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第四章
part.16 囚われの主人公 2
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そうして、話はやっと冒頭に戻る。
シュウウは頭を殴られたようだ。そうして、意識が朦朧としているうちに手を後ろに縛られ、口はタオルで猿ぐつわをされた。やがて物音はしなくなり、シュウウは部屋に一人取り残された。
気が付くと、辺りは倉庫のような使われていない場所であることに気付く。だが、社長室からそれほど移動はしていないはずだけれど……。
どれくらい時間が経っただろうか。それほど経っていないようにも思えるし、自分が気を失っていただけで、実際はそれ以上に時間が経ったのかもしれないと、シュウウは自問した。
シュウウの喉はカラカラに乾いた。
やがて、入口のドアの鍵がカチャカチャと音を立てた。
再び人の影が見えたのだった。
その男は、シュウウがよく知っている相手だった。背丈は高く、胸を開けた白いシャツを着ている。
社長のサメジマだった。
見た目は美男子でないわけでもない。少なくとも以前はそう思っていた。
だが、今シュウウがその姿を見ると、ヘドが出そうだ。
サメジマは長い脚でゆっくりとシュウウに近づいてきた。ピタリと止まり、シュウウの縛られている元へとしゃがんだ。
「いい眺めだ」
「!」
そう、目を細めてシュウウを眺めている。やはりそうだった。こいつはド変態だったのだ。
しゃがんだサメジマは、ゆっくりと手を上げると、指の甲あたりでスルスルとシュウウの頬から下、首筋を撫でた。
「―――!」
「ふんふん、感度も随分いいね……」
シュウウの反応に満足すると、サメジマは手を離して立ち上がった。辺りをウロウロし始める。
社長室の奥が倉庫になっているとは思わなかった。そもそも、2階と同じだけのスペースが3階もあるはずだが、シュウウは社長室ですらろくに入ったことがなかったのだ。
倉庫と言っても使われている様子はなくて、要するに誰も出入りしないスペースなのだろう。ドアにも鍵がかかるようになっている。
(……ヨシダさんがいない)
シュウウに連絡をして来たはずのヨシダの姿が見えなくて、シュウウはサメジマに聞きたかった。
ヨシダのこともこうして拉致したのだろうか。そして、それは何故?
シュウウがサメジマをじっと見ていると、サメジマは勝手に語り始めた。
「……ヨシダが君を呼んだんだね。ヨシダは残念ながら再び眠っているよ。パソコンでメッセージを君に送っていたね。安心したまえ、僕が今階下に行って、君のパソコンの痕跡を消して来たから」
証拠もどうやら消されてしまったらしい。サメジマがそんな細かいところまでするとは思わなかった。
しかしどうしてそこまでする必要が……?
「――今度、アジア料理の店を出すというのは聞いたかな? 駅の方なんだけどね……。それと同時に付き合いで、東南アジアの方から女も手配することになった。風俗にね、人手が必要なんだ」
確かに、アジア料理の居酒屋を出すことはタカハシとヨシダから聞いたことがあった。しかし、どうやらそれ以外の怪しい店も手を出しているようだ。それは、法に触れることはないのだろうか。
口が利けないシュウウは、目でサメジマを睨んだ。サメジマはそれを面白そうに見るばかりだ。
「この世界はね、多少裏の世界の人たちと手を組まないとダメなんだ。でね……そうこうするうちに、ヨシダは僕のしていることに少しずつ気付いて来たようだ。社長室にお茶を出しに来たり、振り込みを頼まれるうちにね。税金申告のちょっとした工夫とかも。彼女にこっそり頼んでいた書類もあったしね」
それは脱税ということだろうか。きっとヨシダは資料のおかしな点や、改ざんに気がついたのだろう。頭が良い女性だったから。
それに、サメジマの言う風俗の女性たちの話も、聞いたのかもしれない。
「話が広がらないように、なるべくヨシダ以外には頼まないようにしていたんだけどね。彼女が僕に、それは法的に大丈夫なんですかなんて言うからね……だから捕まえたよ。そろそろ警察に言いそうだったからね。全く、僕も彼女のことを甘くみてしまった。もう少し、僕の言うことを黙って聞く女かと思っていた。それで、さっき言った、多少裏の世界の人たちに頼むんだ。跡形もないようにね……」
そう言って、サメジマはシュウウを再び見た。微笑みながら言う。
「君もね、首を突っ込まなければ、もっと長生き出来たのにね。
……でもね、僕にとってはいい面もある。こういうことでもないと、君に手を出すチャンスは中々なかっただろう」
シュウウが言葉を理解しかねていると、鮫島は嬉しそうに言うのである。
「初めて会った時から、君のことは自分の物にしたくてたまらなかったよ。ヨシダが連絡したのが、君で良かった。まさに千載一遇だよ。
安心して。君がすぐに死ぬようなことはない。出来る限り長い時間、僕と一緒にいられるようにしてあげる。可能な限り長くね」
