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第5章

第5章2幕 マグロ<tuna >

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 「使いどころあるのかな?」
 600万金を支払いインベントリにしまったエルマがそう言います。
 じゃぁ買うなよ、という突っ込みは声に出さず、「そのうちあるんじゃない?」と返しておきました。
 
 その後店を出て、散歩を続けます。
 前回来た時に比べ、お店の数が増えているように感じます。
 「お店増えてるよね?」
 エルマも同じことを思ったようで、そう言っていました。
 「新マップへの転移門があるかもしれないっていうだけで、集客効果があったんじゃない?」
 「かもしれないね。おなか減った」
 「分かる。どこかお店に入ろっか」
 この都市ではプレイヤーの店を探すほうが安定して美味しいものが食べられると学んでいた私達は、掲示板や、マップを頼りにプレイヤーの店を探します。

 少し探し回り、プレイヤーのお店を見つけました。
 「焼き魚のお店だってさ」
 「へぇ。いってみようか」
 「そだね」
 暖簾をくぐり、扉を開けます。
 「いらっしゃいませ。2名様ですね。そちらへどうぞ」
 空いていた席に案内され、名物と書いてあった料理を注文します。
 「この世界にもマグロがあるのは知らなかった」
 「たしかに」
 「釣りが趣味でしてね。朝ログインしてマグロ釣りに行くんですよ」
 カウンターの向こう側にいたプレイヤーの男性がそう言います。
 「この世界マグロ釣れるんですね」
 「ええ。まぁ最近知った事なんですけどね。おかげで店が持てました」
 そう言いながら刺身を切っている様で、話終わると同時にお皿を渡してきます。
 「刺身です」
 「ありがとうございます」
 「おいしそー」
 醤油をお皿にちょこっと出し、刺身を浸して食べてみます。
 「あっ。脂がのっていて美味しい」
 「おいしいね!」
 二人で無言で刺身を食べ、おかわりもし、満足いくまで食べた私達はお店を出ます。
 「プレイヤーのお店ならはずれないね」
 私がそう言うとうんうんと頷きながらエルマが答えます。
 「味はするもんね」
 「この後どうする?」
 「どうするって言われてもねー。明日現地まで行くんでしょ? やることないよね」
 「だよね。まぁ私が転移できない場所だったら今頃は出発する羽目になってたんだろうけど」
 「チェリーさまさまだね。そうだ。いいこと思いついた。チェリーいまレベルいくつ?」
 エルマにレベルを聞かれたので答えます。
 「Lv.354だよ」
 「あんま変わらないか」
 そう言ったエルマは確かLv.361くらいだったはずです。
 「ここしばらく狩りが続いたからね。思ったより上がってるかな」
 「分かる。素材集めでも行く?」
 「この時間に?」
 今の時刻が午後7時前後なので、朝型モンスターは巣に帰り、夜型モンスターはまだ巣から出ていないというなんとも微妙な時間です。
 「そっかー。おとなしく散歩でもするか」
 そう言って歩き出すエルマとぶらぶら街を歩き回り、雑貨店を物色したり、武器屋や防具屋、服屋で試着したりしながら時間を潰しました。

 「おっとショッピングしてたらこんな時間だ」
 エルマがそう言ったので、私も時間を確認します。
 「暇つぶしにはショッピング、だね」
 「おうよ。さて宿に帰ろう」
 「うん」
 今いる場所は宿からそんなに遠くない場所なのですぐに戻ってこれました。
 部屋に戻り、生きた家具に囲まれながら私はログアウトします。

 現実に戻ってきて用をすべてすました後、私はパソコンの前に座り、ネットの海をサーフィンします。
 <Imperial Of Egg>の掲示板を覗くと、やはり明日実装の新マップについての考察がたくさん出ていました。
 一通りの考察を眺め、眠気がやってきたので私は椅子から立ち上がり、ベッドへ向かいます。
 明日が楽しみで眠れない……等ということはなく、すんなりと夢の世界に足を踏み入れました。

 午前9時ごろに目を覚ました私は、こちらでやることを済ませ、すぐに<Imperial Of Egg>にログインします。
 パーティメンバーはサツキを除いてそろっているようで座標を確認すると皆一階にいます。
 階段を降り、合流しました。
 「気になってたこと言ってもいい?」
 「何かねチェリー君」
 エルマが紅茶のカップから口を話しそう返事します。
 「ここで待ち合わせって決めてないけどいつもここだよね。2ヶ月前もだけど」
 「それなら簡単だよー。一番最初にログインする僕が、ここでコーヒーを啜ってるからさー」
 「そのあとにログインするあたしがステイシーのいる席に机にくるからさ」
 「マオが、そのあとに来るのよ」
 お前ら打ち合わせでもしたのか?
 「な、なるほどね」
 「本当ならサツキが二番目に来るところなんだけどねー。執筆が忙しいらしい」
 「言ってたね」
 先日からサツキは新連載を持ったようで、そちらの執筆が忙しいと嘆いていました。
 「たしかタイトルは……」
 「『重課金兵だった俺が異世界で無一文。首くくっていいですか?』よ」
 マオは読んでいるらしくタイトルもきっちりと覚えていました。
 「でも意外だったかな。サツキ異世界もの苦手じゃなかったっけ?」
 「あぁ。苦手だね。だが、書いてくれと言われたら断らずに書こうじゃないか。ワタシの作品を求める読者がいる限り、ね」
 後ろからサツキが声をかけてきました。
 「おはよう」
 「おはー」
 「おはよー」
 「おはよう」
 「遅くなってすまなかったね。あぁ。みんなおはよう。して今日は例の転移門とやらに行くんだろう。楽しみで仕方ないよ」
 異世界ものを書いているからか、とても乗り気のようです。
 「じゃぁみんなそろったしいこっかー」
 立ち上がったステイシーが全員分の代金を支払い宿の外へ向かって歩いていきます。
 それに続き、私達も外に出ます。
 「チェリー。5人分いけそうー?」
 「うん。なんとか。レベル上がったおかげでMPの上限も増えたし」
 狩りばかりやっていたおかげでMPもかなり増え、魔法系の中でも多い部類になっているので、問題ないと答えます。
 「じゃぁおねがいー」
 「≪ディメンション・ポータル≫」
 新しく習得した転移魔法を発動します。
 「おー。これが≪ディメンション・ポータル≫かー。初めて見たー」
 「≪ワープ・ゲート≫との違いは何なの?」
 エルマにそう聞かれたので簡単に説明します。
 「んーと移動人数でのMP増加がないことと常駐型っていうことかな。代わりに発動中はMPとENの上限が制限される」
 「便利だねー。でもMPとENの制限はきついねー」
 「うん。普通に≪ワープ・ゲート≫のほうが優秀だね」
 そう話しながらポータルに触れます。
 実はこの魔法にはもう一つメリットがあって、それは設置済みのポータルに魔力消費なしで飛べる事でしょう。今回は移動先にポータルを設置していないのでMPを消費してしまいますが。

 「んー。移動にも時間がかかるねー。僕向きじゃないかなー」
 「たぶん私向きでもない。折角だし使ってみただけだからこれはしばらく封印かな」
 「ここが転移門のあるらへんなのかな?」
 私とステイシーの会話をまるで聞かずにエルマが周囲をきょろきょろします。
 「分からない。『聖精林』に飛んだだけだから」
 「こっちだよー」
 把握しているらしい、というより地図のようなものを広げたステイシーが手招きします。
 
 ステイシーについていき、5分ほど歩くと、話し声が聞こえてきました。
 「結構いるみたいだねー」
 「…………」
 無言でどこかを眺めるマオが少し気になり声をかけます。
 「マオ? どうしたの?」
 「やっかい、なのが、いるわ」
 マオはこの前、新しい【称号】を手に入れたようで、その【称号】に備わったスキルから何かを感知したようです。
 「≪探知≫」
 「≪広域探知≫」
 私とステイシーが同時に≪探知≫と≪広域探知≫を発動し、周囲を調べます。
 するとマオが、やっかい、といっていた通り、厄介な相手がいました。
 私達の≪探知≫に名前や、ギルド名を隠すどころか前面に押し出してくるような連中です。
 いまそんなことを好んでやっているのはあいつらしかいませんね。
 「『ELS』……」
 今現在<Imperial Of Egg>を遊んでいるプレイヤーなら知らない人のほうが少ない悪名高いギルドの『ELS』がこちら、というよりかは転移門周辺を監視しているようでした。
 「気にせずに行こう。相手にするだけ無駄な連中だ」
 サツキが構えていた銃をホルスターにしまいそう言います。
 「うん。急ごう」
 私達は駆け出し、人が集まっている転移門周辺へと急ぎました。
                                      to be continued...
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