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第4章 精霊駆動
第4章21幕 謎果物<mystery fruits>
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「『アクアンティア』行きの馬車に乗りたいんだが」
サツキが馬車乗り場で人に尋ねます。
私は本を読みながら歩く、愛猫姫の肩を掴み、人にぶつからないように誘導していたのでサツキが交渉役になっています。まぁそうでなくてもサツキがいるときはたいてい全部任せちゃうんですけどね。
「あぁ。そこの一番端に看板があるだろう? あそこから日に数本程度だが出ている。今日は……あと数分もしたらくるんじゃないか?」
「教えてくれてありがとう。では君もよい旅路を」
そう会話していたサツキが戻ってきます。
「聞こえていたと思うがもう一度言っておこう。あの向こう側の看板のところに停まるそうだよ。さぁいこう」
「ふぁーい」
どこで買ったのかわからない謎の果物をマズイマズイ言いながら食べているエルマが代表して返事をし、そちらに向かいます。
「うん。時刻的にはもう来る頃合だね」
「そうだね」
すると馬が地を蹴る音が響いてきます。
「あっ。あれかな?」
「たぶん、そうだろうね」
私達の目の前に停まった馬車の御者台から御者が降りてきます。
「『水精の湖 アクアンティア』行き」
「すまない。5人は乗れるだろうか?」
「もちろん。ほかに乗る人はいない?」
辺りをきょろきょろ見回しながらそう声を張ります。
「いない。じゃぁ行こう。乗って」
そう言って御者は御者台にぴょんと飛び乗ります。
言われたように私達も馬車に乗り込みます。
こちらを振り向いた御者が全員のったのを確認すると馬を走らせました。
「『アクアンティア』までの間いくつか小さい集落を通る。荷物を回収したり降ろしたりする。でも今日は少ない。私はレタス」
あっ野菜の名前。
「私達は観光にやってきた外の者だよ。普段から荷物は多いのかい?」
「うん。人よりも荷物を運ぶ場所だから」
「そうなんだね」
馬車が『精霊都市 エレスティアナ』を出てから十数分経つと、看板が見えてきました。
「乗る人はいないけど荷物降ろすから」
そう言ってレタスは器用に馬車を手繰り、看板の少し前で停まらせます。
「ちょっとまってて」
ぴょんと御者台から降りたレタスは馬車の内部にあった荷物を引き摺り出します。
「よ……っしょ。おいてくるね」
「待ってくれ。君一人でその量は大変だろう。ワタシにも手伝わせてくれないか?」
「いいの?」
「構わないさ。よっ……じゃぁ行こうか。どこに運ぶんだい?」
「その林を超えたところにある集落。小さいから必需品は馬車がついでに運ぶ」
「そうだったんだね。毎日……」
そう会話しながら見えなくなっていくサツキが戻って来るまで暇なので残ったみんなの方を見てみます。
ステイシーは鼻から提灯を作ってスピスピ寝ていますね。エルマは謎果物を分析しているようです。愛猫姫は変わらず読書ですね。うーん。やることがない。少し精霊の勉強でもしておきましょうか。
「エルマ」
「ふぉん?」
口に突っ込んでいた謎果物をきゅぽんと音を立て取り出します。
「精霊魔法と通常の魔法の違いがイマイチ理解できないんだけど」
「これなんでなくならないんだろう? それは簡単な用で難しいけど、聞く?」
「聞いておく」
「魔法は魔法。MPを消費して形どった魔法を放つ」
「うん」
「魔法の媒体には神話級、絶級、上級、中級、初級魔法属性のスキルが付いた媒体が必要だよね」
「そうだね」
「精霊魔法は発動される魔法にランクがないよ。でも精霊にランクがある」
「ん?」
「あー。魔法で言う杖とかブックとかの媒体が精霊魔法の精霊なんだよ」
「なるほど」
「より高位の精霊を出しておけばより威力、持続力に優れる魔法が使えるってわけ。んじゃぁ少し実演してあげよう」
すこし得意げなエルマの実演を見ましょう。
「≪召喚〔アクア・エレメント〕≫」
水精霊を召喚したようですね。
「まず初級魔法の≪アクア・ボール≫を使うね。≪アクア・ボール≫」
馬車の窓からエルマは腕を突き出して、手のひらから水の珠を地面に向かって放ちます。
