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王子様
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流石に初日から授業なんて事はなく、これから教授が学校内の主要な教室や設備などを案内してくれる事になった。
教授が先頭を歩き、僕たち生徒はその後ろをついて行く。
小さな声で楽しそうにおしゃべりをしている生徒がいたり、興味深そうに辺りを見回して感嘆の声をあげている生徒がいたりなど、僕の内心とは裏腹に和やかなムードで学校案内は行われていた。
やばい。僕も誰かに話しかけた方がいいか……? でもキモがられないかな……。
そんな事考えてるうちにどんどんグループが出来て更に話しかけにくくなるんだよな、分かってる、分かってるんだけど!
結局誰に話しかける事も出来ず、誰からも話しかけられないまま学校案内は終わり、一度教室に戻ってから解散となった。
教授の案内については六割くらいしか聞いてなかったが、ゲーム内マップと殆ど一緒だったので問題ないと思う。
問題なのは人間関係だ。教室を見渡すともうみんなそれぞれ仲の良い生徒が出来ているように見える。
──終わった。僕の学校生活終わった。
僕が教室の席で項垂れていると、ポンポンと肩を叩かれた。
顔を上げると小麦色の肌で頬にはそばかすが乗った快活そうな背の低い男子生徒が居た。
「え、と……?」
「なんか、呼ばれてますよ。王子に」
王子!?
ギョッとして男子生徒の手のひらが指し示す方向を見ると、教室の出入り口にはファルクと……ダリオン王子!?
金色に輝くサラサラとした髪に切れ長の目、アリスおば様と同じ宝石のような紫の瞳。
隣に並ぶファルクと同じくらいの長身で、ファルクに見劣りしないくらい美形の王子様がそこにはいらっしゃった。
魔法クラスの生徒達も騒然としていた。同級生とはいえ、わざわざ王子が何の目的でここへ? となるよな。
うわー……嫌過ぎる。あのクラス全員の視線が向かっている場所に飛び込むのか、僕が。
ファルクもなんで王子なんか連れてきたんだ……。
嫌過ぎるが、だからと言って王子を待たせるのも不敬か。
僕は重い足取りで渦中へと向かった。
「レイル、お疲れさま。……顔色が悪いな。なにか嫌な事でもあった?」
「ふ、ファルク……」
お前のせいだよっ!! というか、王子が居るというのにファルクは相変わらずマイペースだ。
僕はダリオン王子に向き合うと緊張でガックガクになりながらも、右手の拳をお腹に当てながら首を曲げて正式な礼をした。
「あ、あの、……れ、レイル・ヴァンスタインと申します。おっお、お会いできて光栄です、殿下」
「あぁ、良い良い。知っているだろう。学園内では爵位など関係なく共に学ぶ一生徒だ。堅苦しいのはやめてくれ」
「そうだよ、レイル。ダリオンは勝手についてきただけなんだから、気にしなくて良いよ」
気にしない訳にはいかないだろっ!!
「ファルクが入れ込んでいるという相手を見に来たんだが……なるほど。昔一度会った事があるな? ほら、ファルクの誕生パーティーでずっとファルクの背中にくっついていただろう」
ヒィッ!!! 黒歴史!!!
流石殿下、ものすごい記憶力でらっしゃいますね……!!
そうかあの時殿下もいらっしゃってたのか。消し去りたい過去すぎて記憶から抹消していたわ。
「は、はい……あの時は、その、殿下の前でお見苦しい真似をしてしまい、申し訳ございません……」
僕は蚊の鳴くような震える声でそれだけ言うのが精一杯だった。きっと頬も耳も真っ赤になっている事だろう。
殿下の顔が見れない。ちゃんとしないと。不敬になる。
何故か泣きそうになっていると、ふわっといつもの温かさと香りに包まれた。ファルクの腕の中だ。
「ダリオン、レイルは人見知りなんだ。もう良いだろ。王族なんか緊張するに決まってるよね、ごめんね、レイル」
「お前も血族だろうが。まぁ、良い。共に学ぶ者としてこれからよろしくな、レイル・ヴァンスタイン」
「は、はい、よろしくお願い致します。ダリオン殿下」
「殿下はいらない」
「だ、ダリオン様……」
後ろからファルクに抱きしめられているという間抜けな体勢でダリオン様と握手を交わす。
こんな状態で良いんだろうか、不敬にならない?
