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第2章 猫姫王国
第2章10幕 炎の精< flame spirit >
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散り散りになった私達はパーティーチャットを用いて会話をしていました。
『やつが何なのか知ってるのか?』
そう聞いてくるジュンヤにステイシーが答えます。
『やつは〔イォマグヌット〕、外なる神って言われる奴だねー』
『それってゲーム外での話?』
私はそう口を挿みます。
『うん。元はクトゥルフ神話の神性だったかなー』
クトゥルフ神話……。私もTRPGは結構かじっていたので名前に聞き覚えがありました。
『どんなゲームをやってもついてくるって?』
先ほどからの疑問を口にします。
『その通りだよー。僕がどのゲームで遊んでいても結局、敵としてあいつが現れて、すべてなかったことになっちゃう』
そういえばMMOで謎のモンスターが襲来し、運営でもリカバリーできない事があり、サービス終了したゲームがいくつかあったはずです。
私はてっきり、サービス終了のための言い訳なんだと思っていましたが、上空にうかぶ環状の炎からはそれほどの力があると感じ取れました。
『とりあえず倒さないとゲーム自体もヤバイってことか?』
『そこまでは断定できない。でも倒さないと……』
その言葉の後に何が省略されていたのか、ステイシーはどんな気持ちなのか、読み取ることができませんがやることはただ一つですね。
『倒そう』
『しかねーよな?』
少しの間があり、ステイシーから返事がきます。
『ありがとう』
改めて倒す決意をし、作戦を立てます。
『まず接近はできそう?』
『いや。熱くてちかよれねぇ』
『じゃぁ魔法系か。水は効きそう?』
『届く前に全部蒸発するー』
『なら氷も無理そうだね』
手の打ちようがない……。
苦し紛れに腰につけていた【神器 チャンドラハース】を≪投擲≫してみます。
すっと光が剣を包み、手を振っていないのに飛んでいきます。
おお! 投げるモーションなくてもいけるんだ!
すこしの感動を覚えますが、飛ぶ先は見失わないように目線は剣を追い続けます。
ある程度〔イォマグヌット〕に近づくとドロリと溶け出し、跡形もなくなってしまいました。
TPを消費したら溶けた武器も元通りになり腰に重みが増します。
「チェリー」
私が行動をしている間に二人とも近くまで来てくれたようです。
すこしステイシーの顔が元の色味にもどってきてますね。
「ステイシー大丈夫?」
「うん。でもまー一人だったら逃げ出してたねー」
「辛かったら言って。ジュンヤが何とかする」
「俺かよ!」
「さてどうしよっか」
【神器】ですら溶かされてしまった事を伝えます。
「俺の【聖槍】ならたぶん通る。こういう手合いにはぴったりな武器だしな」
ジュンヤの【聖槍】が頼りってわけですね。
「どのくらいで装備できる」
「そうだなぁ。あと10分はかかる」
「10分あったら私達全滅しちゃわない?」
「するだろうな」
「…………」
「チェリー。いったんあいつを閉じ込められるー?」
「できるかわからないけどやってみようか?」
「お願いー。属性は聖属性でー」
私達と会話することで平静を取り戻したのか、いつもと同じテンションに戻ったステイシーが言う通り聖属性でキューブシェイプの魔法を使ってみます。
「≪ホーリー・キューブ≫」
一時的に閉じ込めることはできましたがすぐに≪アンチスペル≫され解けてしまいました。
「≪アンチスペル≫もあるのか」
「本当に攻撃手段がなくなっちまったぞ」
「いやー。これでいいのさー」
ステイシーが何かを確信したような表情で言いました。
「≪フレイム・ハイネス・レジスト≫、≪ホット・ハイネス・レジスト≫」
ステイシーが炎耐性を得る魔法と熱耐性を得る魔法を発動してくれたので少し熱が下がったような気がします。
火魔法に対しては【アンゲーロ・ボトムス】で完全に近い耐性を持っていますが、熱耐性は一切なかったので助かりました。