バシャァという音を立て、魔法が崩壊します。地面には湿った痕が残る程度でした。
「じゃぁ次は精霊魔法で同じことやるよ。≪アクア・ボール≫」
パンという軽い破裂音の後、地面が少しへこんでいました。
「なるほどね。普通の魔法みたいな初級とかのくくりがないから、高位の精霊になればなるほど同じ魔法でも威力が出るわけか」
「そういうこと」
「敵ー?」
鼻提灯を割ったステイシーが起きてきょろきょろしだします。
「んにゃ。チェリーに魔法と精霊魔法の違いをレクチャーしてただけ」
「そっかー。僕はもうひと眠りするよー」
「おやすみ」
「どっちにもメリット、デメリットがあるんだけどね。魔法のメリットは消費が軽いこと、デメリットは媒体の数に制限があること、っていっても【称号】で使える魔法もあるから微妙なところ。精霊魔法のデメリットは精霊と契約して、召喚、維持をしなきゃいけないから手間と消費が多い。メリットは威力が出るっていうのと両手に武器を装備できる。だから私は精霊魔法派なのだ!」
「よくわかった」
「実はもう一つ精霊魔法にはメリットがあってね」
「なになに?」
私が少し食いつくと、ニンマリと顔を笑顔に変化させ、エルマは言いました。
「魔法でできない細かいことができる。例えば……」
エルマが召喚した水精霊がステイシーの鼻提灯にピトっと触れます。そして、鼻提灯を二回りほど大きくしました。
「なるほど。魔法にはないものでも精霊に指示すればできるのか」
「そゆことー。チェリーも精霊魔法覚えるといいよ」
「そうだね。近接戦闘しなきゃいけない時も出てくるだろうし、覚えておいて損はないかな。折角『エレスティアナ』に来たんだし、ちゃんとした精霊と契約しておくものいいかな」
なんちゃって精霊魔法なら仕えるのですが、ちゃんと契約しておかないとここまで細かい扱いはできないでしょう。いまの私にできることはせいぜいブラフ程度の偽物精霊を浮かばせておくくらいです。
エルマとその後暇すぎたので無くならない謎果物の話をしていると、サツキとレタスが帰ってきました。
「いや。すまない。またせたね」
「大丈夫!」
「今日の荷物は届け終わった。いま回収してきた荷物を『アクアンティア』に届けるだけ。あと1時間もしないうちにつく」
そういったレタスがぴょんと御者台に乗り、馬を再び走らせました。
「ワタシがいない間何をしてたんだい?」
「エルマに精霊魔法を聞いてた。あといまエルマがしゃぶってる謎果物について考察してたよ」
「精霊魔法は興味ないから後回しでいいかな。【精霊女王】があるしね。ところでその果物さっきから微塵も減ってないようにみえるけれど?」
「なんか無くならないらしい」
「……どういうことなんだろうね。一口いいかい?」
「たべてみ」
シャクっと音を立て、サツキがその果物を食べます。
「ん? ワタシはいま、間違いなくその果物を食べた。どういうことだろう。歯形すら付かないとは」
「ね。不思議でしょ?」
「確かに食べた。飲みこんだ感触もある。なかなか脳が理解できないね」
「それは〔ミラージュ・フルーツ〕。食べても食べてもなくならない不思議な果物。でも切ってから2時間くらいで溶けてなくなる」
御者台の上からこちらを振り向かずにレタスが教えてくれます。
「へー」
そう言ってまたエルマがしゃくしゃく食べます。時間で無くなる食べ物とか面白いですね。
「決めた!」
ごくんと飲みこみ、エルマが宣言します。
「あたしこれをバイキングバーと名付ける!」
「はっ?」
「ん?」
「時間で終わりならバイキングだし、これ棒だから」
「……まぁ、好きなように呼んでいいんじゃないかな?」
1時間ほど経つと、『水精の湖 アクアンティア』が見えてきました。
「もうすぐ、着く」
「わかりました。ステイシー起きて。マオも降りる間危険だから少しだけ本閉じて」
「おはよー」
「……しかた、ない、わ」
「では5名様で5000金」
「釣りは取っておいてくれ」
そう言ってサツキが1万金を渡しました」
「いいの?」
「無論だ。頑張ったものには正当な報酬があって然るべきだ」
そう言ってウインクしていました。
「『アクアンティア』なかなかきれいな場所だね。ジュネーブを思い出すよ」
まぁそうでしょうね。多分ここはレマン湖をモチーフに作った場所だと思われますし。
