VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

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第4章 精霊駆動

第4章55幕 雑用<chore>

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 夢なのか現実なのかわからない心地よい浮遊感を感じている私の耳にうるさい通知音が鳴り響きます。
 はっきりとしない意識の中でわたしは携帯端末を手に取り、音を消します。
 『チェリー。おきて』
 どこからともなくそんな声が聞こえてきます。
 『おーい。11時になるよ』
 11時……?
 それを聞いた瞬間私の意識は覚醒します。
 「わあああああ!」
 ベッドから飛び起き、改めて携帯端末を確認します。
 『おきたかい?』
 「あれ? エルマ?」
 『そうだよ。4回くらい電話かけたんだけど?』
 「ごめん全く気が付かなかった」
 『寝てたなら仕方ないね。11時だよ』
 うるさかった通知の音をアラームではなく、着信音だったみたいですね。アラームではなかなか起きられず、着信音をアラーム音に設定していたので勘違いしていました。
 「トイレ言ってちょっと何か胃に入れてからログインするね」
 『わかった。鍛冶屋の前でまってるよん』
 「うん」

 エルマとの通話を切った後、私は支度を済ませます。
 10時55分。
 きっかり5分前ですね。何とかなるものです。
 そう心の中で呟きながら私は専用端末をかぶり、<Imperial Of Egg>にログインします。

 宿屋で目覚めた私は、すぐに部屋を出て、鍛冶屋に向かって歩いていきます。
 最近、起きる時間を決めてから寝ると、ギリギリまで寝てしまうんですよね。うーん。治したい。
 昨日、エルマと歩いた道を一人で歩き鍛冶屋までやってきました。
 「ギリギリセーフ」
 エルマが私に向かってサムズアップします。
 「起こしてくれてありがと」
 「気にしなくていいよん」
 私がエルマと朝の、と言ってももう昼ですが、挨拶を交わしていると鍛冶屋の扉が開きます。
 「おっ。嬢ちゃん達来たか。入ってくれ」
 扉を開けたデュレアルが私達を工房に招き入れます。
 「すごいクマですけど大丈夫ですか?」
 デュレアルの表情を見て私はまず思ったことを伝えます。
 「あぁ。気にすんな。徹夜で色々とやっててな。いつもこうなんだぜ。面白い機構とか思いついた日にゃ徹夜だ」
 ははは、と笑いながら、彼は隅で寝ていいるアインとリベラルを蹴り起こします。
 「起きろ!」
 「おう」
 「来たか」
 あっ。目覚めがいいタイプの人たちですね。
 「嬢ちゃんまずはこいつを見てくれ」
 デュレアルがかぶさっていた布をバッと取り払います。
 「おお!」
 布の中から出てきたのは、ほぼ現実世界のバイクと言っても過言ではないものでした。
 「すごいですね!」
 「すげー!」
 エルマもびっくりしているようです。
 「まだ仮組だからな、細かい手直しをして正式に完成だ。ちょっとここにまたがってくれるか?」
 デュレアルがの椅子の部分に相当するであろう場所を指さします。
 「ここですか?」
 「ああそうだ。そんで両手を伸ばしてくれ」
 「こうですか?」
 そう言って私は両手を上に伸ばし、万歳します。
 「違う違う。前にだ」
 「あっ」
 少し耳が熱くなる感覚を覚えながら私は上げた両手を前に下ろします。
 「ちょっとそのままで頼むな。リベラル測ってくれ」
 「あいよ」
 定規のようなものを取り出したリベラルが私の手首辺りから長さを測っています。
 「これは?」
 気になったので聞いてみます。
 「あぁ。これは手の長さを図ってちょうどいい場所に操縦桿が来るように調整すんだ。次は少し前のめりになってくれ」
 「はい」
 言われた通り行い、また長さを測られます。
 「大丈夫だ。降りていいぞ」
 「わかりました」
 するとさっきまでフレームを眺めていたアインがダダっと走り出し、何かを取りに行きました。
 不思議そうに見ていると、デュレアルが理由を教えてくれます。
 「ほら。このフレームってアインのだろ? 調整用のパーツをとりに行ったのさ」
 「なるほど」
 「俺もちょっと驚いたがな。嬢ちゃん腕長げぇんだな」
 「えっ?」
 そう言われた私は自分の両手を眺めます。
 「確かにチェリーって腕長いよね」
 「そうなの?」
 「うん」
 自分でも知らない事を知り、少し驚きました。気にしたこともなかったので。
 「よし。つぎはちんまい嬢ちゃんだ。これにまたがりな」
 「わーい!」
 ピョーンと骨組みにジャンプしてまたがるエルマも同じように測り、リベラルがすぐに骨組みをいじり始めます。
 「デュレアル。こっちはすぐ終わるから、そっちの詰めを頼む」
 「あぁ」
 エルマの方は特に大きな調整が必要ではないようなので、すぐ終わるそうですね。
 「詰めと言っても最終デザインだ。色は何がいい?」
 「そうですね。今私が来ている服にあう感じで」
 「いいのか? どぎついピンクになるぞ?」
 「それはそれでカワイイので」
 「そ、そうか。まぁ色が気に食わなかったらでけぇ都市の塗装屋にいきな。上手く塗ってくれる」
 「分かりました」
 「んじゃぁ俺は手直しが要らん部分の接続を始めるか」
 そう言ったデュレアルが現実世界でよく見るスパナやドライバー、バーナーのようなものを取り出します。
 すっごい現実感増してきましたね。

