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第五章
part.21 I want More
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「――盗聴器なんて、そんな簡単に手に入るのかよ?」
「案外それなりに手に入るよ。俺の場合は知り合いからもらった物があっただけだけど。……うん、このスパゲティ、おいひいな」
「――お前俺の、何口も食ってんじゃねー」
シュウウが手を付けていないパスタの皿を、ヨハネが3分の2ほどに減らしている。シュウウはお返しとばかりに、ヨハネの皿の端にあったチキンカツを一切れ盗み、自分の口に放り入れた。
「あ、それ俺の……」
「何で社長室なんかに付けてたの。……それに、お前社長と付き合ってたんじゃ」
本当はその単語をシュウウは口にしたくない。あれほど怖い思いをしたのだから、社長という単語を告げるたびに二の腕に鳥肌が立つのが解る。ヨハネが、あんな男と関係があったと考えるのだって嫌だ。大体、ヨハネはどう思っているのだろう。自分が付き合っていた男が犯罪者で、目の前の同僚に手を出そうとしたことは……。
事件のあった後だって、ヨハネはシュウウの心配をしていたことしか、シュウウには記憶にない……。
だが、ヨハネは平然とした顔で、ハンバーグを口に運びながら言った。
「付き合ってないよ。あんな男、最初から趣味じゃないもん」
「嘘」
「嘘じゃないよ。俺、男の趣味悪くないもん。あんな、見るからに怪しそうな奴と付き合うわけないでしょ」
シュウウはこけそうになる。だってだって、あの夜……。
「……ヨハネがシフト早く上がった日、社長室から降りて来たことあったじゃん!」
「あの日に盗聴器を付けたんだよ。――他に言い訳思い付かなくて、社長とデキてるってことにしたけど、あの時社長室には誰もいなかったの。社長はとっくに帰ってて、無人だったの。だから俺はこれ幸いに、社長の机の下に盗聴器を」
「うっそ」
シュウウは今度はポカンと口を開けた。
「……だって、鍵とかは?」
社長室には勿論鍵が付いているはずだ。
「あんな簡易的な鍵なんてすぐにピッキングできるよ」
シュウウは今度こそ頭を抱えた。――あの時、シュウウはそれはそれは頭に来たのに。自分の仕事をしている頭上で、サメジマとヨハネがあれやこれやをしていると想像し、頭が沸騰するほど煮えたぎったのに。何にもなかった?
シュウウが回想していると、ヨハネはライスを頬張る口を押さえながら、苦笑した。
「あの時のシュウウ君、怖かったなぁ~。あんなに怒ると思わなかった」
「……当ったり前じゃない? 誰でも人が自分の頭の上で……してると思えばさぁ……人が仕事してんのにさ。腹立つだろ……」
「んーまあね……。でもあの時は、他にそれらしい言い訳が思い付かなかったんだもん。シュウウ君に見られて俺も動転してたの」
そう言って、今更恥ずかしそうに俯き加減で、頭を掻いているヨハネである。
「嫌われたと思って、俺も結構辛かった……」
何を今更、である。シュウウは呆れて溜め息を吐いた。
「お前さあ、バイトに入って来た時から、社長のことを格好良いだのなんだの、しつこく言ってたじゃん。だから俺はさぁ」
「ああ、あの時はね、まだシュウウ君のこと知らなかったから、本当に二人がデキてて、シュウウ君が犯罪の片棒を担いでる可能性もあったから」
ヨハネは相変わらず口をモゴモゴさせながら、フォークの先をシュウウの方に差す。全く失礼な奴である。
「案外それなりに手に入るよ。俺の場合は知り合いからもらった物があっただけだけど。……うん、このスパゲティ、おいひいな」
「――お前俺の、何口も食ってんじゃねー」
シュウウが手を付けていないパスタの皿を、ヨハネが3分の2ほどに減らしている。シュウウはお返しとばかりに、ヨハネの皿の端にあったチキンカツを一切れ盗み、自分の口に放り入れた。
「あ、それ俺の……」
「何で社長室なんかに付けてたの。……それに、お前社長と付き合ってたんじゃ」
本当はその単語をシュウウは口にしたくない。あれほど怖い思いをしたのだから、社長という単語を告げるたびに二の腕に鳥肌が立つのが解る。ヨハネが、あんな男と関係があったと考えるのだって嫌だ。大体、ヨハネはどう思っているのだろう。自分が付き合っていた男が犯罪者で、目の前の同僚に手を出そうとしたことは……。
事件のあった後だって、ヨハネはシュウウの心配をしていたことしか、シュウウには記憶にない……。
だが、ヨハネは平然とした顔で、ハンバーグを口に運びながら言った。
「付き合ってないよ。あんな男、最初から趣味じゃないもん」
「嘘」
「嘘じゃないよ。俺、男の趣味悪くないもん。あんな、見るからに怪しそうな奴と付き合うわけないでしょ」
シュウウはこけそうになる。だってだって、あの夜……。
「……ヨハネがシフト早く上がった日、社長室から降りて来たことあったじゃん!」
「あの日に盗聴器を付けたんだよ。――他に言い訳思い付かなくて、社長とデキてるってことにしたけど、あの時社長室には誰もいなかったの。社長はとっくに帰ってて、無人だったの。だから俺はこれ幸いに、社長の机の下に盗聴器を」
「うっそ」
シュウウは今度はポカンと口を開けた。
「……だって、鍵とかは?」
社長室には勿論鍵が付いているはずだ。
「あんな簡易的な鍵なんてすぐにピッキングできるよ」
シュウウは今度こそ頭を抱えた。――あの時、シュウウはそれはそれは頭に来たのに。自分の仕事をしている頭上で、サメジマとヨハネがあれやこれやをしていると想像し、頭が沸騰するほど煮えたぎったのに。何にもなかった?
シュウウが回想していると、ヨハネはライスを頬張る口を押さえながら、苦笑した。
「あの時のシュウウ君、怖かったなぁ~。あんなに怒ると思わなかった」
「……当ったり前じゃない? 誰でも人が自分の頭の上で……してると思えばさぁ……人が仕事してんのにさ。腹立つだろ……」
「んーまあね……。でもあの時は、他にそれらしい言い訳が思い付かなかったんだもん。シュウウ君に見られて俺も動転してたの」
そう言って、今更恥ずかしそうに俯き加減で、頭を掻いているヨハネである。
「嫌われたと思って、俺も結構辛かった……」
何を今更、である。シュウウは呆れて溜め息を吐いた。
「お前さあ、バイトに入って来た時から、社長のことを格好良いだのなんだの、しつこく言ってたじゃん。だから俺はさぁ」
「ああ、あの時はね、まだシュウウ君のこと知らなかったから、本当に二人がデキてて、シュウウ君が犯罪の片棒を担いでる可能性もあったから」
ヨハネは相変わらず口をモゴモゴさせながら、フォークの先をシュウウの方に差す。全く失礼な奴である。
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