能力者が迫害される世界で俺は能力者を更生させる

永島卯

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第0章

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20XX年9月X X日、その日に生まれた子供達に突如として超能力が与えられた。ある子供には炎を扱える能力を、ある子供には瞬時に植物を成長させる能力を。
1日に生まれる子供の数は平均約20万人と言われており、その日はそれを上回る30万人の赤ん坊が生まれた。つまり9月XX日に約30万人の能力者が誕生したことになる。
そのことは生まれたばかりの赤ん坊が産声を上げながら、制御しきれない能力を使い、両親、看護師、医師を殺戮したことにより発覚した。



その日は最も子供が生まれ、そして最も人が死んだ日となった。




***





『宮迫、準備はできたか?』
「は、はいっ坂上さん」

俺は震える口で無線機から聞こえる上司の声に返事をした。
今から俺は能力者を使ったテロを行うPCGという団体に捕まった能力者を助ける任務を遂行する。この任務は絶対失敗してはいけないので、俺はビビリにビビり散らしていた。

「坂上さん…俺になんでこんな重要任務やらせるんですか…俺何の才能もないのに…」
『上からの指示だ、黙って従え』
「理不尽の極みじゃん!」

なんで俺こんな部署に所属しちゃったんだろ、なんて途方に暮れながらPCGの基地前で相手の出方を待つ。
えっと、確か24時に見張り交代をするからその隙を狙うんだっけ。頭の中で事前に伝えられている計画を思い出しながら、俺は麻酔銃の準備をする。
政府のお偉い方達は皆一同にテロ組織の人間は殺していいと言っているけど、俺には絶対無理だよ。てかなんでテロの制圧?なのに俺1人しか任務に呼ばれてないの!?もっと大勢でいけば簡単に終わりそうじゃん。
本来は実弾が入るはずであった銃を握り締め、俺は深くため息をついた。

俺はただ弟の春希を探してるだけなのに。………春希お前今どこにいるんだよ。

俺は懐に入れていた写真を取り出す。まだ俺たち兄弟が平和だった頃の姿を眺めながら、弟の春希について思い出すことにした。




俺、宮迫夏彦には3歳下の弟がいた。
名前は宮迫春希、9月生まれなのだが"春"希だ。ちなみに俺は名前の通り7月の夏に生まれた。
そんな春希も20XX年9月X X日に生まれた子供の1人であった。
本来、20XX年9月X X日に生まれた子供達は政府によって回収されるはずなのだが、たまたま母さんの容態が悪くなり春希は本来生まれてくるはずの9月XX日の次の日に生まれることになった。それゆえに回収対象にならなかった。そして俺の両親は春希が能力者なんて微塵も思わずそのまま春希を育てていった。


春希が能力者だと分かったのは、春希が5歳の時だ。

その日は家族四人で川まで遊びに行っていた。両親が持ってきた肉を焼いて昼食を作っている時、俺と春希は川辺で遊んでいた。

俺は川で泳いでいる魚を素手で掴み、春希に見せつける。

「ほら春希、この魚でかいだろ!」
「わっ!すごい!僕も魚捕まえたい!」

春希は俺が捕まえた魚を見て、「僕も!僕も!」と足元の魚に必死に手を伸ばす。しかし、春希が魚を掴もうとした瞬間には、魚は春希の手の間を器用にすり抜けていった。

「春希にはまだ早かったな」
「そんなことないもん!」

春希がムッーと口元を膨らませて、次々とくる魚へと手を伸ばす。どの魚も春希が捕まえるより早くすり抜けていく。

「なんで~?魚さん僕のこと嫌いなの~?」
「ははははっそうかもな!」

春希がえ?本当に嫌いなの?みたいな絶望した顔を俺に見せる。その顔が面白くて笑いが込み上げる。

「あまり川の深いほうまでいっちゃだめよ!」

母さんが遠くから俺たちに声をかけた。俺は母さんの方を見て「はーい!」と大きく返事をした。
そして、再び春希へ顔を向けると

そこには春希の姿はなかった。


「春希!!!!!」

俺は咄嗟に川へ潜った。
ゴーグルもつけずに水中で目を開け必死になって春希の姿を探す。
いない!いない!なんでいないの?さっきまで普通に川で立ってたじゃんか!

川の下流に向かって泳ぐ。
8歳の俺でも深いと思う方へと泳ぐ。
その泳いでいる間で俺は自分を責めた。
なんで俺は春希から目を離しちゃったんだろう。俺は春希のにーちゃんなのに。
どうして、どうして。

俺は血眼なって弟を探す。
早く!早く見つけないと!

焦れば焦るほど俺自身も溺れ始める。
口からコポコポと空気が漏れる。
溺れ死ぬという恐怖に駆られながらも川へ潜り続けた。


そして春希を見つけた。
どうやら川のかなり深い方へと流されていたようだ。
春希はもうすでに虫の息で、ぴくりとも動かず川に沈んでいっていた。慌てて俺は春希の腕を掴み川の外へと持ち上げる。俺も一緒になって川に顔を出すと、こちらへ駆け寄ってくる両親の姿が見えた。
あぁ良かった、助かったんだ。
なんて腑抜けていると両親の口から悲痛の叫びが上がる。
なに?と考える暇なく、後頭部に何か硬いものが当たり、そのまま俺は意識を失った。






頭が痛い。

「夏兄ぃ」

春希が俺を呼んでいる。

「夏兄ぃ」

春希を見たいが、頭が痛いし、うまく目が開かない。

「夏兄ぃ、お目目あけてよ」

春希が泣いている。

「夏兄ぃ、死なないで」

あれ、なんか急に、頭の痛みが引いていく。

「夏兄ぃの痛いの飛んでけ!」

もう痛くない…?
先ほどまで開かなかった目が自然と開かれる。
開かれた先には泣きじゃくった春希の顔があった。

「夏兄ぃ!夏兄ぃ!」
「春希!!」

春希は目を覚ました俺に嬉しさいっぱいで抱きつく。
本当に3歳下か?と思うぐらいの強い抱擁に苦笑いをしながら、俺は周りを見渡した。どうやら俺は砂利まで運ばれたようだ。

「…え?あれ?…俺、さっきまでどうなってたの…?」

春希に抱きしめられながら、春希と同じように泣いていた両親へと視線を向ける。

「夏彦、あなたっ、川で流れてきた流木が頭にぶつかったのよ」

母さんがそういうが頭を触っても痛くないし、手に血がつくなんてこともなかった。

「え?でも、別にどこもおかしくなってないよ」
「それは…」

「夏兄は僕が治したの!」

先ほどまで俺を力強く抱きしめていた春希が俺の方を見て、にっこり微笑む。

「治すって…何どういうこと」
「……………」

俺の傷が治ったことを嬉しそうにしている春希とは反対に両親は暗い表情を浮かべた。

「……春希はたぶん、能力者なのかもしれない」
「能力者って、あの危ない人たち?」

当時の能力者は、皆5歳児の子供ということもあって、制圧してこようとする人間に反発し、たくさんの人間を虐殺していた。
政府に回収された子供達は自分たちの能力を活用し逃げおおせ、その逃げた先で能力者達の住処を作ったらしい。そこで生きるために人間から食糧を奪い殺したり、また襲ってくる兵士たちを惨殺したりしていた。
そのこともあって一般人にとっては能力者は危険生物として認知されていた。

「夏彦は寝ていたから知らないだろうが、お前の頭の怪我を治したのは春希なんだ」
「うん!もう頭痛くないでしょ!」

褒めて欲しそうに頭を差し出す春希の頭を撫でる。夏兄大好きー!と再び抱きしめる春希を尻目に父さんの話を聞く。

「憶測だけど春希は人の怪我を治す力を持っているんだ」
「あ、だから怪我が」
「そう。だがこのことは他の人には秘密にしなければいけない」
「え?なんで?他の能力者と違って怪我を治すとか良いことじゃん」
「だからダメなんだ」

悔しそうに父さんが顔を歪める。
俺はいつもの冷静な父親とは違ったその表情に不思議と緊張が走った。

「もし春希がどんな怪我でも治せるなら、社会情勢が大きく変わってしまう。春希の能力を取り合ってさらに戦争が起こる。拳銃などの防ぎきれない怪我も治せたら、戦争にも駆り出されるかもしれん。こんな力を政府に見つかったら、春希は永遠と政府の駒として能力者収容施設に閉じ込められてしまう。」
「と、父さん?」
「夏彦もいやだろ、春希と一生会えなくなるなんて」
「うん」
「じゃあ絶対他の人にはこのことを言うんじゃないぞ」

父さんは真剣な眼差しで俺をみる。
俺はその目と自身の目を合わせながら静かに頷いた。


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