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ごめんなさい
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大好きな幼馴染にウザがられていたという事実はレイル少年の心に大きな傷を残した。
しかし、前世の大人としての目線で(何歳で死んだかは覚えていないが確実に成人はしていた)客観的に見ればまぁ、そりゃそうだよなと納得もしていた。
確かに僕はめちゃくちゃウザかった。
どうウザいかと言うと、最近行われたファルクの誕生日会でこんな事があった。
侯爵嫡男で且つ、王位継承権も持つファルクの誕生日会ともなれば、そりゃ様々な貴族の方々がいらっしゃる社交の場な訳だ。
本来なら平民の僕は招待されてるだけで驚愕なんだけど、なんということでしょう。
恐ろしい事に僕は空気も身分の差なんかも読まずに、他の貴族のご令息ご令嬢と交流するファルクの後ろにぴったりとくっついてまわっていたのです。
今思い出すと、彼らのこの後ろの妖怪みたいの何なんだろうって視線が辛い。心が痛い。弁えろよ僕……!
ファルクはさぞかし恥ずかしかった事だろう。
母様父様も愚息の暴走を止めてよ、と両親を責めたくもなるが何度も止めようとはしてくれてた気がする。
ただ、現国王の愛娘であらせるアリスおば様が「レイルくんはファルクが大好きなのねぇ」と僕にびっくりする程甘々だったのでそんな暴挙が許される空気が出来ていたのだ。
では一体何故王女殿下であられるアリスおば様が、平々凡々どころかちょっと駄目寄りの僕に甘々なのか。
それは僕の容姿が物凄く母様似だからだと思われる。
遥か昔(というと怒られそうだ)男爵令嬢だった母様とアリスおば様は同じ女学院に通う学友だった。その女学院では上級生が下級生の面倒を見る姉妹制度があったらしく、当時三年生のアリスおば様と一年生だったうちの母様は姉妹の契りを交わしたそうだ。
詳しくは知らないが姉妹になってからアリスおば様は母様を溺愛し、その母様にそっくりな僕も同じように可愛がられてるという訳だ。
ここだけ聞くと、僕も母もさぞや美しい容姿をしているのだろうなと思われそうだがそんな事は全然無かった。
というか周囲に派手な美形が多過ぎるのだ。
金髪碧眼の父様はレッドカーペットが似合いそうな派手なイケオジだし、兄様姉様も父様似で華やかな美男美女だ。
アリスおば様はその人間離れした容姿から細氷王女とか傾国の姫とか呼ばれてたくらいに美しい。
神秘的なアイスブルーシルバーの髪に、長い睫毛に縁取られたアメジストを嵌め込んだかのような瞳。
全てのパーツが完璧に整っていて、見慣れている僕ですらたまに「女神……!?」って動揺する。
当然その息子であるファルクも母譲りの銀髪に父譲りの黄金の瞳を持つ圧倒的美少年で、見慣れている僕ですらたまに「天使……!?」って動揺するくらいに美しい。
ファルクの父君のサンブール侯爵も流石に神クラスではないがとても女性受けしそうな整った品の良い顔立ちで、黄金色の瞳が印象的な美丈夫だ。実際凄くモテるらしい。
そんな人達に囲まれてしまうと、母様と僕だけはなんというか非常に地味だった。
髪の色は母様の故郷の辺境ではありふれたくすんだ感じの黒だし、瞳の色は赤色で少し珍しいけど全く見かけない訳じゃないし、眠たそうな半月状の目つきも美しさの条件からは外れている気がする。
決して不細工ではないと思うけど、やはり周りに派手な美形が集まり過ぎている。
僕と母様の二人なら地方の農村とかに行ってもすぐに馴染めそうだけど、他の皆は確実に浮くと思うもん。
脱線したが、そんな美形集団の中でも群を抜いた美しさを持つアリスおば様に、可愛い可愛いと言われ育った僕は空気も身分の差も読めず、幼馴染にウザ絡みするようになってしまったのであった。
他にもファルクがやるなら僕もやりたい! と一緒に受けてる剣術訓練でファルクは真剣で大人とやり合えるくらいの実力があるのに、毎回僕のレベルに合わせた木剣での打ち合いという名のじゃれ合いに付き合ってくれていた。
似たような出来事は沢山あって、その一つ一つがファルクにとっては負担になっていたんだと思う。
