夏の行方。

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1章 波紋

1話 静寂

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帰宅した月也は無造作に手掴みした氷をグラスに入れると麦茶を注いだ。氷にヒビが入る音がキッチンに響き渡る。テーブルには母親からの置き手紙がある。

【今日から夜勤だから冷蔵庫の晩御飯温めて食べなね】

月也は内容を読まなくても理解しているため、グラス片手に置き手紙をクシャッと丸め、ゴミ箱に投げ入れた。今までに何回ゴールを決めただろうか。数えきれないほどの得点を稼いでいる。

月也の父親は単身赴任で県外で勤め、母親は交代勤務の小さな町工場で働いている。今週は1人で過ごせると思い、少し気楽な気分になった月也は階段を上がり、部屋に入ると学ランを雑に床に転がし、ベッドに倒れ込むと間もなく夢が訪れ深い眠りに落ちていった。

目が覚めると汗で濡れたTシャツが肌に張り付いた不快感を覚え、眉間にシワを寄せながら脱ぎ捨て、部屋の隅で順番を待っているしわくちゃのTシャツを手に取り扇風機のダイヤルを捻った。

そして空腹感で寝れそうにないと重い腰を上げ、母親が用意してくれた晩御飯がなんなのか確認する素振りも見せずに家を出た。辺りは真っ暗で、寂しそうに俯く街灯達を潜りながら歩く。自宅から徒歩数分の商店街にあるローカルなコンビニエンスストアを目指す。商店街の閉店は早く、ほとんどの個人商店は夕暮れにはすでにシャッターと化しており、唯一24時間営業しているコンビニエンスストアが1ヶ所あり、月也にとっては有難い存在なのだ。昼間は活気のある商店街だが夜になると静寂に包まれ、その中煌々と明かりを放つ様はどこか儚くも見える。

店内に入った月也の動きは素早く弁当をカゴに放り込む。弁当の種類なんて関係ないと言わんばかりに雑に選んだ弁当だ。袋を受け取るとすぐに店を出てスタスタと歩き始めた時だった。

月也の背中に優しい声が語りかけた。
「月也くん?」
月也が振り返るとそこには赤いリボンのセーラー服姿の女子生徒が立っている。月也と同じ高校の制服である。月也は振り返ったが返事はせずに再び歩き出した。

「あ、同じクラスの紺野麻里(こんのまり)」
麻里が名乗ると月也は再び振り返ったが、月也からすれば話したこともない相手だった事もあり特別話すことも無く無言でいた。

麻里「こんな時間に買い物?」
月也「こんな時間...お前もな。」
麻里「私は塾の帰り。」
月也「へー。」

少しの興味も抱かない月也の態度に麻里は戸惑ったが遠ざかって行く月也の背中を3度止めるような会話も無く、寂しげな表情を一瞬浮かべると月也とは逆方向に歩いて行った。
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