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最強武器

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僕は反省していた。
王城に行った日の夜、僕がなんかセンチメンタルを発動しちゃってファルクの腕の中で号泣しちゃった時。あの日以来ファルクの過保護レベルが一段階上がってしまったからである。

いや、完全にやっちまったよね。

怪我が治るかもしれないって聞かされて動揺していたのと、皆に生きてて良かったって言われて感極まっていた事と深夜テンションであんな事になってしまったんだと思う。
そりゃうっすらとした後ろめたさみたいのは常にあるけど、流石に死んだ方が良かったとかは思っていない。
でも誰にだってなんか落ちる日ってあるだろ? それなんだよ。
そんな感じで大丈夫だからって何度もファルクに訴えてるんだけど、全然聞き入れて貰えない。
前以上にべったりで僕中心の生活になってしまった。
正直その行動が僕の罪悪感とか後ろめたさを煽るんだけどなぁ……。

クラスメイト達にも「ヴァンスタインの何がそんなにファルク様を狂わせるのかわからん」って言われる始末だ。
僕もわかんねぇよ。
レオニスには「お前浮気でもしたの?」って聞かれた。
してねぇよ。いやそもそも付き合ってない。

でも良い事もあった。
なんと!! とうとう!!! セーラとダリオン様がダンジョンで古代の魔導士の手記を見つけたのだ!!!!
僕がいくら探しても見つからなかったのに……。
やっぱりダンジョンを造るような凄い魔導士の手記だから、見つけて貰う人を選んでいたのかな。

手記はすぐに王の元へと届けられて、専門家達によって精査された後、本物だと認定された。
ダンジョンが古代のアーティファクトであり、ダンジョンボスを倒さずに放置しておくと大変な事になるというのが少なくとも国の上層部の方々には周知された訳だ。

御触れは学園にもすぐに出された。
昨今の魔物増加とダンジョンの因果関係についてと、今まで以上にダンジョン攻略に励み、ダンジョンボスを討伐する者が出る事を期待していると。
御触れではダンジョンが人工物だと言う事は伏せられていた。宗教的な問題があるから、他国や教会との兼ね合いで迂闊に公表出来ないんだろうなと察する事が出来る。
まぁそこら辺の問題は後々偉い人達がどうにかするだろう。
カイル先輩には教えてあげたい気もするけど、僕が手記の内容を知ってるのもおかしな話なので、ゲーム通りカイル先輩自身がセーラに接触して聞き出して貰えればと思う。

ともかく、これでようやく『セブンスリアクト』のスタートラインに立った。

色々とシナリオ通りにいかない世界だけど、ダンジョンボスを倒せるのはやはり『主人公セーラ』しか居ないと思う。

御触れが出されてから、王都の騎士団などが本格的にダンジョン攻略に励んでいるが成果は芳しくない。
別に騎士団の人達の実力が不足しているとは思わないけど、僕は軍人とダンジョンは相性がとことん悪いと思っている。
三人パーティ制限という普段とは異なる少人数での作戦、魔物は殲滅という方針、個々の個性より調和を重んじる所とかがダンジョン向きじゃない。
ダンジョンで必要なのは個々の力と対応力だ。だから、僕は軍人よりも冒険者の方が良い所まで行くんじゃないかなと思ってるけど、冒険者はアウトローな人が多いからな……。
投入されるとしても最終手段だと思われる。

結局、対応力で言うなら全属性適性持ちのセーラの右に出る者は居ない。
セーラが相棒に誰を選ぶのかはまだ分からないが、僕はその選択を尊重し、精一杯のサポートをしなくてはいけない。
それが、全てを知りながら大役を彼女に押し付けてしまう僕のせめてもの罪滅ぼしだ。

ーーーーーーーーーーーーーー

選抜隊が出立する前にした『王都でお買い物をしよう』の約束を果たす為に、僕とセーラは二人で王都の平民街へと来ていた。
前にファルクと二人で来た時とは違って、平民同士僕らも街の人々も穏やかに普通にショッピングを楽しむ事が出来た。
僕は初めての女子とのデートという事で違った意味でドキドキしていたんだけどね。
評判のケーキとコーヒーを出してくれるお店で、お互いが頼んだケーキをあーんし合った時なんてドキドキしすぎて正直味がしなかった。
まぁそれは良いとして、僕にはどうしてもセーラを連れて行かなければならない場所があったのだ。

それが、ここ。

平民街の路地裏のちょっと治安がよろしくない場所にある、営業しているのかしていないのか不安になるようなボロっちい外観のお店。
斜めに曲がっている看板には『ぶきや』と手書きで書かれている。
なんとこのボロい店が『セブンスリアクト』に於ける最強武器を作ってくれるお店なのだ。
正規ルートでは、街の普通の鍛冶屋で作れる最高ランクの武器を作る事で店主から紹介されてやっと来れる場所なんだけど、この店に来る為だけに他の武器を作るのは正直素材と時間の無駄なので直接来てみた。
シナリオの強制力が働かないのならこういうズルだって出来るだろう、という目論見。

ちなみにここに来る途中、見るからにひ弱そうな僕と可愛らしいセーラは、チンピラと呼ばれる人種の方々に絡まれまくったけど全員セーラがぶっ飛ばしてた。物理で。僕の出る幕は無かった。
なんなら「大丈夫? 怖くなかった?」って優しく声をかけてくれた。ふ、複雑なんですけどぉ……。

