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第四章
part.18 体温
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「立てサメジマ、ヨシダアカネはどこだ!」
一人の刑事らしき男がそう言って、手錠をかけたサメジマを後ろから立ち上がらせた。
(――あれ?)
その顔に見覚えがあって、シュウウは驚いた。
いつかの駅の改札で、ヨハネと痴話げんからしきものをしていた男だ。背が高く、脚が長くて、小顔の美形。凛々しい顔立ちは真剣な表情で、サメジマをどやしてヨシダの居場所を吐かせようとしている。
(警察官だったの?)
シュウウの涙の痕はまだ乾かない。サメジマが捕らえられた後でも、すぐには助けられなかった。カメラを持った警官らしき人がシュウウに近寄って来て、フラッシュを焚いて写真を撮った。前からも。後ろからも。少し離れて、近づいて。切られたTシャツも、縛られた手首も。何枚も、何枚も。
今しがた怖い思いをしたばかりなのに、眩しいフラッシュを浴びせられ、いい気持ちがするわけはない。自分のくじけた気持ちが表に晒されている気がして、シュウウは再び涙を零しそうになった。が……。
「シュウウ!」
自分を呼ぶ声が近くで聞こえて、シュウウは顔を上げた。写真を撮り終わった警察官はシュウウに謝った。
「すみません。現場の記録のために撮らせて頂きました」
「センパイ!!」
警官を押しのけて現れたのは、ヨハネだった。シュウウを見て一瞬息を呑んだ後に、シュウウに飛びついて来た。
「~~~う~~……、あんたは……!! そんな表情してるから……ホントにもぉ~~……!」
そう言って、縛られたままのシュウウに抱き付いている。なぜか、ヨハネもほぼ泣いている。シュウウは、彼の体温を感じて初めてホッとした。涙の痕は乾いて、切り刻まれたTシャツも、ヨハネの身体で丸ごと見えなくなった。
ヨハネは抱き付いてウッウッと泣いていたが、ヨハネの後ろから「ゴホン」という咳払いが聞こえて……。
「あ~、お取込み中申し訳ないのだが」
「あ、そうだった」
ヨハネはパッと顔を上げると、美形に聞いた。
「これ、もお外していい?」
「ああ」
そうやり取りをすると、シュウウの猿ぐつわを外してくれた。
シュウウはやっと口が楽になった。
「ん、んぐ」
喉が渇いて、唾をやっとの思いで飲み込む。
「大丈夫なの!? 何かされた!?」
「……あたま、なぐられた……」
「本当!? 他には!?」
「そ……のたなに、くすり……」
「薬か」
シュウウの視線の先に、ツカツカと美形が歩み寄り、引き出しを開けると、眼鏡ケースのようなものを取り出した。中をパカッと開けると、美男子は整った顔を歪ませた。
「……注射器はえげつないな。――おい、鑑識に回せ。多分シャブだ。薬物所持も追加しとけ」
美形はそう言って、近くの警察官にケースを渡し、再びシュウウの元へ来た。
近くで見ると、迫力がある程の美形だった。
「君は打たれてないのか」
シュウウは頷いた。もし打たれていたらと思うと、今更震え上がる。心底打たれなくて良かったと思った。隣ではヨハネがまたウッウッと泣いている。
「声が掠れてるな。手も外してやって、水を飲ませてやれ」
また別の警察官に指示を出し、シュウウはその警官に保護してもらうことになった。傍には、ずっとヨハネも一緒だった。
一人の刑事らしき男がそう言って、手錠をかけたサメジマを後ろから立ち上がらせた。
(――あれ?)
その顔に見覚えがあって、シュウウは驚いた。
いつかの駅の改札で、ヨハネと痴話げんからしきものをしていた男だ。背が高く、脚が長くて、小顔の美形。凛々しい顔立ちは真剣な表情で、サメジマをどやしてヨシダの居場所を吐かせようとしている。
(警察官だったの?)
シュウウの涙の痕はまだ乾かない。サメジマが捕らえられた後でも、すぐには助けられなかった。カメラを持った警官らしき人がシュウウに近寄って来て、フラッシュを焚いて写真を撮った。前からも。後ろからも。少し離れて、近づいて。切られたTシャツも、縛られた手首も。何枚も、何枚も。
今しがた怖い思いをしたばかりなのに、眩しいフラッシュを浴びせられ、いい気持ちがするわけはない。自分のくじけた気持ちが表に晒されている気がして、シュウウは再び涙を零しそうになった。が……。
「シュウウ!」
自分を呼ぶ声が近くで聞こえて、シュウウは顔を上げた。写真を撮り終わった警察官はシュウウに謝った。
「すみません。現場の記録のために撮らせて頂きました」
「センパイ!!」
警官を押しのけて現れたのは、ヨハネだった。シュウウを見て一瞬息を呑んだ後に、シュウウに飛びついて来た。
「~~~う~~……、あんたは……!! そんな表情してるから……ホントにもぉ~~……!」
そう言って、縛られたままのシュウウに抱き付いている。なぜか、ヨハネもほぼ泣いている。シュウウは、彼の体温を感じて初めてホッとした。涙の痕は乾いて、切り刻まれたTシャツも、ヨハネの身体で丸ごと見えなくなった。
ヨハネは抱き付いてウッウッと泣いていたが、ヨハネの後ろから「ゴホン」という咳払いが聞こえて……。
「あ~、お取込み中申し訳ないのだが」
「あ、そうだった」
ヨハネはパッと顔を上げると、美形に聞いた。
「これ、もお外していい?」
「ああ」
そうやり取りをすると、シュウウの猿ぐつわを外してくれた。
シュウウはやっと口が楽になった。
「ん、んぐ」
喉が渇いて、唾をやっとの思いで飲み込む。
「大丈夫なの!? 何かされた!?」
「……あたま、なぐられた……」
「本当!? 他には!?」
「そ……のたなに、くすり……」
「薬か」
シュウウの視線の先に、ツカツカと美形が歩み寄り、引き出しを開けると、眼鏡ケースのようなものを取り出した。中をパカッと開けると、美男子は整った顔を歪ませた。
「……注射器はえげつないな。――おい、鑑識に回せ。多分シャブだ。薬物所持も追加しとけ」
美形はそう言って、近くの警察官にケースを渡し、再びシュウウの元へ来た。
近くで見ると、迫力がある程の美形だった。
「君は打たれてないのか」
シュウウは頷いた。もし打たれていたらと思うと、今更震え上がる。心底打たれなくて良かったと思った。隣ではヨハネがまたウッウッと泣いている。
「声が掠れてるな。手も外してやって、水を飲ませてやれ」
また別の警察官に指示を出し、シュウウはその警官に保護してもらうことになった。傍には、ずっとヨハネも一緒だった。
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