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第0章

第0章4幕

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 <転生>クエストを完了し、『花の都 ヴァンヘイデン』へ帰ってきた私は、エルマと別れ、自分が購入していた店舗兼ホームのある『ヴァンヘイデン中央市街地』まで歩いて入りました。
 『中央市街』は『ヴァンヘイデン城』を中心とした約1キロメートルほどを差し、そこには様々な店舗があります。
 【調薬師】が生成したポーション等を販売する薬局、【狩人】が営む素材屋、【料理人】が開く料亭などプレイヤー、NPCを問わずに誰でも開くことができます。
 その中でも『ヴァンヘイデン城』から東通り、南通り、西通り、北通りと4方向に伸びるメインストリートでは、昼夜を問わず、プレイヤー達が集まり買い物をしています。
 通りをずっと進むと市街地の喧騒も消え、花の都というにふさわしい、果樹園や畑、田んぼなどを見ることもできます。
 洋風の建築と和風の建築が見事に調和した、リアルではきっと言葉も出ないほどに、美しい街並みです。
 私がここに居を構えている理由の一つでもあります。
 もう一つの理由は、この都市がとても広く、たくさんのプレイヤーが集まってくるということです。
 たくさんのプレイヤーが集まれば素材もたくさん市場に出回りますし、私が制作した武器や防具、洋服等も売れやすいと思ったのです。
 サービス開始直後から始めたわけではありませんが、大学を中退し、働いてもいない私には時間が捨てるほどありましたので、店舗の購入資金もすぐ用意できました。
 実装されたばかりのこの街では立地もよく、手の出しやすい物件はいくつもありました。
 選び放題で悩んでしまったのですが、城の正門が見える南通りの店舗を購入しました。
 店舗を出て左手を見れば中世に存在していたであろうお城、右手を見ればかつての江戸のような街並みを望むことができる。
 これだけでおつりがくるようなものです。 <Imperial Of Egg>においてのお金はすべて『金』という単位で表されます。
 おおよそ1金が現在の日本円で1円ほどなので日本人にはわかりやすいと思います。
 少し話がそれましたが、私が購入した時点での店舗価格はなんと7000万金でした。
 かなり高く思えますがこの情景を見ることができるなら安いものです。
 
 VR化した際、キャラクターや所有物はどうなるのか少し不安にもなりましたが、告知ページに引き継ぐことが可能と書いてあったので一安心です。
 余談ですが、VR化に際し身長や体重、性別等のキャラクタークリエイトだけはやり直せるそうです。
 無論私には関係ありませんが。

 さて店舗の話にもどりましょう。
 私の店舗―『セーラム』―ですが、地下と地上4階までありますのでなかなか快適です。
 ギルド『虎の子』のホームが2階建てなのでちょっと優越感があります。
 1階には雇用したNPCに私の制作した武器や防具を販売してもらっています。
 地下1階には武器や防具を試すための設備も用意しました。
 そのおかげか常連と言えるほどのプレイヤーもできてきました。
 ログアウトする前にインベントリで寝かせておいた、ドロップ品を1階の奥にある作業台の上におきました。
 〔マインスパイダー〕
 〔レッドアリゲータ〕
 〔グリムリリン〕
 〔ジャイアントアント〕
 ……このままではあまりいいものが作れませんね。
 素材に加工にしてしまいましょう。
 
 作業台のメニューを開き、素材化のボタンを押し4つのドロップ品を素材化します。

 完了まで15分ほどかかるようです。
 特にコマンド入力とかもないので基本この時間は次に集めてくる素材や市場のチェックをするのですが、今日はそうもいかないようです。

 「「……お邪魔しますー」」
 男性と女性、二人のプレイヤーが訪ねてきました。
 「いらっしゃいませ」
 『いらっしゃいませ』
  作業部屋からカウンターに戻り、NPCと一緒にお辞儀をする。
 「なにかお探しですか?」
 あまりプレイヤーが経営する店に来ることはなさそうに見えましたので、要件をききます。
 「えっ……と……」
 「なんでしょう?」
 ちょっと画面の向こうからビクビクしているような気配を感じます。
 「あ……あの……武器を探していまして……」
 「武器ですね。かしこまりました。左手側の壁にかけてあります。とはいっても【刀匠】とか【上級鍛冶職人】ではないので高性能なものはあまりありませんが」
 ありがとうございます……。
 男性がそう呟き武器が陳列してある棚のほうに向かっていきました。
 なんかちょっと怖がられてるかも……? と思ったので、お茶でも出してみましょうか。
 奥の作業部屋に備え付けてあるキッチンに保管してあったバフが付く紅茶を取り出します。
 ポットもキッチンの下にあったはずなのでそれも取り出し、コマンドから紅茶作成を行います。
 3秒ほど経つとポットが紅茶で満たされ、〔魔力の紅茶〕を入手しました。
 
