上 下
61 / 259
第3章 ファイサル

第3章4幕 最上階<top floor>

しおりを挟む
 疲れた身体に鞭を打ち、立ち上がりステイシーの跡を追い、階段を登ります。
 「もー! まってよー!」
 「下の階も行かなきゃいけないんだからー、ゆっくりしてる時間ないよー」
 それはそうですけど……。
 久々の苦戦で疲れてるんですよ……。
 あれ以上のモンスターが出るかもしれないってだけで動きたくなくなりますね。

 文句を言いつつも追いつき、ともに3階層目へとやってきます。
 先ほどまでの雰囲気から一変し、教会のような雰囲気が漂い始めます。
 「ねぇ。もしかしてこれって【称号】獲得のために魔導士が作った、覚醒ダンジョンなんじゃ?」
 ふと湧き出た疑問をステイシーにぶつけます。
 「ご明察ー。ここの最下部で僕はある【称号】を手に入れたんだー。恐らく最上部にはそれと対を成す【称号】があるはずだよー」
 「わかってたなら最初から教えてよ」
 「ネタバレはつまんないでしょー?」
 「そうだけど……」
 少しステイシーに上手くのせられちゃったなと後悔しますが、もう手遅れですね。
 
 3階層では数体のモンスターがわらわらと集まってくることはなく、高物理耐性、高魔法耐性の敵にちらほらと遭遇しました。
 先ほどの苦戦のおかげで、活路は見えていたので窒息させることにより比較的楽に無力化していきます。
 
 そして階段を守護する〔神剣の調 カラド〕という〔ユニークモンスター〕と対峙します。
 人型ではなく、剣そのものが自らの意思を持ち襲ってくるタイプでしたので窒息作戦は使えませんでしたが、高レベルの耐性は持っていなかったようなので、数発の絶級闇属性魔法だけで方を付けることができました。

 「意外とあっけなかった」
 「2階層のアレは相性が最悪だっただけだよー」
 「そうなのかな?」
 「たぶんー?」
 「ステイシーだったらどう戦ってた?」
 「んー? 難しい質問だねー。僕なら多分落下ダメージを狙ったかなー?」
 「落下ダメージで?」
 「うん。鎧の中身を転移させるのも考えたんだけど、そういう対策もたくさんしてありそうだったからー。僕は重力操作魔法も扱えるからねー。それで上に浮かせて何倍かの重力でドーンってしたらたおせるかなーってねー」
 「なるほど」
 やはり先達の意見は参考になります。
 重力系の魔法を私まだ習得してないのでできませんが、習得したらいずれやってみたいですね。

 そういう会話をしながら4階まで上ります。
 「うんー。やっぱり地下と一緒だー」
 ステイシーがそう言うので私も辺りを見回してみます。
 先ほどまでの階層では長い廊下があり、いくつかの扉と部屋があるという感じでしたが、この階には広間しかありません。
 ということは……。
 「連戦……」
 自然と口から漏れた呟きにステイシーが返事をします。
 「そうだねー。さすがに3階層目ほど楽な相手ではないと思うからがんばってー」
 「2階層目のモンスターより楽ならいいけど……」
 私がそう言うと部屋中に声が響きます。

 『汝が新たな勇者足り得るか、我にしかと見せてみよ』
 
 はい? 勇者? 聞いてないんですけど?

 「いえ。違いますが?」

 『…………。ま……まぁよかろう。汝の全てを持って我に証明せよ』

 あれ? 拒否権がない。
 ちらっとステイシーを見ると顔を背け、肩をプルプルと小刻みに揺らしています。
 あとで絶対奢らせてやる……。

 『≪ミラージュ≫』
 
 いきなり敵のスキル宣言が起こりました。
 姿が見えていないので注意深く周りを観察します。
 すると広場の奥の方に、豪華絢爛な装飾が施された椅子があり、そちらに座っている一つの影が見えます。
 女性のように見えますね。
 いつでも全力の魔法が放てるように。
 いつでも全力で離脱ができるように。
 最大限の安全策をとりつつ接近します。
 『そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ』
 かすかに聞き覚えのある声ですね。
 「そうですか。いきなり攻撃でもされるのかと思いました」
 『私そんな卑怯者に見える? ステイシー?』
 はぇ? なんでステイシーの名前を?

