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第1章 セーラム

第1章3幕 戦闘<combat>

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 慣れないVRだったせいか10時間ほど睡眠をとったのですがまだ眠気が残っています。
 机の上に置いてあるケトルの電源を入れ、2週間ほどあらっていないマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れます。
 他人に出すわけではないのでいいんです。

 お湯が沸くまでの間にごはんも用意しておきますか。
 
 自動調理機から、今日は和食を取り出し、インスタントコーヒーを啜りながら食べました。
 お風呂は……まぁ一日くらい平気でしょう。

 専用端末を被り<Imperial Of Egg>にログインします。

 あれ? ごはん食べたばっかなのにお腹が空いてる感じがします。
 
 おお……ごめんよ……リアルボディーしかごはん食べてなかったよ……

 なにか食べるものがないかインベントリを探しましたが、〔マッスルガーゴイルの筋肉〕以外見当たらないので、適当にお店でも行って食べますか。

 そう思い、ホームを出るべく、階段を下りていきます。
 1階から聞いたことがない声がします。
 お客さんかな?
 「では明日からよろしくお願いします。わからないことは私か店主に聞いてくださいね」
 「わかりました。明日からよろしくお願いします」
 あぁ新しい従業員の方でしたか。

 「こんばんわ」
 「あっチェリーさんこんばんわ!」
 「おじゃましてます。こんばんわ」
 「紹介しますね! 明日から『セーラム』で働いていただく、ラビさんです! こちらは店主のチェリーさんです」

 フランから紹介され挨拶を交わします。
 ちょっとお話したいけど空腹度が……
  
 「きてすぐで申し訳ないんだけど、ちょっと、いやかなりお腹空いちゃってるから何か食べてきいいかな?」
 「あっ……私もお昼から何もたべてませんでした……」
 「じゃぁいったんお店閉めて、3人で行きましょうか」
 「私も……いいんですか……?」
 「? もちろん構いませんよ。ミニ歓迎会ですね」
 「ありがとうございます……!」

 誰かの腹の虫が騒いでいるのですぐ近くにあるプレイヤーのお店にいきます。

 「ここが『飯処 廁』ですね。名前はアレですが味は保証します」
 「廁……」
 「外の人達のネーミングは何ていうか……不思議ですね」
 「否定はしないです」
 NPCは私達プレイヤーのことを外の人って呼ぶんですね。覚えておきましょう。

 トイレの入口にある女性用マークの扉を開きます。
 ちなみに男性用マークのほうから入っても中はすぐつながっています。

 「いらっしゃい!」
 「こんばんわ」
 「「こんばんわ」」
 「空いてるとこどうぞ。すぐにメニューだしますね」
 「はい」
 店主のびすけっとと会話し、席をさがします。
 ちょうど開いていた窓際の席に座ると、従業員がメニューをもってきます。
 
 「聞いたことない食べ物ばかりです」
 「和食ははじめてですか?」
 「はい。『ヨルデン』出身なので」
 『騎士国家 ヨルデン』は現実で言う中世のヨーロッパに近い国だった気がします。
 和食が浸透してないんでしょうね。
 「ではここの払いは私が持ちますので、すきなだけ食べてください」
 「「ありがとうございます」!」

 メニューにある商品をほぼすべて注文し到着を待ちます。

 「申し訳ございません。〔アンゴラ・フィッシュ〕の在庫を切らしてまして……」
 なん……だと……?
 マグロの大トロに近い感じって<Imperial Of Egg>の旅行ブログやってる人が書いてたから食べたかったのに……。
 VR化前なので本当は食べていないと思いますが。
 「流通経路上に強力なモンスターが発生したらしく、納品がまだなのです……」
 なるほど。

 なるほど。

 「びすけっとさん。〔アンゴラ・フィッシュ〕私がとってきます」
 「いやいや! お客さんにそこまでさせるのは悪いよ!」
 「私が食べたいので。すぐ持ってきますので」
 フランとラビのほうを見て声を掛けます。
 「ではちょっと行ってきますね。お料理先食べてていいですよ。10分程度で戻ってきますので」
 「わかりましたー!」
 「じゃぁフラン。ラビさんのことよろしくね。いってきます」
 そう言って店を出て、【ゲートブック】を取り出します。
 「≪テレポート≫」
 行先は……常夏の『海上都市 ブラルタ』!

