夏の行方。

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1章 波紋

2話 寂しい無気力な背中

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キーンコーンカーンコーン。今日も再び同じ日が始まる。夏も本番に近づき空に浮かぶ大きな綿菓子は太陽光を吸収し、シルクのような輝きを帯びている。

海斗「なぁ月也」
海斗はニヤけながら振り返った。月也の席の前は海斗。そして晴雄は少し離れた位置だが晴雄も月也をじっと見ていた。晴雄の眼鏡が光りだしそうだ。

海斗「早退しようぜ」
間髪入れずに月也に提案を持ち掛けた。晴雄は海斗とアイコンタクトを取っていた。月也は深いため息を1つ。そして静かに頷いた。このような光景は良くあるため教師は諦めており、3人の今後を心配するよりもむしろ煙たがっているのだ。3人がまとまって早退する事などもはや難しい事ではない。

いつもと同じように時間差で早退し、校門で合流する作戦だがそのような細工は一切必要のないところまで来ている。だが3人からすれば早退さえできればなんでもいいのだ。将来のことを見ようとしないのでは無く見えない3人。

3人はゲームセンターで対戦ゲームや景品ゲームに夢中になっている。外に出れば陽炎に覆われたアスファルト。店内で涼めて尚且つ遊ぶことが出来るのだからこの上ない過ごし方だ。だが決して広くはないこの空間に飽きが来るのも早い。3人は飽きると涼しい場所に移動して行く。

晴雄「僕たちこのままでいいのかな...?」
海斗「シケたこと言うなよ!なぁ月也!」
海斗は晴雄の肩に腕を回しながら陽気に笑っている。月也は何も言わずに青い空を見上げた。

海斗「月也までシケてやがる!なに黄昏てんだよ!」相変わらず海斗は陽気に笑いながら月也の肩を叩いたが海斗は徐々に虚しさを感じ笑うのをやめた。

3人はその後も次の行き先を求め彷徨うように歩いた。いつもより早めに早退したこともあり時間が有り余っていた3人は遊び飽きた後も歩き、気付いたら他校の付近まで来ていた。

晴雄「そろそろ引き返そうよ」
海斗「あぁ...だな」

下校時刻を回っていたこともあり、校門から次々と生徒たちが出てきた。3人だけ制服が違うこともありアウェイな気分に陥っていた3人は来た道を引き返した。少し歩くと2人組の男子生徒が冷やかすように3人を呼び止めた。

「相変わらずお前らセットだな」
「彼女殺しの月也くんと金魚の糞2個」
2人組はケラケラと笑いながら指を差した。

海斗「てめぇ...殺すぞ」
海斗が2人組に飛びかかった所を晴雄が必死で止める。必死で海斗を引き離そうとする晴雄。そして無言で立ち尽くす月也。

2人の男子生徒はケラケラと3人を嘲笑いながら離れていった。時折り3人の方を振り返り指を差しながらオーバーに笑って見せつける。

海斗「月也、まぁ気にすんな」
そう言うと月也の肩に優しく手を置いたが月也はすぐさま払い除けた。

晴雄「中学時代のクラスメイトって卒業するとあんなもんだよ...それに僕たちってさぁ...」
晴雄が続きを言いかけたところで海斗は話を遮った。

月也は無言のまま2人から離れ、1人歩き出した。その背中を呼び止めようとした晴雄に海斗は首を振って月也の背中を黙って見送った。
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