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ちぐはぐ。第四話
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滾々と俺たちは、夜中のコインランドリーで話をした。
ちぐはぐな割には、話すことが山ほどあるものだな。
「前城さんは、毎日ここへ来ているの?」
「いやー……実はどうしようかと思って……」
毎日、洗濯代がかかるのも大変だ。乾燥代を節約するために、持ち帰ってから干すのも、より大変である。
「数日洗濯物をためてから来てるんですけど……」
それでは汚れも染み付くだろう。
俺は迷ったが、言ってみることにした。
「……夜に、うちに洗濯機を回しに来ても、いいけど」
俺は朝洗濯して、干す。夜コインランドリーに行くくらいなら、俺んちで洗濯をして夜干ししても、いけるのではないだろうか。
洗濯したあとの濡れたものを運ぶのも同じマンションなら楽だし、何にしろお金がかからない。
「え! 本当ですか!」
前城は喜んだ、ようだ。
それから、二日にいっぺんくらい夜うちに来るようになった。
来ては、洗濯する間、無駄話をして帰る。
「あの、普通、彼女にクリスマスプレゼントとか何買います?」
ある時、俺の淹れたコーヒーを飲みながら前城にうきうきと聞かれて、俺は答えに詰まった。
そう言えば、今年はクリスマスプレゼントを買わない。でも、買うとしたら何を買うだろう。
「……うーん、でも……彼女の欲しい物がいいんじゃないの」
「そーかぁー。そうですよね~。うーん、でも何かはっきり言ってくれないんだよな~。僕の彼女、本当に謙虚だから!」
そう言ってにぱっ! と破顔するので、俺は久しぶりに前城の頭を殴ってやりたくなった。
「……殴っていいか。」
「えー何でですかあ! 痛いからやですよ~」
……全く、幸せなことで。そう言えば、あとひと月でクリスマスだった。
「……彼女とは、うまくいってるの」
「はい! おかげ様で~」
「そう」
さすがに声漏れは前より回数が減って、数日おきになったけれど、それでもいまだに上から響いてくる。
「あのさ。隣の人とかから苦情来ない」
「え! あ、あの、実は……一度。」
「だろうね」
俺は、そらみろと思ってふっと笑って言った。
「音とか声、控え目にした方がいいよ」
「え、あ、あの、もしかして、桂木さんちにも……」
「マユミちゃんって言ったっけ」
「ち、違います! マリエちゃんで……」
「そっか。そんで、ヒロくんな」
そう言ってやると、前城は顔が真っ赤になった。
「賃貸マンションの壁なんて、薄いからね」
照れ隠しか、彼はコーヒーを啜りながら聞いて来た。
「……桂木さんは、いま彼女いないんですか。」
うん、いないさ。お前が挨拶に来た前日からな。
ちぐはぐは、相変わらずだな。
そうして、季節はぐっと寒くなり。
前城は、新しい洗濯機を買った。
俺の家にも、たまにしか来なくなり。
俺は前みたいに、一人で部屋で暮らしている。
これも今まで通り、快適なはずだ。
そして、俺も人並みにクリスマスを迎えたけれど。
一人で部屋でテレビでも見ようかと思っていたら。
イブの前日、天皇誕生日の祝日に、前城から着信があったんだ。
「……マリエちゃん、来れないって言うんです……」
何だそれ。どういうことだ。
「他に、好きな人が、出来たって……」
ちぐはぐな割には、話すことが山ほどあるものだな。
「前城さんは、毎日ここへ来ているの?」
「いやー……実はどうしようかと思って……」
毎日、洗濯代がかかるのも大変だ。乾燥代を節約するために、持ち帰ってから干すのも、より大変である。
「数日洗濯物をためてから来てるんですけど……」
それでは汚れも染み付くだろう。
俺は迷ったが、言ってみることにした。
「……夜に、うちに洗濯機を回しに来ても、いいけど」
俺は朝洗濯して、干す。夜コインランドリーに行くくらいなら、俺んちで洗濯をして夜干ししても、いけるのではないだろうか。
洗濯したあとの濡れたものを運ぶのも同じマンションなら楽だし、何にしろお金がかからない。
「え! 本当ですか!」
前城は喜んだ、ようだ。
それから、二日にいっぺんくらい夜うちに来るようになった。
来ては、洗濯する間、無駄話をして帰る。
「あの、普通、彼女にクリスマスプレゼントとか何買います?」
ある時、俺の淹れたコーヒーを飲みながら前城にうきうきと聞かれて、俺は答えに詰まった。
そう言えば、今年はクリスマスプレゼントを買わない。でも、買うとしたら何を買うだろう。
「……うーん、でも……彼女の欲しい物がいいんじゃないの」
「そーかぁー。そうですよね~。うーん、でも何かはっきり言ってくれないんだよな~。僕の彼女、本当に謙虚だから!」
そう言ってにぱっ! と破顔するので、俺は久しぶりに前城の頭を殴ってやりたくなった。
「……殴っていいか。」
「えー何でですかあ! 痛いからやですよ~」
……全く、幸せなことで。そう言えば、あとひと月でクリスマスだった。
「……彼女とは、うまくいってるの」
「はい! おかげ様で~」
「そう」
さすがに声漏れは前より回数が減って、数日おきになったけれど、それでもいまだに上から響いてくる。
「あのさ。隣の人とかから苦情来ない」
「え! あ、あの、実は……一度。」
「だろうね」
俺は、そらみろと思ってふっと笑って言った。
「音とか声、控え目にした方がいいよ」
「え、あ、あの、もしかして、桂木さんちにも……」
「マユミちゃんって言ったっけ」
「ち、違います! マリエちゃんで……」
「そっか。そんで、ヒロくんな」
そう言ってやると、前城は顔が真っ赤になった。
「賃貸マンションの壁なんて、薄いからね」
照れ隠しか、彼はコーヒーを啜りながら聞いて来た。
「……桂木さんは、いま彼女いないんですか。」
うん、いないさ。お前が挨拶に来た前日からな。
ちぐはぐは、相変わらずだな。
そうして、季節はぐっと寒くなり。
前城は、新しい洗濯機を買った。
俺の家にも、たまにしか来なくなり。
俺は前みたいに、一人で部屋で暮らしている。
これも今まで通り、快適なはずだ。
そして、俺も人並みにクリスマスを迎えたけれど。
一人で部屋でテレビでも見ようかと思っていたら。
イブの前日、天皇誕生日の祝日に、前城から着信があったんだ。
「……マリエちゃん、来れないって言うんです……」
何だそれ。どういうことだ。
「他に、好きな人が、出来たって……」
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