6 / 20
第0章
夢の中2
しおりを挟むここは夢の中だろうか。
先ほどまでの森の中と違い、俺はベッドで横になっていた。
目を開けたいが何故か目を開けることができない。
そんな何も見えない視界にも関わらず、今いる場所が昔家族で住んでいた家の自室だとわかった。
ガチャッと静かに扉が開かれる音がする。
「夏兄寝た?」
春希がどうやら部屋に入ってきたようだ。声の低さから中学2年生以降の頃の春希だと窺えた。
俺は春希に返事をしようとしたが、声が出ない。
口を開けようとしても一向に動かなく、起きてると一言発することもできなかった。
春希は俺が寝てると判断したのか音を立てないように部屋へ入ってくる。そしてベッドに腰かけた。
ギィッと2人分の体重でベッドが軋む。
「夏彦」
いつもの夏兄呼びではなく夏彦と、春希は俺を呼ぶ。
春希が俺のこと名前で呼ぶことなんてあっただろうか。これが夢だから春希は俺をいつものように呼ばず夏彦と呼んでいるのか?
……いやあったな。思い出した。
以前にも同じようなことがあった。
「夏彦」
春希がもう一度名前を呼ぶ。
だめだ、これはあの時の記憶だ。
この後のことを俺はよく知っている。
ゆっくりと春希の顔が俺の顔へ近づいてくる。春希の吐息が顔にかかりくすぐったい。
春希は俺の顔にかかっていた髪をはらう。
…これ以上は言うな。聞きたくない、知りたくない。
そんなことを思う俺に対し、無慈悲にも春希の口は動いていく。
「夏彦、好きだ」
とても小さい囁き声。
あぁ…なんで今、あの時の記憶の夢を見ているのかわかった。
先ほどの森の中での出来事とひどく似ているからだ。
得体の知れないものに触れられる感覚。
そうだ怖かったんだ、弟の本当の気持ちを知ったのが。
だから忘れたふりをしたんだ。
「愛してる」
そっと唇に何かが触れる。
そして程なくして頬にポタポタと水滴が落ちてくるのを感じた。きっとこれは春希の涙だろう。
涙拭いてやらないと。
無意識に春希の顔があるであろう方向へ手が伸びる。
春希の頬に触れた途端、ぐにゃりと視界に映る暗闇が歪む。
いやだ、起きたくない。まだ春希が泣いているんだ。
そんな俺の気持ちとは反対に意識が遠ざかっていく。
あぁ、なんで俺はいつもいつも春希を助けられないんだ。
顔だけでも見たいと目を開こうとしたが最後まで開くことは叶わなかった。
***
ぐるりと視界が明るくなる。
眩しい、ここは本当に先ほどの薄暗い森林の中であろうか。
誰かが俺の腹の上で馬乗りしているのか非常に重い。仰向けで倒れている俺の背中は地面に押し付けられており、ぐちゃぐちゃと乾いていない土の感触がする。これは非常に気持ち悪い。
「夏兄♡」
口元に何かがあたり、唇からチュッと可愛らしいリップ音を奏でなでる。
誰かにキスをされたと気づいた俺は驚いて瞼をあげる。眩しさでぼやけた視界には木々が揺れ動いているのが見えた。
「おはようございます♡夏兄♡」
頭上で爽やかなボーイソプラノの声が聞こえる。
そちらへ視線を向けると透き通った海のような髪色をした少年がこちらへ微笑んでいた。
少年の頬には、俺が夢の中で春希に伸ばしていた手が添えられている。
名も知らぬ少年の頬を触っていたことに気づき、俺は慌てて手を離そうとした。
しかし、少年はそれを許さないとでも言うように俺の手を握りしめて、少年自ら俺の手へと顔を擦りつけた。
何どういうこと、俺なんで知らない子に押し倒されているの?