そりゃそうだよ。いくら優秀だからと言ってまだ十歳の子供だ。
いや、本当に申し訳ないやら恥ずかしいやらで穴があったら入りたいというのはこう言う事かと、前世の世界の慣用句に想いを馳せる。
そんな状態だったんだからさ、元凶の幼馴染に嘘ついたり、ちょっとくらい意地悪したくなっちゃったって仕方ないよ。
その後の事は、不幸な事故としか言いようがない。
──だから。
ファルクがそんなに責任を感じる必要は無いんだよ。
ーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ましてから二週間ほど経過した日。治癒術師様からのお許しが出たので、僕はようやく自宅へと帰れる事になった。
アリスおば様はいつまでも居れば良いと言ってくださるけど、流石にそんな訳にも行かない。
サンブール家のお屋敷からヴァンスタイン家までは馬車で半刻もない距離とはいえ、商会の仕事をしながらお見舞いに来てくれる父様は大変だろうし、自宅に居る兄様姉様だって母様が僕に付きっきりのせいで寂しい想いをしている事だろう。
早く帰るに越した事は無いのだ。
さて、帰る前にいよいよ顔の左半分を覆っていた包帯を外す時が来た。不安そうな表情を浮かべるサンブール母息子と母様に見守られながら治癒術師様がゆっくりと僕の包帯を外す。
奇跡的に目が無事だった事は既に確認済みなので僕自身はもうそこまで不安はないのだが、こうも注目されていると変に緊張してしまう。
普通に雑談とかしてる中でさりげなく外して欲しい。
「あぁ、包帯外したんだね~」くらいの注目度でお願いしたい。
「ゆっくり、目を開けて。そう、母君の顔が見えるかい?」
「はい、見えます」
「見えにくいとか、痛みがあるとかはないかい?」
「大丈夫です」
包帯が外されて、久しぶりに両目で世界を見る。うん、左目の視力には問題ないようだ。
母様の優しい笑顔も、悲しげな表情を浮かべるアリスおば様の顔も、絶望したような表情のファルクの顔もばっちり見えてる。
……僕の顔、そんなやばい事になってるのかな?
治癒術師様に渡された手鏡をドキドキしながら覗き込む。
おぉ……おおお……。こ、これは……!
大海賊の船長っぽい……!!!
酒場でバーボンとか飲んでそうなこの三本傷……。So cool……!
「……ごめん、ごめんね、レイル……」
何も言わずに鏡を見つめていたせいか、僕がショックを受けたと勘違いしたのだろうファルクから震える声で、もう何百回目か分からない謝罪をされた。
青白い顔をしたファルクの顔を見る。
隈は相変わらず濃くて余り寝れてないのが見て取れる。子供らしく丸かった頬も少し痩けているし、折角の天使のような美少年フェイスが勿体無いぞ。
「だ、大丈夫だよ。だってコレ結構カッコいいと思うし……! 今はまだ子供だからちょっと痛々しいけど、僕が髭の似合う渋い大人になった時にはきっとこの傷のお陰で歴戦の戦士感が出ると思うんだよね……」
僕としては本気で言ったつもりなのだが、ファルクには健気で可哀想な生き物を見るような目で見られてしまい、それが全く伝わらなかった事を悟った。あとボソッと「……レイルに髭は似合わないと思う」と言ってたの聞こえてたからな。
その後、杖を使っての歩行訓練も始めたのだが、よろけた姿を見たファルクに再び泣きそうな顔で謝られてしまい、お互いの為に早く自宅に帰りたいと心底思った。
しかし、前世の大人としての目線で(何歳で死んだかは覚えていないが確実に成人はしていた)客観的に見ればまぁ、そりゃそうだよなと納得もしていた。
確かに僕はめちゃくちゃウザかった。
どうウザいかと言うと、最近行われたファルクの誕生日会でこんな事があった。
侯爵嫡男で且つ、王位継承権も持つファルクの誕生日会ともなれば、そりゃ様々な貴族の方々がいらっしゃる社交の場な訳だ。
本来なら平民の僕は招待されてるだけで驚愕なんだけど、なんということでしょう。
恐ろしい事に僕は空気も身分の差なんかも読まずに、他の貴族のご令息ご令嬢と交流するファルクの後ろにぴったりとくっついてまわっていたのです。
今思い出すと、彼らのこの後ろの妖怪みたいの何なんだろうって視線が辛い。心が痛い。弁えろよ僕……!