僕は戦々恐々としながら去っていくダリオン様の後ろ姿を見送った。
ファルクとダリオン様は軽口を叩き合う気安い関係のようだったから、良いのか。従兄弟同士だもんな。
ゲーム内ではもう少し距離があったような気がするけど。
まぁ今はそんな事よりとりあえず……。
僕はファルクの腕から逃れると、後ろを振り返った。
「お、お騒がせしました……」
扉の近くで僕らがごちゃごちゃやってたせいで教室から出る事ができなかった魔法クラスの面々にぺこりと頭を下げる。
そしてファルクの腹にお前のせいだぞという怨念を込めて無言で頭突きをする。
ファルクはなんか嬉しそうにしていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ファルクに手を引かれて僕は鷲寮に来ていた。
ファルクが隼寮に来るのと、僕が鷲寮に行くのじゃハードルの高さが全然違うから最初は「行きたくない」って言ったんだけど「そのうち絶対来る事になるんだから」と押し切られた。
それは、まぁ……そうなる気はするけど!
「顔パスで入れるようになるくらい遊びにきてね」
僕はそんなに心が強くないよ。
ファルクの部屋は三階で、三階にはダリオン様とこれまた攻略対象のルカス殿下の部屋しかないらしい。
王族専用フロアってことか。贅沢なことで。
階段を上る時、ファルクに抱っこされそうになったけど他の生徒の目があるので丁重にお断りした。
手だけ貸してもらってなんとか上り切ったが、少しだけ右脚が熱を持っているような気がする。
沢山歩き回る時はちゃんと杖を持ち歩かないとダメだな。
どうしても目立つから、あまり持ちたくないんだけど……。
鷲寮は隼寮とは別格の豪華さで、さりげなく飾ってある絵画や調度品などの一つ一つが一級品だ。一応商家の息子なのでそこら辺は分かる。
僕がそれらに目を奪われていると、ファルクの部屋の前に着いた。
待ってて、と言われてファルクが一人室内に入り、すぐさま扉が開かれる。
「いらっしゃい、レイル。レイルがこの部屋の初めてのお客様だよ」
なるほど。やり返された訳だ。
客観的に見ると結構恥ずかしい事したんだな僕、という気持ちと嬉しい気持ちで半々だった。
ファルクが期待するような目で見ているので、僕は仕方なく広げられた腕の中に飛び込んだ。
こうして、僕と各々のシルヴァレンス学園での学校生活が始まった。
教授が先頭を歩き、僕たち生徒はその後ろをついて行く。
小さな声で楽しそうにおしゃべりをしている生徒がいたり、興味深そうに辺りを見回して感嘆の声をあげている生徒がいたりなど、僕の内心とは裏腹に和やかなムードで学校案内は行われていた。
やばい。僕も誰かに話しかけた方がいいか……? でもキモがられないかな……。
そんな事考えてるうちにどんどんグループが出来て更に話しかけにくくなるんだよな、分かってる、分かってるんだけど!
結局誰に話しかける事も出来ず、誰からも話しかけられないまま学校案内は終わり、一度教室に戻ってから解散となった。
教授の案内については六割くらいしか聞いてなかったが、ゲーム内マップと殆ど一緒だったので問題ないと思う。
問題なのは人間関係だ。教室を見渡すともうみんなそれぞれ仲の良い生徒が出来ているように見える。
──終わった。僕の学校生活終わった。
僕が教室の席で項垂れていると、ポンポンと肩を叩かれた。
顔を上げると小麦色の肌で頬にはそばかすが乗った快活そうな背の低い男子生徒が居た。
「え、と……?」
「なんか、呼ばれてますよ。王子に」
王子!?
ギョッとして男子生徒の手のひらが指し示す方向を見ると、教室の出入り口にはファルクと……ダリオン王子!?
金色に輝くサラサラとした髪に切れ長の目、アリスおば様と同じ宝石のような紫の瞳。
隣に並ぶファルクと同じくらいの長身で、ファルクに見劣りしないくらい美形の王子様がそこにはいらっしゃった。
魔法クラスの生徒達も騒然としていた。同級生とはいえ、わざわざ王子が何の目的でここへ? となるよな。
うわー……嫌過ぎる。あのクラス全員の視線が向かっている場所に飛び込むのか、僕が。
ファルクもなんで王子なんか連れてきたんだ……。
嫌過ぎるが、だからと言って王子を待たせるのも不敬か。
僕は重い足取りで渦中へと向かった。
「レイル、お疲れさま。……顔色が悪いな。なにか嫌な事でもあった?」
「ふ、ファルク……」
お前のせいだよっ!! というか、王子が居るというのにファルクは相変わらずマイペースだ。
僕はダリオン王子に向き合うと緊張でガックガクになりながらも、右手の拳をお腹に当てながら首を曲げて正式な礼をした。
「あ、あの、……れ、レイル・ヴァンスタインと申します。おっお、お会いできて光栄です、殿下」
「あぁ、良い良い。知っているだろう。学園内では爵位など関係なく共に学ぶ一生徒だ。堅苦しいのはやめてくれ」
「そうだよ、レイル。ダリオンは勝手についてきただけなんだから、気にしなくて良いよ」
気にしない訳にはいかないだろっ!!
