夏の行方。

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4章 乱戦

13話 孤立した街

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アパートに戻った舞はテーブルの上に蝋燭を灯した。ボヤッとした橙色の灯りは涙ぐむ舞の表情を浮かばせた。先ほどまで麻里が使っていたグラスはキラキラと灯りを反射し、孤独感と不安を感じた舞は道路に面している方とアパート裏の田んぼに面している方と両方の窓をカーテン越しに目隠し代わりに広げた布団用のシーツで覆った。蝋燭の灯りが外に漏れるのを恐れての判断だ。

ベランダに出て周りの民家を確認すると懐中電灯の灯りや車のライトを利用している人がぽつりぽつりと見られた。依然、空はどんよりと紫色に染まり黒い雲は今にも垂れてきそうだ。救急車や消防車は未だ忙しなく縦横無尽に駆けていく。どれだけの人が犠牲になり、どれだけの人が避難所にいるのだろうか。また、避難所にいることで不安な要素も増えるため帰宅が正しいと判断した。

蝋燭の炎は舞の溜め息を受けゆらゆらと頼りなくテーブルを照らす。この先どうなってしまうのか、今何が起きているのか何もかもが壊れていく気がして胸が張り裂けそうな思いでいる。

外から物音と足音が聞こえたため慌てて蝋燭の火を消し、息を殺して聞き耳を立てた。普段なら外の物音などさほど気にも留めないのだが狩りから逃れる小動物のように警戒する。いつ化け物が現れても不自然ではないのだから。その物音と足音は遠ざかって行くが心臓の鼓動は耳の奥深くまで伝わるほどに高鳴っていた。

外の物音が激しくなり、足音も響き渡る。そう、獄邪は灯りを目指して彷徨っている。そこに行けば人間がいるからである。

サイレンそしてこの世の終わりを見たかの様な絶望的な痛々しい悲鳴が響き渡る。夜間も紫色に染まる空は通常の夜とは違い不気味に明るく、空から垂れ下がる黒い雲は今にも人間を鷲掴みしそうだ。

夏美とマントの男は深森山だけでなく街のあちこちに現れた獄邪の始末に追われている。始末しても始末しても現れる獄邪の存在は厄介で、マントの2人組が化け物を始末する様を目の当たりにした住民達は呆気に取られ、この世の光景とは思えない状況を理解に苦しんでいる。


紫色に染まる空は次第にどんよりとした靄のような物を発し始めた。それは上空からゆっくりと降りて来る。四方市に閉じ込められると判断した住民達は我先にと市外に脱出しようと走り出す。

警察も住民を避難させるために何台ものバスを出動させ交通整理を行いつつバスに乗せれるだけ人を乗せて市外へ避難させようと試みる。

子供や体の不自由な人が最優先だと拡声器を使用して呼びかけるが老人が我先にとバスに流れ込んでいく。中には子供を蹴落としたり足の不自由な人を引きずり降ろす老人もいた。相手が妊婦であっても罵声を浴びせ容赦なく体当たりして突き飛ばす者も現れた。あっという間に寿司詰め状態と化したバスは重そうに走り出した。

しかし100メートル程進んだ先で5体の獄邪に囲まれ、腕や錆び刀で原型がなくなるまで破壊された。鉄の塊のバスも獄邪からするとダンボールを踏み潰すに等しく一瞬の出来事であり誰一人脱出する事が出来ずに犠牲となった。

ここでようやく発砲許可が降りた警察は一斉に獄邪に対して発砲した。しかし獄邪は銃弾を受けてもダメージがほとんどない。激昂した獄邪は警察官を斬りつけた。警察の犠牲の上で素早く逃げる事が出来た住民は散り散りになりこの場を逃れる事が出来た。

同時期に市内のあちこちで避難用のバスが出動し、1人でも多く避難させようとアクセル全開で駆ける。


そして空から降りる靄は四方市全体を包み込んだ。そう、四方市は完全に孤立したのだった。





マントの男「完全に街が飲まれたな...」
夏美「仕事が遅いんじゃない?ワタリのね」
ワタリ「俺...か。それよりも山頂で死んだアイツはなんで外道を解放出来たんだ?」
夏美「3人生贄に捧げた外道刀(げどうとう)《※晴雄の使用していたナイフ》を自分に刺すことで1つだけ手に入れたいものが手に入る。その代償に自らも人ではなくなる。まぁ見た目は人間で区別は付かないけど」
ワタリ「アイツは確実に儀式失敗してたよな?やっぱり引っかかるんだけど夏美はなんであの時、アイツ自身が3人目だって分かったんだ?」
夏美「1人目の犠牲者は私だから...」
ワタリ「な...なんだと!?アイツだったのか」
夏美「あとの2人は私の恋人とその親友...」
ワタリ「お....おい...」
夏美「私は儀式前に召喚されたから3人目の生贄は術者本人になって彼は死んだ。だからあの日回収した外道刀は条件を満たしてる」
ワタリ「確かにな」

ワタリは懐から外道刀を取り出した。刀身は紫色にぼんやりと発光している。

夏美「だからその外道刀は外道を開放できる状態にあるの...だけど何で今開放されてるのかが問題...」
ワタリ「実は成功していたのか?あの変態の手に渡る前に既に1人生贄になってたのかもしれないな」
夏美「だとしたらあそこで彼は死なない。それに1人の所有者が3人生贄にしないと意味がないの」
ワタリ「だとすると...まさかな」
夏美「まさかかもしれないね。外道刀は複数存在しているかも...」
ワタリ「早く外道を閉じないと取り返しが付かなくなる。今はとにかく獄邪を始末するしかない。行くぞ」

2人は獄邪の気配が濃い場所へ飛んだ。
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