僕はHOLMES

くるみ最中

文字の大きさ
上 下
9 / 28
第二章

part.8 おぼろ雲

しおりを挟む
 その日は、夕方だった。シュウウは授業が4限まであったので、バイトは4時間ほどしか入れない。
 学校から帰る電車に揺られていると、シュウウの頭には、この前のことがポッと浮かんで来る。
 ヨハネが、シュウウの唇に――正確に言うと唇のすぐ横に――キスをして来たことである。

(……何であいつ、あんなことして来たんだろ……)

 ヨハネは以前に、同性が好きなことを匂わせてきたこともある。社長のことを格好良いと言ったり、シュウウと社長は付き合っているのかと聞いてきたりしたことである。
 でも、普段は何もおかしな雰囲気はなく、皆と明るく仕事をしているだけだ……。

(……やっぱり、ヘンな奴)

 シュウウはそう考えると、力が抜けたように電車の窓にコツンと頭を当てた。
 急にキスをされたりなどしたら、本当はヘンな奴止まりではなく、要注意人物のはずである。急にヘンなことをされても困る。わいせつ罪と言うことも出来る。ヘンな奴と言うよりは怖い奴のはずだ。
 ……でも、普段のヨハネは「センパイ~」と言ってシュウウになついて来て、その姿は人懐こくて憎めない奴なのに……。

(……あの時は欲求不満だったのか? いやあいつ、そんなに精力旺盛な奴なのか? 淡白にも見えるけど……)

 もし相手が他の人間だったら、シュウウは多分もう一切関わらないようにするだろう。正直、ヨハネのことだって始めは特に仲良くなる気はなかった。気が合わないと感じたら、必要以上のことは喋らなかっただろう。
 でも、少しずつ打ち解け合った今となっては、彼を自分の人生に無関係の人間として扱うことは、勿体無いとシュウウは思うようになっていた。
 ヨハネは頭が良くて仕事が出来る人間だ。性格だって良いと思える。他人との距離の取り方だっていい。魅力的な人間だと思う。
 ……なのになぜあの時だけ……。

 シュウウは悶々とするが、結局は他人のこと、ヨハネの考えていることも真実も解らない。
 もういいや、とシュウウは振り切る。家とバイト先のある駅に着き、電車を降り、改札を通ると、駅の端に見覚えのある影があった。

「……あ」

 ヨハネだった。横顔だったが、背の高さや体格、見覚えのあるデニム姿と、Tシャツの上に半袖のシャツを羽織ったリュック姿は間違いなかった。
 一緒にバイト先まで行こうかと思ったシュウウだったが、一瞬の後にその思いはかき消された。
 ヨハネは一人ではなかった。その傍には、もう一人人が立っていた。

(……ん?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

壁穴DAYS。

もとみ
BL
男子大学生・亘理夕は、ある朝アパートの壁に人間が通れるほどのデカすぎる穴が開いているのを発見した。一体何が起こったのか!?突如開いたでっかい穴と恋のものがたり。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...