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第五章
part.26 残された二人
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「ヨハネさ、名字高森って言うんだっけ……」
「うん。でもずっと下の名前で呼んでたから、忘れるよね」
「……どうして、ジンさんが兄弟だって早く言わなかったんだよ。そしたら、俺だってすぐ信じたのに」
シュウウがそう言うと、ヨハネは顔をしかめた。
「あいつあの見た目だろ。だから、昔から俺の友達み~んな、あいつに惚れちゃうの。男も女も見境なく。俺の好きだった子も、元カノもみんな」
「……おお。」
「ショック極まりないし、本当~に面倒くさいんだぜ! 手紙渡して欲しいとか、仲を取り持ってほしいとか……バレンタインとかだって、俺にくれるのかと期待しても、兄貴のこと知ってる奴は皆、兄貴に渡して欲しいって……」
予想は付かなくもない。シュウウが相槌を打っていると、ヨハネはグズグズとアイスカフェラテの氷をいじっている。
「だから俺、シュウウ君にも紹介したくなかったんだ……シュウウ君も兄貴のこと好きになっちゃうかもしれないと思って……」
「……」
シュウウは少しばかりヨハネに同情したので、慰めようとした。
「昔から気の毒だったな。お前も結構かっこいい方だと思うんだけど……」
「……本当? シュウウ君、そう思ってくれる?」
ヨハネは泣きそうな情けない表情で、シュウウの手をぎゅっと握った。
「うん。相手が悪かったというか。ほら、中高生にとってみたら、年上は魅力的に映るかもしんないし」
「ありがとうぅ、シュウウ君、俺の気持ちわかってくれて!!」
ヨハネは、シュウウの手を握る手に力を込めた。
「俺、昔から辛かったんだよう! あの兄貴が兄貴だったから……!」
「うーん、そう……」
「……俺、俺、シュウウ君が一人で残ってるあの日に、社長室からおかしな音やら声みたいのが聞こえて……! 本当に、シュウウ君に何かあったんだと思って、気が気じゃなかったんだよ。だから、兄貴にすぐ連絡して、サメジマの社長室に行って欲しいって言ったんだ。
本当は、しっかりした証拠がないと乗り込めないって言われたんだけど、俺、兄貴にメチャメチャ頼み込んで。兄貴も、サメジマが怪しいって情報を掴んでくれて。それで、俺も後ろで待機しながら、あの日に社長室に乗り込むことに……!!
俺、本当に本当に、シュウウ君が無事で良かったんだよ……!!」
「う、うん、そっか、ありがと」
「もう、もう、俺、あの日シュウウ君の姿を見たら胸が張り裂けそうに……!!」
「えーとえーと……」
シュウウの手を握り締めて再び泣きそうになっているヨハネを、なだめるのでシュウウは精一杯だ。さっきのジンの登場といい、あやしい言動が続き、さすがにファミレスの他の客の視線も気になる。ジロジロと見られている気すらする。シュウウはヨハネの気をそらしたいと一所懸命に考えた。
「……ま、でも、ヨシダさんが助かって良かったよね。にしてもサメジマは悪党すぎるな。危なかったよ、そんな所で働いてたなんて」
シュウウが思い出して身震いした。勿論、無事だったからこそ身震いするくらいで済んでいる。これが本当に何かされてしまった後だったら、PTSDやらトラウマやらで、きっともう他人と関係を築くのに苦労したのではないだろうか。
「俺はまだ知らないで入っちゃったけど、ヨハネは危ないの知ってて入るべきじゃなかったよ。そこまでジンさんに反発しなくていいだろ」
「うんまあ……」
「店はどうなるんだろ。サメジマの個人的な犯罪だったなら、事業主が変わるだけで済むのかなあ。でも、風俗の店の方で悪いことしてたんなら、パチンコ店の方は続けますっていうのもおかしいよね?」
「うーん、そうだろうね」
「それに、確かサメジマは結婚してたんだよね? 奥さんがすごく可哀想だよ。」
シュウウがそう言うと、ヨハネはシュウウの手を離し、俯いて答えた。
「それがさ、サメジマは奥さんの言いなりだったみたいだよ。脱税とか風俗店の違法なこととかだって、考えたのは奥さんの方かもしれないって聞いてるけど。ここだけの話。」
「え……そうなのか」
「どうやらサメジマはお婿さんだったみたいだし」
シュウウは、あの部屋でサメジマが呟いていたことを思い出す。女なんて関わらない方がいい、とまでうわ言のように言っていた。あれは本音だったように思う。サメジマは、奥さんとうまくいってなかったのだろうか。子どもがいなかったというのも、それに関係している? サメジマ自体が、奥さんに虐げられていたのだろうか。
「……ヨシダさんも、どうやら当初拉致されていた場所はサメジマの自宅だったらしいよ。それで奥さんが全く知らなかったっていうのはどうかな? まあ、果たしてそこまで警察が明らかにするのかは正直解らないけどね」
「それってどういうこと?」
「れっきとした犯人はすでにサメジマが挙げられているから、とりあえず警察の面目は躍如できる。サメジマが実行犯であることには疑いの余地はない。警察も、税金で働いてるわけだから、1つの事件に割ける人員も時間も限られてるわけだし、特に犯人が挙がった事件については……」
そう、ヨハネも釈然としない顔で呟いていた。シュウウは言う。
「……ジンさんはそれで納得してるの?」
「兄貴も悔しいと思うよ。でも、実際奥さんを罪に問えるところまでいけるかどうかだよね」
そこまで言うと、ヨハネは溜め息を吐いて、ソファの背もたれにもたれた。