「レイル、私を連れて来たかった場所って本当にここ?」

余りにもボロい外観に流石のセーラも不安そうに僕を見てくる。

「うん。見た目はボロいけど、凄腕の鍛冶屋さんがいるんだよ」

ゲームでは、だけど。
内心ドキドキしながら、建て付けの悪い扉を何回かガチャガチャやってなんとか開く。
店内には誰も居らず、乱雑に剣や盾、槍なんかが置かれていた。床や棚には埃が被っていたけど、武器はどれもピカピカだった。
僕は勇気を出して「すみませーん」と自分なりの大きな声を出した。

ギシギシと古い床板を踏み鳴らす音がして、店の奥からのしのしと人がやって来た。
僕の胸くらいまでしか無い身長に、眼帯、顔の下半分を覆う豊かな髭を三つ編みに結んだこの人こそ、ここの店主であり、凄腕の鍛冶屋である。
この見た目で鍛冶屋。完全にドワーフなんだが、この世界、ドワーフもエルフも獣人も居ないのでドワーフっぽい見た目のただの人間だと思われる。
ゲーム内でめちゃくちゃお世話になった頑固親父だ。

「何の用だ」
「あ、あのぉ……彼女の武器を拵えて貰いたくて……」

店主は僕の顔とセーラの顔を見比べるとフン、と鼻を鳴らした。

「拵えてだと? 坊ちゃん嬢ちゃんにはそこらにあるので充分だ」
「あ、いや、……はい……」

顎で店売りの武器を指し示されると、もう話は無いと言わんばかりにカウンターに座って剣を磨き始めてしまった。
これ以上食い下がるのは難しそうだ。僕のコミュ力的に。

うー、やっぱりダメか。表通りの鍛冶屋さんの紹介が無いと相手にして貰えないっぽいな。
仕方ない、とりあえず店売りの武器でも今の装備よりは断然に良いので、店主の言う通り今日はそれを買って使って見せて徐々に信頼を得て行く事にしよう。
それでも表通りの鍛冶屋を経由するよりは早い筈だ。

そう思ってセーラに声をかけようと後ろを振り向くと、剣を磨いていた筈の店主から声をかけられた。

「おい、坊主。その杖……なんだ?」

まさか向こうから声をかけられると思っていなかった為驚いたが、この杖に反応したのかと思うと納得した、と同時にこれは使えるかもしれないと思った。

──どうですか、この杖は。我が国の永遠のアイドル、細氷の王女殿下が財も人脈もフルに使って作らせた一級品ですよ。鍛冶屋なら絶対に気になるでしょう。

僕はなんて事のないフリをしながら「この杖ですか?」と首を傾げながら杖を掲げた。

「それだ、それ。少し見せてくれ」

店主はカウンターから身を乗り出して杖を凝視している。僕はその視線を遮るように杖を後ろ手に隠した。

「えぇ、いや……それはちょっと。大切な人からの貴重な贈り物なので……。じゃあ、お邪魔しました」

セーラに「行こっか」と声をかけて扉に向かう。セーラは僕の思惑をよく分かってないらしく「いいの?」と視線で告げて来たが、頷く。
背後から「待て待てっ!」と慌てたような声が聞こえて、僕はほくそ笑む。

「チィッ、坊主。やるじゃねぇか。わーったよ、嬢ちゃんの武器を作ってやる。その代わり……」

僕はにっこり笑うと自分の杖を店主に差し出した。

「どうぞ、お好きなだけ見て下さい」


店主が僕の杖を見ている間、僕とセーラは店内を見て回っていた。
セーラは何やらごっつい武器に興味があるようで、デカい棍棒とかハンマーみたいのとかを真剣な眼差しで見つめていた。

君治癒術師だよね……?

商品の武器は乱雑に置かれてはいるが、どれも良い品だ。
店主曰くお店に出してるのは失敗作らしいけど、そんな事無いと思うんだけどなぁ。職人にしか分からない拘りというやつだろうか。
職人さんと上手く付き合うのって難しいんだよな。父様もいつも苦労してる。

うちの商会に卸してくれないかなぁ、なんて到底無理そうな願望を抱いていると、ふー、と息を吐く音が聞こえて僕はカウンターを見た。

「こりゃ、おもしれぇ杖だな。ここまで金掛けて護りに特化させるたぁ、酔狂通り越してロマンだな。坊主、お前王のご落胤だったりするのか?」
「な、なんて不敬な事を。違いますよ。これは王族の方に頂いたんです」

店主は「ほー」と納得したように頷き、杖を返してくれた。

「良いもん見せて貰った礼だ。嬢ちゃんに最高の武器作ってやるよ。だが、必要な素材は自分で集めて来い。坊主は……それで充分だな。攻撃型の得物が欲しいってんなら作ってやらねぇでもねぇが、まぁ贈り手の坊主に無事で居て欲しいって気持ちを汲んでやれや」

僕は杖を握りしめて、こくりと頷いた。

その後、セーラと店主でどんな武器が欲しいのかとか適性の事とか色々な話をした結果、セーラが作って貰う武器はモーニングスターになったらしい。
モーニングスターというのは棘の付いたメイス、棒の先端にトゲトゲが付いた丸い鉄球が付いた鈍器の事である。
ちなみに鎖付きじゃないやつ。

……え? 何それ……。知らん。
知らん知らん。
ゲームで治癒術師クラスのセーラが使ってたのは杖だ。白くて魔法少女みたいな感じの杖。
なんでそんな殺傷能力高そうなごっつい武器選ぶの……?

困惑する僕を尻目にセーラは「よーし、素材集め頑張るぞ!」とやる気を出していた。
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