「耐性が上がっても攻撃手段がないんじゃねー」
「武器が溶かされるなら魔法で生成するしかないよね?」
「うーん。まぁそうなるよね」
「ちょっと試したいことがあるんだけど」
「なにかなー?」
「私が魔法で武器を何種類か作って、≪【見えざる手】≫、これで斬ってみる」
しゃべりながら魔法を発動し、手を4本召喚します。
「それなら……≪アイシクル・アーム≫エンチャント≪ウォーター・ブレード≫、≪サンダー・スカバード≫エンチャント≪フレイム・スカバード≫」
詠唱魔法に匹敵するほど長い言葉を聞き、ステイシーが作り出した魔法製の剣を召喚した手で受けとります。
「氷の剣を水でカバーして、鞘は炎製で雷を付与してあるー。これでどこまでいけるかな?」
「試してみる」
2本の腕を操作し、〔イォマグヌット〕にむかって伸ばします。
今のところこの腕の伸ばす限界は見えてこないので、距離的な問題はないでしょう。
しかし、いくらステイシーが作った特性の魔法剣であっても、【神器】を溶かすレベルの熱に耐えられるかは心配です。
残り10mくらいでしょうか。
【神器】は溶けてしまいましたが、魔法剣は溶ける感じがしません。
行けるか!?
そう思い、抜刀し、斬りかかります。
スパッと環状の炎は二つの半円となり、地面へ落下していく様子が見えました。
「やったか!?」
こういう時にフラグを立てるのはジュンヤの悪い癖ですね。
半円となった炎の環が地面に墜落し、爆音を奏でた後、周りの地面が溶けていくのが確認できました。
おそるおそる残った2本の腕を伸ばし、拾い上げてみます。
腕は溶けることなく、半円を掴みとりました。
「これほんとに倒せたんじゃねーの?」
そう言いながらジュンヤは【聖槍】を取り出します。
「まだスキルはつかえねぇけど、装備は可能になったぜ」
「よかった」
一瞬ジュンヤのほうを見ていた顔を半円のほうに戻すと、目の前で半円が光りだしました。
目がくらむほどの閃光が発生し、つい目を閉じてしまいました。
数秒して目を開けると元通りになった半円とその中心に浮かぶクラゲのようなものが視界にうつりました。
「おいおい……」
「本体のお出ましだね」
「でやがったなー」
無数の足のようなものを蠢かせ、こちらに向かってゆっくり、ゆっくり、近づいてきます。
先ほどの円環状態の時ほど熱はなく、装備が溶け出すことがないことに少し安心し、〔イォマグヌット〕をキッとみます。
こちらの視線を意に介さず、〔イォマグヌット〕は近づいてきます。
「しゃぁねぇ! やるぞ!」
ジュンヤが完全ではない【聖槍】を構えます。
「チェリーはフォロー頼む」
「わかった。ステイシーもっかい耐性スキルお願い」
「≪フレイム・ハイネス・レジスト≫、≪ホット・ハイネス・レジスト≫」
ステイシーの耐性魔法を浴び、ジュンヤが駆けていきます。
「だらあああ!」
【聖槍】を突き出し、〔イォマグヌット〕の本体であろうクラゲに差し込みます。
そして数歩バックステップし、こちらに声が届く範囲までもどってきます。
「通ってるはずだ! チェリーお前も攻撃に参加だ! 魔法剣で来い!」
そう言われたので召喚した4本の腕と自前の腕に系6本の闇魔法剣を装備し、ジュンヤの横に並びます。
「そうか! ≪【羅刹化】≫ぁ!」
先ほど獲得した【神器 ラーヴァナ】を左手に装備し、スキルを発動し、強大化していきます。
「これで畳み掛ける!」
ズシズシと足音を立てつつ、ジュンヤが再び本体に接近します。
私も本体に近寄り、6本の腕を本体を斬りつけます。
その間ステイシーは温度上昇を下げるため、絶級水魔法で雨を降らせていました。
数分ほど斬っていますが終わりが見えません。
しかし〔イォマグヌット〕は反撃をせず、ただずっとそこに立っていました。
「っしゃぁ! 【聖槍解放】!」
ジュンヤが【聖槍】を真の姿にし、攻撃速度をさらに上げ、どんどんダメージを蓄積していきます。
すると先ほどまで反撃に出なかった〔イォマグヌット〕がついに反撃にでました。
本体の口らしき部分をバカァッと開け、私を丸のみにしようとしてきます。
あぶなっ!
そう声には出さず、数歩下がりギリギリで回避します。
「ジュンヤ!」
「もうおせぇ!」
注意を促そうとしたらジュンヤはすでに左足を食い千切られ、後ろに倒れそうになっていました。
増殖した腕ではない、本来の左手に握った【神器 ラーヴァナ】を地面に突き立て、倒れるのはこらえたようでした。
「いってぇー」
〔イォマグヌット〕の猛攻はそこで止まらず、さらにジュンヤを貪ろうと口を開けたままゆっくりと近寄っていきます。
「ここで俺はアウトだな」
そういうジュンヤのつぶやきが聞こえました。
「≪解除≫、≪【聖槍技】全てを払う聖なる光≫」
普段のジュンヤの大きさになり、左手の槍を上手く使い上空に飛び上がり、スキルを発動しました。
「うらあああああああ!!」
空中に浮かんだジュンヤの右手から【聖槍】が投げられ、本体に刺さります。
「あとはまかせたぜ」
そう言い残し、ジュンヤは口のような器官に落下していきます。
「っ……!」
〔イォマグヌット〕は一瞬でジュンヤを食べ、すぐさま私に向かってきます。
反撃に出たってことは結構やばい状態なはず……。
そう希望的な観測をし、斬りかかろうとします。
「≪ハイエンド・ライトニング・エンチャント≫」
後方からステイシーの声が聞こえ、全身が雷に包まれます。
助かりますね。
いつもパーティーを組んでいるので魔法をかけるタイミングまで完璧です。
「はっ!」
ギリギリで無数の足による攻撃を回避し、その足を斬り落とします。
スライド移動も併用しているのにこれほどまでギリギリの回避になってしまうのは敵の強さ故でしょうか。
それとも私が死にたがりなのか。
ジュンヤが削ったHPをさらに削り、追い詰めていきます。
6本の腕で何度も何度も斬りつけてやっと目に見えて減ってきました。
悲鳴をあげたいのかクネクネと身をよじらせ、苦痛を表しています。
何とかすべての足を斬り落とし〔イォマグヌット〕の移動を封じます。
4本の召喚した腕で雁字搦めにし、身動きを取れないようにもしておきます。
すぅと息を吸い、私は詠唱魔法を発動します。
『歌エ 歌エ 原初ノ闇ヨ 踊レ 踊レ 原初ノ闇ヨ 我ガ精神ヲ供物トシ 有ルベキ姿ニ戻リ給フ 出デヨ 出デヨ 常闇ヨ 爆ゼヨ 爆ゼヨ 死ノ闇ヨ』
『≪常世ニ溢ルル消エヌ闇≫』
残りのMPをすべて吸い取り、発動した詠唱魔法により、またも視界が暗くなります。
倒したのであれば討伐アナウスが出るはず……。
しかし、その表示は出ず、視界が戻った先には拘束された状態でピクピクとしている〔イォマグヌット〕が見えました。
瀕死には追い込んでいたみたいですね。
異常に重く感じる身体を引きずるように動かし、〔イォマグヌット〕の近くまで来ます。
瀕死の状態でも私を食らおうと口を開けている〔イォマグヌット〕に腰から抜いた剣を差し込みました。
『〔外なる神 イォマグヌット〕の討伐を確認しました。ユニーク武器【神器 イォマグヌット】をインベントリに獲得しました。【神絶やし】、【火精の偽王】、【暴食】の【称号】を獲得しました。』
【神器 イォマグヌット】
装備効果
火属性魔法被ダメージ100%減少
火属性魔法ダメージ100%上昇
熱耐性50%上昇
武器固有スキル
≪【星々から宴に来たりて貪るもの 】≫
≪絶級火属性魔法≫
武器固有スキルの効果が特殊過ぎて私には理解できませんでした。
私のために食事が用意された場合、消費なしで転移できるかわりに全部食べきるまで帰れないって……。
【火精の偽王】は≪絶級炎属性魔法≫を使えますし、なかなかいい効果です。
【神絶やし】と【暴食】はお飾り称号ですね。
先ほどの戦闘で7、今の戦闘で10レベルが上がり、Lv.331になりました。
85ポイント分のステータスポイントを獲得したので全てMPに振り、MNDが補正込みで405まで上がりましたね。MPの最大値は43300、ENの最大値は32050になりました。
いよいよ、魔法系の仲間入りですね。
ステイシーも【称号】やら武器やらを獲得したようで確認しています。
「ステイシー」
「ありがとうチェリー。もう大丈夫だよー」
そういいニッコリわらっていました。
冥界から脱出し、地下室に戻ってきます。
目の前の雀卓の椅子に座り、茶をすすっていたジュンヤが声をかけてきます。
「おかえりー。倒せたみたいだな」
「ありがとう。ジュンヤが居なかったら多分倒せてなかった」
「だろうな。もっと褒めていいんだぜ?」
「はいはい」
「ジュンヤもありがとねー」
「おう。もういいのか?」
そう少し心配そうな顔をしていますがステイシーの笑みを見て納得したようでそれ以上は聞きませんでした。
「ステイシー。ちょっと話がある」
そういったジュンヤに連れられ、地下室から二人が出ていきます。
「チェリーはどうだった?」
「どうもこうもないよー。普通に動いて倒してたー」
「なんでだろうな」
「仲間の命とか自分の命がかかってないとたぶんずっとあのままだと思うよー?」
「そっかぁ」
「おまたせー」
ステイシーが戻って来てそう言います。
「悪いな。ちょっと愛猫姫のことで相談があってさ」
「そうなんだ。疲れたし私はそろそろ落ちようかな」
「いい修行だった。あっあと『猫姫王国』の件だが明日くらいには進展しそうらしいぞ。またなー」
「チェリーまたねー」
「またね」
そう言って私はエレベーターに乗り込み、4階の自室の扉を開けます。
何かの気配がします。
「誰?」
となりで寝ているフラン達を起こさないように小さい声で誰何します。
「じゃーん! エルマちゃんだよー!」
とエルマのサブアカウントのキャラクターがベッドの下からニョキっと生えてきます。
「びっくりさせないでよー」
「えへへーごめんねー。下でハンナちゃんに聞いたら冥界に行ってるって言ってたし、帰ってくるときはエレベーターで直接4階だから大丈夫かなってね!」
あー。全部読まれてますね。
「そうだエルマ。サブキャラって魔法系だったよね?」
「うん。火魔法と風魔法を使うかな? あとエルマじゃなくて風紅」
「これあげる」
「えっ?」
そう言って私はエルマ……風紅に【神器 イォマグヌット】を渡します。
「えっ? 【神器】じゃん! いいの?」
「いいよ。装備効果は優秀だけど武器固有スキルがちょっとアレでね」
エルマがポチポチと画面を操作し、確認します。
「これは……作成者いろいろと勘違いしてるんじゃない?」
「だよね。まぁ手に入れた【称号】が立派なもんだったからそれで十分だよ、私は」
「そっかー。じゃぁ遠慮なくもらうねー! チェリーに合いそうな奴手に入れたらあげるよ!」
「気にしなくていいよ。それより聞いてよ……」
疲れてたはずなのに数時間エルマと話してしまい、気が付いたら二人とも寝てしまっていました。
to be continued...