「でもとりあえず、事件は終わったね」
ヨハネの大人ぶったようなその言葉に、シュウウは(何を今更かっこつけてんだか)と、思った。
「うん。でもずっと下の名前で呼んでたから、忘れるよね」
「……どうして、ジンさんが兄弟だって早く言わなかったんだよ。そしたら、俺だってすぐ信じたのに」
シュウウがそう言うと、ヨハネは顔をしかめた。
「あいつあの見た目だろ。だから、昔から俺の友達み~んな、あいつに惚れちゃうの。男も女も見境なく。俺の好きだった子も、元カノもみんな」
「……おお。」
「ショック極まりないし、本当~に面倒くさいんだぜ! 手紙渡して欲しいとか、仲を取り持ってほしいとか……バレンタインとかだって、俺にくれるのかと期待しても、兄貴のこと知ってる奴は皆、兄貴に渡して欲しいって……」
予想は付かなくもない。シュウウが相槌を打っていると、ヨハネはグズグズとアイスカフェラテの氷をいじっている。
「だから俺、シュウウ君にも紹介したくなかったんだ……シュウウ君も兄貴のこと好きになっちゃうかもしれないと思って……」
「……」
シュウウは少しばかりヨハネに同情したので、慰めようとした。
「昔から気の毒だったな。お前も結構かっこいい方だと思うんだけど……」
「……本当? シュウウ君、そう思ってくれる?」
ヨハネは泣きそうな情けない表情で、シュウウの手をぎゅっと握った。
「うん。相手が悪かったというか。ほら、中高生にとってみたら、年上は魅力的に映るかもしんないし」
「ありがとうぅ、シュウウ君、俺の気持ちわかってくれて!!」
ヨハネは、シュウウの手を握る手に力を込めた。
「俺、昔から辛かったんだよう! あの兄貴が兄貴だったから……!」
「うーん、そう……」
「……俺、俺、シュウウ君が一人で残ってるあの日に、社長室からおかしな音やら声みたいのが聞こえて……! 本当に、シュウウ君に何かあったんだと思って、気が気じゃなかったんだよ。だから、兄貴にすぐ連絡して、サメジマの社長室に行って欲しいって言ったんだ。
本当は、しっかりした証拠がないと乗り込めないって言われたんだけど、俺、兄貴にメチャメチャ頼み込んで。兄貴も、サメジマが怪しいって情報を掴んでくれて。それで、俺も後ろで待機しながら、あの日に社長室に乗り込むことに……!!
俺、本当に本当に、シュウウ君が無事で良かったんだよ……!!」
「う、うん、そっか、ありがと」
「もう、もう、俺、あの日シュウウ君の姿を見たら胸が張り裂けそうに……!!」
「えーとえーと……」
シュウウの手を握り締めて再び泣きそうになっているヨハネを、なだめるのでシュウウは精一杯だ。さっきのジンの登場といい、あやしい言動が続き、さすがにファミレスの他の客の視線も気になる。ジロジロと見られている気すらする。シュウウはヨハネの気をそらしたいと一所懸命に考えた。
「……ま、でも、ヨシダさんが助かって良かったよね。にしてもサメジマは悪党すぎるな。危なかったよ、そんな所で働いてたなんて」
シュウウが思い出して身震いした。勿論、無事だったからこそ身震いするくらいで済んでいる。これが本当に何かされてしまった後だったら、PTSDやらトラウマやらで、きっともう他人と関係を築くのに苦労したのではないだろうか。
「俺はまだ知らないで入っちゃったけど、ヨハネは危ないの知ってて入るべきじゃなかったよ。そこまでジンさんに反発しなくていいだろ」
「うんまあ……」
「店はどうなるんだろ。サメジマの個人的な犯罪だったなら、事業主が変わるだけで済むのかなあ。でも、風俗の店の方で悪いことしてたんなら、パチンコ店の方は続けますっていうのもおかしいよね?」
「うーん、そうだろうね」
「それに、確かサメジマは結婚してたんだよね? 奥さんがすごく可哀想だよ。」
シュウウがそう言うと、ヨハネはシュウウの手を離し、俯いて答えた。
「それがさ、サメジマは奥さんの言いなりだったみたいだよ。脱税とか風俗店の違法なこととかだって、考えたのは奥さんの方かもしれないって聞いてるけど。ここだけの話。」
「え……そうなのか」
「どうやらサメジマはお婿さんだったみたいだし」
シュウウは、あの部屋でサメジマが呟いていたことを思い出す。女なんて関わらない方がいい、とまでうわ言のように言っていた。あれは本音だったように思う。サメジマは、奥さんとうまくいってなかったのだろうか。子どもがいなかったというのも、それに関係している? サメジマ自体が、奥さんに虐げられていたのだろうか。
「……ヨシダさんも、どうやら当初拉致されていた場所はサメジマの自宅だったらしいよ。それで奥さんが全く知らなかったっていうのはどうかな? まあ、果たしてそこまで警察が明らかにするのかは正直解らないけどね」
「それってどういうこと?」
「れっきとした犯人はすでにサメジマが挙げられているから、とりあえず警察の面目は躍如できる。サメジマが実行犯であることには疑いの余地はない。警察も、税金で働いてるわけだから、1つの事件に割ける人員も時間も限られてるわけだし、特に犯人が挙がった事件については……」
そう、ヨハネも釈然としない顔で呟いていた。シュウウは言う。
「……ジンさんはそれで納得してるの?」
「兄貴も悔しいと思うよ。でも、実際奥さんを罪に問えるところまでいけるかどうかだよね」
そこまで言うと、ヨハネは溜め息を吐いて、ソファの背もたれにもたれた。
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