 カウンターに戻り、用意した3つのティーセットに〔魔力の紅茶〕を注ぎます。
 
 「よかったらどうぞ」
 そう話しかけると女性のほうがお礼を言ってくれました。
 「ありがとうございます」
 「きにしないでください。ちょうど飲もうとしたところだったので」
 〔魔力の紅茶〕は使用すると1時間の間MPポーションの回復量を倍にする効果がありますので≪ディメンション・ゲート≫で減ったMPを回復させるのにちょうどよかったのです。
 「ではいただきます」
 手に取り飲んでくれました。
 「面白い効果ですよね。狩りの前に飲むとMP回復効率は倍ですから」
 「そうですね。すいません、突然来た私達なんかにこんな高級品を出させちゃって」
 「いえいえ。MPを使用する魔法系ほとんど使っていないので、倉庫の肥やしになっていたんですよ」
 「そうだったんですか。てっきり魔法系のプレイヤーさんなのかと思っていました」
 今は武器も装備してないですし、キャラクタークリエイトでは知的な女性をイメージして作ったので、そのせいもあるかもしれません。
 眼鏡かけていますし。
 「あっそうだ……っと」
 『研究者セット』に転換し、武器を探しに来た男性と女性のステータスを拝見します。
 「なるほど。司祭系ですね。お連れの方は……AGI型のバランス振りでアサシン系のように見えます」
 「はい。そうです」
 それならいいのがあったはずです。私のお古ですが。あれ、どこにあっただろう。
 「ちょっと失礼しますね」
 立ち上がりNPCに話しかける。
 NPC―フランといいます―に話しかける。
 フランには複数のアイテムを預けることができ、在庫がなくなったら補充したりしてくれます。
 いくつかのインベントリを見ていると、そこにありました。
 
【レガシータスク】:短刀
 装備効果:
  AGI+20 CRI+10
 武器固有スキル:
 ≪光の一閃≫
  発動時TPを100消費する。      
  発動後、目標地点までAGI×3の速度で移動し、一閃する。
 ≪闇の一閃≫
  発動時TPを100消費する。
  発動後、10秒間移動ができなくなるが、自身から3mの効果範囲に接近した物体の後方に移動し一閃する。
 
 「これなんかいかがですか?」
 「うあ! すいません集中して見ていたのでびっくりしちゃって……」
 「驚かせてすみません。ステータスを見させてもらったらぴったりの武器があったのでお声掛けさせていただきました」
 「すいません……これって……ユニーク武器じゃないですか! こんなの買えませんよ!」
 一般にユニーク武器やユニーク防具というのは名称や装備効果、固有スキルが非常に強力で同じものが存在しない武具のことを指します。
 同じ素材からできた武器でも構成に差が生じるといったところでしょうか。
 「ユニーク武器と言ってもピンキリですし、私のお古なのでお安くできますよ。それほど強力な武器でもないですから」 
 「ちなみにおいくらほどですか……?」
 「そうですね……私のお古ですし、20万金程度でしょうか」
 「「えっ?」」
 背後から女性の声も聞こえてきます。

「えっ? えっ? これユニークですよ?そ んな安く売っていいんですか?」
 何を驚いているのでしょうか。私のお古で尚且つもう使わない代物ですよ?
 「か……かまいませんが……? 20万金の価値もないと思うですが」
 「いや! これは市場で売れば800万金は超えますよ!」
 「そういわれましても……市場ですと手数料もとられますし、実際購入して装備してくださるお客様のお顔を見れるだけでいいんですよ」
 なんなら転売してもかまいませんよ。ともつけたしておきました。
 「そんな畏れ多いことできません! これください!」
 「かしこまりました。〔移譲書類〕お出ししますね」
 <Imperial Of Egg>ではユニーク装備品の売り買いができますが、所有権が存在するので、持ち逃げされても一定時間でインベントリに帰ってきます。
 なので所有権を移すために、ひと手間かかりますが、〔移譲書類〕が必要になります。
 【レガシータスク】のメニューを開き、〔移譲書類〕を取り出します。

