僕はHOLMES

くるみ最中

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第二章

part.10 雷雲2

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「……シュウウ、くん……」

 ヨハネがそう言い、シュウウを見詰めて目が合った。シュウウがその隣を見ると、相手の男もシュウウのことを見詰めていた。やっぱり、正面から見ると余計に美形だと思った。

「……バイト先の先輩だから、俺行かなくちゃ。じゃ」

 そう言って、ヨハネはそそくさと相手の男から離れようとしたのだが、

「まだ話は終わってない」

 相手の男はヨハネを引き止めた。ヨハネの二の腕を左手で掴んでいる。その力強さに、シュウウはつい目を止めた。
 だが、ヨハネはそれを振り払って行くつもりのようだ。

「――行こ、センパイ」
「え……でも」
「――終わったら連絡しろ」

 そう言って男は、耳の傍で親指と小指を立てる電話のジェスチャーをした。
 そのジェスチャーだけは、年上さ(……というよりかすかなオジサン臭さ)を感じたのだが。
 美男子は、命令口調に鋭い目つきで、ヨハネを睨んでいた。でもその睨みが怖いというよりは、物凄く感情がこもっているように感じられた。
 その後、男は舌打ちをし、シュウウたちとは逆の方向に向かい、改札の中に消えて行った。
 しばらくして、シュウウはヨハネに訊ねた。

「……あのさ。聞いてもいい? ……今の誰」
「あー……」

 珍しくヨハネはごにょごにょと言葉を濁した。気まずいように、前髪をかき上げては振り払っている。
 答えられないのか? 聞くのが悪い気がしてシュウウは付け加えた。

「あー、言いたくなかったらいいんだけど」
「いや、別に言いたくないわけじゃないけど。……ただの知り合い」

 嘘を吐けーーー! とシュウウの頭の中では、心の声が木霊こだました。

(ただの知り合いが、あんな風に、感情をあらわにするわけないじゃん!?)

 それに、ただの知り合いとあんな風にモメるわけはない。何か特別な事情があるに違いない。そう、例えば恋愛のこじれのような。
 シュウウの頭には、もしかして、という思いが率直に浮かんでいた。

(――彼氏?)

 シュウウはそう勘ぐって、しかも当たっているような気がした。相手は大人の年上で、ヨハネもゲイの疑惑があって、ヨハネがさっきから困ったような難しい表情をしているから。

(……何だ、彼氏、いたんじゃん。しかも大人で、すごいレベチな格の相手……)

 そう思うと、何だか拍子抜けというか。隣を歩きながら、いつもはしない真剣な顔で何か考え事をしているような、いつもとは別人のようなヨハネが社長のことを格好良いと言っていたことも、ヨハネが自分にキスまがいのことをして来たことも。
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