『やつが何なのか知ってるのか?』
そう聞いてくるジュンヤにステイシーが答えます。
『やつは〔イォマグヌット〕、外なる神って言われる奴だねー』
『それってゲーム外での話?』
私はそう口を挿みます。
『うん。元はクトゥルフ神話の神性だったかなー』
クトゥルフ神話……。私もTRPGは結構かじっていたので名前に聞き覚えがありました。
『どんなゲームをやってもついてくるって?』
先ほどからの疑問を口にします。
『その通りだよー。僕がどのゲームで遊んでいても結局、敵としてあいつが現れて、すべてなかったことになっちゃう』
そういえばMMOで謎のモンスターが襲来し、運営でもリカバリーできない事があり、サービス終了したゲームがいくつかあったはずです。
私はてっきり、サービス終了のための言い訳なんだと思っていましたが、上空にうかぶ環状の炎からはそれほどの力があると感じ取れました。
『とりあえず倒さないとゲーム自体もヤバイってことか?』
『そこまでは断定できない。でも倒さないと……』
その言葉の後に何が省略されていたのか、ステイシーはどんな気持ちなのか、読み取ることができませんがやることはただ一つですね。
『倒そう』
『しかねーよな?』
少しの間があり、ステイシーから返事がきます。
『ありがとう』
改めて倒す決意をし、作戦を立てます。
『まず接近はできそう?』
『いや。熱くてちかよれねぇ』
『じゃぁ魔法系か。水は効きそう?』
『届く前に全部蒸発するー』
『なら氷も無理そうだね』
手の打ちようがない……。
苦し紛れに腰につけていた【神器 チャンドラハース】を≪投擲≫してみます。
すっと光が剣を包み、手を振っていないのに飛んでいきます。
おお! 投げるモーションなくてもいけるんだ!
すこしの感動を覚えますが、飛ぶ先は見失わないように目線は剣を追い続けます。
ある程度〔イォマグヌット〕に近づくとドロリと溶け出し、跡形もなくなってしまいました。
TPを消費したら溶けた武器も元通りになり腰に重みが増します。
「チェリー」
私が行動をしている間に二人とも近くまで来てくれたようです。
すこしステイシーの顔が元の色味にもどってきてますね。
「ステイシー大丈夫?」
「うん。でもまー一人だったら逃げ出してたねー」
「辛かったら言って。ジュンヤが何とかする」
「俺かよ!」
「さてどうしよっか」
【神器】ですら溶かされてしまった事を伝えます。
「俺の【聖槍】ならたぶん通る。こういう手合いにはぴったりな武器だしな」
ジュンヤの【聖槍】が頼りってわけですね。
「どのくらいで装備できる」
「そうだなぁ。あと10分はかかる」
「10分あったら私達全滅しちゃわない?」
「するだろうな」
「…………」
「チェリー。いったんあいつを閉じ込められるー?」
「できるかわからないけどやってみようか?」
「お願いー。属性は聖属性でー」
私達と会話することで平静を取り戻したのか、いつもと同じテンションに戻ったステイシーが言う通り聖属性でキューブシェイプの魔法を使ってみます。
「≪ホーリー・キューブ≫」
一時的に閉じ込めることはできましたがすぐに≪アンチスペル≫され解けてしまいました。
「≪アンチスペル≫もあるのか」
「本当に攻撃手段がなくなっちまったぞ」
「いやー。これでいいのさー」
ステイシーが何かを確信したような表情で言いました。
「≪フレイム・ハイネス・レジスト≫、≪ホット・ハイネス・レジスト≫」
ステイシーが炎耐性を得る魔法と熱耐性を得る魔法を発動してくれたので少し熱が下がったような気がします。
火魔法に対しては【アンゲーロ・ボトムス】で完全に近い耐性を持っていますが、熱耐性は一切なかったので助かりました。
「耐性が上がっても攻撃手段がないんじゃねー」
「武器が溶かされるなら魔法で生成するしかないよね?」
「うーん。まぁそうなるよね」
「ちょっと試したいことがあるんだけど」
「なにかなー?」
「私が魔法で武器を何種類か作って、≪【見えざる手】≫、これで斬ってみる」
しゃべりながら魔法を発動し、手を4本召喚します。
「それなら……≪アイシクル・アーム≫エンチャント≪ウォーター・ブレード≫、≪サンダー・スカバード≫エンチャント≪フレイム・スカバード≫」
詠唱魔法に匹敵するほど長い言葉を聞き、ステイシーが作り出した魔法製の剣を召喚した手で受けとります。
「氷の剣を水でカバーして、鞘は炎製で雷を付与してあるー。これでどこまでいけるかな?」
「試してみる」
2本の腕を操作し、〔イォマグヌット〕にむかって伸ばします。
今のところこの腕の伸ばす限界は見えてこないので、距離的な問題はないでしょう。
しかし、いくらステイシーが作った特性の魔法剣であっても、【神器】を溶かすレベルの熱に耐えられるかは心配です。
残り10mくらいでしょうか。
【神器】は溶けてしまいましたが、魔法剣は溶ける感じがしません。
行けるか!?
そう思い、抜刀し、斬りかかります。
スパッと環状の炎は二つの半円となり、地面へ落下していく様子が見えました。
「やったか!?」
こういう時にフラグを立てるのはジュンヤの悪い癖ですね。
半円となった炎の環が地面に墜落し、爆音を奏でた後、周りの地面が溶けていくのが確認できました。
おそるおそる残った2本の腕を伸ばし、拾い上げてみます。
腕は溶けることなく、半円を掴みとりました。
「これほんとに倒せたんじゃねーの?」
そう言いながらジュンヤは【聖槍】を取り出します。
「まだスキルはつかえねぇけど、装備は可能になったぜ」
「よかった」
一瞬ジュンヤのほうを見ていた顔を半円のほうに戻すと、目の前で半円が光りだしました。
目がくらむほどの閃光が発生し、つい目を閉じてしまいました。
数秒して目を開けると元通りになった半円とその中心に浮かぶクラゲのようなものが視界にうつりました。
「おいおい……」
「本体のお出ましだね」
「でやがったなー」
無数の足のようなものを蠢かせ、こちらに向かってゆっくり、ゆっくり、近づいてきます。
先ほどの円環状態の時ほど熱はなく、装備が溶け出すことがないことに少し安心し、〔イォマグヌット〕をキッとみます。
こちらの視線を意に介さず、〔イォマグヌット〕は近づいてきます。
「しゃぁねぇ! やるぞ!」
ジュンヤが完全ではない【聖槍】を構えます。
「チェリーはフォロー頼む」
「わかった。ステイシーもっかい耐性スキルお願い」
「≪フレイム・ハイネス・レジスト≫、≪ホット・ハイネス・レジスト≫」
ステイシーの耐性魔法を浴び、ジュンヤが駆けていきます。
「だらあああ!」
【聖槍】を突き出し、〔イォマグヌット〕の本体であろうクラゲに差し込みます。
そして数歩バックステップし、こちらに声が届く範囲までもどってきます。
「通ってるはずだ! チェリーお前も攻撃に参加だ! 魔法剣で来い!」
そう言われたので召喚した4本の腕と自前の腕に系6本の闇魔法剣を装備し、ジュンヤの横に並びます。
「そうか! ≪【羅刹化】≫ぁ!」
先ほど獲得した【神器 ラーヴァナ】を左手に装備し、スキルを発動し、強大化していきます。
「これで畳み掛ける!」
ズシズシと足音を立てつつ、ジュンヤが再び本体に接近します。
私も本体に近寄り、6本の腕を本体を斬りつけます。
その間ステイシーは温度上昇を下げるため、絶級水魔法で雨を降らせていました。
数分ほど斬っていますが終わりが見えません。
しかし〔イォマグヌット〕は反撃をせず、ただずっとそこに立っていました。
「っしゃぁ! 【聖槍解放】!」
ジュンヤが【聖槍】を真の姿にし、攻撃速度をさらに上げ、どんどんダメージを蓄積していきます。
すると先ほどまで反撃に出なかった〔イォマグヌット〕がついに反撃にでました。
本体の口らしき部分をバカァッと開け、私を丸のみにしようとしてきます。
あぶなっ!
そう声には出さず、数歩下がりギリギリで回避します。
「ジュンヤ!」
「もうおせぇ!」
注意を促そうとしたらジュンヤはすでに左足を食い千切られ、後ろに倒れそうになっていました。
増殖した腕ではない、本来の左手に握った【神器 ラーヴァナ】を地面に突き立て、倒れるのはこらえたようでした。
「いってぇー」
〔イォマグヌット〕の猛攻はそこで止まらず、さらにジュンヤを貪ろうと口を開けたままゆっくりと近寄っていきます。
「ここで俺はアウトだな」
そういうジュンヤのつぶやきが聞こえました。
「≪解除≫、≪【聖槍技】全てを払う聖なる光≫」
普段のジュンヤの大きさになり、左手の槍を上手く使い上空に飛び上がり、スキルを発動しました。
「うらあああああああ!!」
空中に浮かんだジュンヤの右手から【聖槍】が投げられ、本体に刺さります。
「あとはまかせたぜ」
そう言い残し、ジュンヤは口のような器官に落下していきます。
「っ……!」
〔イォマグヌット〕は一瞬でジュンヤを食べ、すぐさま私に向かってきます。
反撃に出たってことは結構やばい状態なはず……。
そう希望的な観測をし、斬りかかろうとします。
「≪ハイエンド・ライトニング・エンチャント≫」
後方からステイシーの声が聞こえ、全身が雷に包まれます。
助かりますね。
いつもパーティーを組んでいるので魔法をかけるタイミングまで完璧です。
「はっ!」
ギリギリで無数の足による攻撃を回避し、その足を斬り落とします。
スライド移動も併用しているのにこれほどまでギリギリの回避になってしまうのは敵の強さ故でしょうか。
それとも私が死にたがりなのか。
ジュンヤが削ったHPをさらに削り、追い詰めていきます。
6本の腕で何度も何度も斬りつけてやっと目に見えて減ってきました。
悲鳴をあげたいのかクネクネと身をよじらせ、苦痛を表しています。
何とかすべての足を斬り落とし〔イォマグヌット〕の移動を封じます。
4本の召喚した腕で雁字搦めにし、身動きを取れないようにもしておきます。
すぅと息を吸い、私は詠唱魔法を発動します。
『歌エ 歌エ 原初ノ闇ヨ 踊レ 踊レ 原初ノ闇ヨ 我ガ精神ヲ供物トシ 有ルベキ姿ニ戻リ給フ 出デヨ 出デヨ 常闇ヨ 爆ゼヨ 爆ゼヨ 死ノ闇ヨ』
『≪常世ニ溢ルル消エヌ闇≫』
残りのMPをすべて吸い取り、発動した詠唱魔法により、またも視界が暗くなります。
倒したのであれば討伐アナウスが出るはず……。
しかし、その表示は出ず、視界が戻った先には拘束された状態でピクピクとしている〔イォマグヌット〕が見えました。
瀕死には追い込んでいたみたいですね。
異常に重く感じる身体を引きずるように動かし、〔イォマグヌット〕の近くまで来ます。
瀕死の状態でも私を食らおうと口を開けている〔イォマグヌット〕に腰から抜いた剣を差し込みました。
『〔外なる神 イォマグヌット〕の討伐を確認しました。ユニーク武器【神器 イォマグヌット】をインベントリに獲得しました。【神絶やし】、【火精の偽王】、【暴食】の【称号】を獲得しました。』
【神器 イォマグヌット】
装備効果
火属性魔法被ダメージ100%減少
火属性魔法ダメージ100%上昇
熱耐性50%上昇
武器固有スキル
≪【星々から宴に来たりて貪るもの 】≫
≪絶級火属性魔法≫
武器固有スキルの効果が特殊過ぎて私には理解できませんでした。
私のために食事が用意された場合、消費なしで転移できるかわりに全部食べきるまで帰れないって……。
【火精の偽王】は≪絶級炎属性魔法≫を使えますし、なかなかいい効果です。
【神絶やし】と【暴食】はお飾り称号ですね。
先ほどの戦闘で7、今の戦闘で10レベルが上がり、Lv.331になりました。
85ポイント分のステータスポイントを獲得したので全てMPに振り、MNDが補正込みで405まで上がりましたね。MPの最大値は43300、ENの最大値は32050になりました。
いよいよ、魔法系の仲間入りですね。
ステイシーも【称号】やら武器やらを獲得したようで確認しています。
「ステイシー」
「ありがとうチェリー。もう大丈夫だよー」
そういいニッコリわらっていました。
冥界から脱出し、地下室に戻ってきます。
目の前の雀卓の椅子に座り、茶をすすっていたジュンヤが声をかけてきます。
「おかえりー。倒せたみたいだな」
「ありがとう。ジュンヤが居なかったら多分倒せてなかった」
「だろうな。もっと褒めていいんだぜ?」
「はいはい」
「ジュンヤもありがとねー」
「おう。もういいのか?」
そう少し心配そうな顔をしていますがステイシーの笑みを見て納得したようでそれ以上は聞きませんでした。
「ステイシー。ちょっと話がある」
そういったジュンヤに連れられ、地下室から二人が出ていきます。
「チェリーはどうだった?」
「どうもこうもないよー。普通に動いて倒してたー」
「なんでだろうな」
「仲間の命とか自分の命がかかってないとたぶんずっとあのままだと思うよー?」
「そっかぁ」
「おまたせー」
ステイシーが戻って来てそう言います。
「悪いな。ちょっと愛猫姫のことで相談があってさ」
「そうなんだ。疲れたし私はそろそろ落ちようかな」
「いい修行だった。あっあと『猫姫王国』の件だが明日くらいには進展しそうらしいぞ。またなー」
「チェリーまたねー」
「またね」
そう言って私はエレベーターに乗り込み、4階の自室の扉を開けます。
何かの気配がします。
「誰?」
となりで寝ているフラン達を起こさないように小さい声で誰何します。
「じゃーん! エルマちゃんだよー!」
とエルマのサブアカウントのキャラクターがベッドの下からニョキっと生えてきます。
「びっくりさせないでよー」
「えへへーごめんねー。下でハンナちゃんに聞いたら冥界に行ってるって言ってたし、帰ってくるときはエレベーターで直接4階だから大丈夫かなってね!」
あー。全部読まれてますね。
「そうだエルマ。サブキャラって魔法系だったよね?」
「うん。火魔法と風魔法を使うかな? あとエルマじゃなくて風紅」
「これあげる」
「えっ?」
そう言って私はエルマ……風紅に【神器 イォマグヌット】を渡します。
「えっ? 【神器】じゃん! いいの?」
「いいよ。装備効果は優秀だけど武器固有スキルがちょっとアレでね」
エルマがポチポチと画面を操作し、確認します。
「これは……作成者いろいろと勘違いしてるんじゃない?」
「だよね。まぁ手に入れた【称号】が立派なもんだったからそれで十分だよ、私は」
「そっかー。じゃぁ遠慮なくもらうねー! チェリーに合いそうな奴手に入れたらあげるよ!」
「気にしなくていいよ。それより聞いてよ……」
疲れてたはずなのに数時間エルマと話してしまい、気が付いたら二人とも寝てしまっていました。
to be continued...
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自らをそう名乗った謎の筋肉男『谷口貴樹』はロックミュージックを流し、アクション映画の如く盛大にゾンビを殲滅した。
知夏はその姿に惹かれ奮い立った。この手で人を救うたいという願いを胸に、百貨店の屋上から小さな一歩を踏み出す。
その一歩が百貨店を盛大に救い出すことになるとは、彼女はまだ考えてもいなかった。
数を増やし成長までするゾンビの群れに挑み、大都会に取り残された人々を救っていく。
ゾンビのプロとその見習いの二人を軸にしたゾンビパンデミック長編。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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