 さらに距離を詰めると敵の姿を認識することができました。
 カラーリングが多少変更されてはいますが、ロング丈のメイド服を着用し、髪をハーフアップにした眼鏡っ子が立っています。身長は173cmといったところでしょうか。
 数多くの双丘を見て来た私の目と脳がおおよそのサイズも確認します。
 「あの……」
 『なんでしょうか?』
 「なんで私の恰好してるんですか?」
 『そういう試練だからです』
 「あ、はい」
 つまり、自分と戦えってことですか。
 『いつでも大丈夫ですよ』
 そう言って偽の私が椅子から立ち上がり、普段の私と同じ姿勢をとります。
 やりにくいですね。非常に。
 「ではお言葉に甘えますね。行きます。≪ライトニング≫」
 手始めに軽めの魔法攻撃で牽制を仕掛けます。
 『≪アース・シールド≫』
 土属性の魔法で障壁を形成され防がれます。
 「≪シャドウ・スピア≫」
 『≪ホーリー・シールド≫』
 貫通力重視で闇属性魔法を放ちますがこちらも複数枚の光属性魔法の障壁で打ち消されます。
 なるほど。劣化コピーとかそういうわけではなく、完璧にオリジナルわたしと同一というわけですね。
 
 かつてエルマが〔ミラーリング・スライム〕を倒した時に、自分と契約している魔物を使役して勝ったそうです。
 つまり、能力をコピーされても真似されないものが何か一つあれば決定打になりうるということです。
 何かないか……。
 頭の全てで考えつつ、無意識に障壁を形成し、攻撃魔法を発動します。
 【称号】の特殊な効果までもコピーされていると考えて間違いないですね。
 となると、【称号】以外で何か探さないと……。
 武器……。いや、ステータスをほぼ完璧にコピーする相手にとって武器の模倣はさほど難しいことではないはずです。
 制作魔法……。これもコピーされていると考えるべきでしょう。
 なら……。
 一つしかありませんね。
 今ここで魔法を完成させる。
 それも偽者が見てすぐに真似できない物でないといけません。
 うーん……。
 新しい形態を考えるのが一番手っ取り早いのですが、思いつく限り、もう制作してしまっているので、すでに出涸らしなんですよね。

 ミライム……分身……。

 分身か……。
 よく考えてみると【暗殺者】状態ではないとき、魔法で剣をつくって近接戦闘していましたが、その際に、遠距離から魔法が飛んでくることに恐怖を覚えたことがありましたね。
 ならばやってみましょうか。
 
 自分がもう一人いるイメージは先ほどから目の前で私の姿をしている敵のおかげで掴めています。
 ならばそれをこちらの魔法でなんとか再現できれば……。
 「≪シャドウ≫」
 最も簡易的な闇魔法を発動し、自分の目の前に浮かべます。
 「≪フォームチェンジ≫」
 イメージと相違ないように魔法を捏ね、模型を作るイメージで操作します。
 ムンバに掘ってもらった私の像。
 目の前に立つ、もう一人の自分。
 それだけを頭に浮かべます。

 数瞬で完成した私の分身を≪ドール≫と定義し、【称号】に記憶させます。
 そして再び発動します。
 「≪シャドウ・ドール≫」
 黒い瘴気が一ヶ所に集まり、私にそっくりな分身が形成されました。
 一発で成功ですね。
 『この局面で新魔法の完成ですか。流石はオリジナルですね』
 そう偽者が言います。
 『ですが、ただ真似るだけでは面白味に欠けますね。ではこちらもためしてみましょうか≪シャドウ≫』
 偽者が先ほどの私と同じように、魔法の制作を始めます。
 『≪フォームチェンジ≫』
 そして次の瞬間には手に銃剣が握られています。
 『これなら近接も遠距離も同時に対処できますね』
 うそでしょ……。
 ここまで完璧なコピーとなると、どっちがオリジナルわたしなのかわからなくなってきます。
 あっ色々崩壊しそう。思考停止!
 今偽者が作った魔法が私の【魔法制作】にも追加されていることが分かりました。
 ということは私もあの銃剣が使えるわけですね。
 もちろん向こうは分身が使えます。

