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第一章
part.1 バイトの理由
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シュウウのバイトの目的は明確だった。
シュウウは来年、大学を卒業する前に海外旅行に行きたいと思っていた。その資金のためだ。
就職すれば長い休みは取れなくなると聞いていたので、一度と言わず何度か行きたいと思っていた。国も、出来れば何ヵ国かへ回りたい。ただ、自分の希望に過ぎないから、両親に資金を頼まず、出来たら自分の力で行きたいと思っていた。すでに、去年から少しずつ資金を溜めていた。
パチンコ店のバイトは時給がいいと聞いていたので、家から駅までの途中にある地元のパチンコ店でバイトをすることにした。授業の少ない日や休日を利用して、なるべく多くシフトに入っている。長期休みは大分稼げる。店はパチンコとスロットの音でうるさかったが、給与に不満はない。シュウウは真面目にバイトにいそしんでいた。
ところが、バイトを始めて数か月くらい経ったある日、社長に呼び止められた。
「シュウウ君だよね。いつも熱心に働いていてくれてありがとう」
「はい……」
社長は若い。もしくは若く見える。見た目で言えば、30代後半くらいか。茶色の髪に、すらっとした体躯。ウィンドウ・ペンのチェックのシャツの上に赤いカーディガンを首にかけていて、それが派手に見えた。まあ、風俗業という職業柄、また社長という役職なら、多少派手な服装もするものかもしれないが。
このパチンコ店は他にもいくつか店舗があり、噂によると小規模ながら他にも飲食業などの経営もしていると聞いた。この年代でそれらをこなしているとしたら、かなりのやり手だとシュウウは思っていた。
社長はシュウウに言った。
「このままホールにいてくれてもいいんだけど、どうだろう、来年は就職を決める年だよね?」
「はい……」
就職と言われて、シュウウは咄嗟に(嫌だな)と思った。もしかしてこのままこの店に就職、と言われるのかと思ったからだ。シュウウはただの手っ取り早いバイトのつもりでこの店に勤めていて、パチンコ店の社員になるつもりはなかった。
しかし、シュウウの考えはさすがに早計だった。社長は続けて言った。
「今、うちの事務所でも何人か人が足りなくてね。事務の仕事になるんだけど、そっちに移ってくれる気はないかな」
「え」
話は、シュウウの思ったのとは180度違う内容だった。社長はシュウウにニコッと笑いかけて言う。
「主に仕事は、電話を受けるのと、書類の作成など。履歴書を見た感じでは、シュウウ君はパソコンは一通りできるようだから」
「はい……」
「ExcelやWordにしろ、教科書で習うよりも実際の書類を扱う方が勉強になると思うよ。電話を受けたりするのも、社会勉強のつもりでどう」
悪い話ではないと思った。社長が直々に自分に提案してくれているのだし、シュウウにとってマイナスにはならないように聞こえる。それにデスクワークなら、長時間働くのに今より身体は楽だ。
「時給も変わらず、いや、勤務具合を見て昇給を考えるよ」
シュウウはしばし考えたが、条件があまりに良く、一晩考えた後に、社長に承諾の返事をすることにした。
シュウウは来年、大学を卒業する前に海外旅行に行きたいと思っていた。その資金のためだ。
就職すれば長い休みは取れなくなると聞いていたので、一度と言わず何度か行きたいと思っていた。国も、出来れば何ヵ国かへ回りたい。ただ、自分の希望に過ぎないから、両親に資金を頼まず、出来たら自分の力で行きたいと思っていた。すでに、去年から少しずつ資金を溜めていた。
パチンコ店のバイトは時給がいいと聞いていたので、家から駅までの途中にある地元のパチンコ店でバイトをすることにした。授業の少ない日や休日を利用して、なるべく多くシフトに入っている。長期休みは大分稼げる。店はパチンコとスロットの音でうるさかったが、給与に不満はない。シュウウは真面目にバイトにいそしんでいた。
ところが、バイトを始めて数か月くらい経ったある日、社長に呼び止められた。
「シュウウ君だよね。いつも熱心に働いていてくれてありがとう」
「はい……」
社長は若い。もしくは若く見える。見た目で言えば、30代後半くらいか。茶色の髪に、すらっとした体躯。ウィンドウ・ペンのチェックのシャツの上に赤いカーディガンを首にかけていて、それが派手に見えた。まあ、風俗業という職業柄、また社長という役職なら、多少派手な服装もするものかもしれないが。
このパチンコ店は他にもいくつか店舗があり、噂によると小規模ながら他にも飲食業などの経営もしていると聞いた。この年代でそれらをこなしているとしたら、かなりのやり手だとシュウウは思っていた。
社長はシュウウに言った。
「このままホールにいてくれてもいいんだけど、どうだろう、来年は就職を決める年だよね?」
「はい……」
就職と言われて、シュウウは咄嗟に(嫌だな)と思った。もしかしてこのままこの店に就職、と言われるのかと思ったからだ。シュウウはただの手っ取り早いバイトのつもりでこの店に勤めていて、パチンコ店の社員になるつもりはなかった。
しかし、シュウウの考えはさすがに早計だった。社長は続けて言った。
「今、うちの事務所でも何人か人が足りなくてね。事務の仕事になるんだけど、そっちに移ってくれる気はないかな」
「え」
話は、シュウウの思ったのとは180度違う内容だった。社長はシュウウにニコッと笑いかけて言う。
「主に仕事は、電話を受けるのと、書類の作成など。履歴書を見た感じでは、シュウウ君はパソコンは一通りできるようだから」
「はい……」
「ExcelやWordにしろ、教科書で習うよりも実際の書類を扱う方が勉強になると思うよ。電話を受けたりするのも、社会勉強のつもりでどう」
悪い話ではないと思った。社長が直々に自分に提案してくれているのだし、シュウウにとってマイナスにはならないように聞こえる。それにデスクワークなら、長時間働くのに今より身体は楽だ。
「時給も変わらず、いや、勤務具合を見て昇給を考えるよ」
シュウウはしばし考えたが、条件があまりに良く、一晩考えた後に、社長に承諾の返事をすることにした。
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