 ≪テレポート≫を終え、深く息を吸い込むと、潮の香りで肺が満たされていきます。
 
 心地よい太陽の光が肌を焼き、時折吹く風が肌を優しく撫でます。
 いいところですね。
 現実でいうとハワイに近いです。
 いったことないですが。

 〔アンゴラ・フィッシュ〕は沖に生息しているそうなので、船がないと行けませんが、私は浮けるのでそのまま行きます。
 「≪煌く軌跡≫≪アンチ・グラビティ≫≪フライト・レギュレトリー≫」
 もうこのスキル無しじゃ生きていけない。
 
 直立の姿勢のまま海の上を滑っていきます。
 移動しながら確認したモンスター情報によると、強い電流を流すと集まってくるようですね。

 ポイントに着きましたので早速電流を流してみます。
 っとその前に……
 「【探知】」
 研究者系が習得できる【探知】を使用します。
 これで一定範囲にプレイヤー及びNPCがいるか確認できます。

 空気の壁のようなものが円形に広がっていき【探知】します。
 
 プレイヤーもNPCも1キロメートル内にいないですね。これなら雷属性魔法をぶっ放しても大丈夫そうです。

 「≪サンダー≫」
 初級雷属性魔法を水面に落とします。

 黄色い雷が私を中心に広がっていきます。
 これ浮いてなかったら自滅してますね……

 電気を流したことにより〔アンゴラ・フィッシュ〕がわらわらと集まってきます。

 初VRの戦闘ですね。
 わくわくします。

 近場にいた〔アンゴラ・フィッシュ〕はビクビクと痙攣しているので放っておきます。
 【捕獲】スキルがあれば生きたままでもインベントリにしまえるんですけどね。もってないのでしかたありません。
 【解体】も持ってないので倒してドロップ品にするしかないですね。

 先ほど見た情報だと火が効くそうですが、刺身として食べるのにちょっとでも焼けてるのは嫌なので他の方法で倒すことにします。
 実際は、消し炭にしようがちゃんと生の状態でドロップが手に入るので関係ないですが気持ちの問題です。

 3メートルを優に越す巨大魚に鳥肌が立ちます。
 いままで画面越しにしか見ていなかったので何も感じませんでしたが、VRだとモンスターの迫力がダイレクトにやってくるのでなかなか怖いです。
 昔のホラー映画でサメが出てくる奴を見たことがありますが、これに比べたらたいしたことありませんね。
 見た当時はお風呂すら入れなくなるほど恐怖したのですが。

 「≪ライトニング・アロー≫」
 先ほど〔アンゴラ・フィッシュ〕を寄せるために使用した初級雷属性魔法でも何匹か瀕死だったので雷魔法をアローシェイプにして撃ちぬいていきます。
 アローシェイプは同時に複数生成できるのでこういう時便利なのです。
 本来でしたら発射に弓が必要なのですが、今回持って来ていなかったので別の方法で飛ばします。

 あまり身体を動かしたくないんですがしかたありません。

 ダーツを持つように雷の矢を握り、右腕を振り上げ……

 投げる!

 『ピギャァアッァァァァ』

 ドスッという音とともに〔アンゴラ・フィッシュ〕の断末魔が聞こえてきます。

 あ。意外といけますねこれ。
 今度召喚獣か何か入手して矢投げ調教するのもいいかもしれませんね。

 3分ほど矢を作って投げるを繰り返し、私の息が上がる頃には見渡す限りでモンスターはいなくなっています。
 ではドロップ品の確認をしますか。

 〔アンゴラ・フィッシュの切り身〕
 〔アンゴラ・フィッシュの頭〕
 〔アンゴラ・フィッシュの骨〕
 〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕

 ん?
 〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕?
 いつ倒したんだろう?
 まあいいです。同じ魚なので味もきっと一緒でしょう。
 数日分は持つであろう量のドロップを確保したので『飯処 廁』に帰ります。

 「≪テレポート≫」

 店の前に降り立ち、扉を開けます。
 「ただいまです。びすけっとさん集めてきました」
 そういうと厨房に案内されます。
 「ごめんねーありがとー」
 「無茶いってすいません。VRになったので食べてみたかったんです」
 「がんばって作るよ」
 「お願いします。あっ多分この作業台の上に置ききれないので、倉庫に直接移しちゃいますね」
 「えっ?」
 「えっ?」
 「どんだけとってきたの?」
 「切り身で100個くらいですね」
 「もう〔アンゴラ・フィッシュ〕絶滅してるんじゃ……?」
 「加減したので絶滅はしてないと思います。たぶん」
 「お、おう……とりあえず席で待っててよ!今日はお代タダでいいよ」
 「いえお代は支払います」
 「お人よしめ!」

 席に戻るとおいしそうな食事がたくさんならんでいました。
 「本当に10分くらいでもどってきたんですね」
 「はい。でも5分くらいで帰ってこれれば暖かいまま食べれたのですが」
 「まださめてないので大丈夫ですよ!たべましょ!」
 「そうですね。ではいただきます」

