16 / 28
第三章
part.15 好奇心と責任感
しおりを挟む
――ウ、ウイルス!!?
咄嗟にシュウウはそう思った。助けて、なんてホラーな言葉が急にパソコンに現れたら、そう思うのが普通だ。
だが、その窓は以前からインストールしてあったアプリで、シンプルなメッセージのやり取りを行うものだ。チームの四人の中でちょっとしたURLなどを送るのに使っていた。まだヨハネともケンカをしていなかった頃、仕事中にこっそり会話のやり取りを行ったこともある。
そのアプリの小窓が急に立ち上がり、『たすけて』というメッセージを送って来た。
シュウウが驚いてただその小窓を眺めていると、もう一つ小窓が来た。自分が消すまで消えずに、何個も窓が立ちあがる仕組みである。
『名前が見えないの。どなたですか。ヨシダです』
「ヨ……ヨシダさん!?」
アプリは、相手に自分が名前を付けないと、IPアドレスしか表示されない仕組みである。ヨシダは今誰と会話しているのか解らないのだろう。
シュウウは、椅子を机に引き寄せ、自分もメッセージを打ち始めた。
『シュウウです。ヨシダさん今どこですか』
どことは言え、このアプリはLANがつながっていないとやり取りできないはずである。社内LANがつながっているのは、この階と後は……とシュウウは即座に思った。
『つかまって、いまこっそりぬけだして』
『ここはし』
そこでメッセージが途切れた。後は音沙汰もなく、再びアプリが立ち上がる気配もなかった。
辺りはしんとしている。
(け、警察に)
シュウウはそう思った。ヨシダは捕まっているとあった。
警察の捜査には進展がないと聞いている。警察を今すぐ呼んだ方がよいだろう。
しかし、起きたことにあまりに現実味がなくて、シュウウはしばし呆然としていた。
(し……しって何だろう。この建物のLANの中。この階にいなければ後は……)
シュウウは、後は上の3階しかないことを確信した。
(し……『社長室』じゃないのか?)
シュウウの中で、ぐらぐらと好奇心と責任感のような思いが渦巻いた。勿論恐怖もある。これが間違いか、もしかしたら悪質ないたずらで、見当違いだったら。警察を呼ぶ前に、自分の目で少しは確認した方が良いのではないか? とシュウウは思ってしまった。
(アプリのログは残っているし、きっとそれは証拠になる……)
アプリでやり取りしたメッセージのログは、このPCの奥の方に残っているのだ。自分が今離れても大丈夫だろう。
(よし……)
危なそうだったら、逃げればよい。何気なく社長室に行ってみて、様子を見て、素知らぬ顔をして帰って来ればよいのだ。シュウウは静かに、3階に上がってみることにした。
(誰もいない……)
階段も3階も人気がなかった。社長室のドアはほんの少しだけ開いていた。廊下は明るかったが、社長室の中は電気が点いていず、真っ暗な隙間が見えた。
ヨシダは中にいるのだろうか?
本当に社長室のPCからシュウウにメッセージを送ったのだろうか?
(ヨシダ……さん?)
シュウウが唾を飲み込み、さらにゆっくりと社長室のドアを開け、部屋の中を覗き込もうとした時、頭に鈍い衝撃が走った。
咄嗟にシュウウはそう思った。助けて、なんてホラーな言葉が急にパソコンに現れたら、そう思うのが普通だ。
だが、その窓は以前からインストールしてあったアプリで、シンプルなメッセージのやり取りを行うものだ。チームの四人の中でちょっとしたURLなどを送るのに使っていた。まだヨハネともケンカをしていなかった頃、仕事中にこっそり会話のやり取りを行ったこともある。
そのアプリの小窓が急に立ち上がり、『たすけて』というメッセージを送って来た。
シュウウが驚いてただその小窓を眺めていると、もう一つ小窓が来た。自分が消すまで消えずに、何個も窓が立ちあがる仕組みである。
『名前が見えないの。どなたですか。ヨシダです』
「ヨ……ヨシダさん!?」
アプリは、相手に自分が名前を付けないと、IPアドレスしか表示されない仕組みである。ヨシダは今誰と会話しているのか解らないのだろう。
シュウウは、椅子を机に引き寄せ、自分もメッセージを打ち始めた。
『シュウウです。ヨシダさん今どこですか』
どことは言え、このアプリはLANがつながっていないとやり取りできないはずである。社内LANがつながっているのは、この階と後は……とシュウウは即座に思った。
『つかまって、いまこっそりぬけだして』
『ここはし』
そこでメッセージが途切れた。後は音沙汰もなく、再びアプリが立ち上がる気配もなかった。
辺りはしんとしている。
(け、警察に)
シュウウはそう思った。ヨシダは捕まっているとあった。
警察の捜査には進展がないと聞いている。警察を今すぐ呼んだ方がよいだろう。
しかし、起きたことにあまりに現実味がなくて、シュウウはしばし呆然としていた。
(し……しって何だろう。この建物のLANの中。この階にいなければ後は……)
シュウウは、後は上の3階しかないことを確信した。
(し……『社長室』じゃないのか?)
シュウウの中で、ぐらぐらと好奇心と責任感のような思いが渦巻いた。勿論恐怖もある。これが間違いか、もしかしたら悪質ないたずらで、見当違いだったら。警察を呼ぶ前に、自分の目で少しは確認した方が良いのではないか? とシュウウは思ってしまった。
(アプリのログは残っているし、きっとそれは証拠になる……)
アプリでやり取りしたメッセージのログは、このPCの奥の方に残っているのだ。自分が今離れても大丈夫だろう。
(よし……)
危なそうだったら、逃げればよい。何気なく社長室に行ってみて、様子を見て、素知らぬ顔をして帰って来ればよいのだ。シュウウは静かに、3階に上がってみることにした。
(誰もいない……)
階段も3階も人気がなかった。社長室のドアはほんの少しだけ開いていた。廊下は明るかったが、社長室の中は電気が点いていず、真っ暗な隙間が見えた。
ヨシダは中にいるのだろうか?
本当に社長室のPCからシュウウにメッセージを送ったのだろうか?
(ヨシダ……さん?)
シュウウが唾を飲み込み、さらにゆっくりと社長室のドアを開け、部屋の中を覗き込もうとした時、頭に鈍い衝撃が走った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。


素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる