VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑

文字の大きさ
上 下
129 / 259
第4章 精霊駆動

第4章40幕 悪役<villain>

しおりを挟む
 「この辺でいいかなー?」
 「結構……離れたよね……?」
 体感的には10分ほど走ったはずです。
 後ろを振り返っても、『雷精の里 サンデミリオン』は見えず、どちらかといえば『風精の高原 ウィンデール』の風車が見える位場所です。
 「誰もいないんだよねー?」
 「うん。昨日私が行った時は誰もいなかった」
 「なら大丈夫かー。≪拡声≫」
 『えーっと。『ヴァンヘイデン』の騎士団かなー? 僕たちは『ウィンデール』にいるよー。無関係な人を巻き込みたくないからこっちにきてくれるー?』
 ステイシーが発動した≪拡声≫は一定範囲に自分の声を広げるもので、さらに対象も決められるという便利なスキルです。私は使えません。
 「これでおっけーかなー? たぶんすぐ来るよー」
 息を整えつつ、『ウィンデール』まで道を歩きます。
 「見つけたぞ!」
 横合いから大声が聞こえます。
 次の瞬間抜刀した騎士がこちらに飛び掛かってきます。
 「ちょっと落ち着いてー。『ウィンデール』に着いたら指揮官と話がしたいー」
 「くっ……」
 不意打ちに等しい全力の剣戟を軽いステップで躱され、少しの焦りといら立ちを匂わせる声をあげています。
 「ついてきてー。もうすぐだからー」
 
 私達は人のいない『ウィンデール』へと入りました。
 そして後から数人の騎士団が入ってきます。
 「ステイシー。15人いたんじゃないの?」
 「たぶん半数を伏兵にしてるのかなー?」
 小声で会話をします。
 「指揮官はどちらさまかなー?」
 ステイシーが大声をあげます。
 すると若いですが、重厚な鎧を纏った騎士がこちらに歩を進め始めました。
 「降伏の意ありとみるが、相違ないだろうか」
 「いやー。降伏はしないよー。僕たちは理由が知りたいだけだからー」
 「話にならん。斬るが?」
 腰に差してある剣をスッと抜き、こちらに向けてきます。
 「ちゃんと話してくれたんなら、それなりの対応するよ?」
 あっ。ステイシーが少し怒ってる。
 「ではまず全武装の解除を要求する」
 「わかった。こちらが解除するならそちらも解除しろ」
 「断る……と言ったら?」
 「血の雨が降る」
 「応じよう」
 あっ。こいつ結構ビビりかもしれない。

