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ちぐはぐ。第六話
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前城の部屋にいると、俺のスマホの着信が鳴った。
見ると、仕事でやり取りをしている女の子からだった。
俺は休日に何か問題でもあったのかと、電話に出た。
「はい、桂木ですが」
「桂木さん。あの……、急で申し訳ないんですが、今日、何かご予定があります?」
そう言われて、俺はふと困った。
予定があるっちゃ、ないんだけど。
前城と一緒にいようと思っていただけで。
俺が言い淀んでいると、向こうが俺に言って来た。
「もしよかったら、何人かで飲み会をする予定なんですけど、来られませんか?」
その後、キャー、言った、とかいう微かなどよめきが、電話の向こうから聞こえて来た。
これは、なんだ、もしかしてどこか浮ついた話か?
俺が急なことで躊躇っていると、傍にいた前城が、大声で言うのだ。
「桂木さん! 行って! 行ってください!」
やつは酔っている。割と、ベロベロである。
何か言おうとする俺に、被せて言って来た。こんなに押しが強い彼は初めてだ。
「桂木さん、彼女しばらくいないんでしょ! チャンスじゃないですかあ!!」
やめろ、電話の向こうに聞こえる。恥ずかしいったら、ない。
「あ、大丈夫です。いま、行かせますからね~!」
そう言って、前城は俺の手からスマホを奪って、切ってしまう。
おい、馬鹿、まだ場所も何も聞いてねーし。
そのまま、俺に触れた熱い手で、俺の背中をぐいぐい押した。
「俺のせいで、楽しい祝日をムダにさせるわけにいかないから! ほら、早く!!!」
俺は困ったが、前城にそこまで押されたら、という気がしないでもない。
俺は、玄関先で靴を履き、最後に前城に聞く。
「お前は大丈夫か」
「大丈夫です! 俺、桂木さんのおかげで、すっかり元気になったからあ~」
そう言ってやつは、へらへらと笑う。
こんなに酔っていなければお前も連れて行ったのに、馬鹿なやつ。
でももしかして、お前も一人になりたかったり、するか?
俺も彼女と別れた時は、一人になりたかったからな……。
明日には帰ってくるし、少し彼をそっとしておくのもよいのかもしれないと、俺は思った。
「気をつけろよ」
「何言ってんだあ~、それは出かけるお前の方だろ! よっ、この男前!!!」
……手がつけられない。
「鍵、くれないか」
危ないから、外から鍵かけてやる。
「……あ~、ハイハイ、ありますよ~。彼女が、数日前にさりげなく置いて行った合鍵が……」
なんだそりゃ、めちゃ確信犯じゃねーか。
お前、気づいてたのか?
「ハイ。」
俺にそう言って合鍵を渡して、前城は俺の手をギュッと握って来た。酔って、熱い目をしている。
「桂木さん、好き。」
何だそりゃ?
よく分からないから、俺も返してやる。
「おう、俺も好きだぜ」
「うふふ……、行ってらっしゃい。」
もしかして、彼女とそうやり取りしていたのだろうか。
俺は、前城に見送られながら、部屋を出た。
無論、鍵はしっかり、ちゃんと外からかけた。
見ると、仕事でやり取りをしている女の子からだった。
俺は休日に何か問題でもあったのかと、電話に出た。
「はい、桂木ですが」
「桂木さん。あの……、急で申し訳ないんですが、今日、何かご予定があります?」
そう言われて、俺はふと困った。
予定があるっちゃ、ないんだけど。
前城と一緒にいようと思っていただけで。
俺が言い淀んでいると、向こうが俺に言って来た。
「もしよかったら、何人かで飲み会をする予定なんですけど、来られませんか?」
その後、キャー、言った、とかいう微かなどよめきが、電話の向こうから聞こえて来た。
これは、なんだ、もしかしてどこか浮ついた話か?
俺が急なことで躊躇っていると、傍にいた前城が、大声で言うのだ。
「桂木さん! 行って! 行ってください!」
やつは酔っている。割と、ベロベロである。
何か言おうとする俺に、被せて言って来た。こんなに押しが強い彼は初めてだ。
「桂木さん、彼女しばらくいないんでしょ! チャンスじゃないですかあ!!」
やめろ、電話の向こうに聞こえる。恥ずかしいったら、ない。
「あ、大丈夫です。いま、行かせますからね~!」
そう言って、前城は俺の手からスマホを奪って、切ってしまう。
おい、馬鹿、まだ場所も何も聞いてねーし。
そのまま、俺に触れた熱い手で、俺の背中をぐいぐい押した。
「俺のせいで、楽しい祝日をムダにさせるわけにいかないから! ほら、早く!!!」
俺は困ったが、前城にそこまで押されたら、という気がしないでもない。
俺は、玄関先で靴を履き、最後に前城に聞く。
「お前は大丈夫か」
「大丈夫です! 俺、桂木さんのおかげで、すっかり元気になったからあ~」
そう言ってやつは、へらへらと笑う。
こんなに酔っていなければお前も連れて行ったのに、馬鹿なやつ。
でももしかして、お前も一人になりたかったり、するか?
俺も彼女と別れた時は、一人になりたかったからな……。
明日には帰ってくるし、少し彼をそっとしておくのもよいのかもしれないと、俺は思った。
「気をつけろよ」
「何言ってんだあ~、それは出かけるお前の方だろ! よっ、この男前!!!」
……手がつけられない。
「鍵、くれないか」
危ないから、外から鍵かけてやる。
「……あ~、ハイハイ、ありますよ~。彼女が、数日前にさりげなく置いて行った合鍵が……」
なんだそりゃ、めちゃ確信犯じゃねーか。
お前、気づいてたのか?
「ハイ。」
俺にそう言って合鍵を渡して、前城は俺の手をギュッと握って来た。酔って、熱い目をしている。
「桂木さん、好き。」
何だそりゃ?
よく分からないから、俺も返してやる。
「おう、俺も好きだぜ」
「うふふ……、行ってらっしゃい。」
もしかして、彼女とそうやり取りしていたのだろうか。
俺は、前城に見送られながら、部屋を出た。
無論、鍵はしっかり、ちゃんと外からかけた。
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