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番外編 第4部
<ステイシー<Imperial Of Egg>開始編>
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僕は小さい頃から姉の後を追いかけていた。6歳年上の姉は、僕からしたら大人だった。
物心がついたときから僕の前にいた姉がやることはなんでも真似していた。
ピアノ、バレエ、書道、テニス……。
あげ出したらきりがないほどに。
嫌いではなかったと思う。
好きかと言われればそうも言い切れない。
姉は誰からも好かれる力があった。
容姿、話し方、雰囲気。
どれも僕にはないものだ。
そんな姉に僕は……。
はっと目を覚ました僕は自分の様子を眺める。
あー。洋服のまま寝ちゃったー。
昨日のことで疲れがたまっていたのだろう。
昨日は、僕の家に衝撃が走った。
でも僕はある程度予想していた。
両親が離婚したのだ。
なんてことはない、ただ離婚した。
不貞を働いたわけでも、金銭的な問題もない。だからこそ、なのだ。
両親も、姉も、僕も、常に何か新しい物や新しい事をするのが好きだった。
新しい調理器具、新しい家具、新しい本、新しい玩具。新しいということが僕の家では価値があった。
そんな両親だからこそ、代り映えのしない生活に終止符を打つ為に、僕が生まれてから15年経った、この時を見計らって離婚したんだと思う。
別れは辛かった。
一番辛かったのは母との別れよりも、姉との別れだった。
姉には何度もそこが嫌いだと告げはしたものの、どうしても心の底から嫌いになることはできなかった。自分でもよくわからないけれど。
そして母と姉は苗字を乙葉から旧姓の伊戸明に戻し、僕達は永久に別れた。血というつながりだけを残して。
引っ越し屋とともに出て行く母と姉の姿を玄関で父と見送り、僕は父親に詰め寄った。
なぜおまえが僕を引き取るのか、と。
僕がこの件で怒っていることはただ一つ。僕が父親への生贄にされたからだ。
生贄というと虐待等を連想されそうになるが、そうではない。
この父親は愛が重すぎるのだ。
母と姉がいなくなった今、その負担が全て僕にのしかかると思うと先が思いやられる。
だからこそ疲労で洋服のまま寝てしまったのだ。
「これから二人で仲良くやってこじゃねーか!」と父はそう言って豪勢な出前を頼んだ。
そして「新たな旅立ちに!」と言って、たくさんのプレゼントを用意していた。
やっとの思いで解放された僕は、部屋に戻りすぐに眠ってしまった。
昔の夢を見るなんてねー。
ゲームでもやろうかなー。今日学校休みだし。
頭を一通り整理し終え、僕はベッドから出た。
そして電源が入れっぱなしになっていたパソコンのモニターを覗く。
んー。このゲームも人が減ってきたのかなー。なかなかアイテムが売れないやー。
僕が今やっているゲームは<アリアン>というゲームだ。
VR色々なゲームがVR化されつつあるこの時代において、昔懐かしい2Dドット調が凄く気に入っていた。
もちろんVRのゲームもやる。
ただVRに気に入ったゲームがないだけで。
僕は深く考えずにランキングサイトで一位になっていたゲームをインストールした。
VRではないが、グラフィックがそこそこよく、スペックの低いパソコンでも遊べるとうたっていた。
<カース・レビュー・オンライン>というゲームだそうだ。
スムーズにインストールを終え、キャラクタークリエイトの画面へと移る。
髪の毛を長く、身長は低く、でも男性のキャラクターで。
いつでもどんなゲームでも、同じキャラクタークリエイトをする。
名前はいつも通りステイシーと付けた。
初めてやったオンラインゲームでフレンドにつけてもらってから、ずっと気に入って使っている。それに捨て石って言葉は嫌いじゃない。
数時間ほど遊び時計を見る。
結構楽しめるゲームの様だ。
ゲーム内で騎乗することのできる乗り物の捕獲や、釣り、栽培、色々なコンテンツが充実していて、当面はこのゲームで遊べるだろう。
数か月ほど経った頃、そのゲームで遊んでいると、ゲーム内にとある警告文が出た。
『強敵出現』
僕はある意味でこの未来を予想していたのかもしれない。
様々なオンラインゲームを遊んできた僕にはサービス終了という言葉はそう重いものではなくなっていた。
サービス終了の時どんなイベントを起こしてほしいか、昔遊んでいたゲームで運営がアンケートをしたことがあった。
僕の回答は『強敵にマップやらなにやら全て破壊してほしい』だった。
遊んでいたゲームがただデータとして処理されるのは寂しかったからだ。
ならば、いっそ倒せないくらい強い敵に世界を壊してほしかった。
そう思っていただけだ。
『強敵出現』の警告を見た瞬間僕は驚いた。
運営に対して、ではない。
自分自身だ。
自分が望んでいた事だけれど、実際目の前でそれが行われると、やはり許せないと感じてしまったのだ。