 私がインベントリから取り出した椅子にステイシーと指揮官が腰を掛けます。
 ちなみに私はなぜか従者だと思われているらしく、紅茶の準備をさせられています。
 「粗茶ですが」
 「うむ」
 「ありがとー」
 紅茶を出し、ステイシーの後ろに立ちます。
 「まずこちらの要求である。亡命を取り下げ、『ヴァンヘイデン』へ帰国してもらう。拒否権は無い」
 「もうすでに亡命しちゃってるんだけど、そこはどうするつもり?」
 「貴殿らが気にすることではない。政治的及び軍事的に解決するだけである」
 「ふーん。他の要求は?」
 「今後一切他国民との共闘を禁ず。そして戦争の参加を義務とする。こちらも拒否権は無い」
 「じゃぁこっちからの要求ね。一つ目。今後二度と僕たちに接触しないこと。二つ目。他国に送った指名手配の解除。そっちにも拒否権はない」
 ピクッと眉をあげこちらを睨んできます。
 「交渉決裂だな。仕方ない」
 そう言って指揮官は右手をスッとあげました。
 すると伏兵や背後に控えていた騎士が抜刀し私達を取り囲みます。
 「ステイシー。殺すわけに行かないし、いま私達はスキルが……」
 「どうしようか」
 騎士団の中でも国の中枢の警備や、戦争時に主力となる人達ではなさそうですが、この人数を魔法が使えない魔導師二人でどう乗り切りましょうか……。
 「殺さない程度だ。やれ」
 指揮官が右手を振り降ろしました。
 そして一斉に私達に向かってくる騎士。
 「ふっ」 
 斬りかかってくる騎士の剣の軌道にステイシーが腕を翳します。
 肉が裂ける音と、骨が砕ける音が聞こえ鮮血が肘先から噴き出します。
 「いってぇ」
 そう言ったステイシーが右手をぶんと振って血を騎士の顔に掛けます。
 「後任せた」
 「分かった」
 ステイシーが腕を押さえ、座り込みながら言います。私はその言葉を聞く前にすでに【暗殺者】の装備に転換していました。こちらならスキルなしでもある程度はやれますから。
 「ではまず友人の分。お返ししますね」
 ≪スライド移動≫が使えないので速度は遅いですが、それでも騎士団連中に負けるはずがありません。
 一瞬でステイシーの腕を切り落とした騎士に詰め寄り、鎧の隙間から浅く腕を斬ります。
 「あぁああ!」
 皮膚と肉を鋭利な刃物で切り裂かれた痛みで悶絶し始めます。
 「ステイシーはもっと痛かったはずですよ。まぁ実際は痛覚オフにしてるのでそれほどではないですが、四肢が無くなるのはそれでも痛いんですよ」
 「お前……従者のくせに……」
 他の騎士が恐怖で立ちすくんでいるので会話する余裕がありそうですね。
 「はて? いつ私が従者と名のりましたか?」
 「お前は……悪魔め……」
 「女性に対してそれは失礼ですよ」
 今度は左腕を斬り付けます。
 「感謝してほしいですね。私達はあなた達より強いんですよ。特にこのステイシーはね。手加減できるくらいの差があってよかったですね。じゃないと……」
 私はそこで言葉を区切り、一息吸ってから続きを告げます。
 「殺してしまいますから」
 私がその一言を発するとシンと空気が凍り、騎士達の戦意を奪うことができました。
 昔読んだ漫画のセリフ……覚えていて良かった。
 ん? なんか私最近悪役っぽくなってきてない? 今のセリフも確か悪役のセリフだった気がしますし。
 「わ、わかった……貴殿らの要求は国王陛下に報告させていただく。ど、どうか……我らを一度国へ帰らせてはもらえないだろうか」
 震える声でそう言います。
 「はぁ。いいですけど。これ以上のことはお国のトップ同士でやっていただけますか? 私達だって被害者なんですよ」
 「ほんとそうだ。頼まれて戦争に出てやったのにこの扱いだ。理不尽極まりない」
 あの……誰……? いえ、ステイシーなんですけど……。しゃべり方が別人過ぎて……。 
 「今までの追跡任務の現場指揮を預かっていた。ゲールハインと言います。国王命令で貴殿らを追っておりました」
 「それで?」
 私が短剣と短刀をしまいながら聞き返します。
 「それで、とは?」
 「言い訳の続き。なんで国のトップ同士でやらないでこそこそ末端のしかも亡命した私達を追っているんですか?」
 「それは……」
 「言えないならいいです。その代わり一ついいですか?」
 「なんでしょうか……」
 「次はないですよ。そう愚王にお伝えください。それでは私はこれで。彼の治療を早くしないと、死んでしまいますから」
 ぐったりしたステイシーを抱え上げ、私は風車の中へと歩いていきます。

 「≪オーヴァー・ヒール≫、≪オーヴァー・キュア≫」
 転換した装備でステイシーの腕を治し、HPを回復させます。
 「ありがとー。チェリーのおかげで溜飲が下がったよー」
 「それはいいんだけど。少し思ったこと言っていい?」
 「なにー?」
 「私最近、悪役じゃない?」
 私がそうステイシーに言うと、ステイシーは顔をフイっと背け、肩を震わせていました。

 ステイシーの治療が終わったので、風車の扉を少し開け、外を覗きます。
 先ほどの騎士達がまだ居て、こちらを向きながら何か話をしていますね。
 「ヤな予感がする……」
 ボソっと呟きます。
 しかし、その直後、騎士団は踵を返し去っていきました。
 きぃと音を立て、扉を開けて外に出ます。
 「今のなんだったんだろう」
 「わからないー」
 「とりあえずエルマ達に伝えよう。『サンデミリオン』に帰ろっか」
 「そうだねー」
 騎士団がこそこそと何かをやっていた場所を確認しながら通り抜け、『雷精の里 サンデミリオン』へと帰ります。
                                      to be continued...
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

陽だまりキッチン、ときどき無双~クラス転移したけどかわいい幼馴染とのんびり異世界を観光します~

一色孝太郎
ファンタジー
 料理人を目指しながらも、そこそこの進学校に通う高校二年生の少年味澤祥太は、ある日突然、神を名乗る謎の発光体によってクラスごと異世界へと転移させられてしまう。  その異世界は、まるで聖女モノのネット小説のように聖女が結界を張って町を守り、逆ハーレムが当然とされる男には厳しい世界だった。  日本に帰るには、神を名乗る謎の発光体によって課された試練を乗り越えなければならない。  祥太は転移の際に神から与えられた能力を駆使し、幼馴染の少女と共にのんびり異世界を観光しながら、クラスメイトたちを探す旅をすることとなる。  はたして祥太たちは生き残ることができるのだろうか? そして無事に日本に帰ることはできるのだろうか? ※2024/03/02 18:00 HOTランキング第5位を獲得! お読みいただきありがとうございます! ※本作品は現在、他サイトでも公開しております

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

処理中です...