「サツキ行ったことあるの?」
「ん? ないよ。VRの旅行ゲームで満喫したのさ」
「お、おう」
VRの旅行ゲームですか。今度大型メンテナンスとか長期間のペナルティーとかで数日ログインできないときにでもやってみますか。
「さて、早速お目当てのお店が見えてきたようだよ」
確かに看板がでかでかとネオンで光っていますね。
景観ぶち壊しだよ。
そうして目が痛くなるほどの光を撒き散らす建物に歩いて行った私達は、扉を開けます。
「うぇるかむ」
「お邪魔します」
皆口々にそう言い、店内へと入ります。
「このふろあにおいてあるのはぜんぶおかざりのごみあーむずね。にかいはけっこういいものあるよ。くわしくはりっすんとぅーみー?」
なんで疑問形。
「すまない魔銃を探しているんだが、何かいいものがあれば教えてくれないか。なければオーダーでもいいのだが」
「まじゅうね。んとんと、さんふろあにちょっとあるけど、ゆーがつかうにはちょーっとすぺっくぶそくね」
「ワタシの能力が足りないということかな?」
「のーのー。あーむずのすぺっくよ。ゆーはおーだーするべしね」
「では一度見させてもらってからオーダーするとしよう。ということだ皆、ワタシは上の階に向かうよ」
「うん」
返事をしたのは私だけで他の三人はすでに自分の使っている武器の棚を食い入るように見ていました。
「おー。そのすてっきは、いいすてっきよ。えれめんとがいんしてるね」
「芯に精霊が入ってるの?」
「いえすいえす。うぉーたーえれめんとね」
「そのあーむずは、とくしゅなあーむずよ。でもゆーはもっと、いいものもってるね。おーだーでうぃんどえれめんとをえんちゃんとできるよ」
「ほん、と!?」
「いえすいえす。いちじかんもかからず、ふぃにっしゅよ。にたこんせぷとで、もうひとつめいくするよ」
そういった後、こちらに視線を移してきます。
「そこにたってるゆーは、おーだーじゃないとだめね。つくりおきのあーむずじゃいみがのーよ」
「そうですか。ではオーダーします」
独特なしゃべり方ですが、武器職人としては超一流でしょうね。
相手の力を見抜くことも自然にできていますし、何より、精霊を芯にしたり、一度制作された武器に精霊を付与できるという実力があるのはすごいです。これは面白い武器ができるかもしれませんね。
「どんなのがらいく?」
「私は近接と遠距離で基本的に武器を変更しているので、近接武器で使えるように闇属性辺りで付与されてるなにかあれば」
「そーね。うぇすとにつけてるそのそーどに、えれめんとをえんちゃんとしたいね。でも、ぱーふぇくとだからもうのーね。きゃないはぶゆあくろーすれんじあーむず」
最後だけ本当に英語っぽい。
「これです」
「いえすいえす。このふたつにさんだーとだーくのえれめんとをえんちゃんとするね」
「ではそれでおねがいします」
「いちじかんかからずに、ふぃにっしゅよ」
そして最後にエルマの方を見て言います。
「ゆー、えれめんとにらぶされてるね。さっきあっぷしたゆーより、もあ」
「サツキより?」
「ゆーにまっちなあーむずはのーだけど、ひとことあどばいすね」
そしてエルマに耳打ちしていました。
「えっ?」
「おそれずにとらいとらいよ。それでいいことぱっぷん」
降りてきたサツキは赤いブーツと赤いベルトを持っていました。
「いや。防具としても一級品だが、なにせデザインがいい。ワタシの心をくすぐるね」
まぁ。14歳くらいの少年が好きそうなデザインですもんね。
エルマも気に入った防具が上の階で見つかったらしく、持ってきていました。
ステイシーも精霊が芯に使われた杖が面白かったようで購入することにしたそうです。
「じゃふぁーすとおかいけいね」
各々自分が買ったもの、注文したものの代金を支払います。
「ねくすと、ゆーと、ゆー。れんどみーあーむず」
私と愛猫姫は武器を渡します。
「いえすいえす。そちらのゆーはまじゅうね。すぐめいくするよ」
「お願いしよう。属性は何でも構わない。スキル数が多ければいい」
「あんだすたん。じゃあぜんぶあわせてさんじかんうぇいとねー」
そう言って裏へ消えていきました。
お店を一度出た私達は辺りを探検しつつ3時間後を待つことにします。
to be continued...
