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バッチリ好印象‼︎

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てっきり僕は屋台かなんかで食事を調達して王都中央王立公園にでも行くのかなと思っていたんだけど、ファルクは屋台や公園がある方向ではなく、街の外へと向かう方向へと歩き出した。
ファルクに「どこ行くの?」「お昼ご飯買わなくて良いの?」と聞いたけど、「秘密」「大丈夫」と言うだけで具体的にどこに行くかは教えてくれなかった。
仕方なく手を引かれるまま着いていく。
ちなみに手はずっと繋ぎっぱなしなので、街の中心部を歩いている時とても恥ずかしかった。
相変わらず隠しきれない高貴なオーラを出しているファルクと、陰のオーラを纏った平民丸出しの僕が堂々と恋人繋ぎをしているものだから、見た人も「……?」って感じで不思議に思っていたようだった。
もう少しちゃんとした格好をしてくれば良かった、と後悔したがどんなに着飾った所で全然釣り合う訳が無い。
それなら前のように従者だと勘違いされた方が良いなと思って、手を離してくれるように頼んだが当然却下された。

とうとう街の外へ続く街道に出ると、そこには男性二人と三頭の馬の一団が僕らを待っていた。
男性二人はファルクに気付くと「お待ちしておりました。ファルク様」とサッと礼をした。
あ、この人達見た事あるな。サンブールの別邸の使用人だ。
僕がキョトンとしていると、使用人のお二人が僕にも礼をしてくれたので僕も慌てて「こんにちは」と挨拶をする。

察するに馬に乗って何処かに行こうとしてるのかな。というか、いつの間に手配してたんだろう。

「ファルク、僕馬は……」乗れない、と言おうとしたら口に指を当てられて言葉を被せられた。

「エリスは大人しいし賢いから。俺の前で座ってるだけで大丈夫だよ」

三頭の馬のうち一際立派な体躯をした白馬は『エリス』ちゃんというらしい。
ドキドキしながらエリスちゃんに近付いてみると、頭を下げてフンフンと鼻を鳴らしながら擦り寄ってきた。かわいい。
鼻筋を撫でると掌から生き物の温かさを感じて、ほぅ、と満ち足りたような気持ちになった。
エリスちゃんには二人で乗れるようにか、一つの大きな鞍に二つの足を掛けるあぶみが取り付けられていた。
どうしようかとあぶみに左足を掛けてもたもたしていると、エリスちゃんが乗りやすいようにと脚を折って体勢を低くしてくれた。
更に後ろからファルクに抱き上げられてやっとエリスちゃんに跨る事が出来た。
その後慣れたようにエリスちゃんのあぶみに足をかけて、軽々とスマートに僕の後ろに乗ったファルクに少し敗北感を覚えた。

僕も昔は乗れたんだけどなぁ。サンブールのお屋敷で乗馬訓練してた時。
あの時乗ってたのはポニーだけど……。

馬に乗った時特有の宙に浮いてるような懐かしい感覚に浸っていると、ファルクの手が僕の腰を掴んで引き寄せる。

「危ないからもっと俺に体重かけて、くっついて」

言われた通り普段部屋で寛いでる時のように背中をファルクにくっつけて体重をかけると、ファルクの太腿にがっちりと挟み込まれて動かないようにと固定された。
ファルクの腕が僕の前に伸ばされて手綱を握る。
僕は手の置き場に困って鞍の前の出っ張ってる所を掴んだ。

「じゃあ、行くよ」

僕達が乗ったエリスちゃんと、使用人のお二人が乗った馬がゆっくりと歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーー

久しぶりの乗馬は記憶の中のそれよりもずっと快適だった。
ファルクが全身で僕の身体を固定してくれているから、僕は特に力を入れずにだらっとしていても落ちないし、エリスちゃんの走り方も良かった。ブレが少なく乗り手に負担のかからない優しい走り方なのだ。

自分じゃとても出せない速度で風を切って走るのは楽しい。馬車に乗っているのとはやっぱり全然違う。
高い位置から見下ろす景色も普段とは違って見えて新鮮だ。自分で手綱を握っていてはこんな風に景色を見る余裕は無いだろう。
太陽が透けてキラキラと黄色に輝く葉っぱを眺めながら、僕の心は浮き立った。

しばらく木々に囲まれた山道のような所を走っていたのが、一気に開けて平原のような所に出る。
そこからは走るスピードが落とされ、正面にあるゆるい丘は常歩で登るようだ。

喋っても舌を噛まないくらいの速度になったので、僕は久しぶりに口を開いた。

「ここが目的地?」
「うん、あとちょっと。前を見ててごらん」

何かありそうなファルクの口ぶりに、僕はワクワクしながら前を見る。
丘を登り切った時、僕はファルクが何を見せたかったのかが分かった。

一面の青。青。青。
丘を越えるとそこにはまるで空の青さと一体化したような青い花畑が広がっていた。

僕は思わず「わぁっ」と声をあげてしまった。

「これって、蔦瑠璃花だよね? こんなに沢山群生しているの初めて見た!! 自生してる訳じゃない、よね。蔦瑠璃は弱いから、誰かが手入れしないとこんな風に繁殖は出来ないんだよ! うわぁ、凄いなぁ。綺麗だ……! そうだ、近くに養蜂場は無いのかな? あのね、蔦瑠璃の蜂蜜は蜂蜜を味わいたいが為に紅茶の缶が空になるほど美味しいって言われてるんだよ!」

くすくす、と後ろから笑う声が聞こえて、僕は自分が興奮のあまりぺらぺらと喋り過ぎていた事に気付いた。
僕は図鑑オタクなので、図鑑で見た植物とか鉱物とか動物の実物を見ると、テンションが上がって周りが見えなくなってしまう事があるのだ。

「ご、ごめん……盛り上がり過ぎた」
「うん? レイルが楽しそうだと俺も楽しいよ?」

そろそろ降りようか、と示された先には既にテーブルや料理がセッティングされており、またもや見覚えのある執事さんやメイドさんが側に控えていた。

──本当にいつの間にこんな風に準備させていたんだろう……?

余りの用意の周到さに僕が若干畏怖していると、エリスちゃんの脚が完全に止まり、乗った時同様ファルクがさっと降りた。
僕も続いて降りようすると、ファルクが手を差し伸べてくれた。有り難く掴ませて貰う。

しかし、自分が思ってた以上に脚に力が入らなくて僕は殆ど落ちるようにエリスちゃんから降りる事になってしまった。
ファルクは少し驚いたような表情をしていたが、上から落ちてきた僕をなんなく受け止めて「大丈夫?」と首を傾げた。

僕はというと落馬しかけた恐怖よりも、未だ脚に力が全く入らなくてガクガクしている感覚が可笑しくて、ファルクの首に縋るように腕を回しながら肩を震わせた。

「くふっ、ははははっ、あは、脚に力が全然入らないんだけど、えっ、僕の脚どうなってんの?」
「ちゃんとついてるよ」

ファルクのズレた返答も可笑しくて僕は更に笑った。

「待って、はははっ、何だこれ、おもしろ! 降ろさないでねファルク。ふふっ、多分今降ろされたら、べちゃってスライムみたいに潰れるから」
「うん、降ろさないよ。ずぅっと降ろさない」

僕の脚が使い物になるまで、僕はファルクに縦抱きにされながらずっと笑っていた。


美しくセッティングされたテーブルセットでこれまた美しい青の花畑を眺めながら、サンブール家のシェフが用意してくれた昼食を贅沢に頂いた後。
デザートにアップルパイと紅茶を出されたので、まずはと一口紅茶を口に含むと、口の中に澄み切った清らかな花の香りが広がって僕は目を見開いた。

「これ……蔦瑠璃の蜂蜜?」

ファルクは驚いた僕の顔を見て、悪戯が成功したような笑顔を浮かべると頷いた。

「レイルが言ってた通り、ここの花畑は近くの養蜂場が管理しているんだ。蔦瑠璃の蜂蜜はそんなに数が取れないから、特別な顧客にだけ提供してるんだって」
「へー……! やっぱり、そっかぁ。うん、確かにこれは……凄く美味しい。ご婦人受けがとても良さそうだ。うーん、これくらい香りが強いならほんのちょっと原材料に加えるだけでも付加価値が高まりそうだな……」

贈答品用の高級クッキーとかにして、庶民でもギリギリ手が出る価格にしたら売れそうな気がするな。凄く品の良い香りだし。良いなぁ、取引出来ないかなぁ。
そんな事を考えていたら、ファルクに指で頬を突かれた。

「商人の顔してる。レイルもやっぱりヴァンスタイン家の息子だね」
「……つい、ね?」

僕は照れ隠しにアップルパイを一切れ摘んだ。
うん、パイ生地がサクサクで美味しい。
渇いた喉を潤す為にもう一口紅茶を飲むと、やっぱりとても良い香りでうっとりとしてしまう。

「養蜂場も行ってみる?」
「行く!」

食い気味に反応した僕に、ファルクがくしゃりと笑った。

ーーーーーーーーーーーーーー

養蜂場では色々な設備を見学させて頂き、沢山お話を聞かせて頂いた。その上お土産として蔦瑠璃の蜂蜜を一瓶と、蔦瑠璃のハーバリウムを頂いてしまって、僕はホクホク顔だった。

帰りも折角だからと馬車ではなく、すっかり仲良くなったエリスちゃんに乗る事にした。
学園に着くとやっぱり僕の脚は全く使い物にならなくなっていて、僕はまた大爆笑しながらファルクにしがみつく事になったのだった。

送って貰ったというか、運んで貰った寮の部屋で、僕がファルクに「今日はすごく楽しかった!」と伝えると、ファルクも「俺もすごく楽しかったよ」と嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
僕たちは「また行こう」と小指を絡めながら約束をして別れた。

……あれ? よくよく考えたらファルクに治癒魔法をかけて貰ったらすぐに歩けるようになったのでは……?

僕は青い花びらがぎゅっと詰め込まれたハーバリウムを眺めながら首を傾げた。
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