ファルクはさぞかし恥ずかしかった事だろう。
母様父様も愚息の暴走を止めてよ、と両親を責めたくもなるが何度も止めようとはしてくれてた気がする。
ただ、現国王の愛娘であらせるアリスおば様が「レイルくんはファルクが大好きなのねぇ」と僕にびっくりする程甘々だったのでそんな暴挙が許される空気が出来ていたのだ。
では一体何故王女殿下であられるアリスおば様が、平々凡々どころかちょっと駄目寄りの僕に甘々なのか。
それは僕の容姿が物凄く母様似だからだと思われる。
遥か昔(というと怒られそうだ)男爵令嬢だった母様とアリスおば様は同じ女学院に通う学友だった。その女学院では上級生が下級生の面倒を見る姉妹制度があったらしく、当時三年生のアリスおば様と一年生だったうちの母様は姉妹の契りを交わしたそうだ。
詳しくは知らないが姉妹になってからアリスおば様は母様を溺愛し、その母様にそっくりな僕も同じように可愛がられてるという訳だ。
ここだけ聞くと、僕も母もさぞや美しい容姿をしているのだろうなと思われそうだがそんな事は全然無かった。
というか周囲に派手な美形が多過ぎるのだ。
金髪碧眼の父様はレッドカーペットが似合いそうな派手なイケオジだし、兄様姉様も父様似で華やかな美男美女だ。
アリスおば様はその人間離れした容姿から細氷王女とか傾国の姫とか呼ばれてたくらいに美しい。
神秘的なアイスブルーシルバーの髪に、長い睫毛に縁取られたアメジストを嵌め込んだかのような瞳。
全てのパーツが完璧に整っていて、見慣れている僕ですらたまに「女神……!?」って動揺する。
当然その息子であるファルクも母譲りの銀髪に父譲りの黄金の瞳を持つ圧倒的美少年で、見慣れている僕ですらたまに「天使……!?」って動揺するくらいに美しい。
ファルクの父君のサンブール侯爵も流石に神クラスではないがとても女性受けしそうな整った品の良い顔立ちで、黄金色の瞳が印象的な美丈夫だ。実際凄くモテるらしい。
そんな人達に囲まれてしまうと、母様と僕だけはなんというか非常に地味だった。
髪の色は母様の故郷の辺境ではありふれたくすんだ感じの黒だし、瞳の色は赤色で少し珍しいけど全く見かけない訳じゃないし、眠たそうな半月状の目つきも美しさの条件からは外れている気がする。
決して不細工ではないと思うけど、やはり周りに派手な美形が集まり過ぎている。
僕と母様の二人なら地方の農村とかに行ってもすぐに馴染めそうだけど、他の皆は確実に浮くと思うもん。
脱線したが、そんな美形集団の中でも群を抜いた美しさを持つアリスおば様に、可愛い可愛いと言われ育った僕は空気も身分の差も読めず、幼馴染にウザ絡みするようになってしまったのであった。
他にもファルクがやるなら僕もやりたい! と一緒に受けてる剣術訓練でファルクは真剣で大人とやり合えるくらいの実力があるのに、毎回僕のレベルに合わせた木剣での打ち合いという名のじゃれ合いに付き合ってくれていた。
似たような出来事は沢山あって、その一つ一つがファルクにとっては負担になっていたんだと思う。
そりゃそうだよ。いくら優秀だからと言ってまだ十歳の子供だ。
いや、本当に申し訳ないやら恥ずかしいやらで穴があったら入りたいというのはこう言う事かと、前世の世界の慣用句に想いを馳せる。
そんな状態だったんだからさ、元凶の幼馴染に嘘ついたり、ちょっとくらい意地悪したくなっちゃったって仕方ないよ。
その後の事は、不幸な事故としか言いようがない。
──だから。
ファルクがそんなに責任を感じる必要は無いんだよ。
ーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ましてから二週間ほど経過した日。治癒術師様からのお許しが出たので、僕はようやく自宅へと帰れる事になった。
アリスおば様はいつまでも居れば良いと言ってくださるけど、流石にそんな訳にも行かない。
サンブール家のお屋敷からヴァンスタイン家までは馬車で半刻もない距離とはいえ、商会の仕事をしながらお見舞いに来てくれる父様は大変だろうし、自宅に居る兄様姉様だって母様が僕に付きっきりのせいで寂しい想いをしている事だろう。
早く帰るに越した事は無いのだ。
さて、帰る前にいよいよ顔の左半分を覆っていた包帯を外す時が来た。不安そうな表情を浮かべるサンブール母息子と母様に見守られながら治癒術師様がゆっくりと僕の包帯を外す。
奇跡的に目が無事だった事は既に確認済みなので僕自身はもうそこまで不安はないのだが、こうも注目されていると変に緊張してしまう。
普通に雑談とかしてる中でさりげなく外して欲しい。
「あぁ、包帯外したんだね~」くらいの注目度でお願いしたい。
「ゆっくり、目を開けて。そう、母君の顔が見えるかい?」
「はい、見えます」
「見えにくいとか、痛みがあるとかはないかい?」
「大丈夫です」
包帯が外されて、久しぶりに両目で世界を見る。うん、左目の視力には問題ないようだ。
母様の優しい笑顔も、悲しげな表情を浮かべるアリスおば様の顔も、絶望したような表情のファルクの顔もばっちり見えてる。
……僕の顔、そんなやばい事になってるのかな?
治癒術師様に渡された手鏡をドキドキしながら覗き込む。
おぉ……おおお……。こ、これは……!
大海賊の船長っぽい……!!!
酒場でバーボンとか飲んでそうなこの三本傷……。So cool……!
「……ごめん、ごめんね、レイル……」
何も言わずに鏡を見つめていたせいか、僕がショックを受けたと勘違いしたのだろうファルクから震える声で、もう何百回目か分からない謝罪をされた。
青白い顔をしたファルクの顔を見る。
隈は相変わらず濃くて余り寝れてないのが見て取れる。子供らしく丸かった頬も少し痩けているし、折角の天使のような美少年フェイスが勿体無いぞ。
「だ、大丈夫だよ。だってコレ結構カッコいいと思うし……! 今はまだ子供だからちょっと痛々しいけど、僕が髭の似合う渋い大人になった時にはきっとこの傷のお陰で歴戦の戦士感が出ると思うんだよね……」
僕としては本気で言ったつもりなのだが、ファルクには健気で可哀想な生き物を見るような目で見られてしまい、それが全く伝わらなかった事を悟った。あとボソッと「……レイルに髭は似合わないと思う」と言ってたの聞こえてたからな。
その後、杖を使っての歩行訓練も始めたのだが、よろけた姿を見たファルクに再び泣きそうな顔で謝られてしまい、お互いの為に早く自宅に帰りたいと心底思った。
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