だから僕は武器を取った。
届くわけのない剣を持ち、必死に戦った。
そしてゲームのサーバーが応答を停止した。
何もできなかった自分が許せなかった。
落ち着いて考え、これは仕方のないことだと諦めることができた。
それが何度も続かなければ。
そのイベントが話題になり、他のゲームメイカーも同じことをやり出した。
討伐不可能のモンスター。
不可侵エリアから攻撃をばらまくモンスター。
どれも僕がやっているゲームばかりだった。
何度も繰り返されるそのイベントに僕はゲームをやるのが怖くなっていった。
「真琴。<Imperial Of Egg>って知ってるか?」
「なにそれー。しらないー」
「なんか新規サービス開始のネトゲらしい。真琴ネトゲ好きだろ?」
「好きだけどねー。あんまり最近はやってないかなー」
「俺の同僚も最近サービス終了ラッシュでもうやめるって言ってたな。真琴もその口か?」
厳密には違うがそういうことにしておくことにした。
「そんなところー」
「そうか。高性能のパソコンとか欲しかったら言えよ!」
「それは欲しいかもー」
「そう言うと思ってな!」
父はドカッと椅子の下に見え見えの状態で置いてあった箱を差し出してきた。
「プレゼントだ!」
「最新型のゲーミングパソコンだねー」
「知ってたか! そう言うことだ受け取ってくれ!」
「ありがとー」
僕は貰った高性能ゲーミングパソコンを抱えて部屋に戻った。
一通りの設定を終え、インターネットで<Imperial Of Egg>を検索する。
注目度も高いようで、たくさんの実況動画や、レビューなどが上がっていた。
どうせまた終わっちゃうんだろうなー。
そう考えながらも無意識のうちに僕はインストールをしていた。
ステイシーと名付けた僕の分身は再びネットゲームの世界に降り立った。
高グラフィックスをうたう他のゲームよりもグラフィックはきれいで、臨場感のあるサウンド、多種多様な武器、【称号】、スキル。
そのどれもがこのゲームに終わりがないと確信するには十分だった。
それからは毎日のように遊んでいた。
高校を卒業し、大学へ入ってからも変わらずに。
久々に熱中できるものができて良かった、心からそう思う。
「やー。てれさなさんー。久しぶりー」
僕は向かいから歩いてくる少女のキャラクターにチャットを送る。
「ステイシー。久しぶり」
「今日も一段とテンションが低いねー」
「それはいつも。暇だし遊ぶ?」
「いいねー。どこか行きたいところある?」
「二人とも遠距離だから、飛び物狩る」
「そうしよー」
チャットを送りながら僕は思う。
このゲームが末永く続くように、と。
to be continued...
物心がついたときから僕の前にいた姉がやることはなんでも真似していた。
ピアノ、バレエ、書道、テニス……。
あげ出したらきりがないほどに。
嫌いではなかったと思う。
好きかと言われればそうも言い切れない。
姉は誰からも好かれる力があった。
容姿、話し方、雰囲気。
どれも僕にはないものだ。
そんな姉に僕は……。
はっと目を覚ました僕は自分の様子を眺める。
あー。洋服のまま寝ちゃったー。
昨日のことで疲れがたまっていたのだろう。
昨日は、僕の家に衝撃が走った。
でも僕はある程度予想していた。
両親が離婚したのだ。
なんてことはない、ただ離婚した。
不貞を働いたわけでも、金銭的な問題もない。だからこそ、なのだ。
両親も、姉も、僕も、常に何か新しい物や新しい事をするのが好きだった。
新しい調理器具、新しい家具、新しい本、新しい玩具。新しいということが僕の家では価値があった。
そんな両親だからこそ、代り映えのしない生活に終止符を打つ為に、僕が生まれてから15年経った、この時を見計らって離婚したんだと思う。
別れは辛かった。
一番辛かったのは母との別れよりも、姉との別れだった。
姉には何度もそこが嫌いだと告げはしたものの、どうしても心の底から嫌いになることはできなかった。自分でもよくわからないけれど。
そして母と姉は苗字を乙葉から旧姓の伊戸明に戻し、僕達は永久に別れた。血というつながりだけを残して。
引っ越し屋とともに出て行く母と姉の姿を玄関で父と見送り、僕は父親に詰め寄った。
なぜおまえが僕を引き取るのか、と。
僕がこの件で怒っていることはただ一つ。僕が父親への生贄にされたからだ。
生贄というと虐待等を連想されそうになるが、そうではない。
この父親は愛が重すぎるのだ。
母と姉がいなくなった今、その負担が全て僕にのしかかると思うと先が思いやられる。
だからこそ疲労で洋服のまま寝てしまったのだ。
「これから二人で仲良くやってこじゃねーか!」と父はそう言って豪勢な出前を頼んだ。
そして「新たな旅立ちに!」と言って、たくさんのプレゼントを用意していた。
やっとの思いで解放された僕は、部屋に戻りすぐに眠ってしまった。
昔の夢を見るなんてねー。
ゲームでもやろうかなー。今日学校休みだし。
頭を一通り整理し終え、僕はベッドから出た。
そして電源が入れっぱなしになっていたパソコンのモニターを覗く。
んー。このゲームも人が減ってきたのかなー。なかなかアイテムが売れないやー。
僕が今やっているゲームは<アリアン>というゲームだ。
VR色々なゲームがVR化されつつあるこの時代において、昔懐かしい2Dドット調が凄く気に入っていた。
もちろんVRのゲームもやる。
ただVRに気に入ったゲームがないだけで。
僕は深く考えずにランキングサイトで一位になっていたゲームをインストールした。
VRではないが、グラフィックがそこそこよく、スペックの低いパソコンでも遊べるとうたっていた。
<カース・レビュー・オンライン>というゲームだそうだ。
スムーズにインストールを終え、キャラクタークリエイトの画面へと移る。
髪の毛を長く、身長は低く、でも男性のキャラクターで。
いつでもどんなゲームでも、同じキャラクタークリエイトをする。
名前はいつも通りステイシーと付けた。
初めてやったオンラインゲームでフレンドにつけてもらってから、ずっと気に入って使っている。それに捨て石って言葉は嫌いじゃない。
数時間ほど遊び時計を見る。
結構楽しめるゲームの様だ。
ゲーム内で騎乗することのできる乗り物の捕獲や、釣り、栽培、色々なコンテンツが充実していて、当面はこのゲームで遊べるだろう。
数か月ほど経った頃、そのゲームで遊んでいると、ゲーム内にとある警告文が出た。
『強敵出現』
僕はある意味でこの未来を予想していたのかもしれない。
様々なオンラインゲームを遊んできた僕にはサービス終了という言葉はそう重いものではなくなっていた。
サービス終了の時どんなイベントを起こしてほしいか、昔遊んでいたゲームで運営がアンケートをしたことがあった。
僕の回答は『強敵にマップやらなにやら全て破壊してほしい』だった。
遊んでいたゲームがただデータとして処理されるのは寂しかったからだ。
ならば、いっそ倒せないくらい強い敵に世界を壊してほしかった。
そう思っていただけだ。
『強敵出現』の警告を見た瞬間僕は驚いた。
運営に対して、ではない。
自分自身だ。
自分が望んでいた事だけれど、実際目の前でそれが行われると、やはり許せないと感じてしまったのだ。
だから僕は武器を取った。
届くわけのない剣を持ち、必死に戦った。
そしてゲームのサーバーが応答を停止した。
何もできなかった自分が許せなかった。
落ち着いて考え、これは仕方のないことだと諦めることができた。
それが何度も続かなければ。
そのイベントが話題になり、他のゲームメイカーも同じことをやり出した。
討伐不可能のモンスター。
不可侵エリアから攻撃をばらまくモンスター。
どれも僕がやっているゲームばかりだった。
何度も繰り返されるそのイベントに僕はゲームをやるのが怖くなっていった。
「真琴。<Imperial Of Egg>って知ってるか?」
「なにそれー。しらないー」
「なんか新規サービス開始のネトゲらしい。真琴ネトゲ好きだろ?」
「好きだけどねー。あんまり最近はやってないかなー」
「俺の同僚も最近サービス終了ラッシュでもうやめるって言ってたな。真琴もその口か?」
厳密には違うがそういうことにしておくことにした。
「そんなところー」
「そうか。高性能のパソコンとか欲しかったら言えよ!」
「それは欲しいかもー」
「そう言うと思ってな!」
父はドカッと椅子の下に見え見えの状態で置いてあった箱を差し出してきた。
「プレゼントだ!」
「最新型のゲーミングパソコンだねー」
「知ってたか! そう言うことだ受け取ってくれ!」
「ありがとー」
僕は貰った高性能ゲーミングパソコンを抱えて部屋に戻った。
一通りの設定を終え、インターネットで<Imperial Of Egg>を検索する。
注目度も高いようで、たくさんの実況動画や、レビューなどが上がっていた。
どうせまた終わっちゃうんだろうなー。
そう考えながらも無意識のうちに僕はインストールをしていた。
ステイシーと名付けた僕の分身は再びネットゲームの世界に降り立った。
高グラフィックスをうたう他のゲームよりもグラフィックはきれいで、臨場感のあるサウンド、多種多様な武器、【称号】、スキル。
そのどれもがこのゲームに終わりがないと確信するには十分だった。
それからは毎日のように遊んでいた。
高校を卒業し、大学へ入ってからも変わらずに。
久々に熱中できるものができて良かった、心からそう思う。
「やー。てれさなさんー。久しぶりー」
僕は向かいから歩いてくる少女のキャラクターにチャットを送る。
「ステイシー。久しぶり」
「今日も一段とテンションが低いねー」
「それはいつも。暇だし遊ぶ?」
「いいねー。どこか行きたいところある?」
「二人とも遠距離だから、飛び物狩る」
「そうしよー」
チャットを送りながら僕は思う。
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