「ファルクが入れ込んでいるという相手を見に来たんだが……なるほど。昔一度会った事があるな? ほら、ファルクの誕生パーティーでずっとファルクの背中にくっついていただろう」
ヒィッ!!! 黒歴史!!!
流石殿下、ものすごい記憶力でらっしゃいますね……!!
そうかあの時殿下もいらっしゃってたのか。消し去りたい過去すぎて記憶から抹消していたわ。
「は、はい……あの時は、その、殿下の前でお見苦しい真似をしてしまい、申し訳ございません……」
僕は蚊の鳴くような震える声でそれだけ言うのが精一杯だった。きっと頬も耳も真っ赤になっている事だろう。
殿下の顔が見れない。ちゃんとしないと。不敬になる。
何故か泣きそうになっていると、ふわっといつもの温かさと香りに包まれた。ファルクの腕の中だ。
「ダリオン、レイルは人見知りなんだ。もう良いだろ。王族なんか緊張するに決まってるよね、ごめんね、レイル」
「お前も血族だろうが。まぁ、良い。共に学ぶ者としてこれからよろしくな、レイル・ヴァンスタイン」
「は、はい、よろしくお願い致します。ダリオン殿下」
「殿下はいらない」
「だ、ダリオン様……」
後ろからファルクに抱きしめられているという間抜けな体勢でダリオン様と握手を交わす。
こんな状態で良いんだろうか、不敬にならない?
僕は戦々恐々としながら去っていくダリオン様の後ろ姿を見送った。
ファルクとダリオン様は軽口を叩き合う気安い関係のようだったから、良いのか。従兄弟同士だもんな。
ゲーム内ではもう少し距離があったような気がするけど。
まぁ今はそんな事よりとりあえず……。
僕はファルクの腕から逃れると、後ろを振り返った。
「お、お騒がせしました……」
扉の近くで僕らがごちゃごちゃやってたせいで教室から出る事ができなかった魔法クラスの面々にぺこりと頭を下げる。
そしてファルクの腹にお前のせいだぞという怨念を込めて無言で頭突きをする。
ファルクはなんか嬉しそうにしていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ファルクに手を引かれて僕は鷲寮に来ていた。
ファルクが隼寮に来るのと、僕が鷲寮に行くのじゃハードルの高さが全然違うから最初は「行きたくない」って言ったんだけど「そのうち絶対来る事になるんだから」と押し切られた。
それは、まぁ……そうなる気はするけど!
「顔パスで入れるようになるくらい遊びにきてね」
僕はそんなに心が強くないよ。
ファルクの部屋は三階で、三階にはダリオン様とこれまた攻略対象のルカス殿下の部屋しかないらしい。
王族専用フロアってことか。贅沢なことで。
階段を上る時、ファルクに抱っこされそうになったけど他の生徒の目があるので丁重にお断りした。
手だけ貸してもらってなんとか上り切ったが、少しだけ右脚が熱を持っているような気がする。
沢山歩き回る時はちゃんと杖を持ち歩かないとダメだな。
どうしても目立つから、あまり持ちたくないんだけど……。
鷲寮は隼寮とは別格の豪華さで、さりげなく飾ってある絵画や調度品などの一つ一つが一級品だ。一応商家の息子なのでそこら辺は分かる。
僕がそれらに目を奪われていると、ファルクの部屋の前に着いた。
待ってて、と言われてファルクが一人室内に入り、すぐさま扉が開かれる。
「いらっしゃい、レイル。レイルがこの部屋の初めてのお客様だよ」
なるほど。やり返された訳だ。
客観的に見ると結構恥ずかしい事したんだな僕、という気持ちと嬉しい気持ちで半々だった。
ファルクが期待するような目で見ているので、僕は仕方なく広げられた腕の中に飛び込んだ。
こうして、僕と各々のシルヴァレンス学園での学校生活が始まった。
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