 『前所有者:チェリー
  新所有者:
  当装備品における所有権を新所有者に移譲する。』

 「良ければ新所有者のところにキャラクターネームの入力をお願いします」
 
 『前所有者:チェリー
  新所有者:レーナン
  当装備品における所有権を新所有者に移譲する。』

 「ありがとうございます。では20万金いただきますね」
 お代を頂戴したので先ほどの紅茶をすすめます。
 「よかったらレーナンさんもどうぞ」
 
 新しい武器を装備し感触を確かめていたレーナンもカウンターに座ります。
 「いい装備があってよかったね」
 女性のお名前はまりりすさんと言うそうです。
 「何件も回ったかいがあった……」
 「こちら以外にもどこか行かれたのですか?」
 少し興味があったので聞いてみます。
 「はい。西通りの『大きな樹』とか北通りの『何本満足!』とか行きました」
 あー……どちらもプレイヤーの経営するお店ですね。
 「どちらも【上級鍛冶職人】のお店ですからね。高額になってしまいますよね」
 「はい……」
 「まりりすさんの武器はよろしいのですか?」
 「私はいいものがなかったので……」
 「どんな武器がいいのですか?」
 「そうですね……MNDとINTに補正がかかる武器がいいですね」
 「種類は何がいいですか?」
 「普段はスタッフとブックを装備しています」
 「なるほど……」
 あっそういえばステイシーが杖結構持ってた気がします。ちょっと相談してみましょうか。
 「心当たりがあるので、少し個人メッセ送りますね」

 『ステイシーへ
 今装備品を買いに来た二人組がいるんだけど、余ってる杖とかない? 高く買い取るよ。時間が合ったら『セーラム』まで来てください。
 チェリー』

 すぐに返信がありました。

 『チェリーへ
 了解だよー。
 いま西通りの『居酒屋 のほほん』にいるよー。
 リアルでちょっとお電話するから大体20分くらいかなー。
 気長に待っててー。
 ステイシー』
 
 「杖に詳しい友人が20分ほどで来てくれるそうです」
 「ありがとうござます」
 「20分暇ですし、地下で模擬戦でもしますか?」
 「いいんですか?」
 「かまいませんよ。試し斬りのために用意した場所なので。それに実践ではじめてつかうのは危険ですし」
 私個人としても【機械怪鳥の片翼】のスキル試してみたいですし。
 
 あっそうそう。素材化を実行していたアイテムを回収しないといけませんね。
 「裏で素材化行っていたのでそれを回収してきますね。カウンター横の階段を降りてお待ちください」
 〔マインスパイダーの糸〕
 〔レッドアリゲータの皮〕
 〔グリムリリンの毛〕
 〔ジャイアントアントの触覚〕
 になっていました。
 レア素材はないですが、売ればそこそこの儲けになりそうで……す……?
 
 私は気付いてしまいました。
 本系の武器の制作に必要な素材が4個あることに。
 
 後は紙系の素材があれば……と倉庫を確認していると、運よくありました。
 〔ヘブンロータスの魔力紙〕
 〔ヘブンロータス〕からのレアドロップですが、それほど貴重なものでもないので思い切って使ってしまいましょう。

 作業台のメニューから
 『武具制作』
 『武器制作』
 『武器系統:ブックレット』
 と進みます。
 制作時にある程度の形や効果、スキル等を設定できるのでそちらも設定します。

 『第一武器効果:回復量ボーナス』
 『第二武器効果:消費魔力減少』
 『第三武器効果:使用可能スキルレベル上昇』
 『第一スキル:≪中級聖属性回復魔法≫』
 『第二スキル:≪ホーリー・ヒール≫』
 『第三スキル:≪上級聖属性魔法≫』

 このように複数設定しておくと確率でその効果やスキルが付与されるものです。
 なので基本的に制作武器は全部ユニークになりますね。
 付与時にランクが下がることもありますし、上がることもあります。
 そのあたりは【鍛冶職人】や【魔具職人】等の【称号】をアクティブにしておくとボーナスがかかるみたいなので一応どちらもアクティブにしておきます。あとついでに【上級製本技能士】もアクティブにしておきます。
 【製本技能士】だとお手軽に補正装備が作れるのでもっていて損はないと思います。
 100個くらい作ればとれたはずです。

 『武具製作開始』

 『制作完了まで残り15分』

 15分ですか。あんまりいいものじゃなさそうですね。
 まりりすさんに上げようと思いましたが駄作になりそうです。
 
 では私も地下に向かうことにします。
                                      to be continued...
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