僕はHOLMES

くるみ最中

文字の大きさ
上 下
13 / 28
第二章

part.12 雷雲再び

しおりを挟む
「――お前……まさかとは思うけど……」

 シュウウはゴクリと唾を飲み込み、聞いた。
 この前でりたのだ。ちゃんと最後まで聞かないで、後悔したから。
 シュウウも半ば信じられなかったが、ヨハネの表情を見ているうちにみるみる確信に変わる。気まずそうな、ヨハネの顔と言ったらない。
 ヨハネは、シュウウから目を逸らしている。でもこうしていても何も進まないし、始まらないので、シュウウは思い切って聞いてみる。

「……社長の部屋にいたの?」

 そうだよね? だって他にないもん。

「……うん」

 シュウウの問いに、観念したようにヨハネは頷いた。その後の問いは、何してたの? と聞きたいのだが。
 それは要するに、社長と寝てたの? ということである。そうそう口に出来る問いではない。
 するとヨハネは、急に破顔し、頭を掻いた。

「……ははー、バレたか……」

 その返事は、認めたということだ。社長の部屋にいて、同時に、彼と寝ていたということを。
 シュウウは絶句した。
 ヨハネは、用があって早く帰ったはずでは……いや、用というのはそれだったのか? 早く終わって自分の部屋に来るよう、社長がヨハネを誘ったのだろうか。

「……」

 シュウウの頭は真っ白だ。これって何だろう。もしかして、ショックを受けている? どうして? それはきっと、あんまりだと思ったからだ。いくら何でも職場でヤるか? ヨハネもそうだし、社長だって、社長なんだぞ? この会社のボスなんだぞ? それに、確か結婚してるはずじゃ。ゲスもいい加減に……。
 とにかく、真面目に仕事をしていた自分の頭の上でヤッてたのかと思うと、シュウウの頭はこれ以上ないほど煮えたぎった。

「……サイテー不潔……」
「え……」
「――あーそう。そうだったの。社長とそういう関係だったの。いつから?」
「……」
「社長とデキてるかとか俺に聞いて来たくせに、デキてんの自分じゃん。……あーそっか、あれも社長を狙ってた様子見だったんだな。そうならそうと、ハッキリ言えよ……」
「……えーと、センパイ?」
「センパイとか呼ぶんじゃねー。俺はお前の先輩でも何でもねー」
「……シュウウくん、もしかして怒ってる……?」
 怒ってる? おう、これ以上ないほど怒っているさ。

「――ガッカリした。恋愛とかのゴタゴタを、仕事に持ち込む奴は大嫌いだ。特に仕事場でとか、他の奴が仕事してる最中とか、ありえねーだろ?」
「……」
「せめてやるなら外でやれよ。せっかくお前のこと、思ったよりマジメなやつだって、見直してた、のに……」

 そう、結局はそこである。シュウウはヨハネのことを、結構良い奴だと思い始めていた。その気持ちが裏切られたようで悲しい。
 他人に期待してもムダとは、こういうことなのだろうか。

「センパイ……」
「……もしかして、この前の駅でも、社長とのことでモメてたんだな? あんなモデルみたいな彼氏がいながら二股なんて、サイテーじゃねーか。ハッ、それも職場で不倫とは……」
「……え? あの、この前の人はそういうんじゃ」
「お前の言うことなんて、何も信じらんねーよ!」
 ヨハネの食い下がりを、ピシャリと切り捨てたシュウウである。

「シュウウくん……」
「気安く呼ぶんじゃねー」

 最後にそう言うと、プイと背を向けて、ヨハネの横をすり抜けたシュウウである。さっさと荷物をまとめると、再度廊下に出た。

「……戸締りは頼んだ。社長と二人でどーぞ」

 そう、捨て台詞を唱えて、今さっきヨハネが降りて来た階段を、腹立たしい思いで1階まで駆け降りたシュウウである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

壁穴DAYS。

もとみ
BL
男子大学生・亘理夕は、ある朝アパートの壁に人間が通れるほどのデカすぎる穴が開いているのを発見した。一体何が起こったのか!?突如開いたでっかい穴と恋のものがたり。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...