混乱している俺に少年は再びキスをする。
「んっ、ふふっキスで目を覚ますなんて御伽話みたいですね♡」
「はっ、おまえ、なにやって」
「何って、普通にキスですよ」
少年は唇に軽くチュッチュッとバードキスを繰り返す。
「やっ、ん、やめ、っやめろ!」
キスを止めるために少年から顔を逸らす。
突然のキスで息もできなかった俺は荒げた呼吸を整えた。
「はっ、はぁ…はぁ…」
「ふふふっ夏兄かわいい~♡」
少年は楽しげに笑う。
笑顔の少年は天使のようだが、今の状況は地獄だ。
俺は何故、年端もいかない少年に好き勝手されているんだ。
先ほどから起きあがろうと体を持ち上げているのに、一向に少年を押し退けられない。…悔しい、俺の方が明らかに体格がいいのに。
「……おまえ、一体なんなんだよ…」
「え……
……僕のことわからないのですか?」
咄嗟に出た言葉に少年はどこか驚いた声を上げる。
なんでお前が驚いてるんだよ、驚きたいのは俺の方なんだけど。
心で悪態をつく俺をよそに、少年は何か思案している。
「本当に僕のこと知らないのですね?」
「……そうだけど」
「そういうことなら」
少年はそう一言述べると、パッと魔法のように姿を変えた。
水色の髪は桜色に、アメシストの瞳はアクアマリンに。
「ナカモト…」
「は~い♡夏兄♡」
少年の姿から変化したナカモトは蕩けるような甘い笑顔を俺に向けた。
1
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?
紡月しおん
BL
美園 律花。
それはとあるBL乙女ゲーム『紅き薔薇は漆黒に染まりて』の悪役令息の名である。
通称:アカソマ(紅染)。
この世界は魔法のあるファンタジーな世界のとある学園を舞台に5人のイケメンを主人公が攻略していくゲームだ。
その中で律花は単純に主人公と攻略イケメンの"当て馬"として動くが主人公を虐めるような悪いことをする訳では無い。ただ単に主人公と攻略イケメンの間をもやもやさせる役だ。何故悪役令息と呼ばれるのかは彼がビッチ気質故だ。
なのにー。
「おい。手前ぇ、千秋を犯ったってのはマジか」
「オレの千秋に手を出したの?ねぇ」
な、なんで······!!
✤✤✤✤✤ ✤✤✤✤✤
✻ 暴力/残酷描写/エロ(?) 等有り
がっつり性描写初めての作品です(¨;)
拙い文章と乏しい想像力で妄想の限りに書いたので、読者の皆様には生暖かい目で見て頂けると有難いですm(*_ _)m
その他付け予定タグ
※タグ付けきれないのでこちらで紹介させて頂きます。
・ヤンデレ(?)/メンヘラ(?)/サイコパス(?)
・異世界転生/逆行転生
・ハッピーエンド予定
11/17 〜 本編ややシリアス入ります。
攻略対象達のヤンデレ注意です。
※甘々溺愛イチャラブ生活&学園イベント(ヤンデレ付き)はまだまだ遠いです。暫く暗い話が続く予定です。
※当作はハッピーエンドを予定しています。
R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟
あおい夜
BL
注意!
エロです!
男同士のエロです!
主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。
容赦なく、エロです。
何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。
良かったら読んで下さい。
悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた
霧乃ふー 短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」
絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。
僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。
だから、僕は思ったのだ。
僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。
【R18】【Bl】R18乙女ゲームの世界に入ってしまいました。全員の好感度をあげて友情エンド目指します。
ペーパーナイフ
BL
僕の世界では異世界に転生、転移することなんてよくあることだった。
でもR18乙女ゲームの世界なんて想定外だ!!しかも登場人物は重いやつばかり…。元の世界に戻るには複数人の好感度を上げて友情エンドを目指さなければならない。え、推しがでてくるなんて聞いてないけど!
監禁、婚約を回避して無事元の世界に戻れるか?!
アホエロストーリーです。攻めは数人でできます。
主人公はクリアのために浮気しまくりクズ。嫌な方は気をつけてください。
ヤンデレ、ワンコ系でてきます。
注意
総受け 総愛され アホエロ ビッチ主人公 妊娠なし リバなし
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる