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第1章
監視対象1
しおりを挟む109号室から出ていった原田を見送った後、とりあえず手前の部屋から順に挨拶してまわるかと思い、A15の部屋前にあるインターホンを鳴らす。
ピンポーンと扉の奥で微かに音が鳴る。しかし、部屋からは物音一つせず、誰かが出てくる様子もなかった。
「監視班で新しく109号室の担当となりました宮迫です、挨拶に来ました」
インターホン越しに声をかけ、申し訳程度に扉をノックする。………やはり出てこない。
諦めるかと次の部屋へと視線を向けた瞬間、目の前の扉が開かれた。ニュッと扉の隙間から飛び出た腕に引っ張られそのまま誰かに抱きしめられる。
「…ふふっ♡本当に夏兄が監視についてくれるのですね♡」
「…ッナカモト」
なんでこいつがこんなところに。
今1番会いたくないナカモトに抱きしめられて、俺の腕は鳥肌が立っていた。抱きしめているナカモトの腕を引き剥がし無理やり距離をとる。俺が離れたことによりナカモトは寂しそうに「あぁ…」と声を漏らした。
「…A15ってお前のことだったのかよ」
「僕も先ほどその番号を知ったのですがそうみたいです。Aって能力的には1番弱いという意味らしいですよ」
夢の中に入れる能力が1番弱い部類なわけないだろ。
そう思ったが、俺は能力者保管部署に文句を言えないので黙っておく。
「で、何でお前はここにいるんだ」
「お前って酷いですね、ナカモトと呼んでくださいよ。
それか巡♡と下の名前でお呼びください」
「……ナカモトは何で109号室にいるんだ」
「素直じゃないですね…まあ良いです。
それで僕がここにいる理由ですけど、僕が夏兄を僕の監視担当にしてほしいと偉い方々に言ったからです。本当に夏兄が担当になるとは思いませんでしたが」
「お前が支持した能力者だったのか」
上層部は昨日あったナカモトと俺の件を坂上さんから報告を受けているはずだから、大まかには知っていたであろうに、そのナカモトの担当に俺を宛てたのか。
本当にこの政府の上層部は自分本位な奴らばかりだ。
不満が溜まり眉間に皺を寄せていると、ナカモトがわざとらしくコホンッと咳をした。
何だと思いナカモトへ顔を向ける。
ナカモトは「一先ず自己紹介をしましょう」と言い、部屋の入り口付近に置かれた椅子に座った。俺も向かい側にあった椅子に腰掛け、「では僕から」というナカモトの声に耳を澄ました。
「改めまして僕の名前はナカモト巡と言います。
先日は助けていただきありがとうございました…そしてこれからよろしくお願いします、夏兄」
「……俺の名前は宮迫夏彦だ。
お前に気安く夏兄と呼ばれる筋合いはない、宮迫と呼べ」
「分かりました、じゃあ夏彦さんと呼ばせて頂きます」
「…俺の話を聞いてたか?」
嬉しそうに夏彦さん夏彦さんと何度も呟くナカモトへ呆れた視線をおくる。
先日のことを忘れたわけではないが、こうも普通に話しかけられるとあの夢の出来事が嘘ではなかったのかと思ってしまう。だがこうやって油断している隙にナカモトが能力を使うかもしれないので、警戒は怠らない。
ナカモトは俺の身構えている姿に、少し落ち込んでいるようで悲しげな表情をしていた。
「僕の能力は相手が眠らないと使えないので、そんなに睨みつけなくても大丈夫ですよ」
「それはどうだか」
「夏彦さんに嘘はつきません」
ナカモトは真剣な眼差しでこちらを覗き込む。
だが、悪いが俺はナカモトを信じることはできない。
こいつには既に前科があるからな、2度と同じことは起こさせないぞ。
「……せっかく憧れの人に会えたのに素っ気なくされると辛いです…」
ぼそりっと独り言を呟くナカモトの言葉に、俺はずっと疑問に思っていたことがあったと思い出した。
そうだ、ナカモトは何で俺のことを知っているんだ。
俺のことを話すような能力者の知り合いなんて弟の春希ぐらいしかいない。
春希を攫ったテロ組織『PCG』と同じところにナカモトも捕まっていたようだし、春希と会ったことがあるのかもしれない。
「ナカモトと俺は初対面のはずだが、お前はやけに俺のことを知っているよな。他の誰かから俺のことを聞いたのか」
「いえ違います」
違うとナカモトに否定され、俺は困惑する。
なら昔会ったことがあるとか…?こんなピンク髪の男と会った記憶など1ミリもないのだが。
過去の記憶を遡っていると、ナカモトに「僕が夢の中に入れることはご存知でしょう」と言われ、あぁ…夢の中で俺のことを知ったんだなと理解できた。
「僕、人の夢を覗くのが趣味でして、同じテロ組織にいた能力者の夢を気まぐれに見てたんです」
「へぇ…ご立派な趣味だこと」
俺なら絶対に夢を覗かれたくないな。
ナカモトの能力を使った悪趣味に引きながらも話を聞く。
「戦うのが好きな子ならそういう夢などを見るのですけど、大抵の能力者は家族の夢を見るんです」
「家族……」
「本当の家族を知らない子ばかりなので夢の中の家族は顔がぼやけてたりするんですけど、とある子の夢はかなり現実的で夏彦さんの顔もはっきりしていたんです。
それで気になって時々その子の夢を拝見していたのですが、気がついたら夏彦さんのことを好きになっていました」
夢にまで見たと言っていたが、あれは比喩じゃなくて直喩かよ。
話からしてナカモトは春希の夢で俺のことを知ったと言うことになるよな。一応夢の内容についても聞いてみるか。
「その夢というのはどんなものだったんだ」
「普通に夏彦さんがお兄さんとして遊んでくれたりするものですよ。……僕が1番気に入っているものですが、その人の夢でよく見たもので、川に溺れている時に夏彦さんが泳いで助けにきてくれる夢は鮮明に覚えています」
川に溺れていた時の……春希が能力を初めて使った日のことか。春希は夢に何度も見てしまうぐらい覚えていたんだな。あの時の出来事は俺もよく覚えている。
……春希は今だにテロ組織『PCG』で捕まっているんだよな。PCGの連中に何もされていなければいいのだが。
「ところで夏彦さんって春希くん以外にご兄弟はいませんか?」
春希のことを考えていると唐突にナカモトが変な質問をしてくる。何故突然、俺の兄弟事情について聞いてくるんだ。
「いないけど、それがどうした?」
「好きな人の家族構成は知っておかないと嫌じゃないですか。それにしても2人兄弟だったのですね、へぇー…」
ナカモトは何か意味ありげに頷いた後、「もう一つ質問よろしいでしょうか」と言う。俺は怪訝に思いながらも縦に首を振った。
「では夏彦さんは水色の髪をした少年に会ったことがあるでしょうか」
「何だその質問…お前が夢の中で変身してた少年の話か?
なら残念だが、夢でも言った通り知らないし会ったことはない」
「そう…ですか」
質問の意図が全く分からない。
ナカモトはどうしてその水色髪の少年についてを俺に聞くのだ。そして、何故かナカモトも不可思議そうな顔を浮かべている。考えるように顎に手を当てるナカモトは、ハッと思い出したのか俺の方を見る。
「何か分かったのか?」
「いえ何も。それより他の方々に挨拶してきた方が良いのではないでしょうか。時間も勿体無いですし」
「………そうだな」
こいつ、はぐらかしたな?
ナカモトに色々問い詰めたかったが時間がないのも事実だ。
俺は諦めて、椅子から立ち上がり扉へと向かう。
「ナカモト…とりあえずお前は余計な事をするんじゃないぞ」
部屋の扉を開けて、外に出る前にナカモトへ注意をする。
ナカモトはキョトンとした後、にこりと笑顔をこちらに向けた。
「ふふっ♡そんなことがないように夏彦さんが見守っててくださいね♡」
「………」
釘を刺すつもりが、ナカモトに気色の悪い返しをされてしまった。良い返しが思いつかなかった俺は押し黙って、そのまま静かにナカモトの部屋を後にした。
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