 しばらくエルマと話しつつ、ぼーっと作業を眺めていると、リベラルが息を切らしながら帰ってきました。
 「待たせたな。デュレアル操縦桿先につけていいか?」
 「いや。待ってくれ。まだ精霊駆動が組み込めてない」
 「そうだったな」
 「ということだ嬢ちゃん。もう一度こっち来てくれ」
 「なんです?」
 デュレアルに呼ばれたので私はそちらに歩いていきます。
 「ここに魔力を込めながらこいつをはめ込んでくれ」
 「わかりました」
 昨日渡した精霊駆動を入れた筒のようなものを渡してきます。受け取った私は魔力を込めながらデュレアルが指さす場所にはめ込みます。
 「次は反対側だ」
 「あれ? そう言えば前と後ろに一個づつ積むんじゃ?」
 昨日は確かにそう言っていたはずです。
 「いや。最初はそのつもりだったんだが、そうすると問題があってな」
 「どんな問題です?」
 「止まれない」
 「「そりゃ大問題だわ」」
 時代が進んだ現実世界でも未だに整備不良による事故などが起きていますからね。ゲームの中とは言え気を付けないといけません。
 「だからどちらも後方において、右側と左側で積むことにした。ここだ」
 先ほどと同様に魔力を込めてはめ込みます。
 「魔力の扱い上手いな」
 「一応魔導師ですから」
 「納得だ。まだ力を使ってもらう工程がある。少し待っててくれな」
 デュレアルがリベラルと二人で頭をぶつけあいながら操縦桿と何かを接続して行きます。
 「嬢ちゃんこっちだ」
 「はい」
 「この操縦桿の両側に魔力を吸うための機構が付いてる。そこに魔力を流し込みながら、こいつを回してくれ」
 円盤に取っ手が付いたものを渡してきます。
 「あぁ。操縦桿の端にまだ穴があいてるだろ? そこに円盤の内側の突起を差し込んでくれ」
 「あっ。なるほど」
 言われた通りに操縦桿の穴に円盤をはめ込みます。
 「よし。回せ。魔力は思い切り込めていいぞ」
 「ふんっ!」
 全身から魔力を放出し、それをこの円盤を通してバイクに流し込むイメージをしながら円盤を回します。
 「すげぇ魔力量だな」
 「うっ! ん? 回らなくなりました」
 「反対側も頼む」
 「わかりました」
 反対側も同様にすると、流石に魔力が空っぽになりそうだったので、ポーションを飲みます。
 あっ。久しぶりにポーション飲んだけど、『エレスティアナ』の食事よりおいしい。
 「後、他になにかやることはありますか?」
 「じゃぁこれだけ頼めるか?」
 そう言ったデュレアルがクッションのようなものを渡してきます。
 「こいつにそこにおいてある皮を巻いてくれ」
 「わかりました」
 クッションを持って別の作業台に行き、皮を巻きつけます。
 すでにエルマはこの作業も終え、完成形に近づく自分の二輪車を眺めています。

 「できました。こんな感じでいいですか?」
 「おお。上出来だ。さぁここからは見てても楽しい作業じゃねぇ。うるせぇしな。どっかで飯でも食ってこい。2時間足らずで終わるだろうさ」
 「分かりました。そうします。お土産買ってきますね」
 「頼むわ」
 そう言った私達は工房を出て、昼食を食べに行きます。
                                      to be continued...
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