 まず手に取った味噌汁風なものを口に流し込みます。
 素朴な魚類の出汁に加え、味噌風の何かの甘味、存在を主張してくる野菜の瑞瑞しさ。
 どれをとっても5つ星の料亭に引けをとりません。
 そういえば5つ星なんてありましたっけ?
 あと5つ星どころか1つ星すらたべたことありませんでした。
 「おい……しい……」
 無言で味噌汁風なものを飲み干します。
 こちらの世界で食べ続けてたら現実で食事取れなくなってしまいそうです。
 「こちらもおいしいですよ!」
 そういってフランがカレイの煮付けのようなものを渡してくれます。
 「〔ポイズンドッグフィッシュ〕……」
 骨から毒薬を抽出できるモンスターが素材なようです。
 まぁ食事で出てきてるということは毒はないはずなので大丈夫でしょう。

 箸で身をほぐし、口に運びます。
 醤油に近い香りと、身の甘さ、そして生姜の主張しすぎない味。
 これまた絶品です。
 またも無言で食べているとお目当てのものが到着します。

 「おまたせしましたー〔アンゴラ・フィッシュの刺身〕と〔アンゴラ・キング・フィッシュの頬肉〕です。頬肉のほうはサービスです」
 「おお! ありがとうございます」
 
 ごくり……と喉が鳴るのを抑えることはできませんでした。
 「では……いただきます!」
 刺身を一切れとり、何もつけずに口へ運びます。
 
 絶句しました。

 口に含んだ瞬間、脳髄が揺さぶられるような感じでした。
 超高級松阪牛に匹敵します。
 たべたことないですが。
 それほどまでにおいしいです。
 
 口に入れると脂がふわっと融け、口の中を駆け回ります。
 身を一口噛みしめると、身が口の中で踊ります。
 歯がなくても食べれるほどの柔らかさと、脂の味、すべてが別格でした。

 二人も目をトロンとさせながら頬張り続けています。
 フランはリスみたいになってましたが。

 最後は……頬肉ですね。

 「「「ごくり……」」」
 三人の喉の音が一致し、それだけで意思疎通ができました。

 「では……」
 三人とも箸で頬肉を取り、口の前までもっていきます。
 キングというくらいなのですから、さらにおいしいはずです。
 疑いもせず、今日で一番おいしいであろう物を口に運び、これまた絶句しました。

 端的に言って死ぬほどまずいです。
 
 「うおぉおおおおえええええええ!」
 すでにフランが吐きました。
 「うっぷ……うっぷっ……」
 そしてラビも顔を吐瀉物で汚します。
 
 「うっ……」
 私も限界です。
 「おええええぇぇええええええっ!!」
 机の上に盛大にぶちまけ、すべてを台無しにします。
 
 「びすけっとおおおおおおおおちょっこいいいいいいいいいい」
 こんな大声出したのは初めてです。
 他の客もこの惨状に気付いたようです。
 「チェリーのゲロか……ふぅ……」とか「美少女の嘔吐か……ふぅ……」とか聞こえてきたのであれはあとで消します。またお前かハリリン。
 「あわわわ! どうしたの!」
 「この惨状を見てわからんのか!」
 「だいたい察しは付いたよ……」
 「くえ。いいからお前も食え」
 箸に取った頬肉を無理やり食べさせようとします。
 「まって! まってって!」
 「うるさい。死ぬか食うか選べ」
 「たべます! ちょうどお腹空いてたんだ!」
 「よしいい子だ。あーん」
 「あーん……」
 開いた口にぽいっと放り込みます。

 びすけっとの顔がみるみる青ざめて行きます。
 「ごべ……ちょ……トイ……」
 無理ですね。絶対に間に合いません。
 
 2歩ほど歩き、地面に倒れ、全部はきだしていました。

 「まずすぎるよ……これ……」
 びすけっとがマジ泣きし始めてしまったので今日は撤収します。
 あっそうだ。
 「ハリリン」
 「はい!」
 「のこり全部くっとけ。残したら殺す」
 
 そう言い残し、私達3人はホームにかえります。
 後ろから「うおおおおおうめぇ! おえっ」とか聞こえてきましたのでどっちにしろハリリンは殺します。

 今日の出来事のおかげでラビと仲良くなれ、フランともさらに仲良くなれたので良しとします。
 いや。よくない。色々犠牲にし過ぎた気がします。

 口直しにフランが入れてくれた紅茶を飲みながら〔アンゴラ・キング・フィッシュ〕の絶滅方法を考えています。
                                      to be continued...
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