能力者が迫害される世界で俺は能力者を更生させる

永島卯

文字の大きさ
上 下
20 / 21
第1章

違和感

しおりを挟む
109号室の扉を開け廊下に入ると、俺が戻ってくるのを待っていたのかヤグチ双子は床に座り込んでいた。
ヤグチは俺に気づくや否や「おっそいよ」「お前どんだけトロいんだよ」と口々に罵倒する。

「こいつら…」

勝手に待ってくれるのは構わないが、文句を言われるのはなかなかにムカつくな。自分たちが部屋を片付けられないから俺を助っ人として呼んだくせに。

「まぁいいよ」「それよりも」
「「掃除掃除~♪」」

どっこいしょとおっさんくさいことを言いながら2人は立ち上がる。そしてヤグチは小走りで自室のC07,08まで向かうと、1人は扉を開け、1人は俺へと手招きした。

「ほら入って」「早くしてよ」

俺はヤグチの自室に近づき中を軽く覗いてみる。

「うわぁ……」

汚い。思わず声が漏れてしまうぐらいヤグチの部屋は物で溢れていた。玄関の時点ですでに見えている大量の物の山に気を落とされる。もういっそ全部捨てろよ。てかどこまで片付ける気なんだよ。

「あの、片付けの手伝いって具体的に何すればいいんだ」
「えー…まぁ足元が見えるくらい片付ければいいよ」「そうそう歩ければなんでもいい」

具体性がなさすぎないか…マジで全部捨てるぞ。
というか今、片付ければいいよと言ったよな?なんで俺が片付ける前提なんだ、お前らが主体となってやれよ。そう心の中で2人に悪態を吐きながら、俺はヤグチの部屋へと一歩足を踏み出した。

「ん?…あれ?」

掃除をしていなそうだから埃まみれだと思ったが、不思議なことに部屋が思ったより埃っぽくない。
それに……今更なことに気づいたが、荷物も段ボールばかりで届いたまま開けていないような新品の物が山ほど足元に転がっている。

何かがおかしい。

なぜまだ開けてもいない新品の物を俺に片付けさせようとしている?
手前にある山積みになった段ボールに思わず手を置いたが、埃も被っておらず最近積み上がったように感じた。
敢えて荷物の山を作ったような。
頭の中でぐるぐると思考を巡らしていくと、徐々にこの状況がまずいことに気付かされた。
やっぱ手伝うのはやめよう、何か嫌な予感がする。
そう考えて俺はヤグチの方を振り返るが、すでに2人は俺の真後ろに立って笑っていた。

「「ほんとバカだよお前」」

ドンッと強く背中を押されそのまま体ごと部屋へと吸い込まれていく。

嵌められたッ!!!


「宮迫、お前って学習能力がないよね」
「能力者の部屋にさ、普通入る?」

ガチャンと勢いよく扉の閉まる音が聞こえる。
まずい、かなり非常にまずい。

俺は扉の前に立ち塞がるヤグチを睨みつけ、どうにか打開策はないかと考えた。
制服のポケットには携帯端末が入っている。この距離では他の人に助けの電話をかけたとしても、ヤグチに盗られる可能性が高い。なんとか逃げ隠れる場所を探さないと。

「きょろきょろしちゃってどうしたの~?」
「逃げられる場所なんてないよ~?」

確かに入り口と一つの部屋を除いた扉の前には段ボールが積まれており入ることはままならなそうだ。

「くそッ!!」

ヤグチから離れるため、俺は一方通行になっている部屋へと走った。完全に袋の鼠となるが、今は逃げる方が優先だ。

「「人間如きが身体能力でボクらに勝てると思ってんの?」」

走って距離をとったはずなのに、ヤグチの声は耳元から聞こえて、俺は思わず息を呑んだ。
嘘だろ。
そう考える間も無く、俺は頭を掴まれぐちゃぐちゃの荷物に押し付けられる。たまたま押し付けられたところにクマのぬいぐるみがあったので、痛みはなかったが息苦しい。

「うぐッ」
「ほら早速片付けお願いね」
「手伝ってくれるんでしょ?」

あはははっと高笑いを上げながらぐりぐりと俺の頭をさらに荷物へ埋もれさせるヤグチに殺意を感じた。
くそ!くそくそくそ!
なんとか起きあがろうと、クマのぬいぐるみに手を置いて腕に力を込めるが、俺を抑え込んだヤグチの腕は微動だにしなかった。
所詮、人間はどんなに訓練を積んだとしても能力者の10分の1にも及ばないのだろう。
なんでこんな奴らにさえ負けてしまうんだ。

悔しさから、俺は無意識に手元にあったクマのぬいぐるみをぎゅっと握りしめた。

そこで俺は気づく。
手元にあったぬいぐるみが先程まで手におさまっていたのに、今では俺の手がぬいぐるみに包まれている。
なんで突然?ぬいぐるみが大きくなったのか?

………いや違う、俺が小さくなっているんだ。
もしかしてこれはヤグチ望の能力か。あいつは確か生物の時間を戻す力があったはずだ。

「ヤグチ望ッお前ッ、俺に能力を使っただろッ!!」
「あ、気づいちゃった?」

吠えるように叫ぶ俺に、ヤグチは再び高らかに笑った。
そして、俺の上にどかッと跨ると俺の両腕を捻り上げた。

「い゛ッ」

関節が外れたんではないかと思わせるぐらい強く後ろへ引っ張られ、痛みから生理的な涙が流れる。
目の前がぼやけて視界の悪い中、視界の端で細長い黒い何かが映った。
そして親指に何かを巻かれたかと思ったら、ギギギッと擦れる音が手元から聞こえた。

「どう?これで腕はもう動かないでしょ」

ヤグチの声に俺は慌てて離された手を動かそうとするが、動かないどころが親指が何かに食い込んで痛いだけだった。

「ケーブルタイって便利だよね。
何かを縛る分にはすぐ取り付けられるし、外れないし」
「それに検査の目も掻い潜れるよね。
こんなに使い勝手のいい危険物なのに」

なるほど、俺を拘束しているのはケーブルタイだったのか。
検査した人もこんな使い方をすると思っても見なかったのだろう。俺はヤグチの狡賢さに言いしれぬ怒りを感じた。

「じゃあこっちにもつけてあげるね」

今の声はどちらの声だったのだろうか。
うつ伏せになっている俺の頭上から声が聞こえた。
一体何をするというのだ。

ヤグチが俺の目の前にしゃがむと、手に持っていた黒いケーブルタイを俺の首に括り付けた。そして、遠慮なくそのケーブルタイを締め上げ、数センチの隙間を残しその手を止めた。

「ペットみたいに首輪をつけて可愛い~」
「ほらご主人様にお手してみろよ」

ケーブルタイを引っ張られ、首が閉まるとともに無理やり顔を上げさせられる。
視線を上げると、ヤグチが掌を見せてニヤついていた。
誰がお手なんてするか!というか手は縛られていてできないだろうが!
しかし気道が閉まって声が出せない。せめて代わりにと、俺は無理やり唾を捻り出し目の前のヤグチに向けて吐きつける。
すると、目の前にいたヤグチは唾がかかる前に慌てて首のケーブルタイから手を離した。

「は?こいつやったな!」
「叶嫌われてるじゃん面白ッ」
「…ッ!望!!生意気なこいつの首を絞めちゃってよ!!」
「え~~………ん~ちょっとだけだよ?」

俺の上で不穏な会話を繰り広げるヤグチに俺は驚きで目を見開く。
やめろッこれ以上ケーブルタイを絞められたら死んでしまう!
俺はジタバタと暴れるが力の差は歴然、目の前にいるヤグチ叶に肩や頭を押さえつけられ、俺は再び荷物へと顔を埋めた。
ヤグチ望は押さえつけられ動けなくなった俺を確認すると、首に括り付けられたケーブルタイを1つ、2つとゆっくり絞めはじめる。カチッ…カチッ…と音がするたびに、自分の体から血の気が引いていくことがわかった。

はっはっと呼吸も途端に速くなる。
ゆっくりと確実に気道が狭まっていく感覚がするたびに鼓動がバクバクと音を立てながら早まっていった。

「……ぁ……ッ……ふ……」
「あはっ宮迫ってば、震えちゃって可哀想だね」

俺の反応を見たヤグチ叶は満足げに笑った。
そして、ヤグチ叶が望に「もういいよ!」と声をかけたことによって、ケーブルタイを締める手は止まった。

「はぁッ……はぁッ……」

荒くなった呼吸を整えていると、頭上でヤグチ2人が「もういいかな」「そうだね」と話しているのが聞こえた。意図はわからなかったが、「もういい」という言葉にもしかしてヤグチから解放されるのかと俺は期待に胸を寄せる。
なんだ、昨日と同じでただのイタズラだったんだ、きっと。

「もう2人の気が済んだのなら、早く俺の拘束を解いて部屋から出してくれ」

ヤグチに呼びかけるが返事がない。

「……おい、どうし」

俺が押し黙った2人に声をかけている最中に突然、視界がぐるりと回る。先程まで暗かった視界が眩しくなったことにより俺は思わず目を細めた。
視界の隅にぼんやりと二つの頭が見えるから、きっとヤグチ双子に顔を覗き込まれているのだろう。

「どっちでもいいからさ、俺の拘束を解いてくれよ」
「………」

もう一度、ヤグチに声をかけるがやはり返答はない。
そうこうしているうちに目は明るさに慣れたのかゆっくりと瞼が上がる。
そして開かれた俺の瞳には2人の顔がよく見えた。
三日月のような口元でにんまりと笑う2人の悪い顔が。

「宮迫さぁ何言ってんの?」
「こんな生ぬるいわけないじゃん」
「「ボクらの楽しみはこれからだよ」」


ヤグチ双子のその台詞に俺の心は絶望の底へ落とされていった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い

処理中です...