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第0章

能力者救出決行

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そして20XX年から20年後、冒頭に戻る。

再び説明をするが、俺は能力者保管部署の救出班として、能力者をテロ組織『PCG』から救う任務を遂行していた。

俺は時計を眺めて見張り交代までの時間を確認する。
あと30分か…まだ時間はある。

「無理無理無理…俺にできるわけがない…」

俺はこの待つ時間が苦手だ。
考えてみろ、つい最近まで一般人だった人が軍人みたいにテロ組織に生身で立ち向かわないといけないんだぞ!?しかも相手は能力者を使うかもしれない、そんな死と隣合わせの状況誰だって嫌だろ!とりあえず俺は絶対嫌だ!

「はぁ…能力者保管部署辞めてぇ…」

俺はすでにこの能力者保管部署に入社したことを後悔している。
だってこの部署、めっちゃブラックなんだもん!
2年かけて資格やらを取り、能力者保管部署に入れたのはいいけど、最初の半年でやらされたのは自衛隊の訓練だ。正確に言えばもっとハードだったのだが、思い出したくない記憶なので割愛する。そして半年訓練した後は無茶振りな任務を仲間なしでやらされる日々が待っていた。今回の1人でテロ組織に突入することもそうだが、昼夜関係なしに能力者が出ればそちらに出向き被害を最小限にして捕まえなければならない。
そんな休暇はほぼ無しのような状況のおかげで、俺の目の下にはでっかい隈ができてしまった。許せねぇ政府!

だが、部署がブラックなことは決定的な辞めたい理由ではない。
本当の理由は……俺が能力保管部署に入った時には春希がもう政府にいなかったからだ。

俺が能力保管部署に入社する前日に事件は起こった。
新入社員の入社準備ということもあり、政府は準備で大慌てしているところをテロ組織に狙われた。ちょうど手薄になった能力者の施設を爆破され、そのまま能力者が誘拐された。その誘拐された者の中に弟の春希もおり、俺は春希とすれ違いで政府に入ることになってしまった。

春希が誘拐されたというのは俺が入社してから1年後に知った。
やっと上司に認められ、やっとの思いで能力者のリストを見せてもらったのに春希の情報がなくてショックを受けてたっけ。別の能力者行方不明リストに載っていたから、なんとか立ち直ることはできたけど。

春希を見つけるために、能力者保管部署の救出班として色んなテロ組織に突入なんかしちゃって2年も経っているというのに、いまだに春希は見つかっていない。政府の下についていることもあって下手に情報を集めれないし、いっそのこと仕事を辞めて、単独で行動した方が春希を早く見つけれるのではなんて思っている。

そんなことを考えていると、どうやら見張り交代の時間になったみたいだ。目の前で見張り番を交代している人たちに声を潜めて隙を狙う。元々見張っていた人2人に交代の人2人の計4人。皆それぞれマスクとゴーグルなど身元がわからないように隠している。そして首まで隠れるジャケットを羽織り、手元には銃が握りしめられていた。
ひぇ…バレたらひとたまりもないじゃん…。
なんて思ったが、見張りは皆一様にやる気がないのか、ダラダラと報告ついでに無駄話をしている。
あ~この隙を狙えってことね、あいあいさ坂上さん。
心の中で上司に敬礼をしながら見張り番に迫る。

「能力者の大型移動計画あったけどさぁ…せっかく俺らが集めた強い能力者も回収されちゃったのはなんか理不尽じゃね」
「しゃーねーよ、上層部の方達がなんかでっかいテロをするらしいから攻撃性の高い能力者集めねぇとなんないし」
「えーでもさぁー今いる能力者だけだとなんかやる気でねー」
「それはある」
「まぁまぁ、でもこの基地も政府にバレちゃったらしいじゃん
早めの行動も大事よ」
「え!?そうだったんですか!?」

3人の見張りがPCGの機密情報をぼろぼろ垂れ流しながら喋っている。
この会話から推定するに今この基地にいる能力者は非戦闘要員のようだ。今回は大怪我をせずにすみそうと内心で安堵する。

