っていて、骨が砕ける音が響きます。
 「うっ!」
 「慣れていないことはするもんじゃありませんよ」
 纏花を地面に叩きつけ、頭を踏み抜きました。
 「次は誰にしましょうか。おや。これは面白い相手です」
 次の対象をマオに定めたようで、言い終わると走り出しました。
 「今のうちにするっす!」
 ハリリンの叫びを聞いたメンバーが準備をしようとしますが、リンプがマオの首を握りながら答えます。
 「残念ですが、その作戦はすでに破綻しています」
 先ほどまで背後に隠していた腕をこちらに見せてきます。そこには首を握られているレディンがいました。
 「一手、二手遅いです。ですから、愛猫姫のギルドに翻弄されたのですよ。廃人おばかさん」
 するとレディンの首を握りつぶし、デスペナルティーにしたリンプは、マオの首を同じように握り潰そうとします。
 「さすがに硬い。厄介なスキルです」
 言い終わったリンプが何故かマオを開放し、態勢を崩し片足を地面につけます。
 その理由は二つ。
 一つは、まだ纏花がデスペナルティーになっておらず、リンプの片足を切断したこと。
 もう一つは、死角からサツキが魔銃でマオを掴む腕を狙撃したこと。
 「予想外と言えるでしょう。さすがにこれは読めませんでした」
 リンプの足元にいる纏花が、潰れた顔でこちらを見て、「あと、任せます」そう口だけで伝え、デスペナルティーになりました。
 「ではこの後はどうするつもりですか? 是非私に見せてください。最高の足掻きを、そして圧倒的な力量差を見せつけられ、絶望に暮れるあなた達の姿を」
 私はぎゅと拳を握り、声をかけます。
 「ステイシー。エルマ。サツキ」
 「何を言うのかだいたい分かった」
 「僕もー」
 「ワタシもだ」
 「ありがとう。てれさなさん。手伝って貰えますか?」
 「遠距離なら任せて」
 「ハリリンももちろん協力してくれるよね?」
 「当たり前っす」
 「ふぅ。私とハリリンが前衛、中衛がエルマ、サツキ、後衛がステイシーとてれさなさん」
 私はそう言いながらパーティーを組みなおします。
 「てれさなさんはハリリンの転移を、ステイシーは私の。エルマは中距離で精霊魔法、サツキは援護。私とハリリンで殺る」
 そこまで言い切り、一度深呼吸をします。
 そして精神を落ち着け、自分の胸に刻みます。
 私はかつての仲間と今の仲間、そして新しい仲間とリンプを倒すと。
                                      to be continued...
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