 条件は五分五分のままですね。
 ならやることは一つです。
 私は装備を転換し、【暗殺者】セットを装備します。
 『ずいぶん思い切りましたね。分身ではなく、本体が【暗殺者】になるとは』
 「たぶん、これが一番確実なので」
 『では第二ラウンドと行きましょうか。≪シャドウ・ドール≫』
 そう偽者が言い、分身を召喚します。
 その隙に、≪スライド移動≫を発動させ、一瞬で距離を詰めます。
 「この分身と魔導士状態の欠点を教えてあげる。それは速度」
 そう私は偽者の耳元で呟き右手に持った短刀【ナイトファング】を一閃します。
 暗殺者と魔導士のAGIの差はたかが5です。
 ですがその5の差が勝敗を分けます。
 銃剣を首元に構えるのを視認した私は首から腰に目標を変え、斬りつけます。
 「ッシ!」
 その後普段の私なら即後ろに向いて攻撃してくるはずなのでその背後を取るべく動きます。
 そしてこのタイミングで作りだされた偽者の分身が装備の転換を完了します。

 でも遅い。

 こちらの方が一手先に動いてるんですから当然です。
 私が作った分身が銃剣と化した魔法を握り、偽者の分身へ攻撃を放ちます。
 AGIの差は微小ですが、この攻撃は回避されるでしょう。ならば回避したところをオリジナルの本体が攻撃すればいいだけです。
 腰を一閃し、振り向いた偽者の本体の背後で再び腰から肩にかけて左手の短剣【ペインボルト】を一閃し、開いた右手の短刀を偽者の分身の方へ走らせます。

 オリジナルの分身が放った魔法の弾丸が偽者の分身の肩を掠め、私の短刀が頭部から腹部まで斬り裂きます。

 そして分身が消えるのを見た後こちらに再び振り返る偽者の顔を短剣で一突きします。
 『流石ですね。やはり本体オリジナルを超えることはできないですね』
 「いえ。オリジナルに匹敵する強さでした。制作された魔法も素晴らしいものでした。今後使用させていただきます」
 『よかったです。ではこれで。【称号】とともに貴女の記憶に残ることにします』
 「はい。ありがとうございました」
 
 そうして、私を最も理解していた敵は消滅しました。

 『見事。汝の強さ、その一端、垣間見させてもらった。汝は【勇者】足り得る』
 
 「あ、はい」

 『椅子まで来てはもらえぬか?』

 「わかりました」
 そう返事をし、椅子の近くまで歩いていきます。
 
 『感謝する。その椅子に座り、念じよ』
 
 念じる? 何を念じればいいのかわかりませんが、とりあえず、座ってみます。

 『【称号】を選択してください。』
 
 はい? なんですかこの画面は。
 【称号】を選択? 聞いたことないですよこんなの。
 えぇっと……。
 【勇者】、【召喚勇者】、【魔導勇者】、【守護勇者】、【突勇者】、【射勇者】など様々な【勇者】系の称号が並んでいました。
 一部文字が灰色になり、前提【称号】未獲得とかで選択できないものなどもありましたが、魔法系の種類はあまり多くないようなので私は【魔導勇者】を選択します。

 『【称号】は【魔導勇者】でよろしいですか?』

 はい、とかかれたボタンをクリックします。
 
 『【称号】【魔導勇者】を獲得しました。』
 
 【魔導勇者】
  魔法系スキルのダメージに20%のボーナス。
 ≪絶級無属性魔法≫
 ≪絶級光属性魔法≫

 絶級魔法が2個ついている破格の【称号】を手に入れました。
 「ステイシーが言ってた、必要なものってこれ?」
 「そうだよー【勇者】系の【称号】はあって困らないからー」
 「まぁあって困らないけど、そこまで必要じゃない気もする。絶級2個はおいしいけど」
 「絶級の無属性魔法に重力操作魔法があるんだー。それがチェリーのお目当てになるかなー? 使い方次第で移動が楽になるよー」
 なんと! それは魅力的ですね。
 「それはありがたい!」
 「さぁ次は僕の用事を済ませる番だよー。地下の階層にいこー」
 「わかった」
 座り心地の良い椅子から立ち上がり、今度は最下層に下るべく、階段へ向かって歩き出しました。
                                      to be continued...
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼくから僕へ

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
SF
冒険者ギルドに所属するアキトは、順風満帆な日々を送っていた。 ある日、「森の奥の小屋に閉じこもってしまった少年を、外に出るように説得してほしい」という依頼を受ける。 ドア越しに少年と対話するアキトだったが、少年の言い分に段々イラ立っていく。 しかし、その少年の正体は、実は――。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

いや、一応苦労してますけども。

GURA
ファンタジー
「ここどこ?」 仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。 気がつくと見知らぬ草原にポツリ。 レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。 オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!? しかも男キャラって...。 何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか? なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。 お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。 ※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。 ※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...