あくまで自然な風に言うから、シュウウは背骨からぞくぞくと鳥肌が立った。こいつは、シュウウが想像した以上のド変態だった。
シュウウは頭を殴られたようだ。そうして、意識が朦朧としているうちに手を後ろに縛られ、口はタオルで猿ぐつわをされた。やがて物音はしなくなり、シュウウは部屋に一人取り残された。
気が付くと、辺りは倉庫のような使われていない場所であることに気付く。だが、社長室からそれほど移動はしていないはずだけれど……。
どれくらい時間が経っただろうか。それほど経っていないようにも思えるし、自分が気を失っていただけで、実際はそれ以上に時間が経ったのかもしれないと、シュウウは自問した。
シュウウの喉はカラカラに乾いた。
やがて、入口のドアの鍵がカチャカチャと音を立てた。
再び人の影が見えたのだった。
その男は、シュウウがよく知っている相手だった。背丈は高く、胸を開けた白いシャツを着ている。
社長のサメジマだった。
見た目は美男子でないわけでもない。少なくとも以前はそう思っていた。
だが、今シュウウがその姿を見ると、ヘドが出そうだ。
サメジマは長い脚でゆっくりとシュウウに近づいてきた。ピタリと止まり、シュウウの縛られている元へとしゃがんだ。
「いい眺めだ」
「!」
そう、目を細めてシュウウを眺めている。やはりそうだった。こいつはド変態だったのだ。
しゃがんだサメジマは、ゆっくりと手を上げると、指の甲あたりでスルスルとシュウウの頬から下、首筋を撫でた。
「―――!」
「ふんふん、感度も随分いいね……」
シュウウの反応に満足すると、サメジマは手を離して立ち上がった。辺りをウロウロし始める。
社長室の奥が倉庫になっているとは思わなかった。そもそも、2階と同じだけのスペースが3階もあるはずだが、シュウウは社長室ですらろくに入ったことがなかったのだ。
倉庫と言っても使われている様子はなくて、要するに誰も出入りしないスペースなのだろう。ドアにも鍵がかかるようになっている。
(……ヨシダさんがいない)
シュウウに連絡をして来たはずのヨシダの姿が見えなくて、シュウウはサメジマに聞きたかった。
ヨシダのこともこうして拉致したのだろうか。そして、それは何故?
シュウウがサメジマをじっと見ていると、サメジマは勝手に語り始めた。
「……ヨシダが君を呼んだんだね。ヨシダは残念ながら再び眠っているよ。パソコンでメッセージを君に送っていたね。安心したまえ、僕が今階下に行って、君のパソコンの痕跡を消して来たから」
証拠もどうやら消されてしまったらしい。サメジマがそんな細かいところまでするとは思わなかった。
しかしどうしてそこまでする必要が……?
「――今度、アジア料理の店を出すというのは聞いたかな? 駅の方なんだけどね……。それと同時に付き合いで、東南アジアの方から女も手配することになった。風俗にね、人手が必要なんだ」
確かに、アジア料理の居酒屋を出すことはタカハシとヨシダから聞いたことがあった。しかし、どうやらそれ以外の怪しい店も手を出しているようだ。それは、法に触れることはないのだろうか。
口が利けないシュウウは、目でサメジマを睨んだ。サメジマはそれを面白そうに見るばかりだ。
「この世界はね、多少裏の世界の人たちと手を組まないとダメなんだ。でね……そうこうするうちに、ヨシダは僕のしていることに少しずつ気付いて来たようだ。社長室にお茶を出しに来たり、振り込みを頼まれるうちにね。税金申告のちょっとした工夫とかも。彼女にこっそり頼んでいた書類もあったしね」
それは脱税ということだろうか。きっとヨシダは資料のおかしな点や、改ざんに気がついたのだろう。頭が良い女性だったから。
それに、サメジマの言う風俗の女性たちの話も、聞いたのかもしれない。
「話が広がらないように、なるべくヨシダ以外には頼まないようにしていたんだけどね。彼女が僕に、それは法的に大丈夫なんですかなんて言うからね……だから捕まえたよ。そろそろ警察に言いそうだったからね。全く、僕も彼女のことを甘くみてしまった。もう少し、僕の言うことを黙って聞く女かと思っていた。それで、さっき言った、多少裏の世界の人たちに頼むんだ。跡形もないようにね……」
そう言って、サメジマはシュウウを再び見た。微笑みながら言う。
「君もね、首を突っ込まなければ、もっと長生き出来たのにね。
……でもね、僕にとってはいい面もある。こういうことでもないと、君に手を出すチャンスは中々なかっただろう」
シュウウが言葉を理解しかねていると、鮫島は嬉しそうに言うのである。
「初めて会った時から、君のことは自分の物にしたくてたまらなかったよ。ヨシダが連絡したのが、君で良かった。まさに千載一遇だよ。
安心して。君がすぐに死ぬようなことはない。出来る限り長い時間、僕と一緒にいられるようにしてあげる。可能な限り長くね」
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