「てか政府もバカだよな、お前らの情報は全部筒抜けだってのに」
「それっすよね、でもさすがに能力者保管部署の情報はわからないっすけど」
「あの部署やべーよな、下手なテロ組織より戦い慣れしてるし」

話はまだまだ続きそう、警戒を怠らず奇襲のタイミングを模索する。

「俺もう眠いから先戻るわ」

1人の見張り番が飽きたのか話を切りやめ基地に戻ろうとする。
俺はそこを狙いその見張り番の背後に回った。首元まであったジャケットを引き下げ、首元に麻酔銃を撃ち眠らせる。
そのまま眠ってしまった見張りの服を剥ぎ取り、見張りをそこら辺の木の下に隠す。そして俺は見張りが着ていた服を身に纏った。これで準備は完璧だ。
俺は腕につけていた端末を操作しこの基地の間取り図を確認する。先ほどの見張りが言っていたように、政府はすでにこの基地について情報を仕入れている。だからこそ能力保管部署が動くのだが、まさかテロにその情報が漏れているとは思わなかった。政府にスパイでもいるんじゃないか。
すれ違うPCGの人間に「お疲れさま~」と声をかけながら目的の場所へと進む。まさか仲間の1人に敵がいるなんて思ってもいないPCGの人間は「お~おつかれ~」とにこやかに返している。どうみてもこんな時間に向かう方向でもないのに、すれ違う者誰1人違和感に気づいていない。さすが俺、伊達に何度も潜入調査をしているだけあるぜ!

そして目的の場所についた。
この部屋だけ明らかに厳重だ。外から厳重にされており中からは簡単に開かないようにされているため、こちらからは容易に開けられそうだ。

敵意を見せるな、相手より弱そうにしろ、だけど隙は見せるな。
心で自分に言い聞かせて、深呼吸をする。
「大丈夫、俺は大丈夫」
覚悟を決めて、俺は目の前の扉を開けた。




扉を開けると、そこには五人の男女が肩を寄せ合い部屋の隅で丸まっていた。敵意むき出しにこちらを睨んでいるが攻撃をしてこないところを見るに、どうやら彼らには攻撃性の高い能力はないみたいだ。まず初めに能力者達の警戒をとかないといけないな。

腰につけていたナイフや銃を床に落とす。さらに俺は両手をあげ危害は加えないとアピールした。
能力者達はまだ警戒していたが、そのうちの1人が立ち上がりこちらへ向かってくる。桜色の髪に深海のような青い瞳という日本人離れした見た目だが、この青年がリーダーなのか?
無表情でこちらを睨みつけてくる青年にビビり散らしながらも、動かないようにする。能力者に何かされるのがこの仕事で1番命取りだからな、下手な行動は取らない方がいい。

「突然ですまないが話を聞いてもらいたい」

目の前に迫り来る青年に話しかける。
だが青年は返答をせずに、俺の首元を掴み、そのまま壁へと俺を叩きつけた。

「ウグッ」

くっそいてぇ!!だが明らかに痛い素振りはしない、それは隙になるからだ。まじでクソ痛いけど。

「話を聞いてもらう前にすることがありません?
例えばゴーグルとマスクを外すとか、…僕たちが警戒している理由が武器だけだと思っているんですか」

あ、そうだった。俺今PCGの人の服着てるんだった。
思い出して慌てて顔につけているものを取ろうと思ったが、俺より先に青年が俺からゴーグルとマスクを剥ぎ取った。

俺の素顔を見た青年が目を見開く。
なんだ俺の顔がそんなに珍しいか?
どこにでもいるこのノーマルフェイスを見たことないのか。

「もしかしてあなた、夏兄ですか?」
「え…」

何故俺の名前を?
というかその呼び方をするのはこの世で1人だけのはず。

「君は一体……」
「夏兄!うわぁ本物だ!」

俺の反応から確信めいたのか、目の前の青年は大喜びで俺に抱きつく。
力強い、待て待て待て体がギシギシ言い始めてる。ちょ、一旦離してくれ頼む!

「…ッ喜んでいるところ申し訳ないが
とりあえず俺の話を聞いてくれないか」
「あ、そうでした…すみません」

心の声とは裏腹にひどく冷静な声が俺の口から飛び出た。
青年は抱きついていた腕をほどき、オレに向かってニコニコと微笑みかける。先ほどまでの態度とは打って変わって、青年は俺の言うことを聞いてくれるみたいだ。本当に壁に叩きつけたやつと同一人物か?

「えっと、君たちは…」
「あ!僕のことはナカモトって呼んでください」

目の前の青年はナカモトというらしい。
ナカモトは俺の腕に手を絡ませて、俺から目を離さずにじっと見つめている。めっちゃ怖い。

「……ナカモト達は能力者で間違いないかな?」
「はい!間違いないです!」
「そうか、ならよかった」

ナカモトの反応を見てか、部屋の隅にいた他の能力者達もこちらへとおずおずと近づいてくる。俺は近づいてきた能力者に視線を向けた。

「俺は政府配属の能力保管部署の者だ。君たちをテロ組織から救いに来た」

簡単に自分の説明をし、安心させるために微笑む。
能力者たちはその言葉と表情を信用したのか、それぞれ律儀に挨拶をしてくれた。

「それでどうやってここから出るんですか」

黒髪ロングをツインテールにした女の子、サカガミが俺に問いかける。
やはりそこが気になるよな。

「心配いらないよ、この基地は手薄になっているし
電気も最小限にしか通っていないから監視カメラも機能していない」
「え、そうだったんですね」
「まぁうん、実際確認しに行ったからね」

ここに辿り着く前、念のため監視部屋も確認したが監視カメラの映像が映し出されるモニターはついていなかった。そして明らかに基地に人気を感じられなかった。そこから推定するにテロの上層部はこの基地を捨てるみたいだ。

「もし人に見つかったらどうするんですか」
「とりあえず見つかったらこの麻酔銃で眠らす予定だけど」

床に落とした銃を拾い適当な壁に麻酔弾を打ち込む。
ストンッと麻酔弾が壁に突き刺さる。音のしないその弾を見て、これならなんとかなりそうと理解できたのかサカガミは納得したように頷いた。
能力者の1人であるミナミダがサカガミとオレの話を聞いて、何やら言いたげな顔でこちらを見てくる。なんだ?まだ問題点があるのか。

「どうしたミナミダ」
「あ、その、麻酔銃使うならオレが…」

ミナミダが何かを言おうとした時、こちらへに向かってくる足音が部屋に響いた。

「……ッ」

皆一斉に声を潜める。静まり返る部屋の中、コツっコツっと近づいてきている。俺は麻酔銃を構え、扉を凝視した。
見張りが能力者の様子を見にきたのか?
慌てた様子でこちらに来ていないので、俺の存在に気づいてはいないみたいだな。

「夏兄さん構えなくても大丈夫だよ」
「……ミナミダ、何を言っているんだ」

もうすぐそこに人が迫りきているというのに、ミナミダは俺の構えてた銃を下ろさせた。

「だってその」

ガタンッ
外から何か大きなモノの倒れた音が響く。
え!?何!?怖い!!なんて思いながら部屋の外を覗き込むと、扉の前で床に突っ伏して寝ている男がいた。

「麻酔銃なんて使わずとも、オレが全部眠らせればいいかなって」
「おいミナミダ!?今の何!?」
「夏兄♡そんなことよりも早くこんな基地出ましょう♡」

俺とミナミダの会話を遮るように、ナカモトは俺の背中を押す。
押されるままに部屋の外を出た俺はミナミダへの質問を諦め、先陣を切って出口へと向かう。その間も出くわした人間をミナミダは次々と眠らせていった。元々この基地に人間が少なかったこともあって簡単に外へ出ることができた。


え、俺いらないじゃん。

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