サツキが馬車乗り場で人に尋ねます。
私は本を読みながら歩く、愛猫姫の肩を掴み、人にぶつからないように誘導していたのでサツキが交渉役になっています。まぁそうでなくてもサツキがいるときはたいてい全部任せちゃうんですけどね。
「あぁ。そこの一番端に看板があるだろう? あそこから日に数本程度だが出ている。今日は……あと数分もしたらくるんじゃないか?」
「教えてくれてありがとう。では君もよい旅路を」
そう会話していたサツキが戻ってきます。
「聞こえていたと思うがもう一度言っておこう。あの向こう側の看板のところに停まるそうだよ。さぁいこう」
「ふぁーい」
どこで買ったのかわからない謎の果物をマズイマズイ言いながら食べているエルマが代表して返事をし、そちらに向かいます。
「うん。時刻的にはもう来る頃合だね」
「そうだね」
すると馬が地を蹴る音が響いてきます。
「あっ。あれかな?」
「たぶん、そうだろうね」
私達の目の前に停まった馬車の御者台から御者が降りてきます。
「『水精の湖 アクアンティア』行き」
「すまない。5人は乗れるだろうか?」
「もちろん。ほかに乗る人はいない?」
辺りをきょろきょろ見回しながらそう声を張ります。
「いない。じゃぁ行こう。乗って」
そう言って御者は御者台にぴょんと飛び乗ります。
言われたように私達も馬車に乗り込みます。
こちらを振り向いた御者が全員のったのを確認すると馬を走らせました。
「『アクアンティア』までの間いくつか小さい集落を通る。荷物を回収したり降ろしたりする。でも今日は少ない。私はレタス」
あっ野菜の名前。
「私達は観光にやってきた外の者だよ。普段から荷物は多いのかい?」
「うん。人よりも荷物を運ぶ場所だから」
「そうなんだね」
馬車が『精霊都市 エレスティアナ』を出てから十数分経つと、看板が見えてきました。
「乗る人はいないけど荷物降ろすから」
そう言ってレタスは器用に馬車を手繰り、看板の少し前で停まらせます。
「ちょっとまってて」
ぴょんと御者台から降りたレタスは馬車の内部にあった荷物を引き摺り出します。
「よ……っしょ。おいてくるね」
「待ってくれ。君一人でその量は大変だろう。ワタシにも手伝わせてくれないか?」
「いいの?」
「構わないさ。よっ……じゃぁ行こうか。どこに運ぶんだい?」
「その林を超えたところにある集落。小さいから必需品は馬車がついでに運ぶ」
「そうだったんだね。毎日……」
そう会話しながら見えなくなっていくサツキが戻って来るまで暇なので残ったみんなの方を見てみます。
ステイシーは鼻から提灯を作ってスピスピ寝ていますね。エルマは謎果物を分析しているようです。愛猫姫は変わらず読書ですね。うーん。やることがない。少し精霊の勉強でもしておきましょうか。
「エルマ」
「ふぉん?」
口に突っ込んでいた謎果物をきゅぽんと音を立て取り出します。
「精霊魔法と通常の魔法の違いがイマイチ理解できないんだけど」
「これなんでなくならないんだろう? それは簡単な用で難しいけど、聞く?」
「聞いておく」
「魔法は魔法。MPを消費して形どった魔法を放つ」
「うん」
「魔法の媒体には神話級、絶級、上級、中級、初級魔法属性のスキルが付いた媒体が必要だよね」
「そうだね」
「精霊魔法は発動される魔法にランクがないよ。でも精霊にランクがある」
「ん?」
「あー。魔法で言う杖とかブックとかの媒体が精霊魔法の精霊なんだよ」
「なるほど」
「より高位の精霊を出しておけばより威力、持続力に優れる魔法が使えるってわけ。んじゃぁ少し実演してあげよう」
すこし得意げなエルマの実演を見ましょう。
「≪召喚〔アクア・エレメント〕≫」
水精霊を召喚したようですね。
「まず初級魔法の≪アクア・ボール≫を使うね。≪アクア・ボール≫」
馬車の窓からエルマは腕を突き出して、手のひらから水の珠を地面に向かって放ちます。
バシャァという音を立て、魔法が崩壊します。地面には湿った痕が残る程度でした。
「じゃぁ次は精霊魔法で同じことやるよ。≪アクア・ボール≫」
パンという軽い破裂音の後、地面が少しへこんでいました。
「なるほどね。普通の魔法みたいな初級とかのくくりがないから、高位の精霊になればなるほど同じ魔法でも威力が出るわけか」
「そういうこと」
「敵ー?」
鼻提灯を割ったステイシーが起きてきょろきょろしだします。
「んにゃ。チェリーに魔法と精霊魔法の違いをレクチャーしてただけ」
「そっかー。僕はもうひと眠りするよー」
「おやすみ」
「どっちにもメリット、デメリットがあるんだけどね。魔法のメリットは消費が軽いこと、デメリットは媒体の数に制限があること、っていっても【称号】で使える魔法もあるから微妙なところ。精霊魔法のデメリットは精霊と契約して、召喚、維持をしなきゃいけないから手間と消費が多い。メリットは威力が出るっていうのと両手に武器を装備できる。だから私は精霊魔法派なのだ!」
「よくわかった」
「実はもう一つ精霊魔法にはメリットがあってね」
「なになに?」
私が少し食いつくと、ニンマリと顔を笑顔に変化させ、エルマは言いました。
「魔法でできない細かいことができる。例えば……」
エルマが召喚した水精霊がステイシーの鼻提灯にピトっと触れます。そして、鼻提灯を二回りほど大きくしました。
「なるほど。魔法にはないものでも精霊に指示すればできるのか」
「そゆことー。チェリーも精霊魔法覚えるといいよ」
「そうだね。近接戦闘しなきゃいけない時も出てくるだろうし、覚えておいて損はないかな。折角『エレスティアナ』に来たんだし、ちゃんとした精霊と契約しておくものいいかな」
なんちゃって精霊魔法なら仕えるのですが、ちゃんと契約しておかないとここまで細かい扱いはできないでしょう。いまの私にできることはせいぜいブラフ程度の偽物精霊を浮かばせておくくらいです。
エルマとその後暇すぎたので無くならない謎果物の話をしていると、サツキとレタスが帰ってきました。
「いや。すまない。またせたね」
「大丈夫!」
「今日の荷物は届け終わった。いま回収してきた荷物を『アクアンティア』に届けるだけ。あと1時間もしないうちにつく」
そういったレタスがぴょんと御者台に乗り、馬を再び走らせました。
「ワタシがいない間何をしてたんだい?」
「エルマに精霊魔法を聞いてた。あといまエルマがしゃぶってる謎果物について考察してたよ」
「精霊魔法は興味ないから後回しでいいかな。【精霊女王】があるしね。ところでその果物さっきから微塵も減ってないようにみえるけれど?」
「なんか無くならないらしい」
「……どういうことなんだろうね。一口いいかい?」
「たべてみ」
シャクっと音を立て、サツキがその果物を食べます。
「ん? ワタシはいま、間違いなくその果物を食べた。どういうことだろう。歯形すら付かないとは」
「ね。不思議でしょ?」
「確かに食べた。飲みこんだ感触もある。なかなか脳が理解できないね」
「それは〔ミラージュ・フルーツ〕。食べても食べてもなくならない不思議な果物。でも切ってから2時間くらいで溶けてなくなる」
御者台の上からこちらを振り向かずにレタスが教えてくれます。
「へー」
そう言ってまたエルマがしゃくしゃく食べます。時間で無くなる食べ物とか面白いですね。
「決めた!」
ごくんと飲みこみ、エルマが宣言します。
「あたしこれをバイキングバーと名付ける!」
「はっ?」
「ん?」
「時間で終わりならバイキングだし、これ棒だから」
「……まぁ、好きなように呼んでいいんじゃないかな?」
1時間ほど経つと、『水精の湖 アクアンティア』が見えてきました。
「もうすぐ、着く」
「わかりました。ステイシー起きて。マオも降りる間危険だから少しだけ本閉じて」
「おはよー」
「……しかた、ない、わ」
「では5名様で5000金」
「釣りは取っておいてくれ」
そう言ってサツキが1万金を渡しました」
「いいの?」
「無論だ。頑張ったものには正当な報酬があって然るべきだ」
そう言ってウインクしていました。
「『アクアンティア』なかなかきれいな場所だね。ジュネーブを思い出すよ」
まぁそうでしょうね。多分ここはレマン湖をモチーフに作った場所だと思われますし。
「サツキ行ったことあるの?」
「ん? ないよ。VRの旅行ゲームで満喫したのさ」
「お、おう」
VRの旅行ゲームですか。今度大型メンテナンスとか長期間のペナルティーとかで数日ログインできないときにでもやってみますか。
「さて、早速お目当てのお店が見えてきたようだよ」
確かに看板がでかでかとネオンで光っていますね。
景観ぶち壊しだよ。
そうして目が痛くなるほどの光を撒き散らす建物に歩いて行った私達は、扉を開けます。
「うぇるかむ」
「お邪魔します」
皆口々にそう言い、店内へと入ります。
「このふろあにおいてあるのはぜんぶおかざりのごみあーむずね。にかいはけっこういいものあるよ。くわしくはりっすんとぅーみー?」
なんで疑問形。
「すまない魔銃を探しているんだが、何かいいものがあれば教えてくれないか。なければオーダーでもいいのだが」
「まじゅうね。んとんと、さんふろあにちょっとあるけど、ゆーがつかうにはちょーっとすぺっくぶそくね」
「ワタシの能力が足りないということかな?」
「のーのー。あーむずのすぺっくよ。ゆーはおーだーするべしね」
「では一度見させてもらってからオーダーするとしよう。ということだ皆、ワタシは上の階に向かうよ」
「うん」
返事をしたのは私だけで他の三人はすでに自分の使っている武器の棚を食い入るように見ていました。
「おー。そのすてっきは、いいすてっきよ。えれめんとがいんしてるね」
「芯に精霊が入ってるの?」
「いえすいえす。うぉーたーえれめんとね」
「そのあーむずは、とくしゅなあーむずよ。でもゆーはもっと、いいものもってるね。おーだーでうぃんどえれめんとをえんちゃんとできるよ」
「ほん、と!?」
「いえすいえす。いちじかんもかからず、ふぃにっしゅよ。にたこんせぷとで、もうひとつめいくするよ」
そういった後、こちらに視線を移してきます。
「そこにたってるゆーは、おーだーじゃないとだめね。つくりおきのあーむずじゃいみがのーよ」
「そうですか。ではオーダーします」
独特なしゃべり方ですが、武器職人としては超一流でしょうね。
相手の力を見抜くことも自然にできていますし、何より、精霊を芯にしたり、一度制作された武器に精霊を付与できるという実力があるのはすごいです。これは面白い武器ができるかもしれませんね。
「どんなのがらいく?」
「私は近接と遠距離で基本的に武器を変更しているので、近接武器で使えるように闇属性辺りで付与されてるなにかあれば」
「そーね。うぇすとにつけてるそのそーどに、えれめんとをえんちゃんとしたいね。でも、ぱーふぇくとだからもうのーね。きゃないはぶゆあくろーすれんじあーむず」
最後だけ本当に英語っぽい。
「これです」
「いえすいえす。このふたつにさんだーとだーくのえれめんとをえんちゃんとするね」
「ではそれでおねがいします」
「いちじかんかからずに、ふぃにっしゅよ」
そして最後にエルマの方を見て言います。
「ゆー、えれめんとにらぶされてるね。さっきあっぷしたゆーより、もあ」
「サツキより?」
「ゆーにまっちなあーむずはのーだけど、ひとことあどばいすね」
そしてエルマに耳打ちしていました。
「えっ?」
「おそれずにとらいとらいよ。それでいいことぱっぷん」
降りてきたサツキは赤いブーツと赤いベルトを持っていました。
「いや。防具としても一級品だが、なにせデザインがいい。ワタシの心をくすぐるね」
まぁ。14歳くらいの少年が好きそうなデザインですもんね。
エルマも気に入った防具が上の階で見つかったらしく、持ってきていました。
ステイシーも精霊が芯に使われた杖が面白かったようで購入することにしたそうです。
「じゃふぁーすとおかいけいね」
各々自分が買ったもの、注文したものの代金を支払います。
「ねくすと、ゆーと、ゆー。れんどみーあーむず」
私と愛猫姫は武器を渡します。
「いえすいえす。そちらのゆーはまじゅうね。すぐめいくするよ」
「お願いしよう。属性は何でも構わない。スキル数が多ければいい」
「あんだすたん。じゃあぜんぶあわせてさんじかんうぇいとねー」
そう言って裏へ消えていきました。
お店を一度出た私達は辺りを探検しつつ3時間後を待つことにします。
to be continued...
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百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。
この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。
憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。
そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。
名前は、早乙女 久。
プレイヤー名は オクツ。
